これを口にする人は生涯"大仕事"は成し遂げられない…仕事のデキる人が絶対に使わないNGワード
プレジデントオンライン / 2023年10月25日 17時15分
※本稿は、林健太郎『できるリーダーになれる人は、どっち? 話し方・考え方・聞き方……「ここ」で差がつく!』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■リーダーになれない人がよく口にする言葉ナンバーツー
本書の習慣5では「リーダーになれない人がよく口にする言葉ナンバーワン」として、「自分の仕事は自分で管理できて、やれと言われたことはちゃんとやっています。だから、上司への普段の『報・連・相』なんて必要ありませんよ」という言葉を紹介しました。
同じスタイルで、「リーダーになれない人がよく口にする言葉ナンバーツー」を挙げるとするなら、このような言葉を選びたいと思います。
「それは私の仕事ではありません」
あるいは、
「どこまでが自分の仕事かわからないんです」
あなたが働く職場では、次のような言葉が蔓延していませんか?
「それは私の担当ではありません」
「それはウチの課の仕事ではありません」
「それはちょっと範疇の外ですね」
会社の仕事ではたいていの場合、それぞれの仕事を任されている、いわゆる「担当者」が存在します。もしあなたが「私はその仕事の担当者ではない!」という意思表示をしたいのなら、こうした発言も納得できます。
そして、これは本書の習慣7で説明した「部分最適」に該当することにも、きっとお気づきになるのではないでしょうか。
ただ実務的には、複数のメンバーが作業を分担して、ひとつのタスクやプロジェクトを完了させる、いわゆる「協業型」の仕事も数多く発生します。その中には、仕事の分担を明確に切り分けられないグレーゾーンの業務は意外と多いはず。
そんな「担当が曖昧な仕事」の場合に、先に挙げた発言をすると、チームやビジネス全体にどんな影響を与えるでしょうか。
そんなことを考えながら、本稿を読み進めてみてください。
■誰も意思決定しない「残念な経営会議」
私が以前、「経営会議のファシリテーター(司会進行役)」をやらせていただいた、ある会社でとても残念に感じた出来事を紹介します。
この経営会議は、社長、副社長、取締役、財務部長、営業部長など、経営の中核となる面々が全員参加して実施されました。
そして、その会議でちょっとした事件が起きました。ここでは、その瞬間を思い出しながら、実況中継風に再現してみます。
その事件は、会議の中盤に差しかかった時間帯で勃発しました。具体的な議題は機密保持の観点からお伝えできないのが残念ですが、議論のテーマとしては、従業員満足度の向上、そして、離職率を下げるにはどんな選択肢があるかといったものでした。
参加者はこの問題について、各自の役割や肩書きからそれぞれのポジショントークはするものの、いっこうに「では、私が責任を持って推進します」といったコミットメント(強い意思表示)が出てきません。司会進行をしていた私はしびれを切らし、こんな形で口火を切ってみました。
「あの、ちょっといいでしょうか? おひとりずつ伺いたいのですが、この問題について、最終的に意思決定をするのはどなたですか? 財務部長、いかがですか?」
「私じゃないですね」
「営業部長は?」
「私ではないです」
「常務、いかがですか?」
「私ではありません」
そんな形で、順番に同じ質問をそれぞれの方にしました。それぞれから「私ではない」という発言をいただき、多少、意気消沈気味の私。そして、最終的に順番は副社長にまわりました。
「副社長、いかがですか?」
「私ではないです」
さあ、最後はもう社長だけです。
「では社長、最終的に決めるのは社長ですか?」
「私じゃないです」
「えーっ! 誰も決めないの?」というのが、その瞬間に湧いた私の心の声です。
![会社の会議](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/3/1200wm/img_83f8e2b0a02e4dbce983904591c8b46e279092.jpg)
■会議の配信を視聴していたらすぐに退職したくなる
進行役を任されている私は、ちょっと変化球でこんな問いかけをしてみました。
「皆さん、それぞれコメントをいただきどうもありがとうございます。ひとつ考えてみてほしいことがあります。この経営会議は今、密室で執り行われていますが、これが例えばオンライン配信されていて、この会社で働く社員全員が生放送で視聴していたとしたら、見ている方々はどんなことを感じると思いますか?」
こんな問いかけがあると、物事を別の視点で考えるきっかけになります。果たして、「私ではない」という発言は会社全体のことを考えたときに、適切なものだったのでしょうか。
事実情報として、「それは私の担当ではない」と発言することは極めて簡単ですが、その発言が働く社員全員にどんな形で影響し、何が引き起こされるかを想像することができていない。こうした出来事が中間管理職レベルだけではなく、経営幹部レベルまで含めて数多く発生しているのが、会社の不都合な真実だったりします。
もし仮に、私がこの会社で働く社員で、この会議の配信を視聴していたら、エンゲージメント(会社に対する愛着心)が上がるどころか、その瞬間に退職したくなるだろうなと思ったことも、ひとつの客観的な意見としてお伝えしておきます。
その会議の結末がどうなったのか、ということだけ最後にお伝えしておきましょう。結局、最終的な意思決定は先送りになり、具体的なことが何も決まらずにお開きとなりました。また、私の関わり方を社長はあまりポジティブに受け取らず、「余計なことをしないでほしい」というフィードバックを受けたのを覚えています。
その結果、私はその経営会議を最後に、コーチを解任されてしまいました。
その後、その問題がどうなったのかはあずかり知るところではありませんが、そんな会社もあったという残念な記憶のひとつです。
これから、できるリーダーを目指すあなたは、ぜひ反面教師にしてください。
■『プロジェクトX』の主人公になれるチャンスを逃さないために
かつて、NHKに『プロジェクトX ~挑戦者たち~』(2000年3月~2005年12月放送)という番組があったのをご存知でしょうか。
主に戦後から高度成長期の日本を舞台に、実在の企業で画期的な新製品やサービスを開発するプロジェクトチームなどが、幾多の困難を乗り越えて成功する姿を追ったドキュメンタリー番組で、ビジネスパーソンの熱い共感を呼び、人気を誇りました。
![昭和の新幹線](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/d/1200wm/img_2d9ec1897f1f2283d94143b38b4cf49c438069.jpg)
リーダーを目指す方々の多くが、番組でフォーカスされるプロジェクトのリーダーたちが絶望的とも言える困難を懸命な努力で乗り越えるようす、そして成功を掴んだときの達成感と心からのよろこびあふれるシーンに感動し、「自分もいつの日か、こんな大きなプロジェクトをリーダーとして成し遂げてみたい」と感じた番組でした。
そう、私たちの多くは心のどこかで『プロジェクトX』の主人公になってみたいと願っているんだと私は勝手に考えています。
ただし、番組を見た直後は感化されて意気込みを新たにするものの、翌朝、会社に出社すると、またいつもの自分に戻ってしまうという傾向も私たちの中には存在したりします。悲しいかな、これもまた現実なのです。
もう少し誇張して言うと、いざ、自分が主人公になるチャンスがめぐってきても、なぜか多くの人がスルーしてしまう。これが私たちの日常だということです。
私のコーチングを受けてくださっているお客様に、あるとき「以前『プロジェクトX』が好きだって言っていましたよね。今回の仕事はその主人公になるチャンスだと思うのですが、どうして自分から取りにいかないのですか?」と聞いたことがあります。
その方からは、こんな答えが返ってきました。
「あれは、ファンタジーですから」
プロのコーチの仕事は、相手の発言を丁寧にお聞きすること。そして、お相手の可能性を信じること。
ですので、すぐに否定することは少ないのですが、このときばかりは「いやいや、全部、実際にあった話なんですけど……」と否定したい気持ちがむくむくと湧き上がり、我慢するのがひと苦労だったのを覚えています。
■「どうすれば自分が担当できるか」と考えられるか
なにもこの方が特殊なケースというわけではありません。実は多くの人が似た思考をしているのも事実です。
「大きな仕事を成し遂げたい」という願いを持ちながらも、現実には、「自分に自信がない」「貪欲に仕事を取りにいくのはカッコ悪い」「責任を負うのが怖い」……といったさまざまな理由で一歩を踏み出さずに終わりがちです。
ここにも、前述のような「それは私の担当ではありません」「私には決める権限はないです」「ウチの係の範疇じゃないです」など、部分最適が顔を出しています。
これでは、いくら言葉を発していても、結果的に何も行動につながっていません。
もちろん、そういう人は「リーダーになれない人」です。
一方、「リーダーになれる人」は、「(誰もやる人がいないなら)自分がやりたいと思います。どうすれば担当できますか? 何を決めればいいですか?」と、自ら役割を取りに行き、最初の一歩を踏み出そうとします。
逆説的に、「リーダーになれない人」は、「どこまでが自分の仕事なのかわからない」と言って悩むことが多いのです。
これは、私の主催で毎週1回開いているプロコーチ向けのスクールでのお話です。私は受講者の方々に毎回、「少しでも疑問に思ったことは、勇気を持って質問してほしい」とリクエストをしています。
オンライン開催だと画面越しに声を上げるのは勇気が必要だと思い、毎回冒頭で私からリクエストをして、積極的な参加を促しているわけです。
講師を務める私は、教えるかたわらで受講者のようすを画面越しに見ているのですが、あるとき、ひとりの受講者の質問をしたそうな表情に気がつきました。
結局、その方は質問をせず、その日の講義が終わると静かに退出されました。きっと聞きたいことがあったのだと思います。
このことが気になった私は、後日、その方と少しお話をしてみました。そして、そこで知った事実は次のようなことでした。
確かに質問したいことがあったのは事実です。ただ、内心は「早く誰か『質問があります』って発言してくれないかな」と思っていて、誰かが手を挙げたり、誰かが指名されたりすると、「ああよかった。自分は発言しなくて済んだ」とほっとする……。
ただ、実は心の奥底では、「自分も積極的に質問してみたかった」という思いも持っていたのです。
■自発的な意思決定力へ磨く“たった1つ”の方法
このお話は私のスクールでの出来事ですが、きっと皆さんも、似たような経験をされたことがあるのではないでしょうか。
こんな事象を私は「どこまでが自分の仕事かわからないんです」症候群と名付けています。私たちには、一歩踏み出すことを躊躇する思考パターンがあるようです。
私がコーチングをしている最中でも「どこまでが自分の仕事かわからない」という言葉を、お客様からお聞きすることが多いです。そんなときには決まって、「どこまでだと思いますか?」と聞くようにしています。
そう、「わからない」は話の終わりや行き止まりではない。そこから、想像力を膨らませて再出発することができるのです。
ときには、こんなふうに言って背中を押すこともあります。
「誰がやるかが明確になっていない仕事なんだから、あなたが『やる』と決めればそれで決まりじゃないですか。そもそも、自分の仕事の垣根を越えて、どこまでできるかやってみる。それがイノベーションの入口じゃありませんか?」
私のこの言葉を聞いて、「そうか、自分で決めていいのか!」と気づきを得てくださる方もいます。
![林健太郎『できるリーダーになれる人は、どっち? 話し方・考え方・聞き方……「ここ」で差がつく!』(三笠書房)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/a/1200wm/img_5a8c24f3eb3155231e36953556f35d87221076.jpg)
与えられた仕事をこなすだけでは、自発的な意思決定力は磨かれません。
「どこまでが自分の仕事かわからないんです」症候群から勇気を持って抜け出すことができれば、より力強く、能動的な意思決定ができるのではないでしょうか。
そして、もしそんな意思決定ができれば、自分がその仕事の中核になれます。
そうやって自分で決めた瞬間に、「与えられた仕事、やらされている仕事をこなしている状態」から、「自分でやりたい仕事を、やりがいを持ってやる状態」に変わるのです。
それこそがイノベーションの入口、そしてリーダーへの入口になるのです。
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リーダー育成家
合同会社ナンバーツー エグゼクティブ・コーチ。一般社団法人 国際コーチ連盟日本支部(当時)創設者。1973年、東京都生まれ。バンダイ、NTTコミュニケーションズなどに勤務後、日本におけるエグゼクティブ・コーチングの草分け的存在であるアンソニー・クルカス氏との出会いを契機に、プロコーチを目指して海外修行に出る。帰国後、2010年にコーチとして独立。リーダーのための対話術を磨くスクール「DELIC」を主宰。2020年、オンラインでの新しいコーチングの形態「10分コーチング」(商標出願中)を開発。
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(リーダー育成家 林 健太郎)
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