絶対にこんな人と一緒に働いたらダメ…人間関係を破壊させる人に共通する「4つの毒」
プレジデントオンライン / 2023年10月26日 18時15分
※本稿は、林健太郎『できるリーダーになれる人は、どっち? 話し方・考え方・聞き方……「ここ」で差がつく!』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■重宝されるけれど、リーダーとして抜擢しにくい人
次に紹介する事例の舞台は、海外の高級自動車ブランドの日本支社です。
その支社に転職してきたTさんのリーダーシップ開発について、私が依頼を受けたときの話です。
この自動車ブランドは、自動車レースの分野でも華々しい成果を挙げていることが有名でした。お客様の中でも、購入した同ブランドの車両でレース活動をする方も多いのが特徴です。
そのため、この日本支社で働く人たちも、自動車そのものへの知識や、レースに出場するためのノウハウなど、専門技術や経験が豊富ないわゆる「経験者」として採用されるケースが大半でした。
そのため、通常業務の最中でも専門用語がどんどん飛び交うような職場環境だったりします。そんな職場の中で、Tさんは一部上場の総合商社から転職してきた、異色の経歴を持つ人物でした。
Tさんの上司によれば、「Tさんには、異業種から来た人が持つ新鮮な目線でいろいろな改革をしてほしいと期待しています。そして、大企業から来た人なので、組織のスケールメリットを生かして働くことや、規模感の大きな仕事の仕方のノウハウをぜひ私たちにも教えてほしいと思っています」とのことでした。
さらに、「業界に長くいる我々が見逃していることに気がついて、みんながより情報共有しやすいシステムの構築方法を考えてくれたり、読めば誰でもすぐ作業できるマニュアルを作ったりしてくれて、すごく重宝しています。そのうえ、人柄も良くて、面倒見もいい」と高評価が続きます。
このようにTさんに対する上司の評価は上々なのですが、どうもひとつだけ「物足りないこと」があるそうなのです……。
「自分の仕事を効率的にこなすという点では申し分ないのです。でも、なかなか自分から考えを発言してくれません。自分から強く主張して周りを動かすとか、改善を全体に波及させるとか、そういうことがないのです。よく言えば謙虚。悪く言えば積極性がないんです」
直属の上司そして会社の経営陣にとっては、そこが今ひとつ物足りない。その結果、なかなかTさんをリーダーとして抜擢しにくいというのです。
■「何を求められているのか」を的確に理解できるか
今回の私の役割は、Tさんのリーダーシップ能力を向上させること。実際に会社に出向き、いざTさんとの対話を始めてみると、確かに自分の考えや意見を積極的に発言するタイプではないことがわかってきました。
このプログラムの一環として、Tさんが普段接しているチームのメンバーを10名程度集めて、チームでの討議を実施したことがありました。そのときも、Tさんはメンバーの意見の聞き役になって、まったく発言しませんでした。
ファシリテーター役の私が、「Tさんはどう思いますか? どんな意見があるか、ぜひ教えてください」と水を向けても、「いや、私の意見なんかより、もっと大切な議題があるので、そっちをやってください」と、すぐに黙ってしまいます。
確かに、Tさんの上司が懸念している傾向が、私の目からも顕著に感じられました。
そのチームでの討議が終わって、私が片付けをしているときのことです。
他の参加者がオフィスに戻り、誰もいない会議室にTさんがやって来ました。
「林さん、私さっきは言いませんでしたけど、実はいろいろ感じたり、考えたりしたことがあったんですよね」と教えてくれました。
「どうして、それをさっきの討議のときに言わなかったんですか?」と聞くと、
「討議の流れがまったく違う方向に向かっていたので、私の意見は言ってもしょうがないかなと思いました。それに、他の人たちの話を聞きたかったし……」
私は少なく見積っても毎年200名以上のビジネスリーダーとお会いしているのですが、最近はTさんのようなタイプの方がとても増えてきたように感じます。
自分から前に出て意見を言うなんて恥ずかしいと思うのか、それとも自分の意見なんて言ってもどうせ評価されないと思うのか。
これを「謙遜」というと美しく響くかもしれませんが、残念ながらこういう人は「リーダーになれない人」です。
さらに言えば、このTさんは、「どんな意見があるか、ぜひ教えてください」という進行役である私の依頼に耳を貸さず、自分で「自分の意見は必要ない」と勝手に判断して、決めつけているのも隠れた問題です。
ここでいったい何が起きているのか、コミュニケーションの技術面から少し解説をしてみましょう。Tさんは一見、他人思いの優しさあふれる振る舞いをしているように見えます。しかし実際には、私の「指示」を明確に拒否しています。つまり、人の要求を受け入れることができない頑固さが根底にあるのです。
もしTさんが、私の言葉を「額面どおり」に受け取ってくだされば、「ここは自分の意見が求められている」と理解することができるはずなのです。それが、何らかの理由で、異なる解釈がTさんの中で起きていて、私の言葉が届かない状態になっていたと考えられます。
「自分は今、何を求められているのか」を的確に理解することは、「リーダーになれる人」に必要な能力だと認識してください。
■コミュニケーションを阻害する「4つの毒素」
ワシントン大学の名誉教授で、人間関係に関する心理学の権威、ジョン・ゴットマン博士(1942年~)は夫婦間でのコミュニケーションの傾向を調査し、どんなコミュニケーションを取る夫婦は関係が長続きするのか、逆に、どんなコミュニケーションを取る夫婦は関係が破綻しやすいのかを文献としてまとめたことで有名です。
夫婦、つまり2人の人間が関わる関係は、「チーム」としての最低人数です。
そのため、ゴットマン博士の研究は、チーム内のコミュニケーションの傾向とトラブル対策に応用できると私は考えています。
ゴットマン博士によると、チームの「コミュニケーションを損ねる、あるいは悪化させる毒素になる要因」は、大きく次の4つだと定義しています。
毒素2 「侮辱」
毒素3 「防御」
毒素4 「逃避(あるいは無視)」
このうち、「非難」と「侮辱」はとてもわかりやすいですよね。
「君の意見は、大間違いだ」と非難されたり、「あなたはもっとできると思ったから抜擢したのに、実力は意外とたいしたことないね」と侮辱されたら、人間関係が悪化するのは当然です。「非難」と「侮辱」は、どちらかと言うと能動的に働きかけるタイプの毒素なので、会話の中では比較的わかりやすいタイプだと言えます。
■素っ気ない発言は意外に大きな影響力を発揮する
一方、少しわかりにくいのは「防御」と「逃避(あるいは無視)」の2つです。
ひとつずつ考えてみましょう。
まず「防御」について。コミュニケーションにおける「防御」って何でしょう。
たとえば本書の習慣9で例示した「それは私の仕事ではありません」という発言は防御にあたります。
周りの人と自分との間に、高い壁を立てるようなイメージが近いかもしれません。「私は無関係である」という意思表示をしているとも言えます。
日本の文化では、謙遜や遠慮を好ましいものと考える傾向があります。しかし、コミュニケーションにおける心理的安全性という観点からは、この「防御」という毒素も「非難」や「侮辱」と同等の破壊力を持っていると考えます。
少し古いお話ではありますが、新作映画の舞台挨拶でマスコミのインタビューを受けたある女優さんが、「印象に残ったシーンは?」との記者からの質問に、「別に」と素っ気なく答えたようすが物議をかもして報道されたことがありました。
これ、「防御」ですよね。
言葉自体は平易なものでしたが、表情や態度を含めると、かなり攻撃性の強い発言として受け取った人も多かったのではないでしょうか。
これは少し極端な例ですが、「防御」は意外に大きな影響力を発揮することがおわかりいただけるのではないかと思います。
■既読スルーが強い攻撃性を持つ理由
最後の「逃避(あるいは無視)」。
わかりやすい例は、メールやSNSの「既読スルー」でしょう。自分からの投げかけを無視する相手と、コミュニケーションを続けるのは正直しんどいものです。
最近、私もオンラインでセミナーを開催することが増えてきました。その中で、画面はオフ、マイクはミュートで、姿形も見えず、声も聞こえない参加者の存在が増えてきました。オンラインでのこうした関わり方は「逃避」にあたります。
さらに、こうした方々はセミナーが終了して他の皆さんが退出された後も、ずっとオンライン上に残っていて退出されない……という特徴が共通しています。
つまり、何か他のことを同時にされていて、セミナーの進行をまったく追いかけていない状態なのです。
講師側からすると、こうした方々は声を何も発しなくても、存在感は大きく、そして不気味で、「ああ、無視されているな」と不安に感じたりするものです。
つまり、「逃避(あるいは無視)」も、一見静かでありながら、かなり強い攻撃性を持つのだということです。
この項目の冒頭で登場したTさんを、もう一度思い出してください。
チームの討議の場で意見を求められているのに、「私の意見なんかより、もっと大切な議題があるので、そっちをやってください」と言って、自分の意見を言わないのは、「防御」であり「逃避(あるいは無視)」にあたる行為です。
先ほど説明したように、この2つの毒素も強い攻撃性を持つため、チーム全体の心理的安全性を阻害してしまうのです。
■毒素が会話の中に現れると、人間関係は破綻へ向かう
それでは、私たちの会話の中から、すべての毒素を排除することはできるのでしょうか? 残念ながら、現実問題としてそれは不可能です。
なるべく毒素が表に出てこないように、関係するすべての人たちが注意しながら会話を進めることは、当然、基本的な方針なのですが、もし自分が毒素を出していることに気づいたら、一旦深呼吸をするなどして、リセットすることが大切です。
ゴットマン博士の研究では、夫婦が破綻する原因は、会話の中に毒素がたくさん出ること自体にあるのではないとされています。こうした毒素が会話の中に現れたときに、2人がどのように会話を続けていくのか、その工夫の仕方が破綻するか否かに紐づけられているというのです。
相手から「非難」をされれば「防御」し、その防御に反応してさらなる「侮辱」が起き、その結果、相手が「逃避」する……という連鎖が起きる関係性はいずれ破綻していきます。
もしあなたが、リーダーとして優れたチーム運営を目指すのであれば、こうした毒素が自分に発生していないかに気を配り、また、チームの中で毒素が発生したときにどんな会話をするとより安全な会話に戻せるのかを研究しておくことが大切です。
あなたの所属するチームでは、どんな毒素が蔓延していますか?
そして、それをどんなふうに解消することができるでしょうか?
ぜひ考えてみてください。
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リーダー育成家
合同会社ナンバーツー エグゼクティブ・コーチ。一般社団法人 国際コーチ連盟日本支部(当時)創設者。1973年、東京都生まれ。バンダイ、NTTコミュニケーションズなどに勤務後、日本におけるエグゼクティブ・コーチングの草分け的存在であるアンソニー・クルカス氏との出会いを契機に、プロコーチを目指して海外修行に出る。帰国後、2010年にコーチとして独立。リーダーのための対話術を磨くスクール「DELIC」を主宰。2020年、オンラインでの新しいコーチングの形態「10分コーチング」(商標出願中)を開発。
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(リーダー育成家 林 健太郎)
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