「売上1000万円アップできます」と「コスト1000万円削減できます」交渉の達人が使う"キラーフレーズ"はどっちか
プレジデントオンライン / 2023年10月26日 19時15分
※本稿は、犬塚壮志『頭のいい人の対人関係 誰とでも対等な関係を築く交渉術』(サンクチュアリ出版)の一部を再編集したものです。
■非合理的でも損を避けるような選択、行動をする理由
突然ですが、1つ問題です。あなたの前に裏と表が出る確率がそれぞれ2分の1であるコインがあります。
このコインを投げて、表が出れば2000円もらえますが、裏が出たら1500円支払わなければならないゲームです。あなたはこのゲームに参加したいですか? それともやりたくないですか? どちらでしょう?
ちなみに、実際に得か損かの期待値を計算してみると、250円のプラス。つまり、ゲームに参加したほうが得する可能性が高いのです。ところが、行動経済学の研究によると、多くの人はゲームに参加しません。
合理的な「得する」選択をしないのです。
その原因は、私たちは利益と損失の可能性を比較するとき、損失することを回避したいと感じるから。このような得することへの期待や得をしたうれしさよりも、損する怖さや後悔を大きく感じる「感じ方の不思議」をまとめた理論は「プロスペクト理論」と呼ばれています(Kahneman& Tversky,1979)。
私たちは同じ金額を得しての「やったー!」よりも、損して「がっかり……」を強く感じ、だからこそ、非合理的でも損を避けるような選択、行動をしてしまいがちなのです。
■メリットよりデメリットの回避をアピール
プロスペクト理論が証明した私たちの「損を回避したい」傾向を理解していると、交渉時の大きな武器となります。
相手に条件を提示するとき、得られるメリット(利得)よりもデメリット(損失)が避けられることをアピールするのです。
たとえば、経営者向けにシステム導入を検討してもらう交渉で考えてみましょう。システム導入による利得と防げる損失の額が共に1000万円程度であれば、売上げ(メリット)が伸びることよりも、人材採用コスト(デメリット)を抑えることのほうをアピールします。
○「このシステムを導入することで御社社員のみなさまの離職率が下がります。結果、人材採用コストを1000万円抑えることができたという事例があります」
このアプローチは、利得と損失の金額がほとんど同じになる場合、特に有効です。逆に、メリットをアピールしたほうが効果的になるのは、金額ベースで利得の額が損失の1.5〜2.5倍程度になってからという研究報告があります(Novemsky & Kahneman,2005)。
ですから基本的には、「得しますよ!」よりも「損しませんよ!」の選択肢のほうが交渉を優位にしてくれるのです。
■リスクに対する捉え方は2通り
ちなみに、メリットやデメリットを比較するとき、欠かせないもう1つのキーワードが「リスク」です。実は、リスクの捉え方は人によって大きく変わってくることが心理学の研究で明らかになっています。
社会心理学者であり、コロンビア大学モチベーション・サイエンスセンター副所長のハイディ・グラント・ハルバーソン博士は自著でこう述べています。
“リスクを「獲得のチャンス」と捉えるか、「回避する対象」として捉えるか。この2タイプの人間がいます”
前者の捉え方は「獲得フォーカス」、後者は「回避フォーカス」と呼ばれ、人はリスクに対して「挑戦することで動機づけられる」か、「避けられることで動機づけられる」か2つのタイプにわけられるのです。
![リスクに対する捉え方は2通り](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/a/1200wm/img_cae74b2ce61f671c85204775196eb242193887.jpg)
これは、どちらのタイプがよい悪いというわけではありません。本書で述べている「事前に相手の情報を集める」を思い出してください。
ポイントは、交渉の前に相手が「獲得フォーカス」タイプなのか、「回避フォーカス」タイプなのかを見極めることにあります。そのうえで、相手のタイプに合ったリスクの提示の仕方をすると、交渉が優位に運ぶ確率が上がるのです。
■人はリスクをコントロールしてくれる人を選ぶ
![犬塚壮志『頭のいい人の対人関係 誰とでも対等な関係を築く交渉術』(サンクチュアリ出版)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/3/1200wm/img_434eb279a73d54e8bae39a08d571fd6c120008.jpg)
たとえば、プロスペクト理論を使って、「このシステムを導入することで御社社員のみなさまの離職率が下がります。結果、人材採用コストを1000万円抑えることができたという事例があります」とアプローチしたあと……。
相手の担当者が「獲得フォーカス」タイプなら、「すぐに導入することで、来期からコストダウンが数字に表れるはずです」とスピード感や変化を強調しながら、もう一押しするのが効果的です。
逆に、相手が「回避フォーカス」タイプなら、「関心をお持ちいただけるようでしたら、同業他社での導入事例とコストダウンの成果について追加の資料をお持ちします」と一度引いてみると、相手の「損失を回避したい」心理をさらに刺激することができます。
![プロスペクト理論](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/8/1200wm/img_b85480e88ccadd6e551831f0465e330a239451.jpg)
人は自分に降りかかるかもしれないリスクを指摘し、損をしないようコントロールしてくれる人を信頼し、選ぶようになるのです。
・交渉相手のリスクに対する捉え方を事前に調べ、伝え方を調整する
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教育コンテンツプロデューサー/士教育代表
福岡県久留米市生まれ。元駿台予備学校化学科講師。大学在学中から受験指導に従事し、駿台予備学校の採用試験に25歳の若さで合格(当時、最年少)。駿台予備学校時代に開発した講座は、超人気講座となり、季節講習会の化学受講者数は予備校業界で日本一となる。2017年、駿台予備学校を退職。独立後は、講座開発コンサルティング・教材作成サポート・講師養成・営業代行をワンオペで請け負う「士教育」を経営する。著書に『あてはめるだけで“すぐ”伝わる 説明組み立て図鑑』(SBクリエイティブ)、『理系読書 読書効率を最大化する超合理化サイクル』(ダイヤモンド社)がある。
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(教育コンテンツプロデューサー/士教育代表 犬塚 壮志)
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