メジャー本塁打王でもWBC大会MVPでも「世界一」ではない…大谷翔平が次々と記録を打ち立てる本当の理由
プレジデントオンライン / 2023年10月28日 10時15分
※本稿は、斎藤庸裕『大谷翔平語録』(宝島社)の一部を再編集したものです。
■WBCは「世界一の選手になる」通過点
世界一の選手になる――。大谷はゴールのない道を歩んでいるように感じることがよくある。
2023年3月のWBCで侍ジャパンを3大会ぶりの世界一に導いた。最終回のマウンドに上がり、胴上げ投手となった。初出場のWBCで二刀流として大活躍し、大会MVPを獲得。世界一の選手の称号は得たようにも思えた。だが、大谷の感覚は違った。
「間違いなく今までのなかでベストの瞬間じゃないかなと思いますし、今日勝ったからといってその目標(世界一の選手になること)は達成されたわけではないので。一つの通過点として、もっと頑張っていきたいですし、これからシーズンが始まるので、そこに向けて日々努力したいと思っています」
次なる目標を聞かれ、即答した。
「シーズンが始まるので、そこでポストシーズン、ワールドシリーズで勝っていくのが次のステップ」
メジャー1年目から繰り返し口にしている言葉のため、さほど驚きはなかった。明確な目標はある。ただ、それがイコール世界一の選手かどうかは、わからない。むしろ、最終目的地は明確にはないのかもしれない。
■評価するのは第三者
「世界一の選手」とは何をもって世界一なのかを、かつて聞いたことがある。すると、大谷はこう答えた。
「評価するのは第三者なので。いくら自分がやったと思っても、評価するのはファンの人とかじゃないかなと。評価基準がないので面白いのかなと思う部分もありますけど、最終的にそう評価してもらって、自己満足して終われたらいいんじゃないかと思う」
先述したように、毎年リーグMVPは、全米野球記者協会(BBWAA)の投票によって決まる。ファンではないが第三者が評価する。では、MVP=世界一の選手かと言えば、大谷にとってはそうでもないようだ。2021年に満票でリーグMVPを獲得した時、「目標とする世界一の選手になれたのか」と、インタビュアーから質問が飛んだ。
■明確なゴールがないから常に上を目指せる
「なってはないですね。自分でそう思う日はおそらく来ないと思う。目標としてはアバウトというか、そういう目標ですけど、ゴールがない分、常に頑張れるんじゃないかなと。確実にステップアップはしたと思ってますし、今回の賞はその一つだと思うので、今後のモチベーションの一つになりました」
シーズンMVPを獲得しても、WBCで優勝に導いても、世界一の選手の目標は達成されていない。ワールドシリーズ制覇でそうなるのかと言えば、おそらく違うだろう。大谷自身の言葉通り、世界一の選手という評価基準ははっきりしない。明確なゴールはない。だから常に上を目指せる。歴史的なシーズンを送っていた2021年、「世界一のプレーヤーに近づいているか」との問いに、自らが感じる手応えを口にした。
「確実に成長はしていると思うので、それは自分でも実感していますし、やっぱりこうやって高いレベルのなかでやらせてもらって、日本にいるだけではここまでの経験はできなかったと思うので、それはすごく感謝しています」
■投手・大谷は、勝ち星より防御率とWHIP
満票でMVPを獲得しても、決して慢心しない。ただ、求める数字はある。ベーブ・ルース以来104年ぶりに「2桁勝利&2桁本塁打」を達成した2022年8月9日、2桁勝利の持つ意味について問われた。
「もちろん(2桁に)いくかいかないかは印象が大きく変わりますし、そこは違うかなとは思いますけど、もっともっと大事な数字というか個人を評価する上でも大事な数字はあるので、そこが上がってくればおのずと(勝ち星も)増えてくる」
投手・大谷は、勝ち星より防御率とWHIP(1イニング当たりに出した走者の数)を重要視している。
「投球に関してはイニングをしっかり投げて、あとはしっかり低いWHIPで抑えていくのが、それが勝ちにつながる要素だと思うので。打席はもちろんOPS(出塁率+長打率)が大事ですし、そういう総合的なところ、1試合1試合集中して、もっともっと上げていけたらなと」
![投手・大谷は、勝ち星より防御率とWHIP(1イニング当たりに出した走者の数)を重要視している](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/f/1200wm/img_df273b2123883b5b014198f10ab43352377852.jpg)
■どう始まるかよりは、どう終わるか
勝ちにつながるパフォーマンスの指標となる数字が求めるところなのだろう。とはいえ、そこでトップになったからと言って、世界一の選手となるのか。もしかしたら、自身の言葉通り、現役でプレーしている限り世界一の選手になった実感は湧かないのかもしれない。ふと、メジャー1年目の時の言葉が思い浮かんだ。
![斎藤庸裕『大谷翔平語録』(宝島社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/a/1200wm/img_7abf65553973ac96cf8be62dd4a42d12133063.jpg)
「初打席も初登板もドキドキしましたし、ワクワクもしましたけど、そこはやっぱり特別だったかなと思いますし、今日の打席に関してもあまりそういう気持ちと違わずに、同じ気持ちで毎日入れているので、そういう意味ではいいんじゃないかなと。毎試合毎試合、そういう気持ちで、やっていければ。どう始まるかよりは、どう終わるかが大事だと思うので、シーズン終わった時に、いいシーズンだったなと思えるように、一日一日頑張りたい」
どう始まるかよりは、どう終わるか――。
エンゼルスのOBで野球殿堂入りしているウラディーミル・ゲレロ氏も、かつて同じ言葉を大谷に投げかけていた。まずは、目の前の試合を懸命にプレーする。個人として「世界一」なのかどうか。そう感じる日は、選手として燃え尽きるまで来ないのかもしれない。
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スポーツライター
慶應義塾大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。編集局整理部を経て、ロッテ、巨人、楽天の3球団を担当。ロッテでは下克上日本一、楽天では球団初の日本一を取材。退社後、2014年に単身で渡米。17年にサンディエゴ州立大学で「スポーツMBAプログラム」の修士課程を修了し、MBAを取得。18年、大谷翔平のエンゼルス移籍と同時にフリーランスの記者としてMLBの取材を始める。日刊スポーツにも記事を寄稿。著書に『大谷翔平偉業への軌跡【永久保存版】歴史を動かした真の二刀流』(あさ出版)がある。
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(スポーツライター 斎藤 庸裕)
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