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エネルギー政策の目玉、新技術「IGCC」とは

プレジデントオンライン / 2012年11月4日 13時0分

東京電力・福島第一原発事故によって、日本のエネルギー政策はゼロベースで見直されている。石炭ガス化複合発電(IGCC)などの実用化が進展すれば、温室効果ガス削減目標を実現できると筆者は説く。

■今後の電源構成を決める「三要素」

昨年の東京電力・福島第一原子力発電所事故によって、わが国のエネルギー政策はゼロベースで見直されることになったが、見直しに当たっては、政策立案に影響を与える不確実性が高い要素が3つある。それは、

(1)太陽光、風力など再生可能エネルギーを利用する発電の普及につながる技術革新がどこまで進むか、
(2)民生用を中心にして省エネルギーによる節電が行われ電力使用量がどの程度減少するか、および、
(3)石炭火力発電のゼロ・エミッション(二酸化炭素の排出量ゼロ)化につながるIGCC(石炭ガス化複合発電)、CCS(二酸化炭素回収・貯留)などの実用化がどれほど進展するか、

という3要素である。

エネルギー政策の基幹となる今後の電源構成を決める際に独立変数となるのは、これら(1)~(3)の要素である。原子力発電のウエートは、(1)~(3)の進展度合いによって、別の言い方をすれば「引き算」によって決まるのであり、原子力発電そのものが独立変数になるわけではないのである。

3つの要素のうち(3)の「石炭火力発電のゼロ・エミッション化」について詳しく掘り下げているのは、経済産業省総合資源エネルギー調査会鉱業分科会クリーンコール部会が2009年6月にまとめた報告書「我が国クリーンコール政策の新たな展開2009」である。同報告書は、図1のような「高効率石炭火力発電の技術開発ロードマップ」を掲げている。これらのロードマップにもとづき、技術革新を実現することによって、将来的には、「ゼロ・エミッション石炭火力発電」を実現しようというのが、「我が国クリーンコール政策の新たな展開2009」の最終的なねらいである。

現在、中国電力とJパワー(電源開発)は、折半出資で大崎クールジェンを設立し、中国電力大崎発電所の敷地でIGCCの実証試験を始めようとしている。Jパワーは、02年度から13年度にかけて福岡県北九州市で、石炭使用量150トン/日規模の酸素吹き石炭ガス化技術パイロット試験(いわゆる「EAGLEプロジェクト」)に取り組んできたが、その成果をふまえて大崎クールジェンは、広島県大崎上島町の瀬戸内海に臨むこのサイトで、石炭使用量1100トン/日規模、発電出力17万キロワット級の酸素吹きIGCCの実証試験を実施しようとしているのである。

■IGCCは温暖化防止の切り札である

石炭ガス化複合発電に関してはこれまで、福島県いわき市の常磐共同火力勿来発電所にある、クリーンコールパワー研究所の空気吹きIGCC実証機(出力25万キロワット)が先行してきた。大崎クールジェンの試験が始まれば、わが国は、それぞれに特徴がある空気吹きと酸素吹きの両システムを有することになり、IGCCの技術開発に関して世界をリードする位置に立つ。

福島第一原発事故後の日本では、エネルギー政策の根本的な見直しが進み、それを通じて「Sプラス3E」の重要性が強く認識されるようになった。Sは安全性(Safety)であり、3Eは環境性(Environment)、経済性(Economy)、エネルギーセキュリティ(Energy Security)をさす。

端的に言えば、IGCCは「Sプラス3E」の申し子である。まず、石炭ガス化複合発電が原子力発電に比べて安全性の点で優れていることは、言うまでもない。

環境性について見れば、IGCCは石炭火力発電の熱効率を大幅に上昇させ、二酸化炭素排出量を減少させる。IGCCの特徴は、石炭をガス化し、それを燃焼させてガスタービンと発電機を動かすとともに、あわせてガスタービンの排熱で蒸気を作り、それで蒸気タービンと発電機も回す点にある。その結果、蒸気タービンと発電機の組み合わせだけの既存の微粉炭火力発電に比べて、熱効率が上昇するわけである。

経済性の点では、IGCCが低品位炭と相性がいい点が重要である。図2からわかるように、石炭火力発電のうち既存の技術であるSC(超臨界圧石炭火力発電)やUSC(超々臨界圧石炭火力発電)は、高品位炭(灰融点1500℃以上、品位1)ないし中品位炭(灰融点1400℃以上1500℃未満、品位2)と適合性が高い。これに対して、酸素吹きIGCCは中品位炭ないし低品位炭(灰融点1200℃以上1400℃未満、品位3)と、空気吹きIGCCは低品位炭と、それぞれ相性がいい。

これまでの日本の石炭火力発電所では基本的に、割高な高品位炭のみを使用してきた。IGCCの導入により低品位炭の利用が拡大することは、経済性の面でメリットがあるだけでなく、エネルギーセキュリティの確保に資するものでもある。現在、日本向けに石炭を大量に輸出しているオーストラリアやインドネシアでの露天掘り炭鉱では、高品位の瀝青炭の生産が頭打ちになりつつあり、今後は、低品位炭の活用がエネルギーセキュリティ確保上の重要課題となるからである。

成長技術であるガスタービンを石炭火力発電に取り込む意味合いをもつIGCCは、さらなる高効率化や二酸化炭素排出量削減への架け橋となる可能性をもつ。燃料電池(FC)と組み合わせたIGFC(石炭ガス化燃料電池複合発電)への展開に道をひらくとともに、二酸化炭素回収技術とのマッチングによってCCSの実用性を高めるためである。さらに、酸素吹きIGCCの場合には、生成ガスの主成分が有用な一酸化炭素や水素であることから、化学工業への展開が有望だと言われている。

福島第一原発事故後の日本が、原子力発電への依存度を下げる方向に進むことは間違いない。そうであるとすれば、これまで原発とともにベース電源を担ってきた石炭火力発電の役割は、必然的に高まる。

ただし、石炭火力には、二酸化炭素排出量が大きいという固有の難点がある。IGCCは、この難点を大幅に解消するものである。そして、それだけではなく、IGCCがIGFCへ発展し、CCSと結びつくことになれば、二酸化炭素を排出しないゼロ・エミッションの石炭火力発電が実現することも夢ではないのである。

筆者がこれまで何度かこのコーナーで主張してきたように、日本の効率的な石炭火力発電技術は、世界的規模で二酸化炭素排出量を減らす、地球温暖化対策の「切り札」となりうるものである。福島第一原発事故後のわが国では、20年までに温室効果ガス排出量を90年比で25%削減するという、鳩山由紀夫元首相が打ち出した国際的公約(いわゆる「鳩山イニシアチブ」)の実現が絶望視されるにいたった。たしかに、原発を使って国内で二酸化炭素排出量を減らすやり方は不可能になった。しかし、ここで注目すべきは、鳩山イニシアチブの目標と同等、ないしはそれ以上の成果をあげる別の方法が存在することである。

90年の日本の温室効果ガス排出量は、12億6100万トン(二酸化炭素換算)であったから、その25%は3億1525万トンであり、鳩山イニシアチブの方針は、大まかに言えば、20年までに二酸化炭素排出量を3.2億トン減らそうとするものだと言うことができる。ここで求められるのは、最も多く二酸化炭素を排出する石炭火力発電所の効率を改善することができれば、二酸化炭素排出量を最も多く減らすことができるという、柔軟な「逆転の発想」である。

■CO2を90年比127%削減する方法

08年の発電電力量に占める石炭火力のウエートを国別に見ると、日本が27%であるのに対して、アメリカは49%、中国は79%、インドは69%に達する。発電面で再生可能エネルギーの使用が進んでいると言われるドイツにおいてでさえ、石炭火力のウエートは46%に及ぶ。世界の発電の主流を占めるのはあくまで石炭火力なのであり、当面、その状況が変わることはない(08年における世界の電源別発電電力量の構成比は、石炭が41%、天然ガスが21%、水力が16%、原子力が14%、石油が6%、その他が3%であった)。

国際的に見て中心的な電源である石炭火力発電の熱効率に関して、日本は、世界トップクラスの実績をあげている。したがって、日本の石炭火力発電所でのベストプラクティス(最も効率的な発電方式)が諸外国に普及すれば、それだけで、世界の二酸化炭素排出量は大幅に減少することになる。

資源エネルギー庁の試算によれば、中国・アメリカ・インドの3国に日本の石炭火力発電のベストプラクティスを普及させるだけで、二酸化炭素排出量は年間13億4700万トンも削減される。この削減量は、90年の日本の温室効果ガス排出量12億6100万トンの107%に相当する。

日本の石炭火力のベストプラクティスを中米印3国に普及させさえすれば、鳩山元首相が打ち出した「25%削減目標」の4倍以上の温室効果ガス排出量削減効果を、20年を待たずして、すぐにでも実現できるわけである。この事実をふまえれば、日本の石炭火力技術は地球温暖化防止の「切り札」となると言っても、決して過言ではないのである。

もしIGCCが実用化されるとすれば、日本の石炭火力のベストプラクティスを中米印3国に普及させた場合の二酸化炭素排出量削減効果は、さらに拡大する。図3にある通り、国産酸素吹きIGCCの技術を移転すれば、1年間に、アメリカで4億9400万トン、中国で8億6200万トン、インドで2億4400万トン、3国合計で16億トンの二酸化炭素排出量を減らすことができる。この16億トンという数値は、90年の日本の温室効果ガス排出量のじつに127%に相当するのである。

(一橋大学大学院商学研究科教授 橘川 武郎 平良 徹=図版作成)

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