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「経済的な不安」より「夫からの解放感」が勝ってしまう…熟年離婚で「幸福になった」という女性が多い理由

プレジデントオンライン / 2023年10月26日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

熟年離婚した夫婦では、男性の幸福度は下がる一方、女性の幸福度は上がることが知られている。その背景にはなにがあるのか。前野隆司さんと菅原育子さんの共著『「老年幸福学」研究が教える 60歳から幸せが続く人の共通点』(青春新書インテリジェンス)より、一部を紹介する――。

■離婚した人は未婚者よりも幸福度が低い

「結婚は人生の墓場」という表現があります。これを聞いただけで、結婚したくなくなる人もいそうです。しかし、調査結果によると、日本でもアメリカでも、どこの国でも、未婚の人よりも結婚している人のほうが幸福度が高い傾向があります。

実は、「結婚は人生の墓場」というフランスの詩人ボードレールの言葉は、もともとの意味を誤訳して伝わったもので、けっして「結婚してもろくなことがない」という意味ではないそうです。出典については諸説ありますが、本来は、「遊んでばかりいないできちんと結婚しなさい。(人生を締めくくる場所である)墓のある教会で」という意味の言葉だったというのが定説のようです。

もちろん、結婚生活のような話は個人差が大きいので、データに一喜一憂する必要はありません。結婚しているほうが幸せと聞いて、「じゃあ、早く結婚しなくては」とあせったり、「離婚しちゃいけないんだ」と必要以上に我慢したりする必要もありません。未婚でも離婚していても幸せな人はいくらでもいます。大切なのは考え方と生き方です。

日本人1500人を対象にして私(前野)が行った調査では、離婚した人の幸福度は未婚の人よりも低い傾向があることがわかりました。一方で、配偶者と死別した人の幸福度は、結婚している人の幸福度と有意な差がありませんでした。死別は寂しいけれども、いい伴侶がいたという思い出があることで、平均するとそこそこ幸福度が高いのでしょう。

■「パートナーが最良の友」と答えた人のほうが幸福

結婚と幸福度については、世界規模のおもしろい研究結果があります。

いくつもの研究データを総合したメタ分析によると、「パートナーは最良の友」と感じている人が、「パートナー以外が最良の友」という人よりも満足度が高いことがわかりました(*1)。「パートナーが最良の友」が理想だというわけです。

もちろん、パートナー以外の友がいることも大切ですし、いろいろな生き方があるとは思いますので、1つの学術研究の結果と捉えていただければ幸いです。長年夫婦として連れ添っていると、相手に感謝の言葉を発することが減っていきがちです。妻が仕事から帰って疲れた体で料理をつくっても夫がむっつりしていたり、食後に夫が自慢げに皿を洗っているのに対して「お皿を洗ったぐらいで家事した気になるんじゃないわよ」と怒ったりする夫婦もあるでしょう。

そんなとき、「疲れているのに悪いね。おいしいよ、ありがとう」「お皿を洗ってくれてありがとう」と口にするだけで、雰囲気はずいぶん変わると思うのです。そうすれば、「いやいや、定年後はもっとやるよ。いつもすまないね」と夫は答えるかもしれません。本当は仲が悪いわけではないのに、コミュニケーション不足で仲が悪い錯覚に陥っている夫婦が日本には多いように思います。

(*1)Grover, S., & Helliwell, JF. (2014). How’s life at home? New evidence on marriage and the set point for happiness. National Bureau of Economic Research Working Paper 20794.

■「10倍の感謝」が人間関係を良好にする

興味深いエピソードがあります。私(前野)が、「職場の雰囲気をどうやってよくすればよいか」というテーマで取材を受けたときのこと。私は担当の女性に対して、「部下や同僚への感謝を10倍にしましょう」という趣旨の話をしました。すると、それが記事になる前に、その女性からメールが届きました。

「私は夫との間が冷え切っていて、夫が定年になったらどうやって生きていこうかと思っていたところでした。そんなとき、前野さんの言葉を聞いて、感謝10倍を試してみたのです。そうしたら、新婚当時のようなラブラブに戻ったではありませんか。ありがとうございました」

手を重ね合わせる老夫婦
写真=iStock.com/Koji_Ishii
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Koji_Ishii

これには驚きましたが、感謝の言葉にはそれほどの効き目があるのだと再認識しました。また、大学でカップルの幸福度について考えるワークショップを、6回シリーズで実施したことがあります。夫婦やパートナーが50組ほど参加したのですが、それはそれは忘れられない経験でした。

例えば、「感謝を隣の人とシェアしてください」と私がいうと、それぞれの愛の形が多様だったのが印象的でした。しかも、驚くほどみんな仲がよさそうでした。もともとラブラブだったカップルばかりではありません。その変化には圧倒されました。終わってから感想を書いてもらうと、「実をいうと、最近はずっと仲が悪かったのですが、おかげさまで仲よくなりました」というコメントがいくつかありました。

なかには、「別の人にもプロポーズされていて、そちらにしようかと迷っていたのですが、この人に決めました」というコメントもあってびっくり。ドキドキするような素敵なコメントばかりだったのです。

幸福学の「ありがとう因子」の力を垣間見た瞬間でした。

■熟年離婚で女性のストレスは減少する

近年は「熟年離婚」という言葉をよく耳にするようになりました。テレビドラマだけでなく、身近でもしばしば話に聞きます。厚生労働省がまとめた「人口動態統計特殊報告」によれば、2020年の全離婚件数は約19万3000件で、2003年以降減少しています。しかし、同居期間が20年以上の、いわゆる「熟年離婚」は戦後ずっと上昇傾向にあり、2020年には離婚全体の21.5%を占めるようになりました。

離婚したカップル5組に1組以上が熟年離婚という計算です(*2)。熟年離婚のよくあるパターンは、夫の定年退職をきっかけに妻が離婚を言い渡すというもの。子どもはすでに手が離れており、これからの人生をずっと夫と一緒に過ごすのはごめんだという人が多いようです。

もちろん、どの世代の夫婦でも、離婚によって幸福度が下がることはデータからも明らかです。しかし、熟年離婚ではとくに際立った特徴があることがわかりました。拓殖大学の佐藤(さとう)一麿(かずま)教授が、熟年離婚後の夫婦のメンタルヘルスの変化を調査したところ、男女とも離婚した年のメンタルヘルスが悪化するものの、その後に違いがありました(*3)。女性は急速に回復していくのですが、男性は回復しないままだというのです(図表1)。女性のメンタルヘルスが回復するのは、我慢を強いられた結婚生活から解放されて、ストレスが減少したことに由来するかもしれません。

経済的に不安がある女性は少なくないかもしれませんが、それ以上に解放感のほうが大きいのだと想像できます。友人との語らいや趣味のサークルなどに、積極的に参加するようになるようです。

【図表1】熟年離婚後のメンタルヘルスの変化
出所=『「老年幸福学」研究が教える 60歳から幸せが続く人の共通点』

(*2)厚生労働省「令和4年度 離婚に関する統計の概況」
(*3)Sato, K. (2017) The rising gray divorce in Japan: Who will experience the middle-aged divorce? Does the middle-aged divorce have negative effect on the mental health? Presented at International Population Conference of the International Union for the Scientific Study of Population.

■男性は離婚後に抑うつ状態になりやすい

それに対して男性のメンタルヘルスが回復しないことには、離婚後の地域や社会との関わりが関係しているように思えます。趣味の活動や地域行事へも参加せずに孤独感を深めていく人が多く、不健康な生活が続いて抑うつ状態になる傾向が強いようです。こうした男性の孤独感は、残念ながら今も続く日本の男女不平等社会の影響がめぐりめぐって身に降りかかったものだと考えられます。

現在の高齢者にあたる男性が、家事一切を妻がするのは当然だという認識でいた場合、奥さんがいなくなると身のまわりのことが何もできません。そんな生活力のない男性が1人にされて、炊事や洗濯もできないまま、周囲から孤立してしまうのかもしれません。逆に女性は、家事はもちろん、夫への気遣いも無用になって元気になるのでしょうか。いってみれば、男尊女卑の風潮のもとで楽をしてきた男たちが、離婚でしっぺ返しを食らっている皮肉な図式にも見えます。

男性のためにも女性のためにも、早急に差別のない社会を実現すべきでしょう。

■死別の場合、男性のほうがダメージが大きい

若い人の場合は、男性のほうが再婚率が高いので、一度離婚しても再婚すれば幸福度が再上昇します。しかし、高齢になって離婚した人は、現状では再婚しない傾向が高いので、その点からも高齢男性の離婚ダメージは回復しにくいのでしょう。

前野隆司、菅原育子『「老年幸福学」研究が教える 60歳から幸せが続く人の共通点』(青春新書インテリジェンス)
前野隆司、菅原育子『「老年幸福学」研究が教える 60歳から幸せが続く人の共通点』(青春新書インテリジェンス)

離婚に比べると、すでに述べたように、死別のほうが幸福度はそれほど下がりません。もちろん、死別直後はガクンと下がりますが、「コーピング」といってストレスに対処しようとする心理的な作用が働き、伴侶を失った悲しみが、いつしか伴侶に対する感謝に変わっていきます。その結果、人にもよりますが、半年から3年くらいで幸福度は元に戻るといわれています。

ただし、ここにも男女差がかなりあり、3年後には女性は比較的回復するのに対して、男性は抑うつ状態にとどまるケースが少なくないようです。123の研究をもとにまとめたメタ分析によれば、配偶者と死別後3年以内に死亡する可能性が、男性は1.27倍、女性は1.15倍と、男性のほうが高いというデータがあります。また、死別した年齢が若いほど男性のリスクは高いのですが、高齢になると男女差は小さくなっていきます(*4)

(*4)Shor E., Roelfs, DJ., Curreli, M., Clemow, L., Burg, MM., & Schwartz, JE. (2012) Widowhood and mortality: A meta-analysis and meta-regression. Demography, 49(2), 575-606.

■悲しみに効果的なのが「配慮できる友人」の存在

私(菅原)は、配偶者を亡くされた方のインタビューをしたことがありますが、複数の方が、死別後の悲しみからの回復に有効だったのは、友人からの誘いだったと話していました。

「しばらくはそっとしておいてくれて、そろそろいいかなというタイミングで誘ってくれたのが、とてもありがたかった」とおっしゃっていました。そういう配慮ができる友人がいたことで社会復帰ができて、回復につながったのでしょう。

手を差し伸べる友人の側からすると、声をかけるタイミングを見計らうのは高度な技術だと思います。逆にいえば、そうした心のひだを理解してくれる友人を持つこともまた、幸せに生きるための大切な要素です。昔からの仲間が3、4人いて、「そろそろ声をかけてみようか?」と提案してくれるような人間関係をつくっておきたいものです。

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前野 隆司(まえの・たかし)
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授
1984年東京工業大学卒業、86年東京工業大学修士課程修了。キヤノン株式会社入社、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、2008年より現職。2017年より慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任。著書に『幸せのメカニズム』(講談社)、共著に『ウェルビーイング』(日本経済新聞出版)、『「老年幸福学」研究が教える 60歳から幸せが続く人の共通点』(青春新書インテリジェンス)など著書多数。

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菅原 育子(すがわら・いくこ)
西武文理大学サービス経営学部 准教授
東京大学未来ビジョン研究センター客員研究。1999年東京大学文学部卒業、2005年同大学大学院博士課程修了。東京大学社会科学研究所助教、東京大学高齢社会総合研究機構特任講師を経て2021年より現職。専門は社会心理学、社会老年学。『東大がつくった高齢社会の教科書』(東京大学出版会)でも執筆を担当。共著に『「老年幸福学」研究が教える 60歳から幸せが続く人の共通点』(青春新書インテリジェンス)がある。

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(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授 前野 隆司、西武文理大学サービス経営学部 准教授 菅原 育子)

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