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"3つの穴"を順番に締めて5秒キープ×各10回…横浜の元ヤンキーが「超ストイックな膣トレ」で起業するまで

プレジデントオンライン / 2023年10月24日 11時15分

山口 明美さん 3FACE 代表取締役・膣ケア/膣トレ講師・膣姐(ちつねぇ) - 写真提供=山口明美

国内ではタブー視されがちな女性器周辺のケアやトレーニングの重要性にいち早く着目し、膣ケアや膣トレ関連のビジネスを展開してきた山口明美さん(48)。当初は敬遠されることも多かったが、最近は軌道に乗り始めた。どのように事業を切り開いてきたのか。フリーライターの東野りかさんが取材した――。

■深刻な会陰裂傷、尿もれで産後うつに

「海外では顔と一緒で膣のお手入れもするし、子供の頃から膣ケアの方法を教わっています。タブー視する日本と全然違うんです」

そう語るのは、3FACE(本社:大阪市)の代表取締役・山口明美さん(48)だ。日本初の「膣プランナー」として活動し、ちつねえさん、略して「ちつねえ」というニックネームで呼ばれることもある。

山口さんは19歳からエステティシャンとしてキャリアをスタート。美容サロンや美容メーカーのセールスなど約30年もの間、美容業界に携わったあと、現職に至る。

日本国内ではいち早く女性器である腟のケアや、膣を鍛えるトレーニングに着目。4年前に会社を立ち上げ、膣の健康と全身の美容をつなげる活動を開始した。

そもそも、なぜ膣に着目したのか。

聞けば、20年ほど前、次女の出産時に深刻な会陰(えいん)裂傷を起こしたのがきっかけ。新生児が母親の胎内から産道を通って生まれてくる際、膣と肛門の間の会陰がランダムに裂けてしまったのだ。実際には、これを防ぐために産科医があらかじめ産婦の会陰にメスで切れ込みを入れる会陰切開が行うことが多いが……。

「次女は約4000gのビッグベビーで、しかも彼女の肩が膣の入り口に引っかかり、会陰がひどく裂けてしまって。その結果、14針も縫うことになりました……。出産後も大変で、とてもひどい尿もれに悩まされ続け、産後うつにもなったのです」

出産は女性の体に大きな負荷がかかる。子宮、膣、尿道などの臓器を支える骨盤底筋に強烈な圧力をかけて赤ちゃんが母の体内から出てくるため、産後に山口さんと同じような症状で苦しむ女性も少なくない。

■下半身の悩みをオープンにできない日本人女性たち

筆者も産後尿もれの経験がある。特に赤ちゃんを前抱きにしていると膀胱を押され、出産で緩んだ尿道から尿がスーッと出てくるのだ。最悪の場合、自分で止めることができず、洋服を広範囲に濡らしてしまうことも。だが、これは多くの経産婦の“あるある”現象だ。

尿もれは産後の一時期に起こるが、そのうち再び尿もれが起こりうる。加齢で本格的に骨盤底筋が緩んで、子宮や膀胱が下がり膣外に出てしまう臓器脱や、膣が乾燥して痒(かゆ)くなる膣カンジダ・性交痛などさまざまなトラブルが起こるのだ。

こうした悩みを抱えながら、日本の女性はそれをあまりオープンにしたがらない(できない)。当初は山口さん自身も、尿もれの悩みを誰にも言えなかった。

子宮などの内臓が膣外から出ればさすがに医師にかかるだろうが、尿もれ対策には専用パッドを下着につける、膣口がかゆくても我慢するか市販薬を塗る、性交痛に至ってはセックスを拒否するなどの消極的な方法をとる人が少なくない。そうやって対症療法的な処置をするだけで結局、膣をほったらかしにしてしまうことも多いのだ。

男女の生殖器のイラスト
写真=iStock.com/Vectorian
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Vectorian

■骨盤体操で産後の尿もれから脱却できた

深刻な尿もれ悩まされた山口さんを救ったのは、助産師から教えられた体操だ。

「産後に助産師さんの指導で骨盤底筋を鍛える体操をしたら、尿もれがかなり改善されたので、何か相関関係があるのかな? と思ったのです。そこで、凝り性の私は徹底的に調べました。すると海外の女性は顔と同じように膣もお手入れするし、小学生の頃から膣ケアを教わるとわかってとても驚きました。外性器は専用のソープで洗ったり、入浴後はオイルでマッサージしたり。また、呼吸法を取り入れた体操を継続することで、私の場合、まず体調が改善し、肌が格段にきれいになって、妊娠で20kg以上増えた体重もスルスルと減りました。その手法を体系化したものを今、皆さんに指導しています」

山口さんは現在47歳だが、しみ、しわが目立たないツルツル美肌。また、以前は激しい生理痛、子宮内膜症、子宮筋腫といった婦人科系病気のデパートのような体質だったというが、それも徐々に改善。エステティシャンには若い女性が多いので、山口さんが海外の手法なども参考にしながら作り上げたメソッドを伝授したところ、彼女たちの心身の不調も軽減したそうだ。

山口さんが次女を出産した当時の日本では、経産婦が教わるのは骨盤底筋を鍛えることが中心で、膣そのものをケアする慣習がなかった。だが、現在はだいぶ状況が変わっている。腸内細菌と一緒で膣内にも乳酸菌を筆頭にした善玉の細菌(フローラ)があり、膣内の環境を良い状態にキープしている。しかし、女性器周辺の衛生やケアを怠ることで膣内環境が乱れると健康に害を及ぼすこともあるという考え方は数年前から、産婦人科医などが発信するようになってきた。

※参照:腟の健康状態を左右する? 腟内の菌、腟内フローラとは

■医者でもないのに、そんなことが言えるのか!

海外の先進的な情報に加え、自分自身や周囲の女性たちの経験から、山口さんは膣をケアし鍛えることが、全身の美にもつながる可能性があると確信。これまでの美容業界のキャリアも活かしながらビジネス展開を構想する。さっそく以前勤めていた美容メーカーの社長に膣ケア・膣トレ関連のサービスや製品開発を提案するが、難色を示された。

「『膣なんて言葉を使うの? 今じゃないでしょ?』と。(サービスや製品に対して)医者が監修をしたがらない分野だし、無謀だと思われたのでしょうね」

それなら自分の責任でやるしかないと思ったのが4年前。2人の娘も成長して、子育てもひと段落していたこともある。

「これからはもっと自分のために自由に生きようと思いました。ただ、私が身をもって大切さを実感した膣ケア・膣トレを美容につなげたいけれど、もしかしたら、娘たちに恥をかかせるもしれない。そんな不安を抱きましたが、その娘たちが『いいじゃん! やってみたら』と言ってくれたので決心できたのです。そこでインスタグラムなどで発信を始めました」

想定内ではあったが、逆風は思いのほか強かった。「膣ケアできれいになるなんて、医者でもないのにそんなことを言えるのか?」「そんな言葉を使って、恥ずかしくないのか」といった批判の声も多かった。

■フェムテック議連の立ち上げが追い風に

そんな折に、自民党の野田聖子氏が会長となって「フェムテック振興議員連盟」(フェムテック議連)が2020年に立ち上がる。フェムテックとは、生理・出産・閉経など女性特有の健康課題をテクノロジーで解決すること。膣という単語を口にするのははばかられても、カタカナになると受け入れやすくなるのは日本人ならではかもしれない。実際、数々の企業がフェムテックの分野に参入し、山口さんにも多くの仕事のオファーが舞い込んだ。以前はネガティブな反応もあった山口さんのSNSも“バズった”という。

その勢いに乗って、文章内容の事実関係を、産婦人科を含む3人の医師・助産師などにチェックを受けた共著『なんとなくずっと不調なんですが膣ケアで健康になれるって本当ですか?』(サンクチュアリ出版)を上梓。

トータルフェムケアの正しい知識の普及に努めるイベントにて
写真提供=山口明美

さらに膣トレ・膣ケアの教育や指導、それに付随するアイテムの監修などの仕事も引き受け始めた。ただ、監修するアイテムはみな、女性のQOL向上に貢献するのが目的だが、商品の写真や文言が過激だと広告掲載を拒否されることもあり、社会全体の無知を感じることもあるという。

とりわけ山口さんが痛感するのは、男性側のフェムテックの理解度が低さだ。なぜなら女性の体を対象にしたアイテムやサービスに関して、関わる企業の担当者が男性であることも多いからだ。それはいいとしても、中には女性の生理や体についてまるで理解してない人や、理解しようともしない人さえいる。

筆者も、かつて生理用ショーツを開発した企業の女性社長のエピソードを思い出した。その女性社長はショーツの製造会社の男性担当者から「女性の生理のことなんて、考えたくもない。ゾッとする」と言われたそうだ。どうやら上司に命令されて嫌々担当しているらしいのだが、その男性には妻も子もいた。それなのに妻の生理にも無理解とは悲しい。

■ニヤニヤするだけで話を聞かない男もいる

山口さんが関わる企業の男性でも、ニヤニヤしているだけで、重要な話を聞かない人もいた。でも、そのような男性にはもう慣れっこだと山口さんは言う。

「そういう人たちに『話を聞いてください』って言っても届かないので、『優秀な女性社員を活用するため、会社の健康経営にはフェムテックが重要です』と力説します。そうすると、聞いてくれることが増えました」と山口さんは笑う。

とにかく山口さんは打たれ強い。周囲からの逆風があったとしても決してヘコまない。

「私、中学、高校とすごい不良、いわゆる横浜のヤンキーだったんで、根性は据わっていると思います。当時学校にほとんど行ってなくて、その辺をバイクで走り回ってた(笑)。このままじゃダメだと働き出してからは一転、エステティシャンとしてトップセールスを続けていたので、周囲からいろいろ言われたりしましたけど、全く気にしません」

■「あなた膣トレやりなさい。肌が変わるわよ」

山口さんとの出会いによって、運命が変わった女性がいる。山口さんの右腕、秘書の鶴山りかさん(40歳)だ。鶴山さん本人も膣ケア・膣トレの講師も行う。

鶴山りかさん
写真提供=山口明美

彼女はなんと10年の間に8人の子を出産した。もともと健康だったが、山口さんと出会った4年前は、産後の壮絶な尿もれに悩み、肌が最悪な状態だったという。

「初めて会ったとき、私の顔を見るなり『あなた膣トレやりなさい。肌が変わるわよ』って(山口)明美先生に言われて。要するに暗に肌が汚いわよって言いたかったらしいんです(苦笑)。私も美容業界で働いていましたが、膣ケア・膣トレできれいになるなんて半信半疑でした。でも明美先生の教える通りに実践したら、不思議なことに1カ月で肌の状態は改善されて、おまけにどんどん痩せて。ジャンプしただけで起こった尿もれも収まってきました。やはり膣内の環境が乱れていたんですね。そこが良くなったので、いろんなトラブルが解消されたのだと思います。明美先生の一番弟子になりたい! と決心しました」

食生活も変え、膣周りの筋肉を動かして膣を締めるという体操も繰り返した(例えば、椅子に座った状態で“3つの穴”を肛門→尿道→膣の順番に締めていくエクササイズ。鼻から大きく息を吸って、口から吐くと同時に肛門、尿道、膣をそれぞれ締めた状態で各5秒キープを10回セット)。さらには、夫婦生活の質も上がり自分の感度も高まったそうだ。おのずとセックスレスとも無縁で、夫婦仲もすこぶる良い。

鶴山さんは山口さんを「とてもストイック」と評する。時間があれば座ったままでできる膣トレを行い、ストレッチポールを使ったトレーニングをする姿はまるでアスリートのようだという。骨盤底筋はインナーマッスルでもあり、ここが十分に鍛えられると血流もアップする。

こうなるともはや、フレンドリーな「ちつねえ」ではなく、もはや「ちつ先生」の風格を持つと言えるかもしれない。

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東野 りか フリーランスライター・エディター
ファッション系出版社、教育系出版事業会社の編集者を経て、フリーに。以降、国内外の旅、地方活性と起業などを中心に雑誌やウェブで執筆。生涯をかけて追いたいテーマは「あらゆる宗教の建築物」「エリザベス女王」。編集・ライターの傍ら、気まぐれ営業のスナックも開催し、人々の声に耳を傾けている。

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(フリーランスライター・エディター 東野 りか)

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