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圧倒的眺望、豪華な共用施設、最強の利便性…それでも富裕層が"終の棲家"にタワマンを選ばないワケ

プレジデントオンライン / 2023年10月31日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/in4mal

都内の高級タワーマンションを買っているのは富裕層なのか。金融アナリストの高橋克英さんは「投資対象や相続税対策、地方の富裕層がセカンドハウスとして購入する場合はある。だが、終の棲家としてわざわざ選ぶことは少ない」という――。

■「カーギャラリー」付きの部屋まで登場

JR大阪駅北側の「うめきた2期地区」で再開発を進める積水ハウスなどは10月、建設中のタワーマンション「グラングリーン大阪 THE NORTH RESIDENCE」の最上階の1部屋を25億円で分譲すると発表した。関西のタワーマンションで過去最高額を更新する。「王宮」をテーマにした46階建てタワマンの総戸数は484戸で2024年2月から販売を始める。

このうち、28戸は、専用エレベーターによって愛車で部屋まで乗り入れでき、リビングに「カーギャラリー」を併設するという、フロリダやシンガポールなど海外の超高級コンドミニアムのような豪華さだ。

東京カンテイによると、20階以上のタワーマンションのストック総数は、2022年12月末時点で1464棟(38万4581戸)という。タワマンは38都道府県で確認でき、最多は東京都の470棟で全国シェア32.1%。首都圏全体でのストック棟数は776棟と全国シェア53.0%を占める。

東京都に次いで多いのは大阪府で263棟。以下、神奈川県、兵庫県、千葉県、埼玉県と続いている。地方圏では、北海道(30棟)や宮城県(37棟)、広島県(27棟)や福岡県(46棟)といった地域が目立つ。2022年に竣工(しゅんこう)したタワーマンションは、全国で32棟(8774戸)。

なお、2023年竣工予定のタワーマンションは2022年12月末時点の集計で47棟(1万3862戸)と、戸数規模は2年ぶりに1万戸の大台を回復するという。

■すばらしい眺望、豪華な共用施設、駅近の利便性

圧倒的な景色、夜景、空間。東京の都心や湾岸のタワマンでは、リビングや寝室から新宿副都心の高層ビル群や、東京タワー、東京スカイツリーを望むことができ、窓一面にきらびやかな宝石のように広がる夜景はまさに絶景だ。

総戸数が1000戸を上回るような大規模なタワマンでは、豪華な共用施設も売りだ。夜景を眺めながらワインを飲めるバーやレストランにパーティールーム、サウナ付きの広々としたスパやジムに室内プール、複数のゲストルームやキッズルーム、コワーキングスペースなどもあったりする。フロントにはコンシェルジュが常駐し、ホテルのような至れり尽くせりのサービスを、タワマンに住みながら、利用できる。

立地もタワマンの大きな魅力だ。利便性の高い主要路線の駅から徒歩5分以内のタワマンが大半であり、ターミナル駅に直結していたり、大型商業施設と地下でつながっているタワマンもある。

タワマンはその高さもあり、エリアで最も目立つランドマークであることも多い。タワマンを購入できるような購買力が高い層が集まることで、飲食店などの集積も進み、タワマンを含むエリア全体のブランド力が増すことで、タワマンの資産価値も保たれることになる。

特に、高級住宅地を多く抱える東京の都心3区などは、タワマンを含む高級マンションの供給量そのものが極めて限られており、希少価値が増すことで、更なる資産価格の上昇に繋がっている。

■地方の富裕層がセカンドハウスとして買う場合もある

こうした魅力あるタワマンを実際に購入しているのは誰なのか。例えば、東京都心の1億円以上、2億、3億を超えるような超高額物件を購入する層は、当たり前ではあるが富裕層である。都内の富裕層に加え、地方の富裕層がセカンドハウスとして、また華僑を中心とした外国人が投資目的で購入するケースも増えてきている。

アパートの建築模型を持つアジア人男性の手
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

特に、地方の富裕層は、思いのほか東京訪問が多かったりする。商談や会議に視察、講演会やセミナーへの登壇や参加といった出張、プライベートでは、観劇や、ラグジュアリーブランドや大手百貨店主催のイベント参加、都内観光や会食、羽田や成田経由での海外旅行もある。東京のタワマンを所有するというステータスや投資観点に加え、自らセカンドハウスとして利用ができ、また、東京の大学に入学した子息子女の拠点などにも活用が可能なのだ。

富裕層のなかでは、開業医や自営業者、IT関連や不動産関係者などが多く、立地などにもよるが、購入目的は、セカンドハウスや投資用と自宅用が半々のイメージだったりする。

もっとも、全国に広がる全てのタワマンが1億円以上の価格であり、富裕層が所有を独占しているワケではない。豪華さや値段の高さが話題になりがちだが、実際のタワマン物件は価格も設備も様々だ。総戸数が多く賃貸物件もあるため、中古市場でも多くの物件が売買されている。

最上階のペントハウスなどを除けば、首都圏近郊や地方の物件に加え、都心部や湾岸部でも中古物件などでは、1億円未満の物件も数多く存在している。こうしたタワマン物件では、上述したようないわゆる富裕層ではなく、大企業や外資系企業のサラリーマン層や、世帯年収1500万円程度のパワーカップルや共働き世帯、土地持ち貯蓄持ちのシニア層などが多かったりする。

■朝のエレベーター渋滞は相当なストレス

豪華できらびやかなイメージのタワマンにもデメリットはある。例えば、建物全体の荷重負担の軽減のために軽い素材を利用するため、隣接する部屋からの生活音や話し声に加え、「風切り音」、駅直結マンションでは電車の音による騒音などが気になる場合もある。

ドラマやネット上でも面白おかしく取り上げられるタワマン高層階の住民による低層階の住民を見下すマウンティングや、管理組合の活動も大規模なものとなり、他の住民と遭遇したり、人付き合いもそれなりにあったりする。

細かい話かもしれないが、タワマンの場合、朝の出勤時などにエレベーターがなかなか来ずに行列ができて渋滞する、一旦エレベーターを乗り換える必要がある、さらに、地下の駐車場まで行かないといけないなど、タワマンの自分の部屋から外に出るまで、それこそ10分以上時間がかかる場合もある。これが毎日のことだと相当ストレスだ。

更に深刻なのは、地震や台風などで電力供給が途絶えることで、エレベーターやトイレなどが使えなくなり、ライフラインが止まってしまうことだ。

2019年10月の台風19号による浸水で、武蔵小杉のタワーマンション1棟では、電気も水道もエレベーターも使えなくなり、完全に元の生活に戻るまでに1カ月近くかかったという。

■高級住宅地の戸建てと比べると「出口戦略」が不透明

購入したタワマンの資産価格が上昇したところを見計らって売却し、キャピタルゲインを得るという明確な「出口戦略」を持って投資する場合は別として、タワマンは、高級住宅地の土地付き戸建てを代々受け継ぎ暮らすというのとは違い、最終的な「出口戦略」が不透明だという根本的な問題もある。

タワマンだけでなく、我が国のマンション全体にいえることであるが、これから何十年後かに経年劣化が進んだ際に、最終的に建替えるのか、取り壊すのかの選択を迫られることになる。

いずれの場合も現行制度上では区分所有者の5分の4の賛成が必要となり、かつ多額の所有者負担金が追加で求められることになる。

タワマンのような大規模マンションになればなるほど、区分所有者の80%もの賛同を得ることは、事実上不可能だ。築年数が経過すればするほど、大規模な修繕なども頻繁に必要となり、かつ、所有者も代替わりしたり、所有者不明や音信不通、これからは海外所有者も増えることにもなろう。

こうした所有者全員と連絡をとりながら、建替えプランや費用負担などを決めていくという気の遠くなるような作業が必要となるのだ。

神戸市では、2020年7月から、三宮駅周辺でのタワマン新築を禁止するなどタワマン規制を導入している。久元喜造神戸市長の「高層タワーマンションは正直持続可能ではないというふうに思います。数十年するとこれは廃墟化する可能性があって、我が国の大都市においては極めて深刻な問題が生じます」(定例会見2023年10月12日)との発言も、タワマンの「出口戦略」の難しさを踏まえたものといえよう。

神戸の港湾
写真=iStock.com/fototrav
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fototrav

■富裕層の特徴とタワマンは相容れない

筆者は、国内外の富裕層向け資産運用アドバイザーや金融コンサルタントの立場で、数多くの富裕層と直接接してきた。こうした経験則からいえる富裕層の特徴として、①煩わしいのは嫌、②わざわざリスクを取らない、③時間泥棒が大嫌い、といった点が挙げられる。

圧倒的な眺望や駅から近い利便性に豪華な共用部がある一方、自分の部屋から外に出るまで時間がかかり、騒音や人付き合いの煩わしさ、地震や台風などで電力供給が止まった時のリスク、そして何より「出口戦略」がない、という側面もあるタワマン。煩わしさが嫌で、リスクに敏感で、時間を大切にするという特徴を一般の人々以上に強く持つ富裕層とタワマンの相性はあまり良くない。これらが多くの富裕層がタワマンに興味を示さない理由であったりする。

中短期的なキャピタルゲイン狙いの投資対象や、相続節税対策、どんなものかという好奇心と話題作りと経験のため、セカンドハウスや期間限定での居住といった目的ではなく、土地付きの戸建てを中心にあまたある選択肢のなかから、多くの富裕層が終の棲家としてタワマンをわざわざ選ぶことは、この先もなかなかないのかもしれない。

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高橋 克英(たかはし・かつひで)
株式会社マリブジャパン 代表取締役
金融アナリスト、事業構想大学院大学 客員教授。三菱銀行、シティグループ証券、シティバンク等にて銀行クレジットアナリスト、富裕層向け資産運用アドバイザー等で活躍。2013年に金融コンサルティング会社マリブジャパンを設立。世界60カ国以上を訪問。バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、ハワイ、ニセコ、京都、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。映画「スター・ウォーズ」の著名コレクターでもある。1993年慶應義塾大学経済学部卒。2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。日本金融学会員。著書に『銀行ゼロ時代』(朝日新聞出版)、『いまさら始める?個人不動産投資』(きんざい)、『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』(講談社)、『地銀消滅』(平凡社)など多数。

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(株式会社マリブジャパン 代表取締役 高橋 克英)

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