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「困ったときはお互いさま」と言う上司は全然ダメ…休職者が出た職場でデキる上司がすぐ着手していること

プレジデントオンライン / 2023年10月31日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

育児休業を取得する社員の仕事は誰がやるべきなのか。人材育成に詳しいFeelWorks代表の前川孝雄さんは「良識的な上司は『困ったときはお互いさま』と言いがちだ。一見、チームワークを大切にしているように見えるが、これでは安直すぎる」という――。

※本稿は、前川孝雄『部下を活かすマネジメント“新作法”』(労務行政)の一部を再編集したものです。

■育児、介護、メンタル不調、体調不良…増える休職者

職場のダイバーシティが進み、ワーク・ライフ・バランスが重視される中で、国の施策としても企業の取り組みとしても、さまざまな働き方改革が進んでいる。その一環として、働く人個々の事情やライフイベントに応じた休暇・休業の仕組み(以下、単に休職と総称)などもかなり整備されてきた。

実際に、育児や介護と仕事を両立させながら働く人や、心身の疾病や障害を抱えた人が、柔軟に休みを取得するケースも増えている。働く人がさまざまな制約の中でも安心して働き続けられる職場環境の整備はたいへん好ましいことだ。

一方で、部下が休職して減員状態にありながら職場運営を任される管理職にとっては、マネジメントの難易度が格段に上がっているのが実情だ。実際に、私の会社が支援する企業の管理職からは、次のような悩みを打ち明けられることが増えている。

■「なんで自分ばかり」社員にたまる不公平感

「業界や企業を取り巻く環境変化は激しく、会社の経営も厳しさを増すばかり。よって上層部からは、業績目標達成を厳しく追及される。その一方で、部下のワーク・ライフ・バランスに配慮し、残業規制や休暇・休業の取得促進にも留意せよと指示される。法令順守や社員への配慮は必須とはいえ、人員の減ったチームで残された仕事をいったい誰が担うのか。自分もプレイングマネジャーで余裕がない。現実はとても厳しい」

この状況に何とか対処しようと、休職者の仕事を他の部下に割り振ることもあるだろう。その際に悩ましいのが、社員間の不公平感から来る不平不満の声だという。育児や介護、疾病治療など、やむを得ない事情の社員が必要なときに休職することは、もはや既定路線。だが、残された部下(同僚)たちの仕事の負荷が増し、役割分担にゆがみが生じている。休職する社員の仕事を割り振られ業務過重に陥った部下からすれば、なぜ自分ばかり仕事が増えるのかと不満が鬱積(うっせき)し、陰に陽に噴出することも珍しくない。育児休業を取得した社員の同僚に手当を出す企業すら出てきている。

■良識的な上司がやりがちな失敗「困ったときはお互いさま」

では、こうした難局に対して、上司はどのようなマネジメントを行うべきか。良識的な上司が部下たちに語りがちなのは、「困ったときはお互いさま。互いにフォローし合うのが職場の仲間じゃないのか」という言葉だ。これは一見、チームワークを大切にする“良き職場の常識”のように思える。

しかし、休職しないまでも、残された部下たちもそれぞれ大小さまざまな事情がある。育児や介護と仕事を両立させている家庭は、日頃から十分忙しい。障害や疾病のある家族を抱えた家庭も同様だ。また、今後増えるであろう副業や兼業をするケースでは、職場以外での仕事時間のやりくりも切実だ。部下たちが健康維持や自己啓発、リスキリングなどに励む時間も、今や軽視できない。そうしてみれば、個々に事情を抱える残された部下に休職者の仕事を“お互いにフォローするのは当たり前”という総論のみの説明で割り振るのは、安直過ぎるのではないだろうか。

■「お互いさま」では、必要な休みすら遠慮してしまう

また、休職する社員にとっても、「お互いさま」の掛け声だけでは不十分だ。近年注目されている男性の育児休業を例に見てみよう。

育児・介護休業法の改正によって、2022年10月1日から産後パパ育休(出生時育児休業)が取得できるようになった。男性に対して従来の育児休業とは別に、出生後8週間以内に4週間までの休業を与えるもので、2回に分けて取得できるなど柔軟な運用が特徴。今後の活用促進が期待される制度の一つだ。

しかし、既に育児休業制度が整備された職場でも、男性が取得を希望するものの結果的に断念したケースは多い。調査報告からその理由(複数回答)を見ると、「業務が繁忙で職場の人手が不足していた」(38.5%)、「職場が育児休業を取得しづらい雰囲気だった」(33.7%)、「自分にしかできない仕事や担当している仕事があった」(22.1%)、「収入を減らしたくなかった」(16.0%)などが挙げられている(三菱UFJリサーチ&コンサルティング「平成29年度 仕事と育児の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」2018年)。取得に踏み出せなかった主な理由は、目前の仕事の調整がなされず、周囲にも取得しづらい雰囲気があったことだ。会社として人事制度を充実させている中で、職場単位で「互いにフォローし合おう」との声掛けだけでは、必要な休みすら遠慮せざるを得ないのだ。

ビジネスパーソンと時間の概念のイメージ
写真=iStock.com/coffeekai
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/coffeekai

■仕事の棚卸しをして、優先順位をつける

では、上司はいかに対処すべきか。結論から言うと、部下同士のお互いさまの察し合いに委ねるのではなく、最初から休職者のフォロー業務も他の部下の役割として明確に定義することだ。また、チーム全体としてオーバーフローを起こさず、かつフォロー業務を担う部下の動機づけも丁寧に行いたい。

具体的に、休職希望者が出た際にまず取り組みたいのが、休みに入る部下の仕事の棚卸しと優先順位づけを行い、一つひとつの仕事について望ましい対応を明らかにすることだ。

[図表1]は、効果的なタイムマネジメントを目指し、チームが顧客と社会に提供する価値を重視しつつ、チーム内の仕事を効率化するために仕事の取捨選択を行う際に用いるために私が考案したフレームだ。

縦軸は、その仕事が顧客や社会に対し提供する価値の高低。横軸は、社内の慣習やルールによる制約の大小。その組み合わせで、仕事を4象限に分類する。

チーム内の仕事の取捨選択
画像=『部下を活かすマネジメント”新作法”』

分類①は社外的にも社内的にも必要性が小さく、すぐにやめて構わない仕事。分類②は社内外で必要とされていることから、さらにアクセルを踏むべき仕事。分類③は社外的な必要性は小さいが社内的には継続しており、本当に必要か否かあらためて精査すべき仕事。分類④は社会的に求められながらも社内にはなく、みんなで知恵を出し合い新たに創出すべき仕事だ。

■休職予定の部下本人とも話し合って仕事を精査

[図表1]は仕事の見直しのために、いつでも活用できるが、休職する部下の仕事を精査する際にも応用できる。上司は、まず休職予定の部下本人とも相談しながら、このフレームを用いて仕事の取捨選択と優先順位づけをすることが有効だ。

分類①はチーム内での合意で、すぐに廃止できる。これに対し、分類③をやめるには社内のコンセンサスも必要であり、上層部と相談や調整を行うことが上司の仕事になる。積極的に進めるべき分類②や、新たに創出したい分類④については、その進め方を休職する本人ともよく相談しよう。

本人が休職制度を有効活用しつつも、継続して担える役割は残すことも検討したい。前述した産後パパ育休(出生時育児休業)も、労使協定や合意を前提に休業中でも一定範囲で就業が可能になるなど柔軟な使い方ができる。在宅勤務やリモートワークが一般化した今、マネジメント業務や企画・調整業務など、部分休職と組み合わせながら継続可能な仕事も少なくない。本人の状態や希望と折り合うならトライしてもらうことも一案だ。また、仕事の内容や本人のキャリア希望に応じて、休職明けに本人が担う仕事も明確にしよう。

こうした検討を経た上で、チームに残すべき仕事を精査することになる。

■チームでやるべき仕事なら“後ろ向きな仕事”ではない

以上の手順で、いよいよチーム内で割り振るべき仕事が明らかになった。次に、上司は該当する部下に休職者の仕事のフォローを依頼することになる。

そこで大切なのは、依頼する部下に任せる仕事への動機づけをしっかりと行うことだ。

フォロー役の部下と共有し、動機づけすべきことは二つある。一つは、チームの目的への動機づけであり、もう一つは、部下本人の目的への動機づけだ。

前川孝雄『部下を活かすマネジメント“新作法”』(労務行政)
前川孝雄『部下を活かすマネジメント“新作法”』(労務行政)

まず、チームの目的への動機づけについて見てみよう。先ほどの[図表1]によって、“チームとして今こそ前向きに取り組むべき仕事”は既に精査済みだ。それは、組織やチームにとって、さらにアクセルを踏むべき仕事(分類②)、あるいは新たに創出することが求められる仕事(分類④)である。単に休職者が出たために残ってしまっただけの、後ろ向きな仕事ではない。

そこで上司は、あらためてその仕事の顧客・社会への価値を言語化し、この意味づけを部下と共有することだ。フォロー役の部下としては、組織やチームにとって大切な仕事だと再認識することで、自分だから任されたと感じ、前向きに取り組むことができる。

■部下の成長やキャリア形成への動機づけも行う

もう一つは、部下本人の目的への動機づけだ。新たに部下に任せる仕事が、本人の成長やキャリア形成にとってどのような意味を持つものか。上司は部下のキャリアビジョンや成長の可能性と照らし合わせて、しっかりと動機づけを行いたい。

そのためには、上司には、日頃から部下一人ひとりの仕事への思いや、持ち味、将来のキャリア希望などを把握しておくことが求められる。新たに担う仕事が、部下にとって関心の高いものであれば好都合である。これまでに経験のない未知の仕事であっても、部下の持ち味を活かし、経験の幅を広げ、今後のキャリアアップにもプラスになる面が必ずあるだろう。その可能性と期待を伝え、部下本人も納得をした上で仕事を任せることだ。

部下が新たな仕事をチームの目的と自分の目的に合致した意味あるものと捉えられるようになれば、自らの働きがいにもつながるはずである。

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前川 孝雄(まえかわ・たかお)
FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師
リクルートで編集長を務めたのち、2008年にFeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、研修事業と出版事業を営む。「上司力研修」「50代からの働き方研修」などで400社以上を支援。2017年に働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人企業研究会 研究協力委員サポーター、ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。30年以上一貫して働く現場から求められる上司、経営のあり方を探求。著書は『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』『人を活かす経営の新常識』『50歳からの逆転キャリア戦略』など約40冊。

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(FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師 前川 孝雄)

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