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箱根駅伝常連校の監督の給料はいくらなのか…アメリカの大学のアメフト、バスケ指導者との驚愕の格差

プレジデントオンライン / 2023年11月6日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/spxChrome

箱根駅伝に毎年のように出場している大学の陸上部監督の年収はどれぐらいなのか。スポーツライターの生島淳さんは「日本の大学はスポーツに予算を割くカルチャーがない。本来は3000万円~5000万円の年俸が支払われてもいいはずだ」という――。

※本稿は、生島淳『箱根駅伝に魅せられて』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■アメリカの大学スポーツの指導者の驚きの年俸

ナマっぽい話、いや、ナマな話を書いてみる。監督たちの待遇についてである。

いまや日本の学生スポーツイベントのなかで、箱根駅伝ほど影響力を持っている大会はなく、それだけ監督、学生たちは学校に貢献していることになる。

これはあくまで私の個人的な意見だが、長距離の指導を担当する大学の監督たちは、年俸数千万円に値する仕事をしていると思う。なぜなら、アメリカのカレッジスポーツのヘッドコーチの年俸がハンパないことをニュースで見ているからだ。ここでは人気のフットボールとバスケットボールのヘッドコーチの年俸のトップ3を紹介したい。まずはフットボールから(分かりやすいように1ドル100円として換算。2021年に発表された数字)。

1 ニック・セイバン(アラバマ大学)…………10億9800万円
2 デイボ・スウィーニー(クレムソン大学)…10億5400万円
3 カービー・スマート(ジョージア大学)……10億2300万円

■アメフト部の成績によって寄付金の額が変わる

読者のみなさんは、この数字に驚かれるのではないだろうか。とんでもない数字だが、フットボール部の大学への貢献度を考えると、妥当だと思う。志願者数の増加、なにより大学への寄付に対する貢献が大きい。

アメリカではフットボール部の成績によって寄付金の額が変わってくるといわれており、大学経営陣にとって、優秀なヘッドコーチを招聘(しょうへい)するのは重要な問題である。特にアラバマ、ジョージア、ルイジアナの南東部の各州にとってカレッジフットボールはアイデンティティそのものだ(レッドステート、共和党の支持層が多い地域でもある)。

そのあたりの事情は、想田和弘監督のミシガン大学での観察映画『ザ・ビッグハウス』にとても詳しい。ミシガン・スタジアムは収容人員10万人以上のまさにビッグハウスだが、試合開催日に大口寄付者向けの昼食会が開かれ、学長が寄付者を前に素晴らしいスピーチをする。

「あなた方の支援が、ミシガン大学の学生生活の充実につながり、若者にチャンスを与えることになるのです」

■日本の駅伝監督は契約形態がさまざま

大学にとって、もうひとつ大きなリソースはバスケットボールである。バスケットボールとフットボールの強い学校が微妙に違っているところが私にとっては面白いところ。さて、バスケの年俸トップ3のヘッドコーチたちは……。

1 ジョン・カリパリ(ケンタッキー大学)…8億5000万円
2 ビル・セルフ(カンザス大学)……………6億円
3 トム・イゾー(ミシガンステイト大学)…5億7000万円

カリパリはNBAでのコーチ経験もあるが、彼は能力の高い高校生に対し、「ケンタッキーで1年過ごしたら、すぐにプロに行けばいい」という「ワン・アンド・ダン」、1年経ったら、ハイおしまいという戦略で成功を収めてきた。日本におきかえると(実際にはあり得ないけれど)、箱根を1年生の時だけ走ってプロランナーに転向するようなイメージである。

翻って日本の大学の指導者はどうか。アメリカの大学の指導者は、すべてプロ契約だが、日本では契約形態が大学によってだいぶ違う。

まず、大学で教鞭をとりながら指導をしている場合がある。青山学院の原晋監督は地球社会共生学部、神奈川大学の大後栄治監督は人間科学部の教授であり、授業を担当して一般の学生相手にも教えている。陸上をやっていなくとも、入学すれば監督たちの授業を取れるという寸法である。私ならば、取ってみたい。

■日本は大学がプロコーチを雇うケースが少ない

さらには、大学当局と監督の契約をしている場合がある。これも様々な形での契約があり、大学職員として雇用されるケースも多い。大学の仕事をしながらコーチを続ける場合もあるし、陸上競技の指導専念という場合もある。

こうした雇用形態について質問を投げかけるケースは稀だが、中大の藤原正和監督は就任するにあたって、様々な経緯があったが、待遇面でも話が違っていたようだ。

「急遽、決まったこともあり、大学側からは正規職員として雇用は出来ないと言われまして。私はHondaでは正社員で、14年には資材担当の主任試験にも合格したところで、ちょうど家のローンも組んだところだったんですが……。結果的には1年が経過した時点で正規雇用にはなりましたが、バタバタとスタートしたというのが実情でした」

日本では、大学がプロコーチを雇うケースがまだ少ないから、こうしたバタバタが起きてしまうともいえる。

トラックでコーチの指導を受ける陸上選手
写真=iStock.com/franckreporter
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/franckreporter

■少なくとも年収1000万円が妥当

また、大学当局は関係なく、陸上競技部が指導者を招聘するケースもある。OB会が人件費を負担したり、あるいはコーチが所属する企業から「出向」という扱いで、企業にお願いするパターンもある(大学ラグビーではわりと多い契約パターンだ。大学側に資金があまりないのだ)。

今後、指導者の待遇はどうなっていくだろうか。陸上、ラグビーの取材などをしていても、基本的には1000万円が収入の目安となると感じる。いまや長距離ブロックの指導は監督一人では無理で、中大のように複数のコーチをそろえ、選手たちの走力によって「セミ・パーソナル」的な指導ができる体制を整えていくことを考えると、3000万円から5000万円ほどの人件費を捻出していかなければならない。それだけの予算を投下している大学は限られる。そもそもスポーツに予算を割くカルチャーがない。

■予算を投下しないと人材の流動性も確保できない

生島淳『箱根駅伝に魅せられて』(KADOKAWA)
生島淳『箱根駅伝に魅せられて』(KADOKAWA)

大学当局が駅伝の存在価値を認め、真っ当に人件費を予算項目として計上すれば、市場が確立し、人材の流動性が確保されていくと思う。現在も、早稲田の監督を務めていた渡辺康幸監督が住友電工で監督を務めたり、日体大を優勝に導いた別府健至監督がロジスティードの指導を担当していたりと、このところ大学から実業団へと場所を移す監督も増えてきた。

また、仙台育英高校の監督として吉居大和らを育てた真名子圭監督が、2022年に大東文化大学の監督に就任し、4年ぶりに箱根駅伝出場を決めるなど、高校の指導者が大学で指導するケースも目立ってきた。

向こう10年、指導者の待遇が改善すれば、より大学長距離界は活況を呈すると思う。アメリカの大学レベルは望むべくもないが、1000万円以上の収入が保証され、なおかつ長期契約が結べれば、腰を据えてチーム作りが行えるからである。気づいている学校は、あるにはあるのだが。

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生島 淳(いくしま・じゅん)
スポーツジャーナリスト
1967年、宮城県生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。博報堂を経て、ノンフィクションライターになる。翻訳書に『ウサイン・ボルト自伝』(集英社インターナショナル)のほか、著書多数。

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(スポーツジャーナリスト 生島 淳)

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