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埼京線十条駅でも「66平米1億円」に高騰…これから「資産価値が落ちるタワマン」に共通する残念な特徴

プレジデントオンライン / 2023年10月27日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

首都圏の新築マンション価格が上昇を続けている。不動産プロデューサーの牧野知弘さんは「2億~3億円のタワマンもよく売れているが、すべてのタワマンがこのまま資産価値を保てるとはかぎらない」という――。

■23区の新築マンションは平均で1億円超え

不動産経済研究所が調査、発表する「新築分譲マンション市場動向」によれば、2023年上半期(1月~6月)首都圏(1都3県)における新築マンション供給戸数は1万502戸。平均価格は8873万円と、前年同期比で36.3%もの大幅な値上がりとなった。またこれを東京23区に限定すると平均価格はなんと1億2962万円、60.2%上昇という、信じられないような高値となっている。

これを坪当たりの単価に直すと1坪(3.3m2)636万円だ。庶民感覚からいえば、都区内の新築マンションは一般的なファミリー向けである66m2(20坪)=1億2720万円はおろか、10坪(33.3m2)=6360万円すら手が届かないというのが今のマーケットの現実だ。

もちろんこうしたデータには一定のバイアスがかかることがある。同時期に供給された新築物件でたまたま都心一等地にまとまった販売があったことが背景との指摘もある。

しかし、たとえば東京都北区のJR埼京線「十条」駅前に誕生する39階建てタワーマンションは、間取り2LDKから4LDK、住戸面積58m2から92m2で販売価格は8050万円から1億5890万円だ。坪あたり単価は約500万円。つまり20坪(66m2)で1億円である。

私は長らく不動産業界に身を置いてきたが、この立地での相場観からして正直びっくりするような販売価格だ。

■「億ション」はかつて憧れの物件だったが…

たまたまこの物件の発売前に、事業関係者と話す機会があったが、彼らですら自ら「驚きの価格」と表現していた。ところが実際に売り出してみると反応は上々だという。

たしかに駅徒歩1分の「十条」駅から埼京線直通で池袋へ7分、新宿13分、渋谷に18分という交通利便性や充実した商店街など評価できるポイントはある。でもそれにしても坪500万円は驚き以外の何ものでもない。

一昔前であれば、販売価格が1億円を超えるマンションは「億ション」と呼ばれ、一部のセレブリティにしか買えない憧れの物件だった。ところが現在では東京都心一等地ばかりでなく、億ションの立地は加速度的に広がっている。

■高級マンションの基準は「坪700万円超」

億ションが普通のマンションとするならば、高級、高額マンションとはどの程度の物件と考えればよいのだろうか。

工業市場研究所調査レポートでは販売坪単価で700万円を超えるものを高額マンションとして扱っている。坪700万円ともなると100m2(30坪)で2億円を超えてくる。同研究所によれば、2019年1月から2023年6月までに首都圏で発売された坪単価700万円以上の物件(一部販売予定を含む)は44棟6342戸にも及ぶ。中には、話題となった港区の三田ガーデンヒルズ(総戸数1002戸)のように坪単価が1000万円を超える物件が4件もある。

立地は港区と渋谷区が目立つ。建物階数で20階以上になるタワマンばかりではなく、10階未満の低層マンションも目につく。このクラスのマンションになると、住戸面積も比較的広く、特に坪単価800万円以上の物件になると100m2を超える、ゆったりとしたマンションが多くなる。

渋谷区渋谷で分譲された「宮益坂ビルディング ザ・渋谷レジデンス」(128戸)は、1953年に東京都により分譲された日本初の分譲マンション宮益坂ビルディングを旭化成不動産レジデンスが建て替えたものだ。渋谷ヒカリエデッキ直結のこのマンションは2020年7月に竣工したが、1戸4億円から5億円という超高額マンションとして話題になった。

■「3億ション」は今後も値上がりする?

また最近では神奈川県横浜市内でも利便性の良い横浜駅前や横浜屈指の高級住宅街である山手町などのマンションは坪700万円台に突入。みなとみらいでも坪500万円を超える水準になっている。

みなとみらいの観覧車が見える景色
写真=iStock.com/voyata
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/voyata

こうした状況を踏まえると、首都圏の高級マンションの定義はもはや「億ション」ではなく、「2億ション」あるいは「3億ション」と言ってもよいのではないだろうか。そして業界関係者が一様に口をそろえて言うのはこうした超高額物件が実はとてもよく売れているという事実だ。

こんなに超高額マンションが発売され、しかもよく売れているというと、「マンションを買っておきさえすれば、人気が人気を呼んで将来はもっと値上がりするだろう」と考える向きもでてくるだろう。渋谷や広尾などの超高額マンションは無理としても、湾岸エリアや郊外ターミナル駅の駅前などで分譲されるタワマンを少々無理してでも買おうという気持ちになるというものだ。

■全タワマンの価値が上昇し続けるわけがない

ところで首都圏ではすでにどのくらいの数のタワマンがあるのだろうか。不動産経済研究所の調査データによれば、2004年以降22年までに首都圏で供給されたタワマンは679棟21万1879戸に及ぶ。

同期間内で供給されたマンションは89万2119戸であるから、戸数ベースでいえばなんとおよそ4分の1、23.8%がタワマンの形態で供給されたものであることがわかる。

私たちはなんとなくタワマンは建物の高さだけでなく、価格も高いもの、つまり高級マンションの代名詞のように扱いがちなのだが、首都圏で供給されるマンションのかなり多くがタワマンという事実は知っておくべきだ。つまりすべてのタワマンが今後も資産価値を上昇させ続けるというシナリオは考え方としてはややお花畑だということだ。

超高額マンションの定義が億ションから2億ションあるいは3億ションになっていくということ、そしてそれらの物件の多くが、麻布や広尾といったブランド立地であることを考えれば、不動産として本当に価値を保ち続けるマンションというのはおのずと限定されていくことになる。ただこのレベルのマンションは一般人のお財布では、どんなに頑張ったところで手は届かない。

■居住リスクの多い湾岸タワマンは金融商品

ではその他のタワマンの資産価値についてはどのように判断すればよいのだろうか。

まず湾岸エリアに立地するマンションは、住居というよりも金融商品だと考えたほうが良い。もうすでに語りつくされているが、湾岸エリアは海からの風の影響による建物劣化、地震などの災害発生時における土地の液状化や津波、電気、上下水道設備等の被害による生活環境の破壊など、長く居住する環境を整えているとは言いがたい。

いっぽうで所有者が居住だけを目的にした人ばかりではなく、富裕層の節税対策、外国人投資家による投資、不動産の値上がりを見込む業者による転売目的の買い占めなど、さまざまな思惑が交錯するのがこのエリアの特徴だ。要は資産劣化が激しくなる前に、売り抜けることでキャピタルゲイン(譲渡益)を狙うことだ。

長く所有すればするほど、大規模修繕に伴う費用負担やら、管理組合内での意見統一の困難さなどからストレスが溜まることになるだろう。株式や債券、商品相場でもやっている感覚で、国内外の金融情勢を勉強しながら適切なタイミングで「売り抜ける」ことが不可欠だ。

■郊外タワマンは「限界団地」になる未来も

ただし、投資は自己責任と言われるように、買うときは「安い」時に、売るときは「高い」時に、が鉄則だ。そうした意味で、かなり特異な相場観が形成されつつある現在、今が買い時であるかについては意見が分かれるだろう。

郊外ターミナル駅前や衛星都市のタワマンはどうだろうか。この手のタワマンには投資マネーはあまり入ってこない。つまり一般的な住宅としての居住性や利便性がポイントになる。つまり日本の今後の経済成長や街、エリアとしての成長可能性を考えて検討することになる。

もちろん居住環境がよければ「買い」は正しいが、人が常に出入りするような新陳代謝がきちんと行われている街、エリアを選択することだ。そうでないと、高度経済成長期から平成バブル崩壊までに開発された世の中の多くのニュータウンや団地と同じ運命になる。そのために今、多額のローンを組むというのはあまり賢い選択とは言えないだろう。

ましてやタワマンは団地以上に維持にお金がかかるものだということをよく認識したほうが良い。マンションは年を追うごとにどうしても経年劣化する。設備の修繕や更新、外壁などの補修をまめに行っても、近くに続々と立ち上がる新築物件との差は歴然としたものになる。

崩壊している不動産市場のグラフ
写真=iStock.com/lerbank
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/lerbank

■「タワマンである」自体に価値があるわけではない

いっぽうで青山や白金といったエリアはエリア自体にブランド価値がある。そうした意味では建物の劣化をある程度覆い隠してくれ、資産価値が落ちにくいのだ。また、これらの立地は元来住宅地としての地位を確たるものにしてきたところが多いため、容積率が低く抑え込まれていて、高層の建物はそもそも建設できない。その多くが3階から5階程度の低層のマンションとなる。

このように考えてくると、タワマンの資産価値とは「タワマンである」ことに価値があるのではなく、短期的な売却を繰り返すことで利益を得る投資商品としての意味合いが強く、長い時間軸で資産価値を醸成していく代物ではないといえそうだ。

マンションに限らず、不動産の価値は土地、立地価値で決まる。ましてや一般人が利殖の目的で、あるいはみんなが買っているから、などといったあいまいな動機で買ってしまってよいものでは決してないことを肝に銘じておくべきだ。

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牧野 知弘(まきの・ともひろ)
不動産プロデューサー
1959年生まれ。東京大学卒業。第一勧業銀行(現:みずほ銀行)、ボストン コンサルティング グループ、三井不動産などを経て、2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT(不動産投資信託)市場に上場。15年オラガ総研株式会社を設立し、代表取締役を務める。全国渡り鳥生活倶楽部代表取締役。主な著書に『空き家問題』『ここまで変わる!家の買い方 街の選び方』(いずれも祥伝社新書)、『不動産の未来』(朝日新書)、『負動産地獄 その相続は重荷です』(文春新書)など。

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(不動産プロデューサー 牧野 知弘)

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