キャリアの8割は偶然の出来事がつくる…29歳女性が突如「役員候補」に抜擢されたワケ
プレジデントオンライン / 2023年10月29日 10時15分
■成功の多くは「セレンディピティ」
キャリアにおける成功の多くは、予測不可能な偶然の産物、つまり「セレンディピティ」から生まれるといえます。
キャリア論の権威であるスタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授は「キャリアの形成は8割が偶然によるものである」と唱えています。これは、予想外の幸運を必然として受け入れ、それを自身の働き方に活かすという考え方です。
とくに20代の段階でセレンディピティを意識して働くことは、その後のキャリア形成に大きな影響を与えます。
■イーロン・マスクの宇宙事業の始まりは「振り込みミス」
実は、なにかと話題のイーロン・マスクも、「偶然の出会い」によってキャリアを築いた一人です。
創業したオンライン決済サービスの「ペイパル」をクーデターで更迭(こうてつ)された2000年のこと。イーロン・マスクは休暇中にたまたまプロペラ機に乗ったことをきっかけに、さらに遠くへ飛びたいと熱望するようになります。
火星への探査計画を調べ、情報収集のために火星協会のパーティーに参加するべく、会費を送金。500ドルの会費を払うつもりが、何を間違ったか彼は5000ドルを振り込んでしまいます。
誤って高額を振り込んだことで、宇宙飛行に関する重要人物たちが集まったテーブルに座ることになり、これがのちの宇宙事業「スペースX」へとつながっていきます。
イーロン・マスクは、行動を続けることで偶然を必然にしてしまったのです。
■38歳の大抜擢を引き寄せた「偶然の必然」
偶然の重要性は、イーロン・マスクのような著名人に限りません。
IT企業で38歳にして執行役員に抜擢(ばってき)され、社の未来を担う重要プロジェクトを任された人物がいます。彼は、「自分のキャリアはセレンディピティによるものだった」と振り返ります。
抜擢のきっかけは、別部門の部長の推薦でした。部長は、彼が部門の壁を越えて多くのメンバーを巻き込み、苦労しながらも事業を推進させていく様子を何度も見ていたため、「彼ならば」と推薦したのです。
しかし、一部長の推薦があれば抜擢されるわけではありません。一若手社員でしかなかった彼に重要プロジェクトを任せると会社が最終的に判断したのは、それまでの彼の積み重ね(実績)と、周囲の信頼を得ていたことが認められたからでした。
この例からもわかるように、突然やってくる「セレンディピティ」とは、単なる偶然のことではありません。日々の努力と信頼の積み重ねが生む「偶然の必然」なのです。
事実、IT企業の執行役員になった彼は、「セレンディピティ」を引き寄せるため、意識的に自らの行動量を増やし、他人との接触機会を積極的に作ることを心がけていたといいます。
オンラインセミナーへの参加、社内懇親会での積極的なコミュニケーションなど、主体的な行動を通じて周囲の人々との関わりを深めることで、新たな機会や情報を引き寄せたのです。
■29歳トップセールス女性の「成果の秘密」
いま見たエピソードは、「セレンディピティ」を自分自身のキャリア形成に活かすためには、日々の行動の質と量、そして他人との関わりを大切にするのが重要であることを私たちに教えてくれます。偶然を生み出す行動を自ら選び取るという意識的な行為であり、その結果として偶然が必然に変わる可能性が生まれるのです。
29歳で突如としてトップセールスに躍り出た女性社員は、まさにこの「セレンディピティ」をうまく使って成果を出していました。
彼女が所属する会社の社長が、趣味の釣り仲間の紹介で大型案件を持ってきました。社長自らが直接個々の案件をフォローすることは稀(まれ)で、たいていは営業担当役員に任されます。その役員は、さらなる成長を期待して若手社員を大切な商談に抜擢することがあります。
大切な商談とはいえリスクも伴います。しかし、抜擢される若手社員はそれまでに信頼を積み重ねてきた人物で、その信頼こそがセレンディピティを引き寄せる鍵となっていました。
問題は、誰に任せるか――でした。
■トラブル対応の苦しい日々をどう過ごすか
その女性社員は、20代後半にさしかかった当時、自社商品のトラブル対応に時間を費やす日々を送っていました。辛い仕事です。しかし、逃げることなく商品の品質不良の課題に真摯(しんし)に向き合い、開発部門と顧客の間に立って奔走(ほんそう)していました。
顧客だけを第一に考えるのではなく、リソース不足である開発部門の苦しい状況も理解し、両者と一緒に解決策を共創したのです。
トラブル対応中は営業活動の時間が限られ、自身の営業成績は低迷しました。しかし、品質問題の解決は他の顧客への売り上げ拡大につながると見込んだ彼女は、ひたむきに社内の各部署を巻き込むことに没頭したのです。
そうして1年半かけて品質問題を解決し、迷惑をかけた顧客以外にも説明に回り、想定以上の追加契約を獲得することができました。
■小さな信頼の積み重ねなしに「抜擢」はない
開発部門の課長は、彼女の「ひたむきさ」と「巻き込み力」をしっかり見ていました。そして、社長から託された大型案件の担当者を検討している営業担当役員に、彼女に対する感謝と称賛を伝えたのです。
女性社員の小さな信頼の積み重ねが、大型案件への抜擢という「セレンディピティ」を生むことになった瞬間でした。
彼女は、この大型案件をうまくクローズさせて、現在は最年少マネージャーとなり、将来の役員候補として教育プログラムを受けています。
「偶然」を「必然」に変えるためには、信頼の積み重ねが欠かせません。しかし、これは一朝一夕にできるものではありません。信頼とは時間とともに培(つちか)われるもので、それには一貫した行動と強い意識が必要となります。
■偶然を必然にする3つのアクション
「セレンディピティ」を引き寄せるための行動を3つ紹介します。
自身のスキルや能力については、常に向上心を持ち、新たな技術や知識を学び続けることが重要です。
自分のキャリアは自分で作り出すものであり、偶然に頼るのではなく、必然を引き寄せるために自分の行動が重要です。自発的に行動し、新たな経験を積むことで、新たな出会いやチャンスにつながります。
40代で活躍している各社の社員を分析すると、20代の頃は積極的に自身のスキルセットを広げ、多様な経験を積むことに重きを置いている人が多い傾向にありました。新たなスキルを身につけること、未経験の領域に足を踏み入れることにより、自身の可能性を広げ、自分だけのキャリアパスを切り拓く原動力としています。
そして30代になると、彼らはスキルの深化に焦点を当て、自分が得意とする分野で高度な専門知識を持ち始めます。これにより、彼らはほかの人が持つことのできない独自の価値を持ち、結果40代で突出した成果を出し続けるようです。
スキルセットを積極的に広げていくと、自分のやりたいこと・自分が得意なことが見えて、それをさらに深めていくことでキャリアを進化させていたのです。
■「成功」ではなく、「学び」を目的にする
人とのつながりは新たな知識や情報、チャンスを生み出す可能性があります。ですから、積極的に人とのつながりを作り、コミュニケーションを取ることが重要です。
チームメンバーや上司、さらには他部門の人々との良好な関係性を保つことも、信頼を築くうえで非常に重要です。自分は誠実で信頼できる存在だと周囲に示すことで、他者からの信頼を勝ち取ることができます。
また、プロジェクトに対する情熱を見せることも重要です。自分が参加するプロジェクトに全力で取り組む姿勢は、他のメンバーや上司によい印象を与え、自分への信頼を深めることにつながります。
こうした信頼があるからこそ、大きなチャンスが舞い込んでくるのです。
何か新しいことを始めるとき、「失敗」というリスクが伴います。しかし、その失敗を恐れて行動しないと、新たなチャンスや可能性を見つけ出すことはできません。
挑戦するとなると、成果か失敗かのいずれかで考えてしまうので、学びを得るための実験と捉えるとよいでしょう。
「こうやると失敗する」という経験をすることで、二度と同じ間違いをしなくなります。こうして失敗確率を下げていく戦略が、結果として成功に近づきます。
成功ではなく、「学び」を目的にすることで、失敗に対する恐れがなくなり、行動量が増えます。行動量が増えれば、経験量が増えて自身の視野が広がります。視野を広くして行動量を増やすことで、偶然ぶつかる幸運に出会いやすくなるのです。
■チャンスを見逃さない人の「小さな行動実験」
精密機器メーカーで、43歳で役員に昇格したある男性は、30代のときに「チャンスを見逃さない」働き方をしていたといいます。何気ない日常の出来事や会話から新たなアイデアや可能性を見つけるようにして、「小さな行動実験」を繰り返していたそうです。
製造工程で過剰に思えた品質チェックを10%減らしたところ、不良品の発生率は変わらないことに気づきました。というのは、実は20年前から調達していた部材自体の品質が向上していたために、組み立て工程でのチェックを減らしても問題なかったのです。
この結果、17工程のチェック体制を見直すことになり、高品質を維持したまま従業員の稼働時間を年間300時間も減らすことができました。
最初から300時間減らすことを目指していたら、ゴールが遠すぎてやる気が起きなかったでしょう。少しだけ実験してみて、よかったら進め、ダメだったら元に戻すというマインドで臨んだことで、結果的に学びを積み上げることができ、300時間の稼働時間削減につながったのです。
■「できること」を増やした結果、「やりたいこと」に出会う
自分自身の働き方を見つめ直すことで、自身のキャリアにおける「セレンディピティ」を引き寄せることができます。
成功した人々の共通点は「自分が主役のキャリアを、自分自身でコントロールしている感覚」を持っていることです。自分のキャリアは自分で握っているという意識があり、チャンスを自ら探し出し、自発的に行動を起こし、自分で成果を実感していました。
キャリアが空から降ってくることはありません。自分にできること、自分がしたいことに気づき、会社や社会への貢献を意識することがキャリアアップの第一歩です。
個人的には、「5年後に実現したいキャリア像」のようなものはなくていいと思っています。自分のできることを増やしていったら、たまたま「やりたいこと」に出会うことができるからです。
こうした偶然の出会いを必然にするために、さまざまな人に出会って積極的に話し掛け、小さな行動実験で学びを積み重ねていきましょう。この記事を読んで終わりではなく、どれか役立ちそうなものを1つだけでも実践してください。その実践によって「セレンディピティ」を引き寄せるのです。
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株式会社クロスリバー代表
元マイクロソフト役員。国内および外資系通信会社に勤務し、2005年に米マイクロソフト本社に入社。2017年にクロスリバーを設立し、メンバー全員が週休3日・完全リモートワーク・複業を実践、800社以上の働き方改革の実行支援やオンライン研修を提供。オンライン講座は約6万人が受講し、満足度は98%を超える。著書に『AI分析でわかったトップ5%リーダーの習慣』、『AI分析でわかったトップ5%社員の習慣』(共にディスカヴァー・トゥエンティワン)、近著に『29歳の教科書』(プレジデント社)がある。
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(株式会社クロスリバー代表 越川 慎司)
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