時流に乗って「俺も辞める」で人生暗転…年収1500万円50代元大手部長が転職活動2年で見つけた"仕事の時給"
プレジデントオンライン / 2023年10月26日 11時15分
■「みんな転職してるから、自分も辞める」が危ないワケ
人手不足もあって中高年の転職者が増加している。総務省統計局の2022年の転職者数は303万人となり、3年ぶりに増加に転じた。
年齢別では「25~34歳」が75万人と当然ながら多いが、「45~54歳」が54万人、「55~64歳」が45万人と、中高年層が全体の3分の1を占めている。
日本人材紹介事業協会の職業紹介会社大手3社の「2022年度下期(10~3月)転職紹介実績」でも、41歳以上は前年同期比125.6%と増加している。転職の増加は政府の転職による賃上げを目指す「三位一体の労働市場改革」にも合致している。
しかし、中高年の転職者が増えているといっても、20~30代に比べて転職のハードルはかなり高い。
ミドルシニアの転職支援を行っている人材コンサルタントはこう指摘する。
「35歳以上の求人が増えているといっても、転職市場の求職者は35歳以下が4割、35歳以上が6割を占める。その上、求人の8割が35歳以下を求め、35歳以上の求人は2割しかない。つまり、4割の若者に8割の求人があり、6割のミドルシニアに2割の求人しかない構造が続いてきた。多少増えて25~30%程度になったところで厳しいことに変わりはない」
しかも、高い競争率を乗り越え、転職できたとしても政府が狙う「賃上げ」に必ずしもつながるとは限らない。
厚生労働省の「雇用動向調査結果の概況」(2021年)によると、50~54歳の転職者の賃金は「増加した」が32.0%、「変わらない」が32.9%、「減少」が34.1%となっている。減少・変わらないという人が圧倒的に多い。55~59歳になると、「増加した」は20.5%とさらに少なくなる。
転職エージェントの登録者の場合はどうか。エン・ジャパンの『ミドルの転職』(2023年)の調査によると、50~54歳の転職者で年収が上がった人は48%、下がった人は44%と拮抗(きっこう)している。ところが、さらに上の世代である55~59歳になると、上がった人は25%、下がった人は65%。55歳を境に下がる人が増加している。
興味深いのは転職決定者の年収分布だ。
50~54歳で最も多いのは600万~799万円の33%、次いで400万~599万円の32%、800万~999万円が26%となっている。
55~59歳になると、600万~799万円の35%、次いで400万~599万円の33%と傾向は変わらないが、800万~999万円が16%とぐっと少なくなる。
厚労省の「賃金構造基本統計調査」(2022年)によると、50代の平均年間賃金は800万~900万円(男性・大学卒)。従業員1000人以上は900万~1000万円と、もともと年収が高い。転職によって800万円を超えるかどうかが転職の成否を握っている。
■元大手企業部長、年収1500万円→時給1000円
50代の転職で間違いなく問われるのはスキルだ。『ミドルの転職』の水河慎太郎営業マネージャーはこう語る。
「役職よりも何ができるかが問われる。年齢が高い人ほどスキルが求められ、50代を採用したい企業はやってほしいことが明確に決まっており、それを実現できる人かどうかがチェックされる」
求人企業は中小企業やベンチャーが多いとのことだが、企業が求めるスキルに合致する人は年収が上がるケースが多く、「逆にこれができます、というスキルが言えない人は基本的に下がる。大企業の課長・部長であっても、組織の関係性で役職に就いた人は相対的に年収が高いが、これができると、スキルを明確に言えない人も基本的に下がる」と語る。
また、スキルも「50代の転職で一番多いのが管理部門系。中でも経理での転職が多く、人事・法務部門出身の人は年収が上がるケースが多い」と言う。
ところで、そもそも50代になってリスクの高い転職をしようとするのはなぜか。人によってさまざまな事情はあるだろうが、ひとつは50代半ばに訪れる「役職定年」がきっかけだ。
![履歴書を記入する手元](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/9/1200wm/img_793f4216a565e5ba3b1fd78fb89c6bd9436113.jpg)
例えば不動産で経理業務を担当していた57歳の男性は同業種の不動産業に転職。年収700万円から900万円にアップした。『エン転職』の体験レポートで転職動機について「57歳で役職離脱になった。年収は役職離脱前の半分となり、マネジメント業務はなくなったものの組織横断的な業務は残ったため仕事内容はそれほど変わらない。年収は半分で部下もいないのはどういうことかという空虚感を味わったこと、もう一花咲かせたいと思った」と語る。
役職定年に加えて、事業リストラによる希望退職者募集がきっかけになった人もいる。流通・小売業で事業企画職にあった52歳の男性は、前職と同じ年収800万円で介護福祉系の施設長・事務長として転職した。
「前職では55歳での役職定年制度があり、未だ学齢期の子供を抱えながら、その適用を3年後に控えていました。そのタイミングでコロナ禍を受けた大幅な事業縮小に伴う希望退職者募集があり、異なる業種へのキャリアチェンジと安定した収入の確保を目指して転職を決意しました」
前職の人材コンサルタントは「この5年の間に会社の事業形態が時代に合わなくなってきている企業を中心に希望退職で辞める人、あるいはM&Aのあおりを受けて事業の整理で辞める、倒産で辞めざるを得ない会社都合で退職する50代が増えている」と語る。ただし高額の割増退職金をもらって辞めた人ほど、転職に失敗する人が少なくないという。こんな事例を紹介する。
「大企業の製造業で年収1500万円もらっていた50代の元部長は、最初に年収1000万円で雇ってくれるところを探したが、100社受けても落ち続けた。失業期間も1年を過ぎ、だんだん焦ってきて年収目標も800万、700万円に下げてもどこも拾ってくれない。500万円で雇ってくれるところはあったが、さすがに前職の3分の1ではプライドが許さず、探し回ったが見つからず、失業2年後に見つかったのは時給1000円の駐車場の警備員だった。そんな人は珍しくない」
■1社しか経験がなく、45歳以上だったら即不合格
中小企業で1000万円の年収を出すところは相当スキルレベルが高くないと難しい。実は前述の50代の転職決定年収では400万~599万円が30%超と多い。
その理由についてエン・ジャパンの水河マネージャーは「40代、50代が採用されている背景には人手不足がある。本当は30代を採りたいが、採れないので年収はそのままで40代、50代に広げている。その結果、年収400万~500万円で転職する人が多い」と語る。つまり、500万円でも御の字ということだ。
中小企業の中には大企業出身の中高年の求職者に厳しい目を向ける人もいる。中堅小売業の人事部長はこう厳しい現実を語る。
「これまで中途で何人も大企業出身の人を雇ったが、いずれも1年も続かずに辞めている。共通するのは、口は出すが、手を動かさないこと。大企業では45歳を過ぎると、ほぼ実務をやらない。部下の優秀な人材に任せておけばよく、自分は旗振りだけやっていればよかった人たちだ。同じ会社で30年も勤務した人はそうした体質が染みついている。だから当社では履歴書が送られてきても、1社しか経験がなく、45歳以上だったら即不合格にしている。大企業とうちとでは仕事のやり方が違うし、結局、雇っても本当に上手くやってくれるかどうかは宝くじに当たるようなものだ」
大企業に比べて中小企業は仕事や責任の範囲も広い。そして社員と協調するチームワークも必要だ。東海地区の製造業の中小企業の社長から「大企業出身の人に総務部長として来てもらったが、うちは役職に関係なく全員が定期的にトイレ掃除もすることになっている。ところがその人は『トイレ掃除だけは勘弁してくれ』と言ったので、辞めてもらった」という話も聞いたことがある。
![水辺を頭を抱えながら歩いている男性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/a/1200wm/img_8aea707e3aa2cbfcb36bfa9c6c014392309436.jpg)
転職するとは、仕事のスタイルや文化も変わることだ。エン・ジャパンの水河営業マネージャーは語る。
「50代は非常に厳しい転職活動が待っていることが前提となる。100社に応募しても1社しか受からないことはざらにあることをまず覚悟する必要がある。そして企業が見極めるポイントはスキルに加えて、変化への適応力。仕事のやり方は大手とベンチャーではスピードも全然違う。適応力を見極めるためによく質問されるのが学習習慣だ。これまで経験だけで何とかなるという変化を好まない人ではなく、新しいことをインプットし、それを業務にどう活かし、自ら変化を起こしてきたかという質問をする。変化に適応できるかどうかも重要なチェックポイントになっている」
50代の転職はこれまでの惰性でうまくいほど甘くはない。
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人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。
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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)
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