「他人の不幸でメシがうまい」は人間の本質である…SNS炎上で興奮してしまう人の"悲しい共通点"
プレジデントオンライン / 2023年10月28日 13時15分
※本稿は、中野信子『感情に振り回されないレッスン』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■「正しい人」のなかには、倫理観が欠如している人がいる
「敗者ではなく勝者になりたい」というのは、人間のごく自然な感情です。
そして、勝者になるためには、人よりも多くの富や名声を手にするといいという「勝ちパターン」も多くの人が知っています。
とはいえ、同時に「そのためであっても犯罪行為は行ってはいけない」というルールも同時に理解しているでしょう。
ところが……、世の中には勝ちパターンのルールは学ぶことができても、倫理や道徳に関するルールを学べない人がときどき存在するのです。
しかも、タチが悪いことに、彼ら彼女らは途中で「どうやら自分は特殊なタイプであり、そんな性質をあまり露わにしないほうがいいらしい」と気づきます。
そして、自分の本性を隠そうとして嘘をつくようになるのです。表面的には、あたかも倫理と道徳をとても大切にしているように振る舞うため、多くの人はコロリと騙されてしまいます。
あなたのまわりにいる、一見して「とても正しい人」をよく観察してみてください。もしかしたら、倫理観などがまったく欠如した「裏の顔」があるかもしれません。
■人は他人を叩いてよろこびを感じる
「他人を叩きたい」という欲望は人間の本質であり、時代を経てもほとんど変わることはありません。
こうした他人への妬みに付随して、相手に損害を与えて「よろこび」を感じる気持ちのことを「シャーデンフロイデ」といいます。
わかりやすくいうと、「他人の不幸でメシがうまい」という気持ちです。
■今後、SNS炎上がなくなるとは考えにくい
もちろん個々のレベルでは、自分の行動に意識的になることで、こうした愚行を防ぐことはできます。
しかし、人間はいまSNSのような、叩くための「標的」を見つけやすいツールを手にしています。また、誰かを叩くために、身勝手な拡大解釈やフェイクニュースを拡散するのも簡単に行うことができます。
![スマートフォン](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/3/1200wm/img_63e2615d5c693193b5bd854307383270395009.jpg)
そう考えると、見ず知らずの他人を攻撃するという傾向は、今後より加速すれど、小さくなるとは考えにくいのかもしれません。
象徴的な例として、トランプ前米大統領は、自分とは意見の異なる他者を徹底的に叩く欲望を抑えない人物でしたが、そんな人物が民主的に大統領に選ばれることが実際に起きました。
社会のなかで実際に起きるそうした現象に流されず、その本質を見極めるには、まず自分のなかにも、相手を攻撃し、その不幸によろこびを感じる性質があると自覚する必要があるのでしょう。
■「ふつうのおばちゃん」でも、男性を簡単に手玉に取れる
妻を亡くした高齢の男性に近づき、その資産をいつのまにか自分のものにしてしまう女性がいます。これは別に、若くてきれいな人の色仕掛けばかりとは限りません。むしろ、いわゆる「ふつうのおばちゃん」タイプにも多いのです。
ときに、殺人事件にまで発展することもある彼女たちの所業を、「後妻業」と呼びます。
それにしても、なぜそんな危ない女性に、男性はころっと騙されてしまうのか。そこにはわかりやすい理由があります。
まず、性行為の帰結として、女性の場合は、妊娠や出産という重い任務を背負うリスクがつねにあります。
だからこそ、女性は自分に言い寄ってくる男性を警戒します。
一方、男性の場合はそうしたリスクがなく、「いざとなったら逃げればいい」という気持ちがあるため、やってくる女性を受け入れやすいのです。
「いざとなったら逃げればいい」と油断している男性を見抜き、その裏をかいて近づくわけですから、やすやすと騙されてしまうのも当然。
高齢化社会が進む今後、ますます増える事象だと思われます。
■成功する経営者は身内から嫌われる
あるドイツの研究チームは、「社会的・経済的地位が高い人にはサイコパスが多い」という結論を導き出しています。
実際に、大企業のCEOや外科医、弁護士など、世の中から尊敬される立場にある職業にはサイコパスが多いことがわかっています。いったいなぜなのでしょうか?
それはおそらく、彼ら彼女らは仕事上の要請から、他人の意見に流されることなく大胆な判断を下す必要があるからだと考えられます。その際に、他人の状況を顧みない、身勝手なサイコパシー(※)傾向が役に立っているともいえます。
例えば、米アップル創業者のスティーブ・ジョブズは変わり者だったことでも有名で、「彼のような人の下では二度と働きたくない」と訴える元従業員がたくさんいました。しかし、外から見ている分には、ジョブズは優秀かつ独創的な起業家で、とても魅力的な人物といえます。
もちろん、成功する経営者がすべてそうだというわけではありません。しかし、大きな傾向だけを見てみると、身内にとって嫌なやつほど成功するともいえるのです。
※サイコパシー 精神病質。恒常的に病的な異常性格で、社会適応に困難があるもの。
■上から目線の説教をする相手は、「メタ認知」でかわす
会社の上司が、「俺って仕事できるから。この前のプロジェクトの成功は俺のおかげだから」などと、聞くのが苦痛になるような自慢ばかりをする。それどころか、「お前はマメじゃないからモテないだろ? 仕事と同じでどうプレゼンするのかが重要なんだよ」と上から目線で説教をしてくる……。
そんな自分と相手の気が合わない場合。
人が自慢や説教をするときには、脳からドーパミンが分泌されて快楽を感じています。これは中毒性があり、もっともっと……と求めてしまうため、自慢や説教をストレートに止めるのは少々やっかいです。
■振り回されていると感じるのは、相手を説得できないから
そんなときは、自分の思考や行為などを客観的に把握し、認知する「メタ認知」を試みれば、自分をしっかりと守ることができます。
①類型化することで客観的に相手の分析を試みる。
「この上司はすぐに『いまの若いやつは……』って嘆くけど、新しいことが嫌いなタイプなのかな?」などと分析してみる。
②相手の心理分析を試みる。
「険しい表情をしているけど、ストレスがたまっているんだろうな」などと内面を推測してみる。
①や②の方法によって話している内容から気をそらすことで、心理的な不安が減り気持ちが軽くなります。
![メンタルヘルスのコンセプト](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/9/1200wm/img_99befb0440ac4cb4be67b4be15b92604406268.jpg)
■他人に振り回されないための最初の一歩
なにかに「振り回されている」と感じても、案外自分の考えや答えは、はっきりしている場合があります。
「でも、その考えや答えを優先できない……」。そんなときに感じるジレンマが、まさに「振り回されている」という感情ではないでしょうか。
人間関係でいうと、「誰かに振り回されている」と思うのは、自分とは違う考えに従うことが納得できないからでしょう。
自分にはほかの考えがあるのに、それができない。選んだ答えに自信を持って「わたしはこうする!」と明確にいえない状態が、「誰かに振り回されている」という気持ちにつながるのだと思います。
そんな状況を打開するには、やはり自分の考えをきちんと整理し、「どうすれば相手を納得させられるのか」を考える必要があります。
![中野信子『感情に振り回されないレッスン』(プレジデント社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/7/1200wm/img_879a5dc5e6ed4dda87c0d6fffccba43f109892.jpg)
相手を説得できない説明能力の不足や、自信のなさ、口下手や経験不足……。そんな自分が、相手に「なめられてしまう」から、「あの人にいつも振り回される」などという不平不満につながってしまうのだと思います。
つまり、この場合は相手の意見に従うことが嫌だというよりも、相手を説得できない自分のことのほうを、嫌だと思っているのではないでしょうか。
そんな状態をなくしていくには、「自分はどんな答えを選びがちなのか?」「どんなことをされると振り回されていると感じるのか?」など、まずは「己を知る」ことが解決の一歩となるのです。
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脳科学者、医学博士、認知科学者
東日本国際大学特任教授。京都芸術大学客員教授。1975年、東京都生まれ。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。2008年から10年まで、フランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務。著書に『サイコパス』『不倫』、ヤマザキマリとの共著『パンデミックの文明論』(すべて文春新書)、『ペルソナ』、熊澤弘との共著『脳から見るミュージアム』(ともに講談社現代新書)、『脳の闇』(新潮新書)などがある。
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(脳科学者、医学博士、認知科学者 中野 信子)
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