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日本人は「日本のテレビドラマ」を過小評価している…この先も「VIVANT」以上の世界的ヒットは必ず出る

プレジデントオンライン / 2023年10月30日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yuzuru Gima

日本のテレビドラマは「海外作品に比べてつまらない」と言われることがある。コラムニストの木村隆志さんは「これだけ多岐にわたるジャンルで、しかも質の高いテレビドラマを制作できる国はない。そうした人は日本のテレビドラマを過小評価している」という――。

■なぜ日本人は日本のドラマを過小評価するのか

いまだ夏ドラマ『VIVANT』(TBS系)の余韻が残る中、秋ドラマが次々にスタートを切り、賛否の声があがっている。

あらためて『VIVANT』の放送時を簡単に振り返ると、主演級キャスト6人をそろえたほか、長期モンゴルロケ、予測不能なストーリーなどが称賛を集め、「日本のドラマもやればできるのではないか」「このレベルなら海外でも戦えそう」などの声が見られた。

2013年に『半沢直樹』(TBS系)や『あまちゃん』(NHK)がヒットしたあとの2010年代中盤から後半にかけてネット上には、「日本のドラマがつまらなくなった」「欧米や韓国のドラマに負けている」という声があがるようになっていた。さらに動画配信サービスの普及などもあって、「つまらない」「負けている」という前提で語る人が増えた感すらある。

そんな人たちが『VIVANT』を見て日本のドラマを見直すような声をあげていたのだろうが、これにはいくつかの誤解がある。過去から現在に至る日本のドラマをフラットな目線で見ていくと、「つまらない」のではなく「一時的につまらなくなっていた」、「海外で戦えない」のではなく「海外で戦うことを前提としないものが多い」ことに気づかされる。

他ならぬ日本人が日本のドラマを過小評価してしまうのはなぜなのか。ここでは誤解されがちな背景を紐解きつつ、その強みと今後の可能性をあげていきたい。

■「日本のドラマはつまらない」と言う人の誤解

まず国内外のドラマを問わず、前提として忘れてはいけないのは、「無料地上波のドラマと有料動画配信サービスのドラマを比べるのは無理がある」こと。

視聴者の人数、視聴者層の幅、ビジネスモデル、スポンサー対応、放送時間や表現の自由度などが大きく異なる両者の比較は、無料の地上波連ドラと有料の映画を比べるようなもので、それをもって勝敗や優劣をつけるのは強引だろう。

たとえば、有料の動画配信サービスは映画や舞台と同じように、「自らお金を払うことを選んだ作品だから集中して継続視聴する」というバイアスが入りやすい。無料で思い入れが少なく数分であっさり手放せる地上波の作品との比較はアンフェアではないか。

特に「日本のドラマはつまらない」「海外で戦えない」と言う人ほど、その理由に映像と物語のスケールを挙げがちであり、だからこそ『VIVANT』を見て「やればできる」「戦える」という声をあげた感があった。しかもそのスケール感こそNetflixなどの海外作品が売りにしているところであり、視覚やイメージに訴えかけて集客するという戦略だ。

■世界から評価されている日本の脚本家

しかし、国内外を問わずドラマには、家族、恋愛、友情、仕事、学園、歴史、ヒューマン、ミステリー、サスペンス、ファンタジー、アドベンチャー、クライムなどのさまざまなジャンルがあり、スケール以外の魅力を持つ作品が存在する。

たとえば、有料の動画配信サービスで韓国は日本の数倍~10倍、アメリカは数十倍~100倍ほど制作費をかけたドラマもあるが、その莫大な予算はすべてのジャンルで必要なものではない。

なかでも、心の機微を丁寧に描いた脚本は、日本のドラマが長きにわたって内外から評価されているところ。特別な設定や大きな出来事に頼らず、わかりやすい喜怒哀楽だけではなく、繊細な心理描写にフォーカスして感情移入をうながすスタイルで人々を魅了してきた。

そのスタイルを作り上げてきたのは主に脚本家であり、日本ドラマのベースを作ったのは、向田邦子、早坂暁、山田太一、倉本聰、市川森一ら昭和の名手と言っていいだろう。それを岡田惠和、大石静、野沢尚、坂元裕二、森下佳子らが引き継ぎ、さらに下の世代にも影響を与え続けている。

また、「1990年代から2000年代にかけて韓国をはじめとするアジアの作り手たちも、日本のドラマ、なかでも脚本を参考にしていた」ことも業界内ではそれなりに知られた話だ。加えて、海外のコンテンツ見本市などでも、アジア、ヨーロッパ、中東などの関係者から評価を受け続けてきた。

■2010年代の迷走

ただ、平成の時代が進むにつれて登場人物の心理描写はそこそこに、特別な設定や大きな出来事で視聴者にインパクトを与えるような作品が増えていった。さらに、『HERO』(フジテレビ系)や『ナースのお仕事』(フジテレビ系)のようなシンプルな一話完結の職業ドラマが増え、時間をかけて登場人物の心理を描く作品が減ったことも大きな変化と言っていいだろう。

その背景には、常に世帯視聴率との戦いがあった。録画機器の発達やネットの普及が進んだ2000年代後半から2010年代にかけて世帯視聴率が下がり、それを止めるべくテコ入れされたのが、「クールごとに新作が必要で制作費がかかる」「いい作品ほど録画されて視聴率が得られにくい」ドラマ。各局はジワジワとドラマ枠そのものを減らしていった。

実際、視聴率レースでトップを走る日本テレビは、「ゴールデン帯はバラエティのみ」という編成を選択。さらに、中高年層から手堅く世帯視聴率を得られる刑事・医療・法律のシンプルな一話完結モノが約半数近くに迫るなど、ドラマの武器であった多様性が失われて「つまらない」と言われる理由の1つとなった。

これら2010年代の迷走は、時代に合わない世帯視聴率という指標の弊害が表面化したものであり、テレビ業界の自業自得とも言っていいだろう。テレビ業界は、目先の数字ほしさに本来持っていたドラマの制作力を自ら放棄するような状態を続けていた。

しかし2020年春の視聴率調査リニューアルをきっかけに迷走は終わり、加えて配信再生数なども評価指標に入りはじめたことで、一気に視界が開けていく。

■むしろ稼ぎ頭になっている

2010年代には世帯視聴率を獲る上で厄介者扱いをされていたドラマは、今やTVerの月間再生数だけで数億回まで上昇するなど、一躍今後のテレビ業界を救う最重要コンテンツに浮上。有料会員獲得や海外配信などの収入も含め、ここ2年で各局が「配信でも稼ぐ」ことを前提にドラマの放送枠を増やしている。

ドラマの作品数が増えた結果、多様性が復活。実際、放送中の秋ドラマには、トリプル主演の月9ドラマ『ONE DAY』(フジテレビ系)、6シリーズ目でゴールデン進出を果たした『家政夫のミタゾノ』(テレビ朝日系)、諸葛孔明が現代日本に転生した『パリピ孔明』(フジテレビ系)、小池栄子が民放プライム初主演を果たすホームコメディ『コタツがない家』(日本テレビ系)、『silent』のスタッフが手がけるクアトロ主演の『いちばんすきな花』(フジテレビ系)、高校野球がテーマのヒューマンエンタメ作『下剋上球児』(TBS系)など、多彩なジャンルの作品がそろっている。

同様に1クール前の夏ドラマも、長編ミステリー、恋愛群像劇、シスターフッド、離島ヒューマン、マネーゲーム、学園ファンタジーなどの多彩なジャンルがラインナップされた。

このような「各局がさまざまな企画をぶつけて勝負する」という健全な環境を取り戻せたからこそ、『VIVANT』のようなジャンルすらわからない規格外の作品が生まれたのではないか。

日曜劇場『VIVANT』の公式サイト
画像=日曜劇場『VIVANT』の公式サイトより

■海外との戦いで不安なキャスティング

そしてもう1つ、「日本のドラマはつまらない」「海外で戦えない」と過小評価する人々の理由として挙げられがちだったのがキャスティング。現在問題視されているジャニーズ事務所をはじめ、大手芸能事務所のアイドル俳優が重要なポジションを担う「実力より人気優先」のキャスティングに課題があったことは間違いないだろう。

また、熱心な海外ドラマの視聴者からは、俳優全体の演技レベルを疑問視する声すらあがることがあった。確かに俳優の育成・競争における環境面で日本が欧米や韓国に勝っているとは言い難いところがあるかもしれない。

しかし、これまで日本の俳優は「未熟な俳優もいる」「早い段階から主演に据えてしまう」ことが悪目立ちして正当な評価を受けづらい感があった。だからこそ2020年代に入ってアイドル俳優の起用が減りはじめ、ジャニーズ事務所の問題でそれに拍車がかかりそうなだけに、今後はこの点も期待できるのではないか。

そして2010年代の迷走期は、日本ドラマ業界の武器である「脚本家が軒並み高齢化した」という背景もあった。各局が若手脚本家の発掘・育成に力を注いできたのは1987年から『ヤングシナリオ大賞』を続けたフジテレビのみと言っていいだろう。これを他局が軽視したことで高齢化が進み、2010年代の迷走を招いた理由の1つとなった。

■各局が脚本家の育成を始めた狙い

しかし今年、日本テレビが『日テレ シナリオライターコンテスト』、TBSが『TBS NEXT WRITERS CHALLENGE』(同9月1日~30日)を新設。また、フジテレビに次ぐシナリオコンクールの歴史を持つものの、実績で大きく劣っていた『テレビ朝日 新人シナリオ大賞』も昨年の大賞受賞者を夏ドラマに即起用するなど、巻き返しの意欲を見せている。

つまりこれは「脚本家の発掘・育成に各局が本気で取り組みはじめた」ということ。「古くから日本ドラマ業界の強みだった脚本に再び力を入れて、オリジナル作品を量産していこう」という姿勢であり、デビュー作で『silent』を成功させた生方美久(うぶかた・みく)のような若きスター脚本家の誕生が期待できそうだ。

ただ、今後は「1人の脚本家に任せる」という形だけではなく、海外では一般的なチームライティング(共同執筆)の必要性に迫られるのではないか。コンセプト作りが得意な脚本家、セリフがうまい脚本家、キャラクター作りがうまい脚本家、伏線を仕込むのがうまい脚本家など、それぞれの強みを生かすことで、クオリティが上がり、書ける本数が増えていくだろう。

実際、『VIVANT』はそれに近い形がみられたこともあり、増えそうなムードが漂っている。

■注目すべき『VIVANT』のマネタイズ

最後に話を『VIVANT』に戻すと、今後のドラマ業界に重要なヒントを与えるようなマネタイズの試みが見られた。

まず配信再生数を増やすために徹底して情報を伏せ、タイトル、テーマ、ストーリーなどを明かさなかったこと。結果的にそれはTVerの無料配信だけでなく、系列の動画配信サービス『U-NEXT』の有料会員数を増やすことにつながった。さらに放送終了後も国内外での配信収入が期待できるはずだ。

放送中の物販もこれまでにないほど活発で、毎週さまざまなデザインのTシャツ、公式キャラクター「ヴィヴァンちゃん」や別班饅頭などのオリジナルグッズを販売。それ以外でも、ノベライズの上下巻、コンビニ「NewDays」とコラボした赤飯おこわなど、多面的な商品展開が見られた。

イベントにも力を入れ、入場と配信での両方でチケットが売れるファンミーティングを開催したほか、放送後にはJTBとコラボしたロケ地ツアーを企画。それ以外でも、第9話の前に『緊急生放送150分SP』を仕掛けて、日曜ゴールデンタイムの視聴率獲得にも貢献した。

今後も待望されるシリーズ化や映画化、スピンオフの放送・配信などで稼ぐことが期待されている。『VIVANT』は、「ほぼ視聴率ベースの放送収入のみに頼ってきた」という危ういビジネスモデルからの脱却を提示した。このような試みが各局で進めば、制作費アップが期待できるだけに、日本ドラマの可能性は広がっていくだろう。

■話題の中心になり続けるドラマ

時に『VIVANT』のような多額の制作費を投じた大作があれば、逆に低予算ながら日本のドラマらしい心の機微を描く繊細な物語もある。日本のドラマは、そんな大小、硬軟織り交ぜたラインナップで、嗜好の細分化が進む現代人のニーズに応えていくのではないか。

少なくともそれがうまくいけば、海外作品とのアンフェアな比較による批判は解消されるだろう。「放送時間や回数などの自由度が低い」「演出家の技術にバラつきがある」など、他の問題点もあるが、これらは徐々に改善していけばよいものに見える。

そもそも季節ごとに40~50作が放送される地上波のドラマは、2010年代の迷走期ですらネット上でトップクラスの記事数やコメント数をキープしていた。常にTVerのランキング上位をドラマが独占していることなども含め、話題の中心となり続けてきたことが分かるだろう。

一方、欧米や韓国の作品が話題の中心となったのは、2000年代前半の『冬のソナタ』くらいで、しかもNHKやTBS系などで放送されたからであり、やはり国内外のドラマを比べることの強引さを感じさせられる。

だからこそ制作環境が適正化に向かいつつある今、避けたいのは、欧米や韓国の作品を意識しすぎて、日本ドラマの魅力を損なうこと。日本のドラマを過小評価するネット上の声に惑わされず、自信を持って作り続けていけば、そう遠くないうちに世界なヒット作が生まれそうなムードが漂いはじめている。

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木村 隆志(きむら・たかし)
コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者
テレビ、エンタメ、時事、人間関係を専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、2万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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(コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者 木村 隆志)

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