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若者の3割が「韓国人でいるのが嫌だ」と嘆く…高学歴でも報われず離婚率も高い"超ストレス社会"の末路

プレジデントオンライン / 2023年10月31日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/NatanaelGinting

韓国の大手新聞社の調査によると、若者の10人に3人が「韓国人でいるのが嫌だ」と考えている。東京国際大学の呉善花教授は「韓国社会は競争が厳しく、名門大学に入学できても3人に1人は就職に失敗している。大企業で働けても労働時間は長く、平均49.4歳で退職を迫られるため再就職にも苦労する。そうしたストレスに若者たちは苦しんでいる」という――。

※本稿は、呉善花『韓流映画・ドラマに見える下剋上の韓国』(ビジネス社)の一部を再編集したものです。

■若者の10人に3人が韓国人をやめたがっている

2023年5月、韓国のある新聞社が衝撃的な調査結果を発表しました。

10~20代の韓国人の10人に3人が、「韓国人でいるのが嫌だ」と答えたというのです。なぜ若者は韓国での暮らしに拒否反応を示すのでしょうか。それは、韓国が強烈な「ストレス社会」であり、その状況に苦しんでいるからです。

ストレスの原因の一つに、韓国社会の競争の厳しさが挙げられます。韓国は世界でも有数の学歴社会で、大学進学率は約7割に達しています(*1)。中でも、ソウル大学校・高麗(コリョ)大学校・延世(ヨンセ)大学校という3つの名門校(頭文字を取って「SKY(スカイ)」と呼ばれます)を卒業した人と、そうでない人の間には天と地ほどの格差が存在しています。そのため、子どもたちは小さな頃から塾に通わされ、スパルタ教育を受けることになります。

1日に塾を2~3カ所ハシゴする子どもも珍しくなく、彼らは夜遅くまで必死に勉強を続けます。子どもたちはもちろん大変ですが、高額な塾の費用を捻出し、日々車での送り迎えを余儀なくされる親の負担も並大抵のことではありません。

名門大学に入ったところで全く安心はできません。この5年ほど、韓国における大学卒業者の就職率は60~65%の間で推移しており、3人に1人は就職できない状況です(*2)。それはSKYの卒業生も同様で、彼らでさえ6割後半から7割前半の就職率にとどまっているのです。厚生労働省調査による令和4年度の日本の大学卒業者の就職率が97.3%であるのと比べると、他にいろいろな要因があるにせよ、韓国の就職状況がいかに厳しいのか、おわかりいただけるでしょう。

(*1)ジェトロ:2022年の合計特殊出生率0.78の背景(韓国) 2023年5月15日
(*2)ASIA to JAPAN:韓国の就職活動は厳しい?~韓国人学生と日本人学生の就活事情の違い 2023年1月6日

■いっこうに終わらない熾烈な競争

運良く大企業に就職できてからも、さらに競争は続きます。

韓国労働者の年間労働時間はOECD加盟国の中でもトップクラスで長く、また出世争いともなれば相当に厳しいものがあります。その上、韓国の企業では平均49.4歳で退職を迫られるといわれています。韓国の年金制度はまだまだ十分ではないため、若くして会社から追い出された人たちは、再就職するか起業するかしてさらに稼ぎ続けることが求められ、またもや熾烈(しれつ)な争いに巻き込まれていくのです。

いっこうに終わらない競争を強いられ続けた結果、心を病む人は顕著に増えてきています。ある調査によると、韓国人サラリーマンの90%以上が、怒りやストレスを溜めこんでおり、そのうちの多くが韓国人特有の精神疾患「火病(ファッピョン)」にかかったことがある(*3)と報告されました。特に新型コロナウイルスの感染拡大以降は、精神疾患を抱える人が急増しています。

ストレスの原因は、競争社会以外にもたくさんあります。女性の場合、男女差別も生きづらさの一因になっています。韓国は今も儒教の影響が根強く残っているため、職場には男性の方が早く昇進して給与額も高く、たとえ能力が高くても女性は待遇が悪くて当たり前という風潮があります。

(*3)J-CAST ニュース:韓国人サラリーマン、90%が「精神疾患」 原因は職場のストレス、日本は大丈夫なのか 2015年1月29日

勉強する女性の手元
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

■韓国人の生活を大きく変えた「IMF経済危機」

世界経済フォーラムが毎年発表している「ジェンダー・ギャップ指数」によると、2023年の韓国の順位は、調査対象146カ国中105位(*4)。2022年のデータですが、男女格差が最も大きいのは「経済的機会」の分野で、特に男女の管理職の比率と所得格差では、調査対象国で最低レベルでした(*5)。家庭の中にも男女格差は強く生き残っており、家長の父親が最も偉く、娘の立場は一番低いとされています。また結婚後も、夫が妻に暴力を振るうケースが後を絶ちません。女性たちはこうした状況に対し、強い不満を感じているのです。

韓国人のストレスについてお話しする前に、韓国人の生活に大きな転機・変化をもたらした、「IMF経済危機」について触れておきます。1997年に起きたこの経済危機は、アジア全域に広がりました。

その影響は、日本にも及び、この年、北海道で唯一の都市銀行だった北海道拓殖銀行と、大手証券会社の山一證券が相次いで経営破綻しました。都市銀行や大手証券会社が破綻することは、当時の日本人にとってまさに想定外でした。その衝撃を覚えている人は、今でも少なくないはずです。

ただし、この経済危機は日本社会を変えるほどではなく、このとき受けた傷は比較的小さかったと思います。少なくとも、その後見舞われた東日本大震災に比べれば、社会的影響は大きくはありませんでした。一方、韓国側の影響はきわめて深刻だったのです。

(*4)朝日新聞デジタル・SDGs ACTION!:【ジェンダーギャップ指数】日本、2023年は世界125位で過去最低 政治・経済改善せず 2023年6月21日
(*5)hankyoreh Japan:依然として深刻な韓国の「男女格差」…男女の所得格差「世界最下位圏」 2022年7月14日

■多くの人たちがリストラで職を失った

きっかけは、1997年から始まったアジア全体の通貨危機でした。

まずはタイで通貨バーツの暴落が起きました。そこから金融市場の混乱が始まり、影響はインドネシア、マレーシア、フィリピンなどに波及していきました。そして同年10月には、さまざまな格付け会社が韓国の信用格付けを下方修正し、株式市場は大暴落しました。韓国政府は金融市場の安定化を図りさまざまな策を講じたのですが、ついに支えられなくなり、IMFに支援を要請することになったのです。

IMFは韓国を支援する際に、いくつかの条件を突きつけました。そのなかには、社員を解雇しやすくする、公的企業を民営化する、公務員や金融機関の従業員をリストラするなどの項目が入っていました。これにより多くの人々が職を失い、路頭に迷ってしまったのです。

公園のベンチに座り頭を抱えている男性
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

韓国でベストセラーになり日本でも話題になった『82年生まれ、キム・ジヨン』の主人公キム・ジヨンの父親もその流れに巻き込まれ、ジヨンや姉は進路の変更を迫られます。IMF経済危機とそれに伴うIMFの介入は、韓国にとってまさに「敗戦」に匹敵するものでした。経済は大失速し、人々のプライドも大いに傷つきました。そして、男性が次々とリストラされたことで、女性たちは仕事をせざるを得なくなりました。

それまでの韓国では、結婚後の女性は家庭に入り専業主婦になるのが理想とされていましたが、それ以降は女性も働くのが当たり前の世の中になったのです。これは韓国社会において、実に大きな変化でした。

■経済危機は女性にとってはチャンスでもあった

小説では、ジヨンの父が仕事を退職した後、退職金を元手に事業を興したことが描かれています。

父が最初にやろうとしたのは、中国との間で行われる貿易業務に投資することでした。ところが、ジヨンの母はこれに大反対します。父は結局、当時大はやりだった鶏肉と野菜などを甘辛く煮込んだ料理「チムタク」の店を開きますが、大した利益はでないまま閉店。続いてフライドチキン店やフランチャイズのパン屋を開くも、どちらも失敗に終わりました。

一方、母には商才があったようで、不動産投資で利益を出したり、フランチャイズのおかゆ店を開いて売り上げを伸ばしたりしました。その結果、母の収入はかつての父の収入を大きく上回るようになり、店の近くにあるマンションを買えるほどになったのです。

IMF経済危機は韓国人にとって、本当に厳しい出来事でした。しかし、社会が大きく変化する中で上昇気流に乗れた人もいたのです。特に、それまで虐げられていた女性にとっては、解放への絶好の機会となりました。ジヨンの母は、そのチャンスをつかんだ一人だったのでしょう。

■働き口を求める女性の受け皿になった「ノレバン」

ジヨンは1982年生まれですから、IMF経済危機のときには15歳でした。そういう多感な時期に、母が起業家としてビジネスをして成果をだしている姿を見ていたわけです。当然、「女性でも努力と能力があれば、男性と同じように仕事をしていける」と感じたことでしょう。それだけに、就職後にあからさまな女性差別を受けて昇進が遅れていたジヨンには、大きな不満があったはずです。

また、ジヨンが出産して専業主婦になった後、もう一度社会に戻りたいと考えたときに、子どもを預けられるベビーシッターが見つからず断念せざるを得ませんでした。これも、女性の自己実現を阻む韓国社会への歯がゆさを感じさせたはずです。女性がこの映画を熱烈に支持した理由には、こうした「女性ならではの生きづらさ」に対する共感があったことは言うまでもありません。

男が職を失ったことで、働き口を求める女性は増えました。ただ、韓国経済が大きく落ち込む中、女性が職を得るのは簡単ではありませんでした。そこで彼女たちの受け皿になって大きな役割を果たしたのが「ノレバン」でした。

これは、「歌(ノレ)」と「部屋(バン)」が組み合わされた言葉で、要するにカラオケ部屋のような店です。従来のノレバンはカラオケがメインのサービスでした。ところが1997年以降は、働き口を求める女性たちを接待役にした店が増えました。

スナックやバーで働く女性には、若さが求められます。しかしノレバンのような店なら、ある程度年齢のいった女性でも接待役が務まるのです。それでノレバンは、かつて専業主婦だった女性の貴重な仕事場になったわけです。

ネオンが輝く韓国・ソウルの街
写真=iStock.com/fotoVoyager
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fotoVoyager

■ノレバンは浮気の温床になっていった

ノレバンは、女性の意識を変える場にもなりました。それまでの女性は家庭にしばられ、外の世界を知らないまま生きていました。ところが、毎日着飾ってノレバンで働くうちに、世の中には夫以外にも素敵な男性がたくさんいると知るのです。

また、韓国の男性は見栄っ張りで外面がよく、彼女らの前ではお金持ちのふりをするので、世間知らずだった元専業主婦の女性は、この男性と一緒にいれば、今の夫と過ごすよりいい生活ができるのではないかと夢を見てしまうのです。その結果、IMF経済危機以降の韓国では、女性が浮気をする「浮気大国」になりました。

世界が広がった女性たちは、「今までの自分はなぜ、家庭のために犠牲になっていたのだろうか。夫や子どものために尽くすのではなく、自分のために生きる方がいいのではないか」と思いはじめ、すべてを捨てて男と一緒に逃げてしまったという話がたくさんありました。

■離婚率は高いが「離婚した女性」への視線は厳しい

日本では徐々に離婚率が高まっており、今では3組に1組の夫婦が離婚するとも言われています。それでも、日本はまだマシで、韓国での離婚率は今や50%近くと言われています。IMF前は、離婚というのは芸能人か特別な人がするものでしたが、現在の韓国ではごく普通の出来事になっているのです。

呉善花『韓流映画・ドラマに見える下剋上の韓国』(ビジネス社)
呉善花『韓流映画・ドラマに見える下剋上の韓国』(ビジネス社)

IMF経済危機によって働く女性が増え、それが離婚率の急増をもたらしました。ただ、離婚することが普通になったとはいえ、離婚女性に対する偏見が消えたわけではありません。韓国には今も、離婚女性に冷たい風潮があります。特に、離婚女性に対する男性からの視線は、依然として厳しいと言えます。

プロ野球選手のチョ・ソンミン(趙成珉)さんと人気女優のチェ・ジンシル(崔真実)さんのケースは、その典型でした。チョ・ソンミンさんは、アマチュア時代から高い実力を発揮していたピッチャーでした。1995年には日本のプロ野球界入りし、読売ジャイアンツで活躍しました。2000年には、チェ・ジンシルさんと結婚しましたが結婚前から右肘を故障し、期待されたほどの成績は残せませんでした。そして2002年、記者会見を開いてチェ・ジンシルさんと離婚したいと発表しました。

離婚の理由に関しては、明らかになってはいませんが、チョ・ソンミンさんはチェ・ジンシルさんに対する暴力容疑で逮捕されてもいます。また、チェ・ジンシルさんの親族に借りたお金が返せず、裁判沙汰になったとも報道されました。それらの情報を総合すると、非はチョ・ソンミンさん側にありそうです。

■離婚後、心のバランスを崩してしまい…

そうした事情があって、チェ・ジンシルさんは2003年、離婚調停を申し立てました。それから苦労の末、2人の子どもに対する親権と養育権を獲得しています。不利な条件を受け入れようやく離婚できたチェ・ジンシルさんに世間は冷たく、知人俳優との金銭トラブルに関するネットの悪質な書き込み等でもさらに苦しみました(*6)

韓国社会は、離婚した女性に厳しい目を向けがちなのです。チェ・ジンシルさんは離婚後、心のバランスを崩してしまったと言います。そして2008年10月、彼女は自殺してしまいました。当時は、うつ病になって精神安定剤を服用していたとも報道されています。彼女を自殺に追い込んだ原因は、私にはわかりません。

ただ、その一つは離婚女性に対する冷たい仕打ちではなかったかと思えてなりません。

(*6)J-CAST ニュース:チェ・ジンシル「ネット中傷自殺」が契機 韓国で「サイバー侮辱罪」導入 2008年10月6日 

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呉 善花(お・そんふぁ)
東京国際大学 国際関係学部教授
韓国・済州島生まれ。1983年に来日、大東文化大学(英語学専攻)の留学生となる。その後、東京外国語大学大学院修士課程(北米地域研究)を修了。その後、拓殖大学教授を経て、現職。評論家としても活躍中。1998年に日本国籍取得済み。主な著書に、『攘夷の韓国・開国の日本』(文藝春秋、第5回山本七平賞受賞)、『スカートの風』(三交社・角川文庫)、『韓国を蝕む儒教の怨念』(小学館新書)、『韓国「反日民族主義」の奈落』(文春新書)、『日本にしかない「商いの心」の謎を解く』(PHP新書)、『反目する日本人と韓国人』『謙虚で美しい日本語のヒミツ』『韓流映画・ドラマに見える下剋上の韓国』(以上、ビジネス社)など多数。2021年から「呉善花チャンネル」を開設、「相反する日韓学」を配信中。

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(東京国際大学 国際関係学部教授 呉 善花)

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