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ガチャガチャを「大人の女性」に回してもらうにはどうすればいいか…専門店の社長が壊した"業界の常識"とは

プレジデントオンライン / 2023年11月1日 9時15分

ガチャガチャの森店内 - 撮影=櫻井文也

カプセルトイ(ガチャガチャ)の市場規模が拡大を続けている。この10年で市場規模は270億円(2012年度)から610億円(2022年度)と2倍以上になった。背景にあるのが、成人女性という新しい顧客の急増だ。どのようにして女性の心をつかんだのか。日本ガチャガチャ協会代表理事の小野尾勝彦さんが、専門店「ガチャガチャの森」の運営会社の長友伸二社長に聞いた――。

※本稿は、小野尾勝彦『ガチャガチャの経済学』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■同業他社と差別化が図れず「民事再生」

――最初に「ガチャガチャの森」をつくられた経緯について、お話しいただけるでしょうか。

【長友】当社は1958年の創業で、当初は喫茶店やデパートの食堂などに置かれていた自動おみくじ機を扱っていました。その後、アミューズメント事業とカプセルトイ事業に参入していきましたが、リーマン・ショックの煽りを受けて2009年に民事再生手続きの申し立てを行うことになりました。

再生計画をつくるうえで、ガチャガチャのビジネスモデルは基本的に「軒先商売」で、機械の設置場所を借りて歩率何%を払うというものでしたので、同業他社との差別化が難しいという問題がありました。売り場を増やせば売上は伸びるものの、同時にコストも嵩みます。結局はキャッシュが残らないという壁にぶち当たってしまいました。もう一度戦略を見直そうと思ったのが2014年のことです。

――そのとき、現在の「大人の女性も楽しめる専門店」という着想を得られたのですか。

【長友】2012年から「コップのフチ子」が大ブレークしていて、お客様の中に「大人女子」が結構来られていることはつかんでいました。ならば、マニアや子ども相手ではなく、大人の女性が落ち着いてガチャガチャを楽しめる場所を展開してみようという考えに行き着いたのです。それが2017年に第1号店がオープンした「ガチャガチャの森」です。

長友社長
撮影=櫻井文也
長友社長 - 撮影=櫻井文也

■大人の女性が回しても恥ずかしくないように

――「ガチャガチャ専門店」というまったく異なる新たなコンセプトのお店を出店するにあたって、どんなことに気を配られたのでしょうか。

【長友】従来型の店でガチャガチャを回している女性を見ていると、お店の表側からは見えにくい、裏側の機械で買われているんですね。ならば内装を明るくおしゃれにして、敷居を低くしてあげることで大人がガチャガチャを回していても恥ずかしくないという雰囲気をつくってみようと考えました。

そして、内装のデザインや商品の陳列の仕方などを試行錯誤しながら少しずつ変えていきました。また、カプセルの中身を見せるためのディスプレイも設置しています。従来のガチャガチャ売り場では考えられないことですが、自分たちを小売業であると考えたら当たり前の発想です。

■「大人の女性」を取り込み売上は倍に

――お店の売上はどのように変わっていったのでしょうか。

【長友】最初に出したお店は、1年目は200万~300万円程度でしたが、2年目3年目になると大人の女性が完全にメインのお客様となったので、倍ぐらいの売上を出すようになりました。以前のガチャガチャの売り場のコンセプトではメインのお客様は子どもですから、実際に使われるのは親御さんのお金であり、「○○ちゃん、今日は2個までよ」という制限がかかるわけです。

しかし、大人の女性が大人買いをすることによって支出の制限がなくなり、客単価が確実に上がっていきました。たとえば、あるシリーズをコンプリートしたい場合、300円の商品で5種類あったら売上は1500円で終わるかというと、当然ダブりがありますから2000円ぐらいは平気で使うお客様が増えてきました。

ガチャガチャの森外観
撮影=櫻井文也
ガチャガチャの森外観 - 撮影=櫻井文也

■従業員を常駐させ不信感を払拭

――「ガチャガチャの森」は各店舗に必ず接客スタッフがいることも画期的だと思います。

【長友】かつてのガチャガチャには「まがい物じゃないの」「変なものが出るんじゃないの」みたいな不安がどうしてもつきまとっていたので、それを払拭するために接客スタッフを置きました。商品に対するお問い合わせに対して、商品説明がきちんとできるスタッフがいる環境を維持することで安心感につながり、ますます大人のお客様がガチャガチャに新しい楽しみを覚えてくれるようになったと思います。

――店舗スタッフの教育はどのようにされているのでしょうか。

【長友】トレーニング専門部隊がいて、トレーナーが約1カ月、付きっ切りで接客の指導をしています。今回新しく、アパレル業界で20年近く働いて現在は接客のトレーニングをしている専門家を入れて、接客の見直しをかけています。

――そこまで徹底されるのはなぜでしょうか。

【長友】私が社員に常日頃言っているのは、「我々は物売りではない」ということです。世の中がモノ消費からコト消費に変わってきているなかで、我々はコト消費、つまりお客様に「ワクワク」「ドキドキ」を売っているんだと言っています。機械にコインを入れてハンドルを回すという行為はまさしくコト消費です。

また、ガチャガチャの場合、基本的に初期ロットしかつくられないので、一度売り切れたら次はもう買えないという一期一会の世界観があり、「トキ消費」とか「エモ消費」というキーワードでも語ることができます。

■「どの店に商品がいくつあるか」を伝えることで差別化

――「ガチャガチャの森」が先鞭(せんべん)をつけた形で、追随する他の専門店の出店がすごく増えています。まさに戦国時代ですが、御社として差別化はどんな形で考えられていますか。

【長友】我々は今POS(販売時点情報管理)システムを全店の全台に展開しています。「何が、いつ、どこで売れたか」というデータをリアルタイムで取れるようにしました。店の立地が違えば売れ筋も変わりますので、各店の売れ筋の数量をデイリーに把握して今後の発注に結びつけて、品切れを起こすなどのチャンスロスをつぶすようにしたいと考えています。

ガチャガチャの森店内
撮影=櫻井文也
ガチャガチャの森店内 - 撮影=櫻井文也

それから、「どこのお店に、どの商品が、今何個ある」という情報が取れるので、「ガチャガチャの森」のアプリをつくって、お客様に情報提供できるのではないかと考えています。これらは他社ではまだ提供できていない、当社ならではの差別化です。

それから2024年春までに新しい物流センターを開くのですが、完全に自動仕分けで相当な物量を土日も出荷できる体制を構築することで、売り場のチャンスロスをつぶしていき、売上の向上とお客様へのサービス向上につなげたいです。

■どんなに完成したビジネスでも発想の転換次第で変わる

――御社はガチャガチャという、一見固定化されたように見える業界に新風を吹き込みました。ガチャガチャ業界以外の業界に対して、何か提言のようなものはあるでしょうか。

小野尾勝彦『ガチャガチャの経済学』(プレジデント社)
小野尾勝彦『ガチャガチャの経済学』(プレジデント社)

【長友】固定観念から脱却することの大切さですね。たとえば、民事再生した際に従来型のアミューズメント施設をかなりリストラしたのですが、その中で出てきたのが「ニコニコ・ガーデン」という新業態です。あれには単なる子どもの室内遊び場ではなく、「お母さんに優しい休憩場、ママ友づくりの場」という裏コンセプトがあるんです。

低料金でお子さんを連れて遊びに来られるわけですが、お子さんたちが走り回っている横で、テーブルに座っているお母さん方には飲み物を無料で提供して、持ち込みも可にしています。アミューズメント施設としての売上自体は大したことはないのですが、ゲームセンターを併設しているので、帰りにUFOキャッチャーで何百円か落としてくれたらそれで十分というビジネスモデルがうまく成り立ちました。

どんなに完成したビジネスでも、発想の転換次第で変わるということはあらゆる業界に共通することではないでしょうか。

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小野尾 勝彦(おのお・かつひこ)
一般社団法人日本ガチャガチャ協会 代表理事/築地ファクトリー 代表取締役
千葉県船橋市出身。日本のガチャガチャ元年である1965年生まれ。大学卒業後、プラスチック原料の商社勤務を経て、1994年ガチャガチャメーカーの株式会社ユージン(現・株式会社タカラトミーアーツ)に入社し、数多くの商品の企画や開発を手がける。2019年に独立し、現在はガチャガチャビジネスのコンサルティングや商品企画などを行う。現在に至るまで約30年間にわたってガチャガチャビジネスに携わり、業界の歴史やビジネス事情に精通した数少ないガチャガチャビジネスの伝道師として、メディア出演やインタビュー、講演など多方面で活躍中。

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(一般社団法人日本ガチャガチャ協会 代表理事/築地ファクトリー 代表取締役 小野尾 勝彦)

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