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プーチンは習近平を「世界のリーダー」と絶賛したが…中国にも見放されるロシア外交の深刻な孤立ぶり

プレジデントオンライン / 2023年10月30日 10時15分

2023年10月18日、中国・北京の人民大会堂で、第3回「一帯一路」国際協力フォーラムの一環として行われた会談の前に握手するロシアのプーチン大統領(左)と中国の習近平国家主席。 - 写真=EPA/SERGEY GUNEEV/SPUTNIK/KREMLIN POOL/時事通信フォト

■格の違いが鮮明になった「一帯一路」フォーラム

10月17~18日、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の国際協力フォーラムに出席したロシアのプーチン大統領は、習近平国家主席を「世界的指導者」と持ち上げ、「一帯一路構想はロシアの考えと合致し、大きな成果を収めた」と絶賛した。

ロシアの国営メディアは、プーチン大統領が今回の訪中で世界的な威信と尊敬を集めたと伝え、「西側に対する象徴的な勝利」と描いている。

だが、「プーチンは手ぶらで帰った」(独立系紙モスクワ・タイムズ)とされるように、中国側はウクライナ侵攻で孤立するロシアへの深入りを避け、冷淡な対応がみられた。中露の格の違いも鮮明になり、ロシアの外交的後退を示した。

■中国による「植民地貿易」を批判

9月の統一地方選で勝利したソビャーニン・モスクワ市長が9月28日、「モスクワ経済フォーラム」で行った中国批判演説が話題を呼んでいる。

大統領に近いソビャーニン市長はこの中で、「西側諸国の制裁により、東側に目を向けたロシア経済は新たな困難に直面した。東側は西側よりさらに厳しいことを認識しなければいけない」と述べ、中国の名指しは避けながら、中露経済協力の落とし穴に警告を発した。

市長は「東側は機械製造でも、航空機製造でも、エレクトロニクスの分野でも技術を提供しようとせず、優遇措置を自国企業に提供し、自国メーカーにダンピングを与えている」と述べ、「経済戦争という深刻な事態が起きている」と指摘した。

さらに、中国を念頭に、ロシアから資源のみを大幅な安値で購入し、完成品の購入を押し付けていると批判。ロシアへの技術移転や低利融資をほとんどしないと批判した。中露貿易の実態は、中国が資源を購入して製品を売る一種の「植民地貿易」であることを告発したものだ。

■習主席を「世界のリーダー」と大絶賛

不均衡な中露経済関係への懸念や不満は、ロシアの経済官僚やビジネスマンの一部に出ているが、プーチン大統領は今回の訪中で、対中一辺倒路線を推進した。

訪問直前、中国中央テレビとのインタビューで、習主席を「間違いなく世界のリーダーだ。細部に気を配り、冷静で、ビジネスマインドがあり、信頼できるパートナーだ」とべた褒めだった。

中露経済協力については、両国貿易が今年、目標の2000億ドルを突破し、さらに拡大していくと予測。ソビャーニン市長の懸念についても、「製品貿易における不均衡について、中国の友人たちがわれわれの意向を無視することはなかった」と否定し、習主席のイニシアチブに今後も協力していくと誓った。

「一帯一路」は、中国の経済減速や途上国の「債務の罠」で難航しているが、大統領はフォーラムの演説で、「真に重要でグローバルな未来志向の構想だ」と絶賛。首脳会談では、「共通の外的な脅威が中露関係を強化させる」と述べ、対米連携を訴えた。

訪中前、ロシア政府は福島第1原発処理水の海洋放出を受け、日本産水産物の輸入制限を発表し、中国に同調していた。

■一方、中国は冷淡な態度が目立つ

だが、歯の浮くような中国賛美にもかかわらず、訪中の成果はあまりなかった。

大統領には多数の経済閣僚や石油・ガス企業トップらが同行したが、中国側はロシアが強く求める2本目のガス・パイプライン建設構想に同意しなかった。ロシアは欧州向けのガス輸出が激減したため、北極圏のヤマル半島からモンゴル経由の第2のパイプライン建設を中国に持ちかけており、ロシアメディアは合意の可能性を報じたが、中国は応じなかった。

エネルギー調達先の多角化を進める中国は、中央アジアやアフリカからのガス輸入計画を進めており、ロシアへの過度の依存を避けたようだ。国際価格より大幅に安い石油・ガス輸出も維持される。

共同声明など首脳間の文書は今回、発表されなかった。ロシアメディアはパレスチナ情勢で共同文書が発表されると伝えていたが、誤報となった。

■プーチンの期待とは裏腹に中国はしたたかだった

ウクライナ戦争で兵器不足に陥ったロシアは中国の武器援助を切望しているが、訪問団にショイグ国防相ら軍関係者は入っておらず、軍事問題は議題に上らなかったようだ。中国が最初から、軍事協力問題は討議しないと伝えていた可能性がある。

両国の発表をみる限り、習主席が反米連携に同調した形跡もない。

首脳会談は3時間に及んだが、会談内容は公表されず、共同記者会見もなかった。プーチン大統領は単独の会見で、会談内容に関する質問に対し、「完全な機密情報の性質を持つ話もした。生産的で有益だった」とかわした。

ウクライナ戦争のやりとりも不明だ。中国は今年2月、12項目の和平案を発表したが、ロシアは「核兵器の移転」や「核の恫喝」「穀物の安定輸出」などの項目に公然と違反しており、平行線だったとみられる。

モスクワ・タイムズ紙は、「ロシア代表団は、期待していた大型のエネルギーや農業の取引なしに帰国した」とし、具体的な成果に結びつかなかったとする代表団筋の発言を伝えた。中国側はしたたかで、ロシアの期待は空回りに終わったようだ。

モスクワの眺め(外務省とモスクワ国際ビジネスセンター)
写真=iStock.com/scaliger
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/scaliger

■クレムリン当局者は「テレビ局に指示している」

それでも、ロシアの国営メディアは、プーチン大統領が北京で大歓迎を受けたと大々的に報じ、「習主席はプーチン大統領を最初に歓迎宴に招待し、到着時にはレッドカーペットが敷かれ、一挙手一投足に注目が集まった」などと強調。ラブロフ外相は「会場でのプーチン大統領の演説は熱狂的に受け止められた」と記者団に語った。

クレムリン当局者は同紙に対し、「プーチン大統領が世界的リーダーであることを国民に想起させる観点で報道するよう、テレビ局に指示している」と検閲を明かした。

大統領が旧ソ連圏以外を外遊するのは、3月に国際刑事裁判所(ICC)から、ウクライナの子供連れ去りで逮捕状を請求されて以来初めて。久々の外遊でスポットライトを浴び、来年3月の大統領選を前に、外交活動に支障がないことを国民に示す狙いがある。

しかし、実際にはプーチン大統領の演説中、空席が目立った。前回のフォーラムでは、参加国代表が一堂に会する円卓会議が開かれたが、今回はプーチン大統領との同席を嫌がる国が多く、開催されなかったという。

中国は反米パートナーである同大統領を厚遇しながら、侵略戦争を進めるロシアと距離を置き、肩入れを避けようとしたようだ。

■不平等貿易でも“兄貴分”に従うしかない

経済減速や失業問題など内憂が高まる習主席は11月中旬、サンフランシスコで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会合に出席する見通しで、米中、日中首脳会談も予想される。年末には、中国・EU(欧州連合)首脳会議が開かれる予定だ。

米国から入国禁止措置を受けるプーチン大統領はAPECの欠席を早々と決めたが、習主席は今後、西側諸国との一定の関係改善を重視しそうだ。

一方、孤立するロシアには「向中一辺倒路線」以外に選択肢はない。中国から冷淡な対応を受けても、中国との全面協力を進めざるを得ない。経済分野は不平等かつ不利な「植民地貿易」であっても、兄貴分の中国に従わざるを得ないのだ。

中露関係は、「踏まれても 付いていきます 下駄の雪」の構図だろう。

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名越 健郎(なごし・けんろう)
拓殖大学特任教授
1953年、岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒。時事通信社に入社。バンコク、モスクワ、ワシントン各支局、外信部長、仙台支社長などを経て退社。2012年から拓殖大学海外事情研究所教授。国際教養大学特任教授。2022年4月から現職(非常勤)。著書に、『秘密資金の戦後政党史』(新潮選書)、『独裁者プーチン』(文春新書)、『ジョークで読む世界ウラ事情』(日経プレミア新書)などがある。

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(拓殖大学特任教授 名越 健郎)

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