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「ちょっと一杯行こうか」がハラスメントになりうる時代…上司の"飲みニケーション提案"が許される2つの条件

プレジデントオンライン / 2023年11月2日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/taka4332

上司は部下を「飲みニケーション」に誘っても良いのか。人材育成に詳しいFeelWorks代表の前川孝雄さんは「部下との信頼構築の手段を“飲みニケーション”のみに頼ることは控えるべきだ。それ以外にも、チームワークを向上させる手段はある」という――。

※本稿は、前川孝雄『部下を活かすマネジメント“新作法”』(労務行政)の一部を再編集したものです。

■ワーク・ライフ・バランスから「ワーク・イン・ライフ」へ

すっかり浸透してきたワーク・ライフ・バランスへの意識。内閣府は、さかのぼること2007年に、政労使の合意の下に「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」を策定。ワーク・ライフ・バランスが実現した社会を「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」と定義。その実現のために、①就労による経済的自立が可能な社会、②健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会、③多様な働き方・生き方が選択できる社会の三つを目指すとした。

ワーク・ライフ・バランスは、その後の働き方改革の流れとも相まって、職場の労働環境を見直すキーワードとして定着してきた。

さらに近年出された、総務省の提言書「ポストコロナの働き方『日本型テレワーク』の実現〜個人・企業・社会全体のウェルビーイングを目指して〜」(2021年8月)の中には、次の記述が見られる。「『ワークライフバランス』という言葉は、ワーク中心で人生というものを考えるニュアンスがあり、今後は、人生のなかに仕事があるという『ワークインライフ』という言葉の方が馴染むという意見もあった」

■「ちょっと一杯行こうか」ができない時代

この「ワーク・イン・ライフ」は、より良い生活や人生を中心に据えた上で、その実現に向けて働き方を見直すことを推奨した言葉。少子高齢化や経済のグローバル化で職場のダイバーシティが進んできたさなか、コロナ禍で在宅勤務等のテレワークが一気に広がり、あらためて人生や生活の充実を前提に仕事を捉え直す気運が高まっている。

私が大学で教える学生たちが、社会人になることに対する不安の筆頭に必ず挙げるのが、「会社に拘束される時間が長くなり、自分のプライベート時間が奪われること」。残業や出張、時間外の付き合いや接待などで時間を取られることへの懸念が強い。仕事は頑張りたいものの、プライベートはしっかり確保し、趣味や友人・家族との時間は大切にしたい。若手世代は、そう望む傾向が強くなっていると感じる。上司の皆さんも若手社員の様子から、実感しているのではないだろうか。

昭和から平成の時代には「ちょっと一杯行こうか」と仕事終わりに上司が部下を誘うことは日常的な光景だった。しかし、法制化されたハラスメント防止の観点から、時間外に上司が部下を飲みに連れ出すことを慎むよう、注意を促す企業も出てきている。上司としても、部下との親睦のために良かれと思って取った行動がハラスメントとみなされては不本意だ。また、管理職に、親睦のために会社経費を使うことが認められづらくなってきていることも多く、いまや時間外の上司と部下の付き合いは珍しくなりつつある。

■飲みニケーションのみに頼ることは控えるべき

そこで、あらためて問われるのが、職場の飲みニケーションの是非だ。前項のように、働き方や働く人たちの意識が変わってきた時代背景はあるものの、本音では「チームワークをつくるには飲みニケーションも必要だ」と考える上司も少なくないのではないか。実際、私の会社が開講する「上司力研修」でも、ただでさえ効率が重視され多忙な毎日が続く中、飲みニケーションもご法度となると、部下とじっくり腹を割って話すことは難しいとこぼす管理職は少なくない。

しかし、ダイバーシティが進む今日の職場では、上司がまだ駆け出しだった頃と同じように、上司と部下の信頼構築の手段を飲みニケーションのみに頼ることは控えるべきだろう。

その理由は四つある。第一は、育児や介護、障害や疾病などを抱え、時間的制約のある人が増えている以上、時間外の活動を前提としない働き方を基本とすべきだからだ。残業も極力なくすことが求められる中、飲みニケーションを控えるべきであることは言うまでもないだろう。

サラリーマンと時間のイメージ
写真=iStock.com/kieferpix
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

■モチベーションの低迷や早期離職にもつながりかねない

第二に、前項で触れたように、若手世代に多い時間外まで拘束されてプライベートな時間を奪われたくないとの感覚を尊重するのが、時代の流れであるためだ。上司からは私生活上の制約が少ないと見える新社会人であっても、上司世代の仕事中心の価値観を押し付けるようでは、モチベーションの低迷や早期離職にもつながりかねない。

第三に、副業や兼業解禁の流れの中で、複数の仕事を持つ社員が増えつつあるからだ。本人にとっては、この職場での終業時間は、次の仕事の準備や始業の時間ということもあり得る。おのずと時間外に職場にとどまる余裕はない。

第四に、キャリア自律が重視される時代のためである。部下が自己啓発やリスキリングに励む時間への配慮は、人的資本経営を進める上での必須要件だ。

以上のように、飲みニケーションはもはや通用しないとの認識が浸透している。異なるアプローチで、部下との信頼関係やチームワークづくりに取り組まなければならないと考える上司も多いだろう。

■就業時間内にチームワークを向上させる方法がある

では、どのようなアプローチが考えられるか。チームワーク向上のためにインフォーマルコミュニケーションを図るのもよいが、時間外の活用を前提とするのは難しい。したがって、一つには、就業時間内に部下とのインフォーマルコミュニケーションを深める工夫が有効だ。

そこで、以下に紹介する方法は、多様な部下とのチームワークを向上させるため、一人ひとりの持ち味が活きる役割を定義し、互いに協働することを明示する組織図づくりだ。

上司は部下一人ひとりに対し、チームの中で担う役割を任せ、業務分担をしているはずだ。そこで、これを上司と個々の部下のみにとどめず、チーム全員で共有し合うのだ。

[図表1]を参照してほしい。こうした“遊び心のある組織図”を作成するのも効果的だ。

画像=『部下を活かすマネジメント“新作法”』
画像=『部下を活かすマネジメント“新作法”』

営業第2課で入社11年目の中堅社員・渡部さんを例に取って説明しよう。今期、東部エリア担当の営業主任に抜擢された部下だ。本人との面談で上司の佐藤さんは、これまでの本人の活躍と希望を踏まえ、近い将来には営業第2課全体でのリーダーシップの発揮を期待すると伝えた。併せて、チーム全体では、次の上半期は全員で「お客さまの販売力30%アップで、自社売り上げ目標30%アップを達成しよう」との組織目標も共有済みだ。

■仕事の節目、全員が参加しやすい飲みニケーションならアリ

上司は、新たなリーダーと期待する渡部さんに、「あなたならではの役割を担ってもらいたい」と強調する。渡部さんは、コツコツと顧客本位の提案営業を積み重ねてきたことで、お客さまからの信頼が厚く、社内でも豊富な知識や類いまれな営業センスには定評がある。また、上司や後輩との報告・連絡・相談(報連相)も丁寧で頼りにされる存在だ。

そうした自他共に認める「信頼関係づくりのプロ」としての強みを今後も十分に発揮して、渡部さんらしいリーダーシップで組織に貢献し、大きく成長してほしい。そのことを本人に伝えると同時に組織図にも明記し、チーム全体で共有するのだ。

同様に、他の部下一人ひとりについても、本人の仕事を組織全体の中に位置づけると同時に、本人のキャリア希望にもつながる仕事として動機づける。こうして、部下全員の活躍・成長とチーム全体の仕事のつながりを可視化して共有することで、チームワークは高まっていくのだ。

とはいえ、私は、部下一人ひとりの状況と気持ちに十分配慮した上で、仕事の節目に、全員が参加しやすい形式の飲みニケーションなら、一概に否定されるべきではないと考えている。上司の都合の押し付けではなく、部下たちが前向きになれる機会にできれば、みんなにとってプラスになるだろう。就業時間内におけるマネジメントの工夫で、チームワークを高めることをメインに据えつつ、部下やチームの状況に応じ、飲みニケーションもサブの手段として柔軟に活用すればよいのではないだろうか。

■上司が鍛えるべきは「ファシリテーション力」

部下一人ひとりがお互いの役割を理解し、共に目標に向かって取り組む組織体制が整っても、日々仕事の進捗を共有したり困り事を相談したりしにくい状態では、職場は“たこつぼ化”しがちだ。一人ひとりが自分の仕事にのみ没頭するだけでは、せっかくの組織図も画餅になりかねない。

そこで上司には、日頃から仲間意識を高め、情報交換や報連相を促すことが求められる。鍛えておくべきことは、ファシリテーションの技術だ。

前川孝雄『部下を活かすマネジメント“新作法”』(労務行政)
前川孝雄『部下を活かすマネジメント“新作法”』(労務行政)

例えば、会議や定例ミーティングなどでは参加者全員に発言を促し、参加意識の醸成と発言したくなる雰囲気づくりに気を配る。上司の考えや発言に対し、部下一人ひとりがどう考えているか質問し、さらに部下同士の意見交換に導くこともよいだろう。また、1人で悩んでいそうな部下がいたり、チーム内や部署間で連携すべき課題が見えたりしたら、関係を取り結ぶ介入も積極的にしたい。部下たちに、持ち回りで会議の司会役を任せるのも効果的だろう。上司だけが仕切るより、互いに発言しやすい雰囲気になりやすく、司会役の当事者意識も高まるからだ。

このように、上司は職場の“たこつぼ化”を防ぎ、活気あるチームをつくることで、仲間と共に良い目的の実現に向けて働いているという意識を高めることが大切だ。これは組織エンゲージメントの向上にもつながるものだ。

上司には飲みニケーションのみに頼ることなく、ファシリテーションの技術を磨き、それを発揮することで、本来業務の中でチームワークを高める役割が求められるのだ。

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前川 孝雄(まえかわ・たかお)
FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師
リクルートで編集長を務めたのち、2008年にFeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、研修事業と出版事業を営む。「上司力研修」「50代からの働き方研修」などで400社以上を支援。2017年に働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人企業研究会 研究協力委員サポーター、ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。30年以上一貫して働く現場から求められる上司、経営のあり方を探求。著書は『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』『人を活かす経営の新常識』『50歳からの逆転キャリア戦略』など約40冊。

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(FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師 前川 孝雄)

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