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「働かないおじさん」はどこから来たのか…つぎはぎだらけの人事制度が生み出した"役職定年"の弊害

プレジデントオンライン / 2023年11月8日 9時15分

画像=『部下を活かすマネジメント“新作法”』

いわゆる「働かないおじさん」問題はなぜ起きているのか。人材育成に詳しいFeelWorks代表の前川孝雄さんは「役職定年制度より、ポストオフや再雇用になった中高年社員の社内での位置づけが難しく、本人たちのモチベーションも低下傾向にあることが背景にある」という――。

※本稿は、前川孝雄『部下を活かすマネジメント“新作法”』(労務行政)の一部を再編集したものです。

■社員を70歳まで働けるようにすることが努力義務になった

労務行政研究所の「人事労務諸制度実施状況調査」によると、企業における管理職・専門職の役職定年制の実施率は、この10年の間、30%前後で推移している[図表1]。そして、役職定年の年齢は、課長では55歳(35.9%)、部長では58歳(28.8%)が最多となっている[図表2]。

部課長における役職定年の年齢
画像=『部下を活かすマネジメント“新作法”』

高年齢者雇用安定法の改正によって、2021年から企業には社員を70歳まで働けるようにするための措置(就業機会確保)を設けることが努力義務となった。人生100年時代、社員の就業継続年齢も60代から70代へとさらに伸長していくだろう。

この流れは、仕事の機会を通じた若手社員育成の上では悩ましい課題を生む可能性がある。年功序列から脱却し、30〜40代はもとより、20代でも能力次第で管理職に抜擢しようとする企業が出始めた昨今。企業が飛躍・成長を続けポストが次々と生まれる状況でなければ、中高年層の管理職登用は厳しくなり、役職定年を前倒ししてでも、組織の新陳代謝を促そうとする気運が高まるかもしれない。また、労働力人口の高齢化で中高年層の比率が増える中、総額人件費の膨張を抑えることも必要となってくる。その結果、役職定年制度が引き続き重要と考える企業も少なくないのではないだろうか。

■昭和の時代は「55歳定年」の企業が多かった

役職定年制度は今後も必要なのだろうか。これを考える上で、まず役職定年制度が生まれた経緯から見てみよう。

役職定年の年齢は、50代半ばに置かれていることが多い。これは昭和の時代に、雇用慣行として社員の定年年齢を55歳に定めていた企業が多かったことに由来すると考えられる。

法定の定年年齢は、60歳定年が1986年に努力義務となり、1998年に義務化された。さらに65歳までの雇用確保に関しては2000年に努力義務となり、2006年に義務化された。そもそも昭和の時代に生まれた年功型賃金では、若手のうちは賃金が低く抑えられ、55歳定年時まで徐々に高くなっていくように設計されていた。ところが法律により定年年齢が延長されて、55歳以降も賃金を上げ続けると、人件費の膨張が起こってしまう。そこで本来想定していた以降の年代については給与を下げるために、55歳前後の役職定年や、60歳からの雇用は嘱託契約によって対応する等の処遇が生まれたというわけである。

■ポストオフや再雇用が生み出す「働かないおじさん」問題

昭和の55歳定年の頃は、管理職も定年と同時にポストオフとなることが自然であったため何ら問題はなかった。しかし、法対応のために徐々に上がる定年年齢に合わせて、単に高年齢の役職者を据え置くわけにはいかない。若手や中堅社員の限られたポストへの管理職登用が遅れ、モチベーション低下につながり、組織の新陳代謝も滞る。だからといって部下なしの名ばかり管理職を増やし、人件費を膨張させるわけにもいかない。苦肉の策として、旧来の定年年齢を役職定年の年齢とし、その後はポストオフや再雇用などにつなげてきたのだ。

しかし、その結果の不都合も生じてきた。ポストオフや再雇用になった中高年社員の社内での位置づけが難しく、本人たちのモチベーションも低下傾向。これまで課長や部長などの役職がアイデンティティーであった人ほど、肩書をなくした喪失感はより大きい。覚悟していた人であっても、プライドを傷つけられ、働く目的や目標を失ってしまうのだ。

窓際に立つビジネスパーソン
写真=iStock.com/imtmphoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/imtmphoto

こうして、いわゆる「働かないおじさん」問題が生じてくる。その裏返しが年上部下を持つ上司の悩みだ。かつての自分の先輩や上司を部下に持った場合の、マネジメントのストレスは大きい。役職定年制度は、こうしたジレンマも抱えているのだ。

■欧米型雇用へ安易に同調することへは疑問がある

高齢化に沿って年金支給年齢の繰り下げなどを伴いながら、高年齢者が働けるようにする年齢が徐々に引き上げられてくると、企業にとって、これまでのように“つぎはぎ”の人事制度では、もはやもたない。私は、ここで役職定年の是非を問う前に、人事制度の根本的な見直しが必要だと考えている。

もはや、多くの日本企業が終身雇用を維持することが困難なことは明らかだ。そして、人事制度の大きな流れはメンバーシップ型からジョブ型へ、賃金制度も年功型から成果型へと変化しつつあるといえよう。

しかし私は、日本企業が欧米型雇用へ安易に同調することに疑問を持っている。バブル経済崩壊以降、業績向上を目指す多くの日本企業が欧米流の成果主義やタレントマネジメントなどの導入を試みながらも、大きな成果を得られなかったことが平成の30年来の総括だったと考えるからだ。企業経営者は、日本型雇用が見直しを迫られている現状はしっかり認識しつつも、強みとして何を残し、課題として何を改革すべきかを冷静に考える必要があるだろう。

■日本企業が目指すべき「ハイブリッド雇用」

日本企業が残すべきことは、第一に、一人ひとりの社員が、自社の経営理念やビジョンに誇りを持ち、日々の仕事に働きがいを実感できるようにすること。

第二に、日本企業の強みである企業内人材育成に磨きをかけ、仕事を通じて人が育つ現場をより強固にしていくことだ。

そこで、私が推奨するのは、日本企業が持つ人材育成の強みを活かしつつ、社員が自律型人材として自ら働きがいを創造しながら成長し、活躍できる「ハイブリッド型雇用」だ[図表3]。

ハイブリッド型雇用
画像=『部下を活かすマネジメント“新作法”』

日本特有の新卒一括採用と一人前になるまで大切に育てる慣行は、若年失業者があふれている世界の中で誇るべき仕組みである。これを捨てる代償は計り知れないはずだ。一人前の仕事力を身に付けさせるための年数は、業種や職種によって異なるだろうが、この一定期間を経た社員はジョブ型雇用の人事制度に移行する。そして、一人前になってからは、社員一人ひとりのキャリアビジョンや能力、適性、生活条件等に応じた働き方を柔軟に選びながら、自ら生涯にわたって学びつつ成長・活躍できる仕組みを整えるのだ。

■早期退職という“締め切り”のおかげで起業を果たせた

サントリーホールディングスの新浪剛史社長が、2021年9月の経済同友会のセミナーで「45歳定年制」を論じ、物議を醸したのを覚えている方も多いだろう。発言の意図に反し、言葉が独り歩きして批判が殺到したため、すぐに誤解を解くための釈明に追われた。真意は「定年」に力点があるのではなく、誰もが45歳前後でのキャリア自律を目指す姿勢で仕事や自己啓発に励むことを奨励したのだった。しかし私は、持論のハイブリッド型雇用と共鳴する内容と捉え、評価できると感じていた。

私自身、40歳で前職のリクルートを早期退職(フレックス定年で卒業)することを決め、起業した。同社では入社時から自律を説かれ、私は覚悟の上で入社した。その後のOJTでも徹底的に自律意識を鍛えられた。この早い“締め切り”があったが故に、それまでに社外でも通用する一人前の力を付けようと、貪欲に働き、学び、その結果として起業を果たせたことに、今でも感謝している。

■ハイブリッド型雇用なら役職定年制度は不要

話題を役職定年に戻そう。私は、ハイブリッド型雇用において役職定年制度は不要と考えている。誰もが40代前後には一人前のキャリア自律を目指すのだから、ごく限られた役職ポストに就くことのみを「出世」の目標とする、単線型のキャリア観を持つ必要はない。

前川孝雄『部下を活かすマネジメント“新作法”』(労務行政)
前川孝雄『部下を活かすマネジメント“新作法”』(労務行政)

また、仮に管理職に就くとしても、自身の専門性を磨き続けるキャリアの途上の通過点と考えるのだ。「上司とはチームメンバーの活躍を支援する役割」と考えればよい。また、役職への登用や退任を、年齢基準で判断する必要もない。本人にも組織にも適職なら、20代の上司も70代の上司も、いずれもあってよいはずだ。

どの世代・年齢であっても、組織のビジョンに共感しながら、自律的なキャリアを磨きつつ、お互いを認め合い、イキイキと働ける職場であることが、これからの人的資本経営時代に求められる姿といえるだろう。参考として、「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書(人材版伊藤レポート2.0)」(経済産業省)が提唱する今後の人事戦略を展望する概念図を示しておく(図表4)。

人的資本経営―人材戦略に求められる「三つの視点」と「五つの共通要素」
画像=『部下を活かすマネジメント“新作法”』

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前川 孝雄(まえかわ・たかお)
FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師
リクルートで編集長を務めたのち、2008年にFeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、研修事業と出版事業を営む。「上司力研修」「50代からの働き方研修」などで400社以上を支援。2017年に働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人企業研究会 研究協力委員サポーター、ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。30年以上一貫して働く現場から求められる上司、経営のあり方を探求。著書は『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』『人を活かす経営の新常識』『50歳からの逆転キャリア戦略』など約40冊。

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(FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師 前川 孝雄)

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