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「中国軍が台湾を占領することはできない」米シンクタンクが2年かけて行った24回のシミュレーションの結果

プレジデントオンライン / 2023年11月8日 14時15分

2017年7月30日、中国人民解放軍(PLA)創設90周年を祝賀する閲兵式は内モンゴル自治区にある朱日和訓練基地で挙行され、習近平国家主席が部隊を閲兵した。 - 写真=Avalon/時事通信フォト

中国が台湾に軍事侵攻したらどのような結果になるのか。ジャーナリストの櫻井よしこさんは「米国の有力シンクタンクの机上作戦演習では『中国が台湾に上陸し、占拠することはできない』という結果が出た。一方、軍事侵攻が起きれば台湾だけでなく、日本も確実に戦場になるとしている。日本はより賢く軍事費を使い、力を強化すべきだ」という――。

※本稿は、櫻井よしこ『異形の敵 中国』(新潮社)の一部を再編集したものです。

■米シンクタンクが発表した「机上作戦演習」

米国の有力シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)が2023年1月、「次の戦争の最初の戦い・中国の台湾侵略机上作戦演習」を発表した。2年間かけて行った24回の机上作戦演習の総まとめだ。

演習の特徴は同企画の全てを軍関係者が担ったことだ。シビリアンである政治家の参加なしで、中国の台湾侵略に関して厳密に軍事的要素に基づいて予測した。なぜこのような形を取ったのか。米国防総省の過去複数回にわたる米中戦争の机上演習では、いつも結果に曖昧さが残った。肝心の軍事力の較量に関する情報は公表されなかった。情報秘匿の理由は米国にとって好ましくない結果が出たからだと推測された。

ランド研究所上席研究員のデイヴィッド・オクマネック氏は「米国対中露戦争では、我々はボロ負けだ」と語って憚らない。私が信頼する米国の軍事専門家の一人である元国防次官のミッシェル・フロノイ氏は「国防総省の机上演習を見れば現在の米国防力整備計画で将来、中国の侵略を防ぎ、彼らを敗北に追い込むことはできない」と語っている。

■「中国が台湾に上陸し、占拠することはできない」

2021年3月には空軍中将のクリントン・ヒノテ氏が「米空軍の机上作戦演習は10年以上前から中国軍よりも米空軍の遠隔攻撃能力が弱体化してきたことを示していた。我々の敗北へのペースは加速している」と警告した。

国防総省の演習はたとえば20年先の米中軍事力の較量など長期的展望を想定して行われがちだという。敵方に知らせたくないという理由で不利な情報を公開しない。しかし、足下の現実よりも長期展望に注目するだけでは適切な戦略は生まれない。その意味でCSISが政治的要素を排除し、軍事的視点を基本に机上演習を行ったことの意味はあるだろう。

演習は中国が2026年に台湾上陸を目指して攻勢に出るとのシナリオをもとにした。米中双方は核を使わないという想定で、基本的、悲観的、楽観的、非常に悲観的、絶望的の5つのパターンで演習を行った。結論から言えばその全てで、中国は勝てなかった。

勝てないとは「中国が台湾に上陸し、占拠することはできない」だ。

■日米台の勝利に欠かせない「3つの条件」

全シナリオで中国が実施した攻撃のパターンは同じだった。まず爆撃により初動数時間で台湾の海・空軍に潰滅的打撃を与える。強力なロケット軍に支援された中国軍が台湾を包囲し、万単位の中国兵が軍艦、民間の船舶を総動員して台湾海峡を渡る。中国空軍は海岸の上陸拠点を守る台湾軍を空から攻撃する。

ここまでは中国が優勢だ。しかし、すぐに崩れる。台湾陸軍の烈しい反撃で中国軍の上陸は阻止され、中国兵は台湾内陸部に侵攻できない。米軍の潜水艦、爆撃機、戦闘機、攻撃機が日本の自衛隊の補給、支援を得て素早く展開し、短時間に中国陸海空軍を無力化する。中国軍は在日米軍基地及び自衛隊基地、さらに米軍水上艦を攻撃するが、優位に立てず、台湾の自治権は守られる。

日米台の勝利には三つの重要な条件があるとされた。①台湾がもちこたえること、②米国が在日米軍基地を戦闘作戦に使用すること、③米国が中国防衛圏の外側から中国艦隊を迅速かつ大量に攻撃できること、だ。

■中国は確実に在日米軍基地を攻撃する

①について。中国の台湾封鎖は海空双方で非常に堅固で、米軍はこれを突破できない。24通りの演習全てで米軍は封鎖された台湾に支援部隊も装備も弾薬も送り届けることができなかった。つまり、台湾は侵略された時点で自分たちが保有している武器装備だけで戦わなければならないのだ。ウクライナと異なり地上ルートで他国からの支援は受けられない。真の意味で自力の強化が必要だ。

台湾の砲弾備蓄は戦闘開始から2カ月で不足し始め、攻撃力は半減する。3カ月で砲弾は尽き、砲兵部隊は歩兵部隊にならざるを得ない。日本にとって他山の石である。

②については日本の覚悟が問われる。1月12日からワシントンで外務・防衛の両大臣による日米「2+2」の会合が、続いて13日には岸田文雄首相とバイデン大統領の首脳会談が行われた。12日の「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙は社説で日米首脳会談を「今年、最重要の外交イベント」と書いた。「日本の国防の目醒め」を歓迎し、「日本は要」だとした。

2023年1月13日〜14日の岸田総理とバイデン大統領の首脳会談。「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙は社説で「今年、最重要の外交イベント」と書いた
2023年1月13日〜14日の岸田総理とバイデン大統領の首脳会談。「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙は社説で「今年、最重要の外交イベント」と書いた(写真=首相官邸ホームページ/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

日本の防衛費増額は歓迎され、日本が新たに保有する反撃能力に関して、「効果的な運用に向けて日米間の協力を深化させる」ことになった。米国の日本への期待は大きい。その分、日本自身が何が国益かを考えなければならない。

中国は台湾侵攻の過程で確実に在日米軍基地を攻撃する。侵攻開始から少し時間をおいて、日米の戦闘機が台湾支援で集結した頃合いでの攻撃になるだろう。そのときの中国軍は日米両空軍に陸上で大損害を与えることができる。戦闘機の破壊は地上駐機のときが一番容易なのだ。

■日本も戦場となり、国土を破壊される

中国軍の攻撃は日本を台湾有事に引き込み、日中の戦いとなる。演習では、中国軍が米軍基地のみならず自衛隊の基地を爆撃した方が、しない場合より中国は優位に立てた。とすれば彼らはそうするだろう。沖縄であれどこであれ、誰も望まない戦争の場に日本がなるのだ。

この事態に対処する道はひとつである。中国の習近平国家主席に攻撃を思いとどまらせるに十分な、強い反撃力を日米の協力体制の中で顕示していくことだ。彼らに侵攻を諦めさせるに十分な強い軍事力と、戦う意思が、日本側に明確にあることが必要なのである。

③は台湾のみならず、日本を含めた自由陣営の要望だが、肝心の米バイデン政権の考え方はどうか。

CSISの演習はこちら側が勝利するとの結論に達したが、その実態は読むだに心が痛む。日米は艦船数十隻、航空機数百機、軍人数千人を失う。米国は世界最強国としての地位を長年にわたって失い、台湾は国土を破壊され、経済再生に苦労する。国土を破壊される日本も同様だ。

■戦争を前提に考えなければならない局面

他方中国海軍は崩壊し、水陸両用部隊は壊滅、数万人の兵士が捕虜となる。中国共産党の存続にも影響が出る。

櫻井よしこ『異形の敵 中国』(新潮社)
櫻井よしこ『異形の敵 中国』(新潮社)

それゆえ米中双方は自国を戦場にした大国同士の戦争に発展するのを避けようとするはずだ。その一方で日本と台湾は確実に戦場となる。戦争回避が絶対的に重要なゆえんだ。

だからこそ、再度強調する。中国の考え方、習近平氏の考え方を変えるだけの強い力、即ち抑止力を持たなければならない。CSISの報告は台湾有事では必ず中国は日本をも攻撃することになっている。CSISでなくとも、それはほとんどの専門家の見方だ。

ならば、日本は最も賢く軍事費を使い、力を強化することだ。鍵のひとつが潜水艦である。静粛性に優れた世界トップ水準の潜水艦を中国は最も嫌がる。軍事費の使い方、経済、国の在り方の全てを戦争を前提に考えなければならない局面に私たちは立ち至っている。そうした状況の厳しさを日本全体で共有したい。

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櫻井 よしこ(さくらい・よしこ)
ジャーナリスト、国家基本問題研究所 理事長
ベトナム生まれ。ハワイ州立大学歴史学部卒業。「クリスチャン・サイエンス・モニター」紙東京支局員、日本テレビ・ニュースキャスター等を経て、フリー・ジャーナリストとして活躍。『エイズ犯罪 血友病患者の悲劇』(中公文庫)で大宅壮一ノンフィクション賞、『日本の危機』(新潮文庫)を軸とする言論活動で菊池寛賞を受賞。2007年に国家基本問題研究所(国基研)を設立し理事長に就任。2010年、日本再生に向けた精力的な言論活動が高く評価され、正論大賞を受賞した。著書に『何があっても大丈夫』『日本の覚悟』『日本の試練』『日本の決断』『日本の敵』『日本の未来』『一刀両断』『問答無用』『言語道断』(新潮社)『論戦』シリーズ(ダイヤモンド社)『親中派の嘘』『赤い日本』(産経新聞出版)などがある。

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(ジャーナリスト、国家基本問題研究所 理事長 櫻井 よしこ)

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