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58歳IT企業役員と32歳大学職員…40代バツイチ女性ライターがそれぞれと「婚活デート」をして悟ったこと

プレジデントオンライン / 2023年10月31日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Arx0nt

■待ち合わせは「自宅近く」という港区のカフェ

2週間前に婚活個室パーティで出会った58歳のIT企業役員、眞一郎さんとカフェで再会することになった。パーティ終了後に眞一郎さんから連絡先をもらい、もう一度話してみようと思ったのだ。待ち合わせの港区のカフェは私がよく行くところだが、彼の勤務先も港区で、自宅もすぐそばというのでそこに決めた。

8月のお盆過ぎ、うだるような暑さの日。汗シミを気にしながらも、淡いベージュのシャツに膝丈の白いタイトスカートを合わせた。婚活アドバイザーでもある成人した娘が「お母さんはこれを着ると清楚な雰囲気になる」とアドバイスしてくれたからだ。

カフェに着くと、もう眞一郎さんは店内で座っていて、こちらを見ると微笑む。趣味はゴルフというだけあって色黒で、彫りが深い顔立ちだ。今日は青と白のチェックのシャツを着ていて、それもよく似合う。彼の写真を見た娘が勧めるくらいだから、女性から見て「生理的に受け付けないタイプ」ではないのだが、目が合った瞬間、“やっぱり違う”と感じてしまった。

■世代が違う、仕事や趣味などの共通点もない

先日、同い年の女性で、既婚者である友人から言われた言葉を思い出す。

「仕事関係で好きになる場合も、一目惚れではなくて、徐々に相手のことを知って好きになるでしょう? だから婚活で出会った人ともすぐに拒絶しないで、まずは何度か話してみないと」

その言葉に納得して、今日ここに来た。それでもやっぱりこの人とは恋愛関係になれないという気持ちがわきあがってくる。

自分で誘った手前、帰りたくなる気持ちをおさえながら席に着く。

「お待たせしました。暑いですね」

ハンカチで汗をぬぐい、私はメニュー表を広げる。眞一郎さんがそれを覗き込む。近い距離になりたくなくて、さっと身を引いてしまう。

「ここはレアチーズケーキがおいしんですよ」

つとめて明るく言う。

「じゃあ、それも頼みましょう」と、眞一郎さん。

彼は“いい人”なのだ。だんだん申し訳ない気持ちになる。よし、異性の友人を作るつもりで、と気合を入れて笑顔で向き合う。しかし、どんな話をすればいいのだろうか。世代が違う、仕事や趣味などの共通点もない――。

■妻の存在が色濃く残る男性に、嫁ぎたいとは思えない

「ひろこさんは、最近婚活を始めたんですよね」

沈黙を打ち破るように眞一郎さんが口を開く。

「はい、先月から」と私はうなずき、「いつ頃から婚活を?」と問い返した。

「3年前ですね」

彼の答えに驚き、思わず「そんなに前から?」と言ってしまう。眞一郎さんが苦笑いする。

「そうですね、もう3年も経ってしまって。コロナで婚活パーティがない時期もありましたし……」

続いて3年前に離婚したこと、一人娘は妻が引き取り、その直後から婚活を始めたこと、妻がゴルフ好きなので一緒に出かけていたことなどを話してくれた。しかし聞いていて、気になることがあった。「妻が娘を引き取って」「妻が好きだったゴルフ」というフレーズである。「妻」ではなく「元妻」だろう。それほど妻の存在が色濃く残る男性に、嫁ぎたいとは思えない。私が視線を落としてうなずきながら聞いていると、深刻に捉えていると思ったのか、

ゴルフをするカップル
写真=iStock.com/Tashi-Delek
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tashi-Delek

「いやでも、全然落ち込んでないですから」と眞一郎さんが慌てたように言う。

「離婚は別に。早く再婚したいと思っていて。実家が埼玉にあって……」

■現実的な話ばかりで、まったくドキドキしない

次は実家にいるご両親の話。眞一郎さんが58歳だから、ご両親はもう80歳を超えているが健在という。「でも近くにいる妹が両親を見ていますから」と言い、介護は必要ないというアピールを感じた。続いて、私の実家や兄弟構成を聞かれる。

聞かれたことにきちんと答えていけば、結婚に向かっていけるのかもしれない。でも何というか、現実的な話ばかりで、まったくドキドキしないのだ。いや、「結婚」にドキドキは必要ないのか……。自問自答しながら、婚活を始める前に好きだった人が、実家の話をしてくれたことを思い出した。好きな人がしてくれる話はどんなことでも聞いていて楽しい。けれども、眞一郎さんの話は何を聞いてもつまらない。結婚するというのは、ずっと一緒にいることだ。つまらないと感じる人とやはり結婚はできないと思った。

「ひろこさん、この後は?」

レアチーズケーキを食べ終わり、黙ったままの私に眞一郎さんがたずねてくる。

「仕事があるので……」

それで伝わった気がした。彼はうなずき、伝票をもつ。「払います」と私が言うと、眞一郎さんは「いやいや」と顔の前で手を振り、レジへ。支払いを済ませて店の外に出て、私が右に行こうとすると「じゃ僕はこっちなので」と左の方向を指す。「ごちそうさまでした」と私がおじぎすると、眞一郎さんは笑顔で手をふってくれた。再び申し訳ない気持ちになる。

しかしチーズケーキを食べてコーヒーを飲んでわずか30分ほどだったが、私には半日くらい一緒にいたように長く感じた。

■「男女同額の月4000円の会費」に心が動いた

翌日、私がよく参加する婚活パーティの事務局から「マッチングアプリの入会案内」のメールがきた。

「ヤリモク」の和馬さんの一件(第1回参照)ですっかりアプリにこりていた私だが、「男女同額の月4000円の会費」に心が動いた。無料ではなく有料に興味をもつというのも変な話だが、それだけ“いい人”がいるのではないかと思ったのだ。この時の“いい人”とは「恋愛感情をもてる人」である。そしてこのアプリに入会した。

クレジットカードで月額料の支払いを済ませたら、自分のプロフィールを入力する。サイト上ではニックネームで表示されるが、運転免許証など本人確認書類の提出が必須のため、本当の年齢や名前を偽ることはできない。ここまでは無料アプリでも同じだったが、この有料アプリは男女ともに「独身証明書」「年収証明」「学歴証明」の書類を事務局に提出すると、プロフィール欄に“証明マーク”が付く。

入会して使ってみると、無料アプリより格段に良かった。特に、独身・年収・学歴証明をしている男性会員は結婚への本気度が高い。無料アプリではヤリモクの和馬さんがドラムを叩いている写真をアップしていたように、「日常の一コマ」の写真が多かった。対してこの有料アプリでは、お見合い写真のように真面目なスーツ姿をアップしている人がほとんど。少なくとも「第2の和馬」はいなそうだ。

■2カ月で70人の男性から「申し込み」があった

自分のプロフィールに「いいね!」が押されたら、相手の脈アリサイン、その上が「申込み」だ。相手の「申込み」に対して、「申込みありがとう」をクリックすると、いわゆるマッチングの成立。

40代後半でバツイチ子持ち、しかも成人したとはいえ子どもと同居している――このような条件では難しいだろうと思ったが、意外にもアプリに登録してから定期的に申込があり、丸2カ月経つ頃には、申し込みが70人に達した。年代別に分けると、30代5人、40代44人、50代18人、60代2人、70代1人である。

これまで私は15人に「申込みありがとう」を返してマッチングした。その後、この有料アプリでは最低5往復のメッセージ交換をしなければ、LINEなどの個人情報を教えられない。5往復に達すると、「LINE交換推奨」が表示される仕組みなのだ。

アプリ事務局は「24時間パトロールを実施」を掲げ、このルールに反するやりとりをしたことが発覚した場合はアカウントが停止される。私は一度相手への3度目のメッセージを書く時に、あやまって「LINE」と書いてしまった。すると即座に赤文字が点滅し、警告マークが。

この5往復というのは意外にハードルが高く、マッチングした15人中、5往復までメッセージ交換できたのは実は4人だけである。大抵そこまで話が続かない。

■32歳で大学職員のトモヤさん

しかし32歳のトモヤさんとは、マッチングして2日で5往復に達した。国立大学出身で大学職員、年収は非公開。最初に申し込みをもらった時は、ひとまわり以上年下だったので遊びや詐欺ではないかと疑い、率直に聞いてみた。

桜が咲いている入学シーズンの東京大学
写真=iStock.com/wnmkm
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/wnmkm

〈トモヤさん、申し込みをありがとうございます。ただ、いきなり不躾なおうかがいなのですが、どうしてひとまわり以上年上なのに? と思いました。トモヤさんのような感じならいくらでも同世代の方がいらっしゃるのではないでしょうか?〉

すると1時間後にトモヤさんから返信。

〈はじめまして。マッチングありがとうございます。年齢は気にしてません。ひろこさんの笑顔がステキだと思って申し込みをしました。すごく可愛いと思ったんです〉

ストレートに褒められてうれしかった。一般的に40代以降の女性は、男性から褒められる機会が減るので、こういうことに気をつけなくてはいけないことは頭ではわかっている。だが恥ずかしながら、そのまっすぐさにクラッときてしまった。

■「ひろこさんと話していると落ち着く」

トモヤさんとはアプリのメッセージ上で5往復のメッセージ交換をしてから、LINEに移行し、それからも毎日やりとりを続けた。

内容は、たとえば私の住んでいるマンション前にカニが歩いていたので、写真を撮ってトモヤさんに送ると、〈おー! よく見つけましたね。僕の家の前には先日、キノコが生えてました〉など、たわいもない話の繰り返し。けれども私にはそれが新鮮だった。やりとりを重ねる中でトモヤさんが理系出身であることや、前の職業や家族構成などもわかり、少なくとも騙されている危険性はないと感じ、徐々に自分の心が惹かれていくのも感じた。

〈一度、電話で話したい〉

私がお願いするとトモヤさんからかけてくれ、そこでも紳士的な対応だった。下ネタは一切ない。彼が「ひろこさんと話していると落ち着く」と言ってくれ、その言葉にドキドキもした。

そしてマッチングして2週間後の土曜、新宿のカフェで会うことになったのだ。

「めっちゃ緊張する~。トモヤさん、ほかにも会っている女性はいるのかなあ」

会う前日に着ていく洋服を選びながら私が騒いでいると、娘がちらりとこちらを見て言った。

「あのさ、お母さんはまだ幻想のトモヤさんしか見ていないんだからね。何も始まっていないんだから」

娘の言う通りだった。

■「でも、会えてよかったです」

トモヤさんが指定したお店は新宿ルミネにあるかわいらしいカフェ。店の前で緊張しながら待っていると、約束の時間ぴったりに彼が現れた。そして目があった瞬間に、お互いが「違う」と感じる空気が流れた。トモヤさんは決して写真をよく見せていたわけではない。それなのに、なんだろう。表現が難しいが“別人”という感覚なのだ。マッチングアプリではよくあることと聞く。昂揚していた気分が一気に冷めていく。

それにしても、眞一郎さんの時もそうだったが、“違う”と思ってからカフェで過ごす時間のなんと長いことか。会話を続かせようと二人で努力し、そしてどちらも話に上の空だった。コーヒーを飲み終わると、

「でも、会えてよかったです」

私の目を見てトモヤさんが言った。「でも、」の前はきっと「2回目につながらないけれど」だろう。

カフェでコーヒーを飲んでいるカップル
写真=iStock.com/Farknot_Architect
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Farknot_Architect

「そろそろ……」と私が腰を浮かすと、トモヤさんがほっとしたようにうなずく。

婚活するようになって改めて感じたこと。それは会計伝票がいつも男性側のほうに置かれていることだ。今回のように男性側が明らかに若くても。一杯600円のコーヒーだから二人で1200円。とりあえず私が千円札をテーブルに置くと、トモヤさんは何も言わずにそれをつかみ、会計に向かう。割り勘にしておつりを返してくれるかと思ったが、彼はそのまま店の外に出た。ここは年上の眞一郎さんとまったく違う。

「それじゃ、また」と私が頭を下げると、トモヤさんはそれには答えず、あいまいな表情をして背を向ける。別れた瞬間、虚しい気持ちになった。

■再婚する場合も「恋愛した延長線上」で結婚したい

「トモヤさん、どうだった?」

帰宅してから娘に聞かれた。

「……こなかった」

枕に顔をつっぷして私はうめく。「へ? こなかったの?」と娘が首をかしげる。しばらくして意味がわかったのか私の後頭部をなでてくれ、「だから幻想だって言ったでしょう」と笑った。

婚活しても、なかなか恋愛が始まらない――。

私の思いを述べると、プレジデントオンライン編集長の星野貴彦さんが「婚活とは条件設定をしているビジネスですから」とこともなげに言う。

「好きならどんな相手でもいいのではなく、条件のあう相手でなければ好きになれない、というのが現代人のつらさです。とりわけ中年以降にロマンチックラブを成立させるのはかなり難しいのではないでしょうか。だから『好きな人と結婚する』というより、『結婚してから相手を好きになる』という人が多い気がします」

そうなのだろうか。私は一度目の結婚が恋愛からスタートしたし、やはり再婚する場合も恋愛した延長線上に結婚があってほしいのだが、それは難しいのだろうか。

ぐるぐると思考し、少なくともアプリで条件からマッチングし、相手に幻想を抱くのはやめようと思った。最初にリアルで会う。そこで理想通りにいかなくても幻滅しても、そのほうが「恋愛」が始まる可能性はまだ高いのではないだろうか。そう思い、私は再びリアルな「婚活パーティ」の場に戻るのであった。(続く。第5回は<なぜ「おごらない男」に腹が立つのか…婚活中の40代女性ライターが「悔しくて泣いた」という秋葉原の夜>)

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荒川 ひろこ(あらかわ・ひろこ)
フリーライター
雑誌を中心に記事を執筆。40代後半のバツイチで成人した子どもがいる。

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(フリーライター 荒川 ひろこ)

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