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メンタル不調の妻に代わり家事を引き受けた夫も不調に…産業医が出したメンタルに効く食事の"意外な結論"

プレジデントオンライン / 2023年11月6日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RyanKing999

メンタルヘルスに良い食習慣はあるのか。産業医の武神健之さんは「私が面談してきたなかで、食生活の変化がメンタル不調からの改善になったと感じられた人たちはいる。だが、メンタルヘルスへの食事や栄養の活用については、まだエビデンスが不十分なのが現状だ」という――。

■こだわりすぎて心身の調子を崩す人もいる

こんにちは。産業医の武神です。近年、食生活がカラダの健康に影響していることが、さまざまな研究で報告されています。その中でも、食事のカロリーコントロールが、さまざまな病気リスクを軽減することは誰もが認める“常識”となっています。

では、ココロの健康(メンタルヘルス)に関しては、どのような食生活がいいのでしょうか。今回はこのことについて考えたいと思います。

私の認識では、現在エビデンスがあり世の中に受け入れられている健康のための食事習慣は、1日の摂取すべきカロリー内で食べること、3大栄養素(炭水化物、タンパク質、脂質)の摂取バランスを意識することの2つでしょう。

私は過去10年以上の産業医面談の中で、食事習慣にこだわりすぎる前にやるべきことがある人や、こだわりすぎて心身の調子を崩す社員がいるのを見てきました。

例えば、ダイエットのために、食事を全てプロテインに変えたけれど3日間で続けられなくなった人や、スポーツジムに入会しキュウリばかり食べていたら職場で倒れて救急車を呼ばれた人。

健康意識が高いがために、有機野菜や無農薬にこだわりすぎて部の送迎会や忘年会幹事から毎年煙たがられている人。白物(白米、白食パン)を否定し茶色物(玄米、麦芽パン等)しか食べなくなり、ランチ友達がいなくなった人など、さまざまな人がいます。

■妻のメンタル不調で食習慣が変化した男性

私の産業医経験の中で、実際に食事変化をきっかけに、メンタルヘルス不調になった人やそこから回復したと感じる人たちもいました。回復した事例をご紹介しましょう。

Aさんは40代、未就学の子供2人がいる既婚男性でした。奥様がメンタルヘルス不調になったことをきっかけに、いろいろと家事もやるようになったAさんですが、食事の準備は今まで奥様の担当でした。Aさんは不得意な上、時間がないため、出来合いのものを買う食事習慣になっていました。

■「食事」も改善理由の一つと考えられる

そのような生活が半年ほど続いた後、Aさん自身に不眠や朝に強い抑うつ気分などが出現し産業医面談にいらっしゃいました。すぐにメンタルクリニックに通いはじめましたが、本人の強い希望で内服薬はなしでした。しかし、実家の母親が来てくれて家事を手伝ってくれることになり、2カ月ほどして新しい生活パターンが落ち着いてくると、Aさんの症状は改善してきました。

子供たちが祖母の手作り料理を喜ぶため、Aさんの体調が戻った後も、祖母に食事の作りおきは継続してもらっていたそうです。次第に奥様も改善しました。

このケースの場合、Aさんがメンタル不調になった原因は、家事と育児の負担の増加、奥様の病状への不安などいろいろ考えられます。改善した理由も同様に、いろいろあると思います。

しかし、定期的な産業医面談の中でAさんが「やっぱり食事が大切だって身に染みました。いろいろなものをちゃんと食べるということ、手作りのものを食べるということ、妻が不調になってから、僕の家事力ではそれはできていませんでした」とおっしゃったのが、印象に残った症例でした。

作り置きをタッパーに入れている女性の手元
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

■社会人になってから「1日1食、体重は10kg減」の女性

一方、Bさんは入社2年目の20代の一人暮らしの女性でした。メンタル不調があったものの、コロナ禍の在宅勤務体制のため発覚が遅れましたが、仕事中にも連絡が取れないことが頻回あったことで、上司や人事が気づき、産業医の私との定期面談を行うようになりました。

もちろん、Bさんはまず医療機関で治療を開始しました。定期的にBさんとお話ししてわかったことは、特に職場でもプライベートでもストレスに感じることはないということと、新卒で入社したときに比べて体重が10kgほど減ったということでした。

学生時代から食欲はもともとあまり旺盛な方ではなく、社会人になってからは忙しい時は1日1食が普通だったようでした。その1食も、カロリーを補うためにチョコレートやお菓子など、高カロリーなものを意識して食べていたとのことです。また、大学卒業まで実家暮らしだったこともあり、食事を自分で作ったことはほとんどないこともわかりました。

■「実家で母の手料理を1日3回規則正しく食べた」

メンタル不調で元気がない状態で、慣れない食事作りをするのは難しいと思われたので、私は、休職に入ったらすぐに実家に帰り、しばらくそこで暮らすことをBさんに提案しました。すると、主治医にもそう言われたとのことで、素直に帰省しました。

Bさんは数カ月間実家で暮らす中で元気を取り戻し、東京に戻っても状態が落ち着いていたので、今はもう復職し元気に働いています。

このケースの場合、東京の一人暮らしの環境から脱したこと、実家で定期的に人との交流があったこと、実家の安心感などがあったことがBさんの改善に影響したと思います。しかし、Bさんに実家に帰って何が(回復に関して)よかったと思うかを聞いたところ、「実家で母の手料理を1日3回規則正しく食べたこと以外、特に特別なことはしていない」とおっしゃっていたのが、今でも印象に残ります。

具だくさんの味噌汁が入った椀を手に
写真=iStock.com/kazoka30
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazoka30

■食事とメンタルヘルスの関連はまだまだ分からない

今のところ、食事とメンタルヘルスに関しては、観察研究(食事習慣をありのままに観察し、何らかの意図を有した直接的な介入を加えない調査方法)では、特定の食事パターンがメンタルヘルスを向上させる、またはうつ病を予防するという結論には至っていません。

観察研究でわかっていることは、

・海外の論文ですが、果物、野菜、全粒穀物、魚、オリーブ油、低脂肪乳製品を多く摂取する“健康的食事パターン”は、うつ病リスクを有意に下げることが示されています。

・同時に、赤身・加工肉、精製穀物、菓子、高脂肪乳製品、バター、じゃがいも、高脂肪肉汁を多く摂取し、野菜や果物の摂取が少ない“西洋式食事パターン”は、うつ病リスクを有意に高めることも、示されています。

・一方、日本人における食事バランスガイド遵守とうつ病のリスクに関する検討では、統計学的に有意な関連は認められなかったものの、豚・牛肉よりも、魚・鶏肉を多く食べる傾向が強いことが、うつ病予防には有効である可能性が示されています。

以上より言えることは、ある種の食事習慣は、うつ病を予防する可能性があるものの、どの食材をどれくらい食べることがいいのかまではわかっていないということです。また、上記のような食事習慣を継続したからといって、うつ病以外のメンタルヘルス不調(パニック障害、不安障害など)の予防になるとは全く言えないということです。

■食事習慣でうつ病を予防できるかは不明

また、介入研究(研究者が対象者に対して研究を意図した介入を加える研究)からみた食事習慣とうつ病については、

・食事はうつ症状の治療およびセルフマネジメントに一定の役割を担う可能性はあるものの、うつ病診断を有さない者におけるうつ症状軽減効果は小さいとされています。

・別の介入研究では、食事介入は有意にうつ症状を改善させるが、不安症状の改善には効果を示さないことや、管理栄養士が栄養指導を行ったほうがうつ症状に対する効果量が大きいことが言われています。

・別の研究では、食事指導はうつ症状の改善に効果を示す可能性はあるものの、食事指導によるうつ症状予防はまだ困難であると結論づけています。

・治療効果的な面では、うつ病に対するオメガ3系脂肪酸の投与が有効であるとする報告は繰り返し公表されています。

以上より言えることは、うつ病と診断されたら、栄養士に食事習慣の指導を仰ぐのは有効かもしれないということです。決して、普段からの食事習慣がうつ病予防になるという話ではなく、また、オメガ3系脂肪酸がうつ病の予防になるという話でもありません。

色とりどりの野菜、肉、穀物
写真=iStock.com/nehopelon
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/nehopelon

■腸内細菌叢の影響が指摘されてきた

私が最近、食事習慣とメンタルヘルスに関して気になるのは、腸内細菌叢(腸の中に住んでいる細菌たち)と脳の関係(腸-脳軸)についてです。腸内細菌叢がメンタルヘルスに影響を与えることが示唆されているのです。

簡単にいうと、腸内の善玉菌のバランスと腸の健康が、気分やメンタルヘルスに影響を与えるというのです。具体的には、腸内細菌にはセロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質の産生能力があるかもしれないこと、腸内細菌の状態が良くないことは体内の炎症を増加させる可能性があり、これが抑うつにつながる可能性があることなどがわかってきました。そのほかにも腸内細菌叢は、ストレス反応や免疫システムに影響を与えている可能性も現在指摘されています。

そして、腸内細菌叢を良好に保つためには、プロバイオティクス(有益な細菌)とプレバイオティクス(有益な細菌の成長を助ける食物)を摂取、つまり善玉菌を多く含むものを食べることやバランスのいい食事が大切だと以前より言われています。しかし、最近は、アルツハイマー病や花粉症の人には善玉菌が多いとする論文やそんなことはないと反論する論文や、善玉悪玉という考えは間違いで細菌の多様性こそが大切という説もあり、まだ定説はありません。

■エビデンスが不十分であるのが現状

今のところ、自分自身のメンタルヘルス対策として、先に紹介した研究に準じた食事習慣をするのがいいのか、善玉菌を多く摂取することを意識するのがいいのか、それは私もわかりません。

忙しい中で、健康に気を使いたいという気持ちは大切です。しかし、そもそも、どんなに食生活への意識を高く持っても、1日1回の食事や、偏った食生活はよくないと私は考えます。

人が生きていく上で欠かせない食事習慣ですが、メンタルヘルスに食事や栄養を活用できるようにするには、まだエビデンスが不十分であるのが現状です。

そして、食事に関しては、こだわりのない人からありすぎる人までさまざまな人がいるようです。何を“健康”とするかは、人によってさまざまです。もしかすると、何も考えずに、3食楽しくいろいろ食べることが一番いいのかもしれません。

今回の話が、あなたのよりよい食事習慣のお役に立てば光栄です。

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武神 健之(たけがみ・けんじ)
医師
医学博士、日本医師会認定産業医。一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。ドイツ銀行グループ、バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバ、ムーディーズ、ソシエテジェネラル、フォルクスワーゲングループ、BMWグループ、エリクソンジャパン、テンプル大学日本校、アドビージャパン、テスラ、S&Pといった大手外資系企業を中心に、年間1000件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を実施。働く人の「こころとからだ」の健康管理を手伝う。2014年6月には、一般社団法人日本ストレスチェック協会を設立し、「不安とストレスに上手に対処するための技術」、「落ち込まないための手法」などを説いている。著書に、『職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書』や『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣』『外資系エリート1万人をみてきた産業医が教える メンタルが強い人の習慣』などがある。公式サイト

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(医師 武神 健之)

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