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なぜ「増税メガネ」は「新しい資本主義」よりハマったのか…岸田首相に失望する人がどんどん増える根本原因

プレジデントオンライン / 2023年11月1日 10時15分

2023年10月23日、臨時国会で所信表明演説を行う岸田文雄首相 - 写真=AFP/時事通信フォト

岸田内閣の支持率低下が止まらない。PR戦略コンサルタントの下矢一良さんは「岸田総理の発信には『一貫性』が欠けている。『国民受けする所得税減税で一発逆転』という安易な発想では、支持率の回復は見込めない」という――。

■岸田総理が何をしても不人気な理由

「増税メガネ」。防衛増税の検討や社会保険料の負担増が進むなかで、SNSを中心に急速に広まった岸田総理の「あだ名」だ。

不名誉な「あだ名」を返上するためだろうか。10月下旬、岸田総理は唐突に所得税減税を打ち出した。来年、1人あたり4万円の定額減税を、住民税非課税の低所得世帯には1世帯あたり7万円給付するという。

だが起死回生となるどころか、この減税策の評判はすこぶる悪い。ネットでは「働いてる人より、働いてない人の額が多いのはなぜ?」「その場しのぎではないか」と批判が噴出。応援団となるはずの自民党の世耕弘成参院幹事長からも「国民が期待するリーダーとしての姿勢を示せていない」と苦言を呈されるあり様だ。減税を打ち出して、ここまで批判された総理は初めてではないだろうか。

なぜ、岸田総理はここまで不人気なのか。私はかつてテレビ東京で「ワールドビジネスサテライト」などの記者として、現在は独立し、企業広報を支援するPR会社の代表として、様々な「トップの広報」に関わってきた。

そうした私の専門から見ると、岸田総理不人気の原因は明らかだ。原因を一言で表すなら、「トップの広報」で最重要の要素が欠けているからだ。岸田総理が何をしても不人気な理由を、「トップの広報」という観点から解き明かしてみたい。

■広く支持されるトップの共通点

岸田総理と対照的に、高い支持率を誇った歴代総理の人気の理由を考えてみたい。高支持率だった総理の振る舞いを考えることで、「岸田総理が不人気な理由」が浮き彫りになるからだ。

近年、最も高い支持率を維持し続けた総理といえば、小泉純一郎氏だろう。2001年の内閣発足時には80%という驚異的な支持率を記録。5年以上の長期にわたる在任期間中も、概ね40%以上の支持率を維持し続けた。岸田内閣が発足から2年で、各社の調査で30%を割り込んでいるのとは対照的だ。

メディアを含め「広く支持されるトップ像」とは、どのようなものだろうか。私が企業からの依頼でトップをプロデュースする際は、主に2つのポイントを意識している。

ひとつは「変革性」だ。「現在の仕組みを問題なく回す」のは政府であれば官僚、企業であれば社員の役割であって、トップに期待されるものではない。広く支持されるトップは「何かを変える」ことを「旗」として掲げなくてはならないのだ。

■小泉総理の「構造改革」が支持された理由

では、「広く支持されるトップ」は「何を」変えると打ち出すべきなのか。広く支持されるためには、「誰も反対しない変化」を訴えなくてはならない。世論が二分されるような変革では、不支持も半分は生じることになる。つまり、広い支持は得られないのだ。

当時、小泉総理は「構造改革」を打ち出した。小泉総理の就任時は、日本はバブル経済が崩壊した1990年代初頭からの「失われた10年」の真っ只中で、長期不況が続いていた。日本の「構造改革」が必要なことは誰の目にも明らかだった。

ぶら下がり取材を受ける小泉純一郎首相
ぶら下がり取材を受ける小泉純一郎首相(写真=首相官邸/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

とはいえ「構造改革」の必要性には誰もが同意するだろうが、そのイメージする具体的中身は各々、異なる。ある者は「規制緩和を推進して、民間企業の活力を存分に引き出す構造改革」を連想し、別の者は「財界からの政治献金を制限するなど、金権的な自民党の体質の構造改革」だと思うかもしれない。具体論に踏み込みすぎず、「構造改革」という抽象度の高い「旗」だからこそ、多くの支持が得られるのだ。

■「美しい国、日本」に足りなかったもの

掲げる「旗」として、もうひとつ重要なポイントは「相手が自分ゴトとして捉えられるか」ということだ。

わずか1年で崩壊した第1次安倍内閣は「美しい国、日本」を「旗」として掲げていた。確かに各々が想定する姿は異なっても、日本が「美しい国」になることに反対する者はいないだろう。とはいえ、仮に日本が美しくなったとしても、私たちの生活に何か直接のメリットが生まれるわけではない。

小泉総理の「構造改革」が長きにわたって多くの支持を得られたのは、「構造改革で日本の経済が良くなれば、『私たちの』生活も良くなるに違いない」という期待を抱くことができるからだ。つまり、受け取る側が「自分ゴト」として捉えることができる「旗」なのだ。

さて、岸田総理も就任当初は「新しい資本主義」という「旗」を掲げていた。自民党のサイトによると「新しい資本主義」とは「新自由主義的な資本主義によって、行き過ぎた部分を是正していく」ことだという。いわば「小泉改革」的な構造改革路線の対極を行くものだ。

■「新しい資本主義」という「旗」は悪くないが…

「新しい資本主義」という「旗」自体は、もはや小泉改革的な言説が力を持ち得ない今の時代の空気にも合っているので、多くの支持を得られるものになっていると私は思う。前述の「旗」の構成要素として必要な「反対する者がいない」「自分ゴトとして捉えられる」も満たしている。

だが、問題は岸田総理が「新しい資本主義」という「旗」を早々に降ろしたように見えることだ。「反対する者がいない」「自分ゴトとして捉えられる」に加え、「旗」に必要な要素である「一貫性」を満たしていないのだ。

10月下旬、総理官邸で「新しい資本主義実現会議」が開催された。総理官邸のサイトによると「供給サイドの強化の在り方(省人化投資、高齢者就労の活性化、リ・スキリングを含む)及びコンテンツ産業の活性化(アニメ・ゲーム・漫画・映画・音楽・放送番組等)」が議論されたという。議題から「新自由主義的な資本主義によって、行き過ぎた部分を是正していく」という側面を感じることはできない。

記者会見する岸田文雄首相
記者会見する岸田文雄首相(写真=首相官邸/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

■なぜ掲げた「旗」を降ろしたように見えるのか

岸田総理自身の口から「新しい資本主義」という言葉が出る機会もめっきり減った。10月の岸田総理の施政方針演説では、ついに「新しい資本主義」という言葉は一度も出なかった。

なぜ、岸田総理は掲げた「旗」を早々に降ろしたように見えるのか。私は、そもそも岸田総理が本気で「新しい資本主義」を目指していなかったからだと思う。

私が経営者を軸とした広報PRの戦略を策定する際、最も重視するのは「経営者自身が本気で実現したいと思っているかどうか」だ。というのも「メディア受けする旗」を私が広報の実務家としてつくったとする。だが、経営者自身が本気で確信を抱けるものとなっていなければ、続けられないからだ。

掲げた「旗」の狙いが当たり、その企業に数多くのメディアの取材が入ったとする。当然、経営者は記者から「旗」の具体的な中身や将来の展望を聞かれることになる。

経営者がその場しのぎで適当なことを答えて、テレビ番組や新聞記事が取り上げる。すると反響が広がり、顧客や取引先、従業員、さらに家族や友人からも「旗」の内容について話題を振られるようになる。本気で信じていることでなければ、経営者がうんざりしてしまうのだ。そして、しばらくすると「旗」について触れることすらなくなる。

■「トップの広報」の難易度が高い理由

こうした「悲しい事態」を避けるため、私が経営者の広報支援を行う際は、経営者への長時間のインタビューを行う。ときに酒を何度も酌み交わしながら、本音を探っていく。

というのも、「旗」を明確に自覚して、事業に取り組んでいる経営者はそれほど多くはないからだ。現実には、日々の売り上げや採用といった「目先の問題」に頭を悩ましていることがほとんどだ。

だが、粘り強くインタビューを続ければ、「今は明確な言葉として国から出ないが、漠然とした、理想としている方向性」が見えてくる。その「旗」の萌芽を、第三者である私が言語化するのだ。

「トップの広報」は、組織内で行うにはかなり難易度が高い。難易度が高い理由は、2つある。ひとつは社長自身が自分のことを客観的に見るのが難しいからだ。誰しも自分のことは主観的にしか捉えられない。

■広報部門が得意なのは、個別商品の広報PR

もうひとつは、誰もトップに「直言」できないからだ。企業であれば広報部門が人事権を握る社長に「あなたはこういう人物像を強く打ち出すべきだ」などと直言するのは、かなりハードルが高い。

そもそも、給料をもらう側の広報担当者と給料を払う側の経営者とでは、事業に対する意識だけでなく、ビジネスでの経験や実績に相当に隔たりがある。そんな広報部門が経営者の心理を理解し、なおかつ忖度(そんたく)せずに、経営者をプロデュースするというのが、そもそも無理な話なのだ。広報部門が得意なのは、あくまで個別商品の広報PRだ。

ソフトバンク・孫正義社長、サイバーエージェント・藤田晋社長、ジャパネットたかた・髙田明社長など「トップ広報」を成功させてきた、数々の「カリスマ経営者」たち。彼らは広報部門を持たない創業、そして就任間もない頃から「トップ広報」を成功に導いてきた。「トップ広報」が、トップ本人の資質に寄るところが極めて大きいことの証左だろう。岸田総理に、「カリスマ経営者」のような「天賦の才」を期待するのは酷かもしれない。

■内閣支持率は「終焉パターン」を辿っている

このように企業の「トップ広報」ですら難易度が高い。総理という「国のトップの広報」となれば、なおさらだ。

総理が記者に問い詰められる機会は、経営者の比ではない。記者に加え、野党にも追及され、SNSでも常に批判の目に晒される。「総理自身が心の底から信じている旗」でなければ、到底通用しないのだ。

さて、これから岸田総理が低迷する支持率を挽回し、上昇機運に乗せることはできるのだろうか。歴代内閣の支持率の推移を見ると、就任直後が最も高く、その後、細かな上下動を繰り返しながらも下降線を辿り、そのまま終焉(しゅうえん)を迎えるケースが圧倒的だ。岸田内閣の支持率は、まさに「終焉パターン」を辿っている。

だが、岸田総理にとって「希望の光」となるような、ほぼ唯一の「挽回劇」が存在する。1998年7月に就任した小渕恵三総理だ。

就任時はニューヨーク・タイムズ紙に「冷めたピザ」と酷評され、支持率は時事通信の調査によると、過去2番目に低い24.8%と散々な船出だった。だが、小渕内閣の支持率は緩やかに上昇を続け、就任翌年には47.6%を記録するまでになった。

官房長官時代の小渕恵三首相。新元号「平成」発表記者会見に出席した
官房長官時代の小渕恵三首相。新元号「平成」発表記者会見に出席した(写真=人事院/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

■支持率24.8%、小渕総理の「挽回劇」

私がテレビ東京に入社後、記者としてのスタートは小渕総理の「番記者(=担当記者)」だった。「番記者」は総理の影のように張り付くのが仕事だが、小渕総理は、土日祝日は必ず地方視察に飛び回る。

テレビ東京は少人数ゆえ、他社のように総理番の交代要員がいない。それゆえ、私はひとりで小渕総理を追いかけていた。あまりにハードな日程に、20代半ばの私でも体力的にかなりきつかった記憶がある。

小渕総理に「見た目の華やかさ」や「メディア受けする言葉を発するキレ」はない。だが、テレビ画面を通して伝わる「率直で飾らない言葉」「愚直な仕事ぶり」が徐々に評価されるようになり、支持率は上向きに転じるようになった。

政権発足から2年が過ぎ、低支持率に喘ぐ岸田総理に残された時間は、それほど長くないようにも思える。だが、岸田総理に今こそ必要なのは、「国民受けする所得税減税で一発逆転」という安易な発想ではなく、もう一度、自分がなぜ政治家を志したかを見つめ直し、心から信じることができる「旗」を掲げ直すことだろう。そのうえで、愚直に仕事に取り組む姿を見せることではないだろうか。

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下矢 一良(しもや・いちろう)
PR戦略コンサルタント、合同会社ストーリーマネジメント代表
早稲田大学大学院理工学研究科(物理学専攻)修了後、テレビ東京に入社。『ワールドビジネスサテライト』『ガイアの夜明け』をディレクターとして制作。その後、ソフトバンクに転職し、孫正義社長直轄の動画配信事業を担当。現在は独立し、中小企業やベンチャー企業を中心に広報PRを支援している。著書『小さな会社のPR戦略』(同文舘出版)、『巻込み力』(Gakken)。

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(PR戦略コンサルタント、合同会社ストーリーマネジメント代表 下矢 一良)

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