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たった1年で1000店超えの「日本一のジム」に…「ちょこザップ」が圧倒的スピードで成長できた3つの理由

プレジデントオンライン / 2023年11月6日 10時15分

筆者撮影

RIZAP(ライザップ)グループの「chocoZAP(ちょこざっぷ)」が急成長している。2022年7月にブランド展開を開始し、わずか1年あまりで会員数は80万人を突破し、日本一のジムとなった。なぜ急スピードで成長できたのか。経営コンサルタントの岩崎剛幸さんがリポートする――。

■たった1年で業界1位になったchocoZAPは何がすごいのか

RIZAP(ライザップ)グループが始めた低価格ジム「chocoZAP(ちょこざっぷ)」が急成長しています。本格的にスタートしてからわずか1年あまりで業界1位となる80万人もの会員が登録しています。

chocoZAPの何がすごいのか。そこに死角はないのか。実際に会員に登録して体験して考えてみました。

そもそも私がchocoZAPに興味を持ったのは、家に入ってきた新聞折り込みチラシがきっかけでした。同日に似たようなチラシが3部折り込まれていたのです。新聞販売店が間違えて多く入れ過ぎたのかと思い見てみるとそれぞれのチラシ内容が微妙に違います。

chocoZAPの新聞折り込みチラシ
筆者撮影
chocoZAPの新聞折り込みチラシ。さまざまなパターンを作っているのは、反響率が高いのはどのチラシかABテストを兼ねているからだと思われる - 筆者撮影

これは販売店の間違いではなく、chocoZAPの複数店舗による折り込みチラシ同時配布作戦です。新聞折り込みエリアに立地するchocoZAPのチラシを同時に入れて、新規会員を獲得しようというイマドキ珍しいチラシ作戦だったのです。

私のエリアでは3枚でしたが、SNSでは「chocoZAPのチラシが7枚入っていた」という投稿も目にしました。

chocoZAPが狙っている客層は、新聞チラシをチェックする主婦層なのか。答えを探るため、私はQRコードからchocoZAPのアプリをダウンロードして会員登録をしました。

チラシには「来店不要! スマホで完結 簡単」とあります。

私にもできるのか? と訝しがりながら登録作業をしたところ、5分程度で会員登録は完了しました。

早速、近隣のchocoZAPに行ってみました。

■マシンの使い方を誰も教えてくれない

店舗は外からすぐにわかるchocoZAPのマークと「24h GYM」の文字があります。アプリのQRコードを入り口でかざすとドアが開閉する仕組みです。

中に入ると、日曜の14時ごろということもあってか、利用者は私以外に1人もいない貸し切り状態でした。

店内にはランニングマシンが4台、ウエートトレーニングを行うさまざまなマシンが8種以上ずらりが並んでいました。

普段ジムに行かない私にとって、ここに並んでいるマシンのどれからどのように始めたらいいのかが分かりません。とりあえず使えそうな「上に乗って歩いたり走ったりするマシン」(トレッドミルと言うそうです)に乗ってみますが、どこを押したら電源が入るのか、どう設定すればいいのかがまったく分かりません。

実はchocoZAPアプリにトレーニングマシンの使い方はすべて載っています。アプリに掲載することで店頭での説明書きを貼り付ける手間もなくしています。店頭にあるのは「終了後はアルコール除菌をしてください」のみ。

誰に聞くこともできず、またアプリに説明があるとも知らず、機器の上であれこれ押してみること5分。やっと動き出しました。私のようなジム初心者にはマシン周辺に説明書きが1枚欲しいと思いましたが、それを省くことで低価格を実現しているのです。

■着替えず普段着のまま運動できる

従業員ゼロで無人運営する(24h監視カメラ有)、ロッカーも鍵のかからないロッカーにする(鍵をなくした場合の対応が不要)、マシンを使った利用者にウェットティッシュでアルコール除菌させる、ゴミは自分で片づけて掃除の手間を省く……など、徹底的に人手をかけない仕組みにしています。

明るい店内にズラリとマシンが並ぶ
筆者撮影
明るい店内にズラリとマシンが並ぶ - 筆者撮影

会員はchocoZAPのどこの店舗でも利用できるため、別の近隣店舗にも足を運びました。

そこにはすでに6人ほどの利用者がいました。そのうちの1組は男女のカップル。室内の機器をぐるっと見て回り、なにやら話をして、そのまま帰っていきました。滞在時間5分。

一方、腹筋を鍛えるマシンではYシャツにチノパン姿の50代くらいの男性がトレーニングしていました。

中央の男性は洋服のままトレーニングに励む
筆者撮影
中央の男性は洋服のままトレーニングに励む - 筆者撮影

「着替えもないから洋服OK 5秒でスタート」という売り文句もあながち間違っていないなあと感じる光景でした。

SNSでは「ストレッチエリアに座り込んでなにもせずに動画だけを見ている人を発見した」とか「ガチ勢(本気でトレーニングする人たち)が減ってきてほっとした」などの投稿もあります。chocoZAPの最大の売りは、この「初心者を相手にしたセルフトレーニングジム」という一点にあるのです。この後詳細を分析していきます。

■1年で店舗は1000店増え、会員数は80万人増えた

chocoZAPの独自性は

① 店舗展開スピードの速さ、
② それを実現させるための「捨てる発想」、
③ 初心者マーケティングに徹底している、

という3点にあります。

【ポイント1】会員数獲得と店舗展開スピードの速さ

RIZAPがサービス開始したのは2012年ですが、chocoZAPの正式サービススタートは22年7月です。グランドオープンは22年9月ですから、まだ1年程度しかたっていません。

23年9月28日時点で会員数は83万人を突破し業界トップに、店舗数も1000店舗となっています。わずか1年間でこの数字を出したのは、サービス業とはいえ、驚異的な店舗展開スピードと言えます。

【図表1】大手フィットネスジム企業の生産性比較表

図表1を見れば、店舗数の伸び以上に会員数が伸びているのが分かります。競合他社とは比べ物にならない勢いです。

ただし1店舗当たり会員数が1000人程度となるため、店舗によっては利用者が集中し、十分に利用しづらいといった問題がでているかもしれません。

■なぜ会員価格を競合の半分にできたのか

【ポイント2】月額費用の圧倒的な安さ

chocoZAPは、競合他店の半額以下という圧倒的な安さを実現するため、「捨てる経営」を徹底しています。

【図表2】大手フィットネスジム企業のサービス内容比較表

chocoZAPの会員費は2980円。競合するエニタイムフィットネス(以下エニタイム)、カーブスが8000円前後なので、月会費は競合の半分以下です。月に3000円ということは1日あたり100円を切るということです。chocoZAPが1年で業界No.1の会員数を獲得した最大の理由は料金設定です。圧倒的にコスパが良いジムと認識されたのです。

この低価格を実現したのが「捨てる経営」の徹底です。「業界ではこう考える」という固定観念を捨てたのです。

【chocoZAPの「捨てる」経営】

1.店舗に人をおかない
コーチやトレーナー、スタッフすらおかないことで人件費をかけずに24時間無人ジムを実現した

2.高い家賃を払わない
雑居ビルの2Fや駅から少し離れた立地など、家賃をできるだけ抑えた出店戦略

3.トレーニングマシン以外のものを極力設置しない
ロッカーは鍵無し、シャワールームなどもなし。体組成計なども店舗に設置しない

4.変動費型・アジャイル出店強化
広告宣伝費のみで集客し、2カ月以内のアジャイル出店。違約金支払いなど回避

■ゴリゴリに鍛えたい人は対象外

【ポイント3】初心者マーケティングに徹したこと

chocoZAP最大の独自性は、「トレーニング初心者にターゲットを絞った」ことです。私はこうした取り組みを「初心者マーケティング」と呼んでいます。

あらゆる物やサービスには初心者であるエントリーユーザーとレギュラー(マス)ユーザー、ヘビーユーザーが存在します。お金を多く払ってもらえるのはヘビーユーザーです。儲けたい企業はここを狙いたくなります。しかしヘビーユーザーはこだわりも強く、知識もあり経験も豊富であるため、レベルの高いサービスが必要になります。

初心者は知識も経験もありません。標準的な設備やサービス品質があれば、ある程度満足してもらうことも可能です。しかも初心者は常に発生します。

商売をする上では初心者マーケティングはとても重要な戦法となります。特に新規事業展開する場合には有効な考え方と言えます。

chocoZAPは「着替えもなしで5秒でスタート、1日5分の『ちょいトレ』でOK」としました。まさにジム初心者を狙ったのです。

ジムのメインターゲットは男性で、徹底的に身体を鍛えたい人、マッチョな人、トライアスロンなどを本気でやっている人がたくさんいる……というイメージが強かったものです。それがエニタイムや女性専用カーブスの登場で、「もっと気楽に通っていいんだ」と印象が変わってきました。

chocoZAPは、もっと気楽に、もっと誰でも気兼ねなく通えるようにしたことで、一気にすそ野を広げました。これまで潜在的に眠っていた「ジムに通ってみたいが通えなかった未利用者層」を開拓したのです。

■最大の目的は「美容」と「体力づくり」

実際にRIZAPグループのアンケートでも「利用者の多くは未経験者 最大の目的は『美容』と『体力づくり』」としています。

chocoZAPでは、これまでのフィットネスジムの常識にこだわらず、運動初心者の人でも無理をせずに通える環境を用意したことにより、ジム経験なしの入会者が多く、無人店舗でも初心者が安心してトレーニングに取り組めるよう、アプリ内の動画でマシンの使い方などを分かりやすく解説しています。また、会員のみなさまの主な利用目的は、「美容」と「体力づくり」がそれぞれ48%となっています。(RIZAPグループ リリース資料より)

利用者の52%は女性で、30代以下の利用者が55%と年齢層も若めです。初心者が多く、運動が苦手でも、みんな同じような客層だから気兼ねなく通えます。

運動が得意、トレーニングをガチでしたい人を捨てて初心者マーケティングを実践したこと。ここにchocoZAP最大の優位性を見て取れます。

■chocoZAPにある3つの死角

このように圧倒的なスピードで成長するchocoZAPですが、このまま成長を維持できるのでしょうか。また、同店を展開するRIZAPグループに死角はないのでしょうか。私は3つほど懸念点があると考えています。

1点目はマシンの故障です。SNSでは「マシンがまた故障している」といった声が写真付きで多数あがっています。実際に私が通った店舗でも「ピンが外れています」と書かれた修理対応願いの札がいくつかおかれていました。スタッフがいればすぐに対応可能でしょうが、常時スタッフはいないため、トレーナーが巡回してくるまでは対応できません。

RIZAPグループの調査ではマシンの故障は1.0%未満(2023年8月時点数値)ということですが、実際にはもう少しあるのではと思います。現在、壊れにくいマシンの開発と共に、研修を受けたトレーナーが48時間以内に故障を直す体制を整えていると言います。今度はこの修理対応スピードがここからの成長のためには必要になってくるでしょう。

2点目は店舗のクリンリネス(清潔さ)です。新しい店が多いので店内は比較的綺麗なのですが、半年もたってくると汚れが目立つ店舗もでてきます。靴の履き替え無し、掃除も利用者ができるだけやる体制になっているため、清掃が行き届かない例も散見されます。

RIZAPグループでは「フレンドリー会員」を試験的に導入して、トレーニングのついでに週に1~2回、店内清掃をしてもらい、月額料金を割引する制度も試験導入し始めています。こうした利用者参加型の店舗づくりがどこまで機能するか注視したいところです。

■最大の懸念点は親会社

3点目はRIZAPグループ株式会社の経営状況です。同社は「すべての人が自分自身の価値を実感できる人生を送るために」をミッションに、美容系事業、保育系事業、ECモール事業、ファッション事業、住宅事業などを展開する会社を次々と買収し傘下におさめてきました。

結果的に総合生活提案企業となり、売上高も1600億円を超えるまでになりました。しかし23年3月期の当期純利益は127億円の赤字です。23年10月末には傘下の住宅会社「創建ホームズ」を41億5000万円で売却すると発表し、調達資金はchocoZAPの投資に回し成長を加速させるとしています。

結果、24年3月期のグループ最終損益は90億円の赤字という見通し(当初計画据え置き)。来期以降は借入金も減少し、自己資本比率も高まるとしていますが、当面の目標であるchocoZAP2000店舗達成にはさらなる投下資金が必要です。

【図表3】大手フィットネスジム企業の損益比較表

エニタイム、カーブスは、ジム事業以外には手を出していないため、好業績を続けています。売り上げは確かにRIZAPグループの方が大きいですが、利益面では大きく後れをとっています。

先行投資で費用がかかっているだけとは言うものの、赤字幅が小さくなっていくのかどうかが財務面から見て気になったポイントです。

■量→質にシフトチェンジする時期

日本一の会員数も獲得し、店舗も1000店舗を超えた今、まずはchocoZAPの店舗運営体制を盤石なものにすることに力を注ぐべきではないでしょうか。先を急ぐあまり、せっかく築いた日本一の会員資産を失わないようにすること。そのためには目先の課題である、マシンの不備をなくし、会員が快適にサービスを受けられる体制にすることが優先です。

はじめはジム初心者だった会員も、何度か通えばジム経験者です。レギュラー会員となった多くのchocoZAP会員が離れないようにするためにも、店舗展開スピードを少し落としてでも、基本的なサービス品質の向上こそが今後RIZAPグループが力を入れるべきポイントではないでしょうか。

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岩崎 剛幸(いわさき・たけゆき)
経営コンサルタント
1969年、静岡市生まれ。船井総合研究所にて28年間、上席コンサルタントとして従事したのち、ムガマエ株式会社を創業。流通小売・サービス業界のコンサルティングを得意とする。「面白い会社をつくる」をコンセプトに各業界でNo.1の成長率を誇る新業態店や専門店を数多く輩出させている。街歩きと店舗視察による消費トレンド分析と予測に定評があり、最近ではテレビ、ラジオ、新聞、雑誌でのコメンテーターとしての出演も数多い。

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(経営コンサルタント 岩崎 剛幸)

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