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「寝たきりになりたくなければ海藻を食べなさい」医師が勧める筋肉をつける食事の新常識【2023編集部セレクション】

プレジデントオンライン / 2023年11月2日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/masa44

2023年上半期(1月~6月)にプレジデントオンラインで配信した人気記事から、いま読み直したい「編集部セレクション」をお届けします――。(初公開日:2023年6月14日)
年をとっても元気でいるためにはどうすればいいのか。消化器内科医の江田証氏は「重要なのは筋肉を維持することだ。日本人独特の腸内細菌によって、海藻を食べることで筋肉の減少を防ぐことができる」という――。

※本稿は、江田証『超一流の腸活術 最高のパフォーマンスを生み出すための食事法と習慣』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■腸内細菌が乱れていると筋トレの効果が出づらくなる

みなさんのなかには「スポーツジムに通って筋トレをしている」という人も多いと思う。スポーツをしていて筋力をアップしたい、マッチョなボディに憧れている、ダイエットのため、ストレス解消できるから――理由はいろいろあるだろう。

それはともかく、適度な筋力、適切な筋肉量は健康長寿を達成する上で重要な要素である。実際、「太ももの筋肉が太い人ほど死亡率が減少する」という論文があるほどだ(※)

※出典:Heitmann, Berit L., and Peder Frederiksen. “Thigh circumference and risk of heart disease and premature death: prospective cohort study.” Bmj 339 (2009).

筋肉が少ないと、長期に入院するリスクが高まり、感染症にかかりやすくなり、死亡率が高まる。それに対し、筋肉が多いと、認知症にかかりづらくなり、がんにかかった時にも筋肉量が多い人ほどがん手術の予後が良く、抗がん剤や放射線療法が効きやすいことがわかっている。筋肉からは「イリシン」や「スパーク」といった「天然の抗がん剤」が分泌されているからだ。

ただ、筋トレをしている人なら「同じようなトレーニングをしていても、筋肉がつきやすい人とつきにくい人がいる」と感じることがあるだろう。

たしかに筋肉のつきやすさには、人によって違いがある。そして、その違いを生む要因のひとつに考えられているのが「腸内細菌の違い」なのだ。

意外かもしれないが「腸」と「筋肉」には非常に深い関係性があり、腸内細菌のバランスによって筋肉のつき方に違いが生まれる可能性が指摘されている。これを「腸筋相関(ちょうきんそうかん)」という。つまり、「腸内細菌が乱れていると十分に筋トレの効果が得られず、筋肉がつきにくくなる」といえるのである。

■肉をほとんど食べずに肉体美を保つパプアニューギニア人

腸内細菌と筋肉の関係を語るときに、私はよく「パプアニューギニア高地人」の話を例に挙げる。

標高1500メートル超の高地に暮らすパプアニューギニア人たちはみな全身がみっちりとした筋肉で覆われており、日本人と比べてもはるかに筋肉質な体格をしている。

だが彼らの主食はサツマイモで、肉はほとんど口にしない(お祭りの際、年に2~3回ほど豚肉を焼いて食べることがあるようだが)。つまり、動物性たんぱく質をほとんど摂取していないのだ。彼らのたんぱく質摂取量は、私たち日本人の平均(1日あたり約80グラム)の半分ほどしかない。また「何か特別な筋トレをしている」というわけもない。

にもかかわらず、彼らは素晴らしい筋肉質の体をしている。ほぼサツマイモのでんぷん(糖質)だけで筋力や筋肉量を維持できているのだ。

その理由を探るためにパプアニューギニア高地人と日本人の腸内細菌を比較調査したところ、彼らの腸には日本人にはほとんど見られない特殊な腸内細菌が多く存在していることがわかった。そのひとつが「窒素固定菌(ちっそこていきん)」という細菌だ。

パプアニューギニア高地人がサツマイモを食べると、腸内で分解されて窒素が発生する。すると、窒素固定菌によってその窒素から筋肉の材料であるアミノ酸が生成される。そのアミノ酸から筋肉ができる――。そう考えられている。

彼らの筋肉は肉のたんぱく質ではなく、「腸内細菌が窒素からつくった独自のプロテイン」でできているというわけだ。

■筋肉の多い日本人の長寿者には「酪酸菌」が多い

日本人がパプアニューギニア高地人の真似をして、同じようにサツマイモばかり食べても筋肉をつけることはできないだろう。たんぱく質不足になってガリガリにやせてしまうのがオチだ。日本人の腸内細菌は、彼らのそれと違って窒素固定菌がほぼ存在していないからだ。

だが日本の長寿地域での研究では、肉を食べなくても、たんぱく質の摂取量が多くなくても、筋力が衰えず、年齢を重ねても元気で活動的に暮らしている人が大勢いることが判明した。そこには、やはり、日本人独特の腸内細菌が関係しているのだ。

日本人の腸内細菌は世界的に見ても非常に特殊である。例えば日本人の約90パーセントに、海苔などの「海藻」を分解する酵素を持った腸内細菌の存在が認められている。こうした腸内細菌を持っているのは、隣国である中国を含む世界各国では約15パーセント程度しかいない。日本人と中国人の遺伝子は非常に似ているのに腸内細菌はまったく違うのだ。

この特有の腸内細菌のおかげで、日本人は海藻に含まれる「ポルフィラン」という炭水化物を分解して栄養源(エネルギー)に変えることができる。民族によって腸内細菌は異なるため、栄養学も十把一絡げに論ずることはできないのだ。

■筋肉を増やすために有効な食材は肉だけではない

筋肉を増やすには、筋肉の材料となるたんぱく質をしっかり摂ることが重要だというのはよく知られている。たんぱく質を豊富に含む食品の代表格といえば、やはり「肉」だろう。とくに低カロリー&高たんぱくの「赤身肉」や「鶏のささみ」「鶏胸肉」などは筋トレ民たちの必須の“神食材”だ。

鶏胸肉
写真=iStock.com/Vladimir Mironov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Vladimir Mironov

だがここで、原点に立ちかえってみる必要がある。筋肉を増やすために、肉だけを食べることが不可欠なのだろうか、と。

実際、日本の長寿地域での研究では、筋肉量と肉などのたんぱく質摂取量とは相関関係がなかった。筋肉量と相関したのは、腸内で「酪酸」を作る「酪酸菌」(ラクノスピラ、ロゼブリア、コプロコッカス)だった。そして、腸内に酪酸菌が多い人が食べているものを分析すると、「海藻」や「豆」、「野菜」、「味噌汁」などだったのだ。肉を食べているから筋肉が多いわけではない。肉などのたんぱく質を摂ることだけが筋力アップや筋量の増加につながるとは限らない。肉食も手段のひとつではあるが、絶対条件ではないのだ。

パプアニューギニア高地人がサツマイモで、日本人が海藻類などで筋肉を増やせるように、腸内細菌の違いによって効率的に筋肉を得るためのアプローチも異なることを理解しておく必要があるだろう。

■日本人の死因第3位には筋肉量が深くかかわっている

「サルコペニア」と「フレイル」という言葉をご存知だろうか。

サルコペニアの「サルコ」は筋肉、「ぺニア」は喪失の意味で「加齢による筋量の減少」をいう。もう一方の「フレイル」には「加齢による心身の衰え、虚弱状態」の意味がある。どちらも高齢化が進む日本社会で深刻な健康問題となっている。

日本人の死因の第1位は「悪性新生物(がん)」、第2位は「心疾患」、そして第3位が「老衰」だ。日本人の多くは特定の病気ではなく、体の衰えによって亡くなっている。サルコペニアが進行してフレイルになり、そのまま亡くなる――これが日本の高齢者に多い“亡くなり方”なのだ。

そう考えれば、「筋肉」が日本人の寿命に大きな影響を与えるといえる。

京都府京丹後市の健康長寿の高齢者にはサルコペニアが少なく、寝たきりにもならずに“ピンピンコロリ”で天寿を全うする人が多いことがわかっている。

筋力と筋肉量を維持してサルコペニアを防ぐことが、健康長寿につながるのだ。

■若い頃の過度なダイエットが老後の寝たきりリスクを招く

サルコペニア、フレイル、老衰、寿命――若い人にはまだピンと来ないかもしれない。

ただ、筋肉の衰えや筋肉量の低下は高齢者に限ったことではない。現代人はスリム志向が強く、多くの人が「ダイエットしてやせたい」「細くなりたい」と切望する人が非常に多くなっている。

やせたいがために短時間で急激な減量に挑み、体重は減ったけど同時に体力も筋力も落ちて体調を崩すケースも少なくない。

太りすぎが健康によくないのはいうまでもないが、筋力や筋肉量が著しく低下するようなダイエットや生活習慣もまた健康を害する要因になってしまう。

また、若いうちから筋肉を落としてしまうと、将来、年を重ねてからサルコペニアやフレイルに陥って寝たきりになるリスクが高くなる。「サルコペニア肥満」という言葉がある。加齢による筋肉量の減少であるサルコペニアと、体脂肪率が多い体型を掛け合わせた言葉だ。サルコペニア肥満は、通常の肥満よりも生活習慣病にかかりやすく、運動能力を低下させるため、結果として寝たきり生活になってしまう危険性がある。

若い頃に落ちてしまった筋力を高齢者になってから回復させるのは容易ではない。だからこそ、若いうちから意識して筋肉を減らさない生活を心がけるべきなのだ。「貯金」ならぬ「貯筋」をコツコツ続けるとよいだろう。

■加齢で筋肉が萎縮するのを抑制する腸内細菌

前項では日本人はその独特な腸内細菌によって、あまり動物性たんぱく質を摂らなくても海藻類などで筋肉を増やすことができると述べた。ではなぜ海藻類が筋肉増加・維持をもたらしてくれるのだろうか。

そこには近年注目の「酪酸」がかかわっている。酪酸は「酪酸菌」と呼ばれる善玉の腸内細菌が腸内でつくり出す短鎖脂肪酸の一種である。この酪酸には筋肉を溶かしてしまう「HDAC(エイチダック/ヒストン脱アセチル化酵素)」という酵素の働きを阻止し、加齢で筋肉が萎縮するのを抑制する働きがあることがわかっている(※)

※出典:Walsh, Michael E., et al. “The histone deacetylase inhibitor butyrate improves metabolism and reduces muscle atrophy during aging.” Aging cell 14.6 (2015): 957-970.

つまり、健康で長生きするためには筋肉を減らさないことが重要であり、筋肉を増やして萎縮・減少を防ぐためには、腸内に酪酸を増やすことが大事になる。日本人は酪酸が多い人ほど筋肉も多い。腸内の酪酸菌の量と筋肉量が比例しているのだ。

そして日本人にとって身近で簡単に手に入る酪酸を増やす食材(つまり酪酸をつくる酪酸菌を活性化する食材)が、「海藻」なのだ。

■日本人特有の腸内環境に合わせた食事をする

日本人が先述した海藻などを食べると、海藻に含まれる水溶性食物繊維をエサとする酪酸菌が腸内で活発になって酪酸を産生する。酪酸が増えることで筋肉の減少を防ぐことができる――。こうしたメカニズムが日本人に長寿をもたらしてきたのだ。

時代とともに食文化も変わってきている。筋肉を増やすためには、もちろん肉や魚などでたんぱく質を摂ることも大切だ。ときにはプロテインの助けを借りるのもいい。戦後たんぱく質摂取量が増えたことで脳出血が減り、栄養学に基づいた食生活の改善が日本人を長寿にしてきたことは間違いない。ただ、長寿地域に住む、筋肉の保たれた高齢者がみな特殊な筋トレをして肉やプロテインをとっているのか、と言えば、間違いなくノーであろう。

やはり、まずは海藻、豆、野菜、味噌汁などをしっかり食べて腸に酪酸を増やすという“日本人の腸にふさわしい”アプローチに立ち返ることも重要である。海藻に含まれる「アルギン酸ナトリウム」は酪酸菌のエサとなる「プレバイオティクス」の働きをして酪酸菌を増やすが、海藻は良質なたんぱく源でもある。

海苔(のり)はなんと約40%のたんぱく質を含んでいる。たんぱく質の「質」は、「アミノ酸スコア」で判定されている。肉や卵、乳製品のアミノ酸スコアは100。しかし、これらの食品には脂質が多く、「高カロリー」である。これに対して、海藻は海苔=91、ワカメ=100、昆布=82と非常に高いアミノ酸スコアなのにもかかわらず、「低カロリー」である。

海藻にはヨウ素過剰摂取などのリスク要素も指摘されるものの、日本のように海藻を多く摂っている国でも、若年層ではヨウ素の不足が懸念されている。

■筋肉から分泌されるホルモンが大腸がんの発生を抑える

覚えておいてほしいのは、筋肉はただ体を支え、体を動かすためだけのものではないということだ。筋肉もほかの臓器と同じように、生命活動に必要なホルモンを分泌する重要な「内分泌器官」なのである。

江田証『超一流の腸活術 最高のパフォーマンスを生み出すための食事法と習慣』(KADOKAWA)
江田証『超一流の腸活術 最高のパフォーマンスを生み出すための食事法と習慣』(KADOKAWA)

しかも筋肉は、がんの発生やがん細胞の増殖を防ぐ“天然の抗がん剤”とも呼べるホルモンをたくさん分泌しているのだ。

イギリスの超一流の医学雑誌『GUT』で発表された論文では、筋肉から分泌される「SPARC(スパーク)」というホルモンが血流にのって大腸まで届き、そこで大腸がんの発生を抑制する働きをしていることが報告されている。

つまり、「筋肉量が多い人ほど大腸がんになりにくい」可能性があるということだ。運動して筋肉量を維持することで、大腸がんのリスクを減らすことができるのである。

世界でもっとも権威のある内科系医学雑誌『The Lancet』にも、大腸がんや乳がんの10%は「不活動(運動不足)」が原因であるという報告が掲載されている。適度な運動に加え、酪酸菌を増やすことがわかった日本古来の食事で筋肉を維持し、常に増やすように心がける。酪酸菌を増やし、筋肉を増やすためにも今まさに必要なことなのだ。

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江田 証(えだ・あかし)
医学博士、江田クリニック院長
自治医科大学大学院卒。日本消化器病学会奨励賞受賞。米国消化器病学会(AGA)インターナショナルメンバー。日本消化器病学会専門医。日本消化器内視鏡学会専門医。「世界一受けたい授業」(日本テレビ)などテレビやラジオ、雑誌などに多数出演。著書に『新しい腸の教科書』(池田書店)、『腸のトリセツ』(学研プラス)、『小腸を強くすれば病気にならない 今、日本人に忍び寄る「SIBO」(小腸内細菌増殖症)から身を守れ!』(インプレス)など多数。著書累計は90万部を突破し、そのうち5冊が中国や台湾、韓国など海外で翻訳されている。

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(医学博士、江田クリニック院長 江田 証)

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