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来年の米大統領選挙はトランプ復活が有力…日本人が知らないアメリカ人の本音とは

プレジデントオンライン / 2023年11月2日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BluIz60

■起訴されてから支持率アップ

2024年11月5日に予定されている次のアメリカ大統領選挙まで、あと1年ほどとなった。年明け早々から民主党・共和党ともに予備選挙や党員集会が開かれ、大統領候補の指名争いが始まることになる。民主党は現職のジョー・バイデン大統領が再選を目指す中、共和党の指名候補争いでトップを走っているのは、あのドナルド・トランプ前大統領である。

トランプは20年大統領選におけるジョージア州の投票集計に不正に介入したとして、8月中旬に起訴されたばかりである。それまでも不倫相手への口止め料支払いに関連する業務記録の改ざん、機密文書の私邸への持ち出し、そしてもっとも需要なのは21年の米連邦議会議事堂襲撃への関与で、刑事事件の容疑者として通算4回も起訴されている。前代未聞の事態だが、仮に有罪判決が出たとしても立候補の権利を失うかどうかは、専門家の間でも議論がわかれている。

もちろんトランプ本人は出馬を断念する気は全くない。各種の世論調査を取りまとめたデータでは、10月12日の時点で共和党員の間のトランプの支持率は58.3%と、2位のロン・デサンティス・フロリダ州知事(同12.9%)を大きく引き離している。しかも多くの嫌疑で起訴された後のほうが、支持率はむしろ上がっているのである。さらに有権者全体での支持率も45.3%と、バイデンの44.5%をわずかに上回っている。世論調査にいろいろ問題はあるにせよ、今選挙を行えばトランプが勝つ可能性が十分あるということになる。

これはアメリカ、そして世界にとって、極めて深刻な事態である。選挙で国民に選ばれた政治家が政権を握るのが民主主義、立憲政治のルールである。それなのに自分が選ばれなかったからという理由で、トランプは選挙に不正があったと訴えて大統領に居座ろうとした。そして、彼の宣言以外には、選挙の不正に関する証拠は何も見つかっていない。彼が再選されるようなことになれば、アメリカは独裁国家に化してしまう危険性がある。

■差別社会の復活へと動くかつての白人中間層

なぜここまでトランプが支持されるのだろうか。トランプ支持者は、ある種のリーダーシップを感じ、そこに惹かれているようである。悪ガキの典型である彼には、やることが大胆で決断力があり、昔の「ハンサムでお金持ちのプリンス」のイメージがいまだに残っている。

トランプは「古き良きアメリカをもう一度取り戻そう」という「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン(MAGA)」をスローガンに掲げてきた。「古き良きアメリカ」とは、白人としてアメリカで生まれさえすれば中流的な生活が営めていた時代のイメージである。それは先行してヨーロッパからアメリカに渡ってきた白人層が、他人種移民の低賃金労働によって支えられてきた歴史であり、アメリカ建国以来の多民族社会の矛盾と表裏一体でもある。その後、公民権運動などを経て、こうした矛盾がだんだん解消していき、非白人層も国民として十分な権利と経済力を持つようになった。1960年代初頭に留学生として初めてアメリカを体験した私も、女性の権利の向上、多様性を重んずることで経済発展していくアメリカの歴史を目の当たりにしてきた。

しかし、産業構造の変化によってかつての白人中間層が不満をいだいているのも事実であり、差別社会の復活を通じて自分たちの助けにしようという動きが出てきた。それに火をつけたのが差別的態度をあからさまに示すトランプであり、前述のデサンティスである。

2021年7月5日、共和党のトランプ・ラリーの駐車場に駐車しているドナルド・トランプ・トレイン・メイク・アメリカ・グレート・アゲイン・バス
写真=iStock.com/Melissa Kopka
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Melissa Kopka

一方、再選を狙うバイデンは正面から問題に取り組み、国民に絶えず語りかけている。ただし、そのまじめな話しぶりのせいか、大衆をはっとさせるようなカリスマ性に欠けるのが、人気がぱっとしない理由の一つであろう。民主党政権内からも、国民を魅了する政治家がなかなか現れない。

トランプが放置したコロナ禍の後始末を、バイデンが2兆ドルのインフラ投資をはじめとする大胆な財政出動で乗り切ったことは評価しなければいけない。しかし、国民が感ずるのは、その後の物価上昇であろう。コロナ後のアメリカ経済は堅調で、ここにきてインフレ率も徐々に落ち着いてきた。それでもコロナ前の19年に比べ、10月上旬の時点で牛乳の価格は29%、ガソリンの価格は46%も高い。生活水準に影響するのは、インフレ率ではなくて、諸物価の水準である。インフレ率が低下したからといって、物価が下がるわけではない。平均賃金も上昇してはいるが、ほとんどすべてのモノやサービスの価格がコロナ前より一段階上がっているので、国民は間違いなく痛みを感じている。

■共和党と民主党の経済観の違いとは

早い段階でアメリカに渡ってきた人々は、自助努力をしながら切磋琢磨してアメリカ社会の中核を築き上げてきたという誇りをいだいている。共和党支持者の根底には「競争の中で頑張った人が報われることを否定するのはおかしい。ゆえに政府の権限はなるべく小さいほうがいい」という考えがある。

昔は、共和党にいい意味での政治観、社会観があった。一国の経済や社会は、個人が限界に立たされながらも、努力して競争するから進歩する。だから、金持ちから税金を徴収して貧しい人を社会保障で助けるよりも、政府の活動は少なくして市場の需給調整機能に任せたほうがよいと捉えるのである。

一方で民主党は、かつては奴隷制度、その後も被差別民族の犠牲で発展してきたアメリカ社会を直視し、そこで生じる格差を政府の介入によってできるだけ解消しようとする。だから富の再分配を重視するし、大学入試では人種枠を設け、奨学金貸与など経済的に恵まれないマイノリティにも高等教育や就職上のチャンスを与える。そして、それが国全体の繁栄に役立つと考えるのである。

共和党、民主党、どちらの考え方をとるかにはさまざまな考えがあってよい。しかし、自分が選挙で負けたら結果をひっくり返そうと試み、強引に権力の座に就こうとする人物を超大国アメリカの大統領にしていいのだろうか。24年の大統領選は、政策観の違いなどを通り越した立憲政治の根幹に関わることを読者にも理解してほしい。

トランプの強気な発言や暴言癖も相変わらずで、自分に批判的だった米軍制服組トップの統合参謀本部議長を「世が世なら死罪に値する」と罵(ののし)り、ハマスとイスラエルの衝突については、「私が大統領なら起きなかった」と強調した。通常、トランプの演説の聴衆は熱狂的ファンが多いのでヤジが飛ぶこともないが、後者に関しては聴衆から抗議の声が上がった。戦争によって、トランプが一番喜ぶ彼へのメディアの言及が急速に減っている。このあたりにアメリカの政治転換が隠れているのかもしれない。

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浜田 宏一(はまだ・こういち)
イェール大学名誉教授
1936年、東京都生まれ。東京大学法学部入学後、同大学経済学部に学士入学。イェール大学でPh.D.を取得。81年東京大学経済学部教授。86年イェール大学経済学部教授。専門は国際金融論、ゲーム理論。2012~20年内閣官房参与。現在、アメリカ・コネチカット州在住。近著に『21世紀の経済政策』(講談社)。

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(イェール大学名誉教授 浜田 宏一 構成=川口昌人)

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