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「ディープステート」を倒せるのはトランプ元大統領しかいない…米国で広がる陰謀論のすごいロジック

プレジデントオンライン / 2023年11月15日 10時15分

2023年10月29日、アイオワ州スーシティの選挙イベントに到着した共和党大統領候補ドナルド・トランプ元米大統領。 - 写真=AFP/時事通信フォト

アメリカで広がっている「陰謀論」とは、どのようなものなのか。作家マーク・カーランスキーさんの著書『大きな嘘とだまされたい人たち』(あすなろ書房)より一部を紹介する――。

■「世界を支配する闇の政府」はいつ登場したのか

使い古された策略を生まれ変わらせるには、新たな名前をつけるという手がある。アメリカの保守派の政治家たちは、秘密結社イルミナティの代わりとして、新たな架空の敵「ディープステート」(闇の政府)を生みだした。このディープステートは、支配からの解放という大義のもとに、事あるごとに非難を浴びている。

ディープステートというフレーズが最初に使われたのは、第一次世界大戦後のトルコでだった。オスマン帝国の消滅後、ケマル・アタテュルク(1881〜1938)は1923年、近代的なトルコ共和国を建国した。

これに対し、民主主義に反対する保守派の集団が1950年代に結成され、「国家の内部における国家」と名乗った。主に暴動を扇動する軍人から成る集団で、政府関係者を共産主義者と見なして攻撃し、この集団の過激派は数千名もの犠牲者を出したと言われている。

1970年代になると、ソ連からの亡命者たちが「KGB(国家保安委員会)はソ連政府を操るディープステートだ」と主張しはじめた。ソ連崩壊後、ロシアを最終的に掌握したのが、元KGBのウラジーミル・プーチン(1952〜)だったというのは、なんとも皮肉な話と言えよう。

次にディープステートというフレーズが登場したのは、アメリカのバラク・オバマ大統領(在位2009〜2017)の任期後半にあたる2014年。元共和党の議会補佐官マイク・ロフグレン─―2011年に引退してからは、共和党をあけすけに批判するようになった─―が『Anatomy of Deep State(ディープステートの解剖)』という論文を書いたときだ。

■トランプの出現で変わったこと

ロフグレンの描くディープステートはこれまでとは違い、「政府を堂々と操る、財界および産業界の富豪のリーダーたちのネットワーク」だった。

ロフグレンの論文によると、ディープステートは「秘密の陰謀組織ではなく、ありふれた光景の中に潜んでいて、白昼堂々と活動している。結束の強いグループではなく、明確な目標があるわけでもない。むしろ政府全体に広がり、民間セクターにまで入りこんだ、無秩序に広がるネットワークだ」という。

ロフグレンにとって敵は、金融街のウォールストリートとIT産業の中心地シリコンバレーだった。ロフグレンの語る概念─―「政府全体に広がり、民間セクターにまで入りこんだ、無秩序に広がるネットワーク」─―は、とくに目新しいものではない。

実際、ドワイト・アイゼンハワー元アメリカ大統領(在位1953〜1961)は1961年の退任演説で、将来の大統領たちに対し、「それが意図されたものであろうとなかろうと、軍産複合体(軍部、民間企業、政治家が、それぞれの利益のために連携し、国防支出の増大を図る癒着構造)が不当に影響力を持たぬよう、用心しなければならない」と警告している。

■すべてはディープステートが悪い

しかしディープステートというフレーズは、ドナルド・トランプとその支持者たちによって、またしても新たに定義された。今回の定義は「反トランプの陰謀を企てる裕福な権力者たちの秘密組織」というものだ。

「反トランプの陰謀を企てる、トランプ版ディープステート」は長年にわたって活動しており、アメリカ政府が下した数々の最悪の決定への責任をなすりつけられた。

たとえばベトナム戦争への関与。アルカイダによるアメリカ同時多発テロ事件もそう。「イラクのサダム・フセインが大量破壊兵器を所持している」という嘘をブッシュ政権(2001〜2009)に信じこませたのも、オバマ大統領に中東での無人機攻撃を決断させたのも、すべてディープステート。ロシアの大統領選干渉疑惑に対するFBI(米連邦捜査局)の捜査は、トランプを倒すためのディープステートの陰謀。

ディープステートの目的は、権利を奪われた貧民を犠牲にして、ウォールストリートと金持ちのエリートたちがさらに富を築くこと。

これが、トランプ版ディープステート陰謀論だ。この架空の陰謀論を踏み台にして、トランプは典型的なアメリカのヒーローにのしあがった。

■奇怪な陰謀論

無能な歴代大統領よりも背が高く、力も強い、「男のなかの男」トランプ。一般人を食い物にしようともくろむ悪の権化の金持ちや権力者を撃退すべく、たったひとりで戦うトランプ。そのトランプならきっと、ディープステートに勇猛果敢に立ちむかい、我々を救ってくれるはず―─。トランプ版ディープステートの信奉者は、そう信じている。

しかしトランプは莫大な財産を相続しており、金持ちのエリートに対抗するというより、むしろ金持ちのエリートのひとりとして、冷静に事態を観察していたふしがある。それを思うと、この陰謀論は奇っ怪としか言いようがない。

トランプが大統領に選出されるより前に、トランプの側近スティーブン・バノン(元投資銀行家、1953〜)はいち早く、「トランプの選挙は、『孤高の戦士トランプ』と『エリート層が支配するディープステート』との壮大な戦いのゴングを鳴らすだろう」と偽名で記事を書いている。

トランプ陣営の基本戦略は、政府嫌ぎらいで政府を信用していない人々を、トランプ支持に取りこむこと─―トランプがめざすのは、他ならぬその政府のトップの座なのに、だ。

■「民主党員の多くはトカゲ人間」

2008年のアメリカ大統領選のころ、「民主党員の多くは、実は宇宙から来たトカゲだと判明した」というデマが流れた。民主党のトカゲたちの目標は、世界征服。ユダヤ人やイルミナティやディープステートといった陰謀論の目標と同じ世界征服だ。

「トカゲ人間」は投票用紙にまで登場した。投票したい候補者がひとりもおらず、不満を抱いたミネソタ州のひとりの有権者が、投票用紙にそう書いたのだ。本人は後にジョークのつもりだったと述べているが、2010年の中間選挙で、トカゲ人間だらけの民主党ではなく、共和党が票を伸ばしたことに安堵(あんど)した有権者たちもいる。アメリカを乗っ取ろうとするトカゲたちの陰謀が、少なくとも当面は失敗したことを意味するからだ。

ソーシャルメディアによると、トカゲは人間に姿を変える能力があるらしい。トカゲ論の著作が多い著述家のデービッド・アイクによると、トカゲは古代から人類の歴史を操ってきたそうだ。

アイクは1998年に出版した『大いなる秘密』の中でトカゲ論を確立し、ソーシャルメディアや自分のウェブサイトを通じて世間に広めた。トカゲ論によると、トカゲは民主党員だけではなく、共和党員にもいる。ジョージ・W・ブッシュ(元テキサス州知事、元大統領)やドナルド・ラムズフェルド(生涯で2度、米国防総省のトップを務め、2021年に死去)は、人間になりすましたトカゲの共和党員なのだそうだ。

■トカゲ人間の見分け方

民主党の有名人としては、ビル・クリントンとヒラリー・クリントン、バラク・オバマがトカゲ。アメリカの政党とは無関係のイギリスの故エリザベス女王や、20世紀に活躍したコメディアンのボブ・ホープ、歌手のマドンナやケイティ・ペリーや女優のアンジェリーナ・ジョリーといった現代のセレブも、トカゲだ。

「トカゲはフリーメーソンだけでなく、イルミナティも操っている」と、トカゲ論者のアイクは主張する。人間に姿を変えたトカゲの見つけ方については、いろいろな人がアイクのウェブサイトやソーシャルメディアに持論を投稿している。

美しい緑色のトカゲのクローズアップ
写真=iStock.com/IanLoveland
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/IanLoveland

たとえばトカゲ人間の明らかな特徴としては、緑色の目、鋭い視覚と聴覚、赤毛、宇宙好き、低血圧があげられ、最大の特徴は人間に対してよそよそしいことだという(周囲から孤立した人を「宇宙から来たトカゲ」と疑いたくなる気持ちは、わからないでもないが、もっとまともな説明がつくはずだ)。

アイクのフォーラムでは「ほほえんだときに下の歯が見える人や、目の大きさが変わる人や、瞳孔が不自然に大きい人は警戒したほうがいい」と勧めているが、ハンドルネームUFOchick氏によると、身体的特徴だけでトカゲ人間を見破るのは難しいらしい。「重要なのは身体そのものではなく、身体に宿る魂のほうだ」と、同氏は警告している。

■星座の話が出たら気をつけろ

トカゲ論に登場するトカゲは、りゅう座(名前のごとく、竜の形をしている、全天で8番目に大きい星座)から来た可能性が高いとされているが、おおいぬ座やオリオン座の可能性もあるとされている。

だが星座から来たとする説は、眉唾物だと疑ってかかるべきだ。星座を偽物と決めつけるのは辛辣(しんらつ)すぎる気がするが、星座はまちがいなく想像の産物だ。

夜空を地図のように描く目的で、天文学者はいまでも星座を利用しているが、星座はそのままの形で宇宙に存在するわけではない。「××が××星座から来た」という噂を耳にしたら、星座は恒星間の位置情報ではないし、星座を形作る星々は宇宙で近くに固まっているわけでもないことを、どうか思いだしてほしい。

星座は、おそらく有史以前の古い神話に基づいている。シュメール人、古代エジプト人、中国人、オーストラリアの先住民など、多くの民族が星座の存在を知っていた。科学の知識がない占星家が星々を見て、星と星とをつなぎ、さまざまな形を想像したのが星座だ。

もし地球の外の遠く離れた地点から、星座を成す星々をながめられるとしたら、我々の知っている星座とはぜんぜんちがう形に見えるだろう。夜空の星座は星々が集まっているように見えるかもしれないが、実際の宇宙ではそれぞれ遠く離れている。ほとんどの場合、星座を成す星々の共通点は、同じ銀河系の星という点と、地球から裸眼で見えるくらい光っている点しかない。

■アメリカ人の4%が信じている

マーク・カーランスキー『大きな嘘とだまされたい人たち』(あすなろ書房)
マーク・カーランスキー『大きな嘘とだまされたい人たち』(あすなろ書房)

「宇宙から来たトカゲが人間に扮し、地球を征服しようとしている」という説を疑うのに、なにも星座まで否定しなくていい。しかし現実には、トカゲや星座など、トカゲ論全般を信じている人もいる。

世論調査会社のパブリック・ポリシー・ポーリングは、2013年4月、「アメリカ人の4パーセントは、トカゲ人間の存在を信じている」という結果を発表した。もしそうならば、1200万人ものアメリカ人が、少なくともトカゲ人間が存在する可能性を考えていることになる。

トカゲ人間はいると信じているが、トカゲ人間からの報復を恐れ、公に認めようとしない人は、もっと大勢いるのかもしれない。

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マーク・カーランスキー 作家
『ニューヨーク・タイムズ』紙でベストセラー入りした3冊〔『鱈 世界を変えた魚の歴史』(飛鳥新社)、『「塩」の世界史 歴史を動かした、小さな粒』(扶桑社)、『1968 世界が揺れた年』(ヴィレッジブックス)〕を含む35冊の著作が、30言語に翻訳された。ジェームズ・ビアード財団賞、『ボナペティ誌』フードライター・オブ・ザ・イヤー(最優秀賞)、デイトン文学平和賞など、多数の受賞歴がある。

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(作家 マーク・カーランスキー)

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