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このままでは家電と同じ道をたどる…「世界最大の自動車輸出国」が日本から中国に変わった根本原因

プレジデントオンライン / 2023年11月6日 9時15分

10月26日~11月5日の日程で開催された「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」で展示されたBYDの新型EV「ドルフィン」 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■モビリティショーでひときわ際立ったBYDの展示

10月25日、“ジャパンモビリティショー”の報道向け公開が開催された。出展企業の中で存在感が際立ったのは、中国の“比亜迪(BYD)”だ。「EVで世界の温度を1℃下げるのがBYDのビジョン」と、日本法人の劉学亮(りゅうがくりょう)社長は強く訴えた。EVの一点集中で高い成長を目指すとのメッセージは明瞭だ。

一方、トヨタや日産をはじめ国内の大手自動車メーカーは、“全方位型”の戦略を進めると改めて表明した。エンジン車、HV(ハイブリッド車)、PHV(プラグイン・ハイブリッド車)、EV、そしてFCV(燃料電池車)のすべてをプロダクト・ポートフォリオに収める。

また、居住空間としての自動車、空飛ぶ自動車など、多種多様な移動=モビリティの手段を提供する。電動化を加速するため、全固体電池などの研究開発も強化する。いずれも“EVで業績を拡大する”というメッセージではない。各社共通して、HVなどエンジンを搭載した自動車の製造技術への依存の高さがうかがえた。

この状況が続くと、BYDやテスラなどと、わが国の自動車メーカーのEV競争力の差は拡大するだろう。EVの出遅れによって業績が伸び悩めば、全固体電池など次世代技術の研究開発の強化も難しくなるだろう。展開次第でわが国の自動車が、家電産業の二の舞になる恐れは増しそうだ。実際にショーを訪問し、それほどBYDの存在感は際立った。

■日本を抜き、中国が世界最大の自動車輸出国に

足許、世界の自動車産業の環境変化の勢いは増している。脱炭素、デジタル化の加速などを背景に、エンジン車からEVへのシフトは鮮明だ。EVはエンジンを搭載した自動車ほどの製造技術を必要としない。わが国でも家電量販店などがEV分野に参入した。

その中で急速に競争力を発揮しているのが、中国で生産を行うEVメーカーだ。2023年1~3月期、わが国を追い抜き中国は世界最大の自動車輸出国になった。8月までの各月累計でも、傾向に変わりはない。牽引するのはBYDと上海で生産能力を増強し輸出体制を整備した米国のテスラなどだ。

BYDとテスラはEVの生産体制を急速に強化した。共産党政権は土地の供与や工作機械の導入、EV販売などを政策面から補助した。そのため、BYDなどの中国メーカーのコスト負担は、日米欧韓の自動車メーカーを下回る。

中国共産党政権はEV生産コストの4割程度を占めるといわれる車載バッテリーメーカーへの支援も強化した。車載バッテリー最大手、寧徳時代新能源科技(CATL)、BYDのバッテリー事業の成長は加速した。

■中国製EVに制裁関税を発動する可能性も

バッテリーの部材分野でも中国企業の成長は目覚ましい。絶縁材(セパレータ)分野で上海恩捷新材料科技(上海エナジー)は、リチウムイオンバッテリーなどに用いられる絶縁材の生産能力を急速に強化し、世界トップに成長した。事実上、中国の企業はEV関連産業の川上から川下までを押さえたといえる。

その状況に危機感を強める主要先進国は増えた。米国は、北米で生産されたEVに補助金を支給するなどし、自動車メーカーに中国からの調達を減らすよう求めた。米国内でバッテリー工場建設を目指したフォードは、CATLの支援をうける計画が批判され、建設の一時停止を発表した。再開のめども立っていない。

欧州委員会は中国の産業補助金が過度なEVの価格競争を招いたと判断し調査を開始した。洋上風力発電を増やしカーボン・ニュートラルなEV生産の増加に取り組むドイツでさえ、BYDなどの競争力向上は脅威だろう。欧州委員会が中国から輸入するEVに制裁関税を発動する可能性も高い。

BYDはリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを用いてEV車の量産に成功した
撮影=プレジデントオンライン編集部
BYDはリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを用いてEV車の量産に成功した - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■BYDはなぜここまで成長したのか

共産党政権による産業補助金以外にも、中国のEVメーカーの躍進を支える要素は多い。BYDのバッテリー製造技術などを確認すると、それがよくわかる。わが国ではEVバッテリーに“リチウムイオンバッテリー”を搭載することが多い。一方、BYDは“リン酸鉄リチウムイオンバッテリー”を自社で開発し、わが国でも販売する“アット3”や“ドルフィン”などに搭載した。

リン酸鉄リチウムイオンバッテリーは、レアメタルの“コバルト”を使わないためにコストが低く、安全性も高いといわれる。一方、課題もある。その一つに、エネルギー容量の小ささがある。そのため車載用バッテリーとして、リン酸鉄系よりも、コバルトなどを用いるリチウムイオンバッテリーが選好された。

課題を解決するために、バッテリーメーカーとして創業したBYDは研究開発を重ね、リチウムイオンバッテリーを上回る性能を持つリン酸鉄リチウムイオンバッテリーの製造技術を実現した。BYDは2010年に発表したEVの“e6”からリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを用いた。

■手ごろな値段で使いやすいEVは増えている

ドルフィンなどBYDのEVは、内装や操舵性の面で自動車としての基本性能は十分に満たしているようだ。航続距離も競合モデルに引けを取らない。BYDはモビリティショーに、独立した4つのモーターによってその場で360度回転が可能な高価格帯のSUV“U8”も出展した。

また、CATLは航続距離700キロを実現するリン酸鉄リチウムイオンバッテリーの実用化を目指している。CATLは冷却部材などをパックに組み込むことによりバッテリーの容量を増やし、航続距離の延長を目指す。この製造技術を“セル・トゥー・パック”と呼ぶ。

中国EV、バッテリーメーカーの技術革新は、BYDやテスラのEV価格引き下げ、航続距離の延長、安全性向上に寄与した。さらに、わが国で販売するBYDのEVには車種によって異なるが国と自治体の補助金も適用される。エコカー減税などの税制優遇もある。

手ごろな値段で、相応の性能を持つEVを提供する。先進技術の開発も徹底強化する。それによってEVで世界の気温を1℃下げると宣言するBYDは、モビリティショーの中でも存在感が際立った。

高価格帯のSUV「U8」
撮影=プレジデントオンライン編集部
高価格帯のSUV「U8」 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■全方位型戦略の日本メーカーはどうする

製造技術の急速な向上、共産党政権の支援などを背景に、中国のEV産業の成長は加速するだろう。なお、中国では新興EVメーカーの破綻が増え、野ざらしで放置されるEVも増えた(EVの墓場)。そうした側面もあるが、BYD、上海蔚来汽車(NIO)などは急速にEVの生産体制と海外拠点を拡充している。

共通するのは、世界のEV需要を可能な限り取り込んで業績を拡大するという方針だ。

テスラを含め中国製EVの加速度的な普及に、わが国の自動車メーカーが対応するためには、これまでの発想を根本から変えなければならないだろう。それができるか否かが、今後のEVシフトへの各メーカーの対応力に大きく影響する。

確かに、全方位型の戦略でエンジン車からEV、FCV、さらには次世代の動力源として期待される全固体電池の開発を進めることは理にかなっているように見える。しかし、今得られるEV関連の収益を確実に増やさなければ、中長期の視点で研究開発体制を強化することは難しくなるだろう。EV市場でシェアを高めることができなければ、次はない。それくらいの覚悟がわが国の自動車関連企業に必要かもしれない。

■家電メーカーの二の舞は避けなければならない

もし、これまでの価値観から脱却できない、あるいはそれが遅れると、わが国の自動車産業は、かつての家電メーカーのような厳しい状況に陥ることも考えられる。

1990年代以降、世界経済のグローバル化を背景に国際分業が進み、中国、韓国、台湾企業の製造技術は向上した。米アップルなどはソフトウェアの設計開発に集中し、ハードウェアの生産を台湾の鴻海(ホンハイ)精密企業などに外注し、事業運営の効率性は急速に高まった。そうした変化にわが国の電機メーカーは対応できず、競争力を失った。

現在、自動車はわが国の経済を支える主力産業だ。BYDなどの急成長は、わが国の自動車産業にとって脅威だ。EVシフトへの遅れが深刻化すれば、自動車産業全体の競争が失われる。経済の実力は低下し、自力での事業継続が難しくなるケースも出るかもしれない。それくらいの危機感をもってわが国の自動車関連企業はEVシフトに対応しなければならない。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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