1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

わが子の「ヤバい」「エグい」を放置してはいけない…中学受験専門家が語る「便利すぎる形容詞」の危険性

プレジデントオンライン / 2023年11月8日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/real444

わが子が「ヤバい」「エグい」「スゴい」といった形容詞を使うようになったら注意が必要だ。中学受験指導のエキスパートである矢野耕平氏は「この手の表現を多用する子ほど、読解問題が苦手な傾向にある」という――。

※本稿は、矢野耕平『わが子に「ヤバい」と言わせない 親の語彙力』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■大人顔負けの難しい文章を読んでいる中学受験生たち

「胃袋が期待の声をあげる」「目を瞠(みは)る」「悪態をつく」「眉を寄せて黙る」「凄(すご)む」「言葉に詰まる」「唇を噛む」「眉を寄せる」「狼狽(うろた)える」「危ぶむ」「軽蔑の眼差しを向ける」「腑抜ける」「感嘆のため息をつく」「称賛の声が洩(も)れる」「ときめきが蘇(よみがえ)る」「目を見開く」「神妙に面持ち」「覇気(はき)がない」「強張(こわば)る」……これらの表現を小学生にもよく理解できるように説明せよ、と言われたら困ってしまう大人が多いのではないか。

これは、2023年度・聖光学院中学校(第1回)の国語入試問題の大問3(坂井希久子『たそがれ大食堂』双葉社)の文章に登場した「心情表現」である。中学受験生である小学校6年生の子どもたちは、これらの表現を制限時間内で瞬時に解釈しつつ、物語文を読み解いていかねばならない。

さて、日本語には数多くの「心情表現」が存在する。わたしは2019年に『13歳からの「気もちを伝える言葉」事典』(メイツ出版)という本を刊行し、小中学生に知ってほしい心情表現を整理して並べたのだが、その総数は600語を超えた。また、1993年に刊行された中村明『感情表現辞典』(東京堂出版)を紐解くと、さまざまな感情を表す単語や熟語が2,278語も収録されている。

■「ヤバい」「エグい」「スゴい」は万能型の心情表現

翻(ひるがえ)って、昨今の子どもたちの様子を観察していると、そのときどきの心情を表すストックがかなり限定的であるような気がしている。たとえば、何か事が生じるたびに「ヤバい」「エグい」「スゴい」……このような表現がすぐに口をついて出てくるような子はいないだろうか。そして、子どもたちに国語の指導をしていると、これらの表現を連呼する癖が付いてしまっている子ほど、国語の読解問題で苦労しているように思える。

日本の文学
写真=iStock.com/anants
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/anants

それでは、先述したように日本語には数多くの心情表現があるのに、なぜ「ヤバい」「エグい」「スゴい」といったお決まりフレーズに頼る子どもたちが多いのか。

「ヤバい」についての例文を見てみよう。

① 次の授業で宿題の提出なんてあった⁉ ヤバい、何もやっていない……。
② 昨晩明け方まで起きていたからか、眠すぎてヤバイ。
③ 彼の悪口を言っていたら、どうやらそれを聞かれていたみたいでかなりヤバい。
④ あの曲聴いていたら泣けてきてヤバイ。
⑤ この前、俳優の○○を街で見かけたんだけど、ヤバかった。

上述した①~⑤の傍線部「ヤバい」はそれぞれ別の「心情表現」に置き換えられることが分かるだろう。たとえば、①は「まずい」「動揺する」など、②は「つらい」「しんどい」「苦しい」など、③は「うしろめたい」「気まずい」「うろたえる」「やましい」など、④は「感動」「切ない」「感傷的になる」など、そして⑤は「かっこいい」「感極まる」「感嘆」など……。

■「ヤバい」の起源は江戸時代

「ヤバい」とは「不都合であったり危険であったりする」ことを本来意味することば。江戸時代、「やば」は「盗人などが官憲の追及がきびしくて身辺が危うい」ときに発した形容詞とされている。1990年代には若者たちの間で「格好悪い」の意で用いられるようになったが、2000年前後からはマイナスの意味だけでなく、「とてもよい」「格好いい」「とてもおいしい」「楽しい」「感動する」などといった肯定的な意でも使い始められたのである。

こう見ていくと、「ヤバい」の指示する範囲は広大であることが分かる。言い換えれば、「ヤバい」一語でさまざまな心情を言い表せる「ヤバい」は汎用性に優れた便利な表現である。

そして、2000年前後といえば、いまから20年以上前。当時、高校生や大学生であった男女がいまは小学生の親になっていてもおかしくはない。親が「ヤバい」を多用しているのであれば、わが子に「伝染」してしまうのは当たり前の話だ。

■思考の深さは語彙の豊かさに比例する

もちろん、ことばは時代とともに変化するのは当然だし、だからこそ、わたしたちはかつて「古文」を学ばなければならなかったのである。

しかし、わが子が、いや親子で「ヤバい」を多用しているのであれば、それまで存在していたそのときどきの心情・心持ちの「近似値」に相当するだろう数多くのことばを知らずに過ごしてしまう危険性がある。これはかなりヤバい(否定的な意味)。

矢野耕平『わが子に「ヤバい」と言わせない 親の語彙力』(KADOKAWA)
矢野耕平『わが子に「ヤバい」と言わせない 親の語彙力』(KADOKAWA)

このことが「ヤバい」と思う理由は、冒頭に挙げたような「入試問題の読解で苦労」することだけではない。人間はことばで思考する生き物ゆえ、手持ちの語彙(ごい)が豊富であればあるほど、複層的な回路を有して物事に処することができるようになり、その一方で手持ちの語彙が貧困であればあるほど、物事を表層的なレベルでしかとらえられなくなってしまう。

「ヤバい」同様に、「エグい」も「スゴい」もプラスの意味とマイナスの意味の双方を有する万能型の表現である。そういえば、最近よく耳にするのは「しんどい」の新用法である。それまでの「肉体的・精神的な負担を感じる様子」の意味に加えて、「推しのアイドルが尊すぎてしんどい」といったプラスに転義されるケースに出くわす。「しんどい」が万能型の心情表現へと変化しつつあるのだろう。

「ヤバい」「エグい」「スゴい」……そして、「しんどい」。語彙が豊富に備わっている大人が、あえてそれらを口にするのは構わないのだろうが、まだことばの基盤を構築する初期段階の子どもたちが、これらの表現を多用するのは注意したいところである。

■中学受験の知識問題は語彙力UPの「宝物殿」

次の中学入試問題に取り組んでみてほしい。2022年度・高輪中学校(A日程)で出題されたものだ。

問 次の1~3の各文の(   )に入れるのにふさわしい語を後のア~カからそれぞれ1つずつ選び、記号で答えなさい。ただし、同じ語を2度は使わないこと。
1 妙な場所で電車が停車したことを(   )思った。
2 彼の演奏はあまりにも(   )て、批評のしようがなかった。
3 なかなか返事が来なかったので、(   )てしかたがなかった。
ア おびただしく   イ いかめしく   ウ つたなく   エ もどかしく
オ いまわしく    カ いぶかしく
《解答は末尾に記載》

心情表現を中心に選択させるものである。このような出題をすること自体、入試問題作成者は子どもたちの語彙に不安を抱いているということかもしれない。

ところで、いま挙げた「心情表現」もそうだが、国語の中学入試問題では読解のみならずいわゆる「知識問題」が数多く出題されている。この「知識問題」は、「言語知識問題」と「文法知識問題」に二分されるのだが、前者は、漢字の読み書き・漢字の知識(部首・画数・音訓・送りがな・かなづかいなど)・二字熟語(熟語の組み立てなど)・三字熟語・四字熟語・同音異義語・同訓異字・多義語・対義語・類義語・慣用句・ことわざ・故事成語・敬語・その他(畳語・比喩表現などのレトリック・助数詞・心情表現・オノマトペなど)と多岐にわたる範囲から出題されている。そして、これらの「言語知識問題」は子どもたちの語彙増強の「宝物殿」と形容して差し支えない。

中学入試問題をきっかけに、親子でワイワイ語り合いながら、ことばの面白さや奥深さを感じつつ、「語彙力増強」に努めてくれたら嬉しく思う。

〈高輪中学校入試問題の解答〉
① カ ② ウ ③ エ

----------

矢野 耕平(やの・こうへい)
中学受験専門塾スタジオキャンパス代表
1973年生まれ。大手進学塾で十数年勤めた後にスタジオキャンパスを設立。東京・自由が丘と三田に校舎を展開。学童保育施設ABI-STAの特別顧問も務める。主な著書に『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)、『13歳からのことば事典』(メイツ出版)、『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(文春新書)、『LINEで子どもがバカになる「日本語」大崩壊』(講談社+α新書)、『旧名門校vs.新名門校』』(SB新書)など。

----------

(中学受験専門塾スタジオキャンパス代表 矢野 耕平)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください