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「頭が痛い」という表現にはいくつ意味があるか…中学入試で「慣用表現」の問題がよく出る本当の理由

プレジデントオンライン / 2023年11月12日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kohei_hara

中学入試では「慣用表現」の問題がよく出題される。それはなぜか。中学受験指導のエキスパートである矢野耕平氏は「慣用表現を正しく読み解くには、言外の意味をとらえる必要がある。慣用表現の読み解きが不得手な子は、長文の読解問題でも苦労する傾向がある」という――。

※本稿は、矢野耕平『わが子に「ヤバい」と言わせない 親の語彙力』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■字義通りの意味と言外の意味

わたしは中学受験専門塾を営む傍ら、大学院博士課程で言語学を研究しており、わたしの所属ゼミには海外からの留学生が多い。

ある日の授業後、わたしはベトナム人の留学生と地下鉄の構内に向かって並んで帰途に就いていた。時刻は19時ごろだっただろうか。ちょうど眼前に飲食店が姿を現したタイミングで彼女はわたしに対してこんな一言を放った。

「矢野さんはこれから『暇』なのですか?」

わたしは彼女が食事に誘っているのだろうと即座に解釈して、「じゃあ、ご飯食べに行きましょうか?」と応じたところ、彼女は目を丸くして「え⁉ 行くわけないじゃないですか!」ときっぱり拒絶したのである。こちらとしては、なんだか一方的に振られた気分……。

わたしと彼女の解釈のズレは「暇」という表現の「言内の意味」「言外の意味」で説明可能である。

日本語学習者の彼女は「暇」を言内の意味(字義通りの意味)である「仕事と仕事の間の何もしないとき」で使用したのに対して、日本語ネイティブのわたしは「暇」を「ある物事をする(この場合「食事をする」)ための時間的なゆとり」という言外の意味で解釈してしまったのである。

日本語ネイティブ同士でも似たような経験を持つ方は多いのではないか。そして、話し手の発話解釈を正しく理解できないことを何度も繰り返してしまうと、その当人は話し手から信頼されなくなってしまうことも考えられる。(上の例では、わたしが深読みをしすぎてしまったことになる。)

■慣用表現とはそもそも何なのか

日本語に限らずどんな言語にも言内の意味(字義通りの意味)がある一方、言外の意味をそこに見出せることが多い。わたしたちはそれらを互いに無意識のうちに使い分けながらコミュニケーションを図っている。ところが、この手のコミュニケーションを不得手とする小学生は意外と多い。そして、そういう子ほど国語の読解問題で苦労する傾向にある。

考えてみればこれは当たり前の話である。読解問題とは、たとえば「傍線部が引かれている文言」を字義通りに捉えるのではなく、その言外に隠れている意味を理解することが求められるからだ。

鉛筆で漢字を練習する子供
写真=iStock.com/Hakase_
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hakase_

これは何も文章読解に限らない。ちょっとした表現ひとつについても同様のスキルが求められる。「慣用句」「ことわざ」「比喩表現をはじめとしたさまざまなレトリック」……このような、大きくまとめて「慣用表現」と呼ばれるものの大半は言外の意味で解釈しなければならない。

唐突だが、皆さんは「頭が痛い」という表現の意味がお分かりになるだろうか。え⁉ そんなの単純ではないか? と訝(いぶか)しく思われた方、本当にそうだろうか。この表現には2通りの意味に捉えられないだろうか。

言内の意味(字義通りの意味)では「頭にズキンズキンと鈍い痛みが走る状態」となる一方、言外の意味(「慣用句」としての解釈)だと「(何か厄介な事態が発生して)途方に暮れている状態(悩んでいる状態)」となる。両者を取り違えると、途端にコミュニケーションが不調に陥るのは自明の理だろう。受け取る側ももちろん、そのことばを使うほうも、正しい文脈で受け取ってもらえるように工夫しなければならないのだ。

■「外国のことわざ」から「日本のことわざ」を導けるか?

それでは、2017年度の普連土学園中学校の国語入試で出題された言語知識問題を一部紹介したい。皆さんはすべて正解することができるだろうか。

問 次の①~⑤は外国のことわざですが、似た意味のことわざが日本にもあります。それぞれ後のア~シから選び、記号で答えなさい。

① 卵を割らずにオムレツを作ることはできない。
② プリンの味は食べてみなければ分からない。
③ 娘を得んとすれば、母親から始めねばならぬ。
④ コックが多いとスープがまずくなる。
⑤ ネコがいないとネズミが跳ね回る。

ア 悪銭身につかず     イ 石の上にも三年 ウ 鬼の居ぬ間に洗濯
エ 郷に入っては郷に従え  オ 将を射んと欲すればまず馬を射よ
カ 船頭多くして船山に上る キ 捕らぬ狸の皮算用
ク 憎まれっ子世にはばかる ケ 覆水盆に返らず コ 蒔かぬ種は生えぬ
サ 弱り目に祟り目     シ 論より証拠
《解答は末尾に記載》

複数の個別的事例(具体例)の「共通項」を見出して一般的な結論を見出すその手法を「帰納法」という。この普連土学園の問題はこのスキルが求められることがお分かりになるだろうか。そして、「共通項」とは「言外の意味」に相当する。

矢野耕平『わが子に「ヤバい」と言わせない 親の語彙力』(KADOKAWA)
矢野耕平『わが子に「ヤバい」と言わせない 親の語彙力』(KADOKAWA)

この「帰納法」は日常生活でも自然に求められるもの。これこそ「察するスキル」と言い表せるのではないだろうか。

「察する」とは「おしはかって考える。推察して知る。また、思いやる。想像する」という意味がある。ビジネスの場で、たとえ話や具体的事例(エピソード)をまぜて話をしてきた際、その送り手の意図がまったく推察できず理解できなければ、あなたは「察しの悪い人」「鈍い人」だという烙印(らくいん)を押される可能性がある。身に覚えはないだろうか。あるいは、あなたの周囲に「この人には全然言いたいことが伝わらないなあ」などとイラッとさせられるような人はいないだろうか?

「察するスキル」とは、相手の言動から即座に「言外の意味」を読み取る能力なのだ。

■大人になっても必要なスキル

先に挙げた普連土学園の問題でいえば、「ことわざ」が「相手の言動」に相当し、「そのことわざの意味」が「言外の意味(共通項)」となる。読解問題のみならず、知識問題であっても「帰納法」が試されるという理屈が理解できるだろう。

前述した通り、これは他者と円滑なコミュニケーションを図るうえで有益なトレーニングとなる。大人だってそうなのだから、子どもたちにとってもこれは大切なスキルになるのは言うまでもない。この手の知識問題でそのスキルを親子ともども磨いていきたいものだ。

〈普連土学園中学校入試問題の解答〉
① コ ② シ ③ オ ④ カ ⑤ ウ

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矢野 耕平(やの・こうへい)
中学受験専門塾スタジオキャンパス代表
1973年生まれ。大手進学塾で十数年勤めた後にスタジオキャンパスを設立。東京・自由が丘と三田に校舎を展開。学童保育施設ABI-STAの特別顧問も務める。主な著書に『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)、『13歳からのことば事典』(メイツ出版)、『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(文春新書)、『LINEで子どもがバカになる「日本語」大崩壊』(講談社+α新書)、『旧名門校vs.新名門校』』(SB新書)など。

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(中学受験専門塾スタジオキャンパス代表 矢野 耕平)

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