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燃料代が上がり、世界景気を悪化させる恐れ…EUが世界中に押し付けようとする「身勝手すぎる新ルール」とは

プレジデントオンライン / 2023年11月6日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DGLimages

■二酸化炭素の次は、メタンガスを標的にするEU

ロイター通信が伝えたところによると、欧州連合(EU)の執行部局である欧州委員会は、EUに天然ガスを輸出する域外の企業に対して、2030年からメタン排出量の上限を課すことを提案しているようだ。

詳細は不明だが、基準を超過した企業からの天然ガスの輸入を停止するか、あるいは一定の輸入関税をかけることになるとみられる。

メタンは天然ガスの主成分で、そのおおよそ9割を構成する物質である。メタンを主成分とする天然ガスを燃料として用いた場合、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出量が、他の化石燃料に比べるとかなり少なくて済む。

したがって、メタンを主成分とする天然ガスの利用は、温暖化対策の観点から、非常に重視されているのである。

他方で、メタンそのものは温室効果ガスとしての側面を持っている。米環境保護庁によると、メタンの地球温暖化係数(CO2を基準として他の温室効果ガスが持つ温暖化効果を示したもの)は100年間で27~30倍と推定されている。

また産業革命前からの世界平均気温の1度上昇のうち、メタンガス排出量は要因の半分を占めているともいわれる。

■メタンの寿命は10年ほどにすぎない

そうはいっても、メタンの寿命は10年ほどであり、1000年が経過してもその20%が残り続けるとされるCO2に比べると、かなり短い。

対流圏(地表から10~16kmまでの大気の層)における光化学反応で分解されるためであるが、要するにメタンは、CO2に比べると、強い温室効果を持つ一方で寿命が短いという特性を持つ温室効果ガスである。

温室効果ガスに占めるメタンの割合は2割に満たないが、短期間のうちに消滅するメタンの特性に鑑みれば、その削減を進めることで、温室効果ガス全体の排出量が大いに抑制されると期待される。

そのため、温暖化対策を重視するEUは、EU域内の企業のみならず、域外の企業に対してもメタンの削減を呼びかけているという経緯がある。

■COP28で存在感を示したいEUの思惑

すでに欧州委員会は、2021年に、EU域内の企業にメタンの排出削減を義務化する法案を提出している。

この法案は現在、今年11月30日にドバイで開催される国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)までの合意を目指し、EUの立法府である欧州議会とEU各国との間で、協議が進められているところである。

欧州委員会には、まずはEU域内の企業にメタンの排出削減を義務化し、COP28で存在感を示したうえで、温暖化対策のけん引役として世界的なメタンの削減のイニシアチブを握りたいという思惑があるようだ。

いかにもEUらしいことの運び方といえるが、このメタン削減の動きが本当にEUの思い通りに進んでいくかは、良く分からない。

EUに天然ガスを輸出する域外企業への規制に話を戻すと、このメタン排出量の規制が導入された場合、EUへの最大のガス供給国であるノルウェーの企業は、それほど影響を被らないようだ(図表1)。

これは同国のメタン排出量がそれほど多くないためだが、一方で米国とアルジェリアのガス輸出企業は、その影響を強く被ることになる。

【図表1】EUの天然ガス輸入量の国別構成比
筆者作成

■規制の影響を受けるのは米国企業

特に米国は、主力のシェールガス(頁岩(けつがん)層から産出される天然ガス)が大量のメタンを放散するため、このEUの規制を強く受けることになる。

EUの規制に対応してメタンの放散を防ぐためには、パイプラインや貯蔵施設の改修・新設など、莫大(ばくだい)な設備投資が必要となる。当然、時間も労力も必要となるが、これを誰かが負担する必要がある。

米政府は今のところ、欧州委員会と歩調を合わせている。

2021年のCOP26の場でバイデン政権は、米国とEUの共同で「グローバル・メタン・プレッジ」(メタンの排出量を2030年までに2020年対比で30%減らす目標)を発表、翌年のCOP27でも「米国メタン排出削減行動計画」を発表し、国内の脱メタン化を支援する姿勢を示した。

■今のところは米国と足並みをそろえているが…

とはいえ、2024年の米大統領選で政権交代が実現し、共和党政権となった場合、米国のメタン排出削減行動計画は軌道修正されるのではないだろうか。

基本的に、共和党政権は「小さな政府」路線であり、健全財政をよしとする。それに、最悪期は脱したとはいえ、先行きも高インフレが続けば、共和党政権ならば歳出削減を進めるはずである。

他方で、米国第一主義を掲げるドナルド・トランプ元大統領が再選したり、あるいはトランプ元大統領の考えに近い候補が当選したりした場合は、バイデン政権が立案したメタンの排出量削減計画は抜本的に見直されることになるのではないか。

場合によっては、メタンの排出量削減計画そのものが放棄されることも、十分にありえる展開だ。

そもそもEUのメタン削減計画は、2019年に発表された「欧州グリーンディール」に基づき、2020年10月に発表されたものである。

トランプ前政権時代の米国はEUの温暖化対策の方針に対して距離を置いていたが、2021年1月にバイデン政権が誕生したことで、米国はようやくEUと足並みを揃えるようになったという経緯がある。

アメリカとEU
写真=iStock.com/mediaphotos
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mediaphotos

■ロシアのウクライナ侵攻で事情は変わったのに…

それにEUのメタン削減計画は、2022年2月に発生したロシアのウクライナ侵攻以前に発表されているが、計画の発表当時と比べて、EUの天然ガス事情は様変わりしている。

パイプラインを通じてロシア産の安価なガスを調達出来なくなったため、EUは米国など第三国から液化天然ガス(LNG)の輸入を増やさざるを得なくなっている。

EUでは、天然ガスの価格の動きが物価の安定を大きく左右する。そのため、需要家であるEUと供給者である米国の関係は、本質的に米国が有利な立場である。

不利な立場のEUが、自らが主導するかたちで、有利な立場の米国に対して、天然ガスの生産に伴い発生するメタンの削減を要求することができるのか、素朴な疑問に突き当たる。

■ガス代がどんどん上がる…コスト高に突き進むEU

仮に米国の天然ガス企業が、EUが求めるメタン削減の基準を満たさなかった場合、EUは米国以外の企業からガスの輸入を増やすことになるのだろう。

しかし、基準を満たすノルウェーの企業からガスの輸入を増やすとしても、増やせる量には限度がある。ガス需要の削減にも時間を要するため、EUのガス価格は上昇を余儀なくされる。

それに米国の天然ガス企業は、EUが求めるメタン削減のための費用を払うくらいなら、ガスの輸出先を日本や韓国といった東アジアの国々にスイッチするという選択をするかもしれない。そうなれば、EU各国のガスの価格が上昇する一方で、東アジア各国のガス価格は安定するという、実に皮肉な状況が生まれることになる。

EUが本当に、EUに天然ガスを輸出する域外企業に対して、2030年からメタン排出量の上限を課すようになるか、まだ分からない。確実にいえるのは、そうした規制を設定すれば、EU市場のガス価格に対する上昇圧力が強まるということである。

そして、価格が上昇した分のコストを負担するのは、最終的にはEUの消費者となる。

■「脱メタン先進国・日本」はEUに左右されてはいけない

EUは、二酸化炭素に続いて、メタンの排出の削減にも野心を燃やしている。

確かに、温室効果ガス全体の削減を図るうえでは、メタンの排出は重要なのだろう。とはいえ、アプローチの仕方を間違えると、EUは米国のみならず、すでにメタンの削減に賛同している国々からも、距離を置かれてしまうことになるのではないだろうか。

一方で、日本への影響である。日本はそもそも、脱メタン化の先進国だ。それに資源エネルギー庁によると、日本のメタン排出量は、2019年時点で米国の約23分の1、EUの約15分の1と圧倒的に少ない。

東京の街並み
写真=iStock.com/yaophotograph
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yaophotograph

EUのメタン削減計画に左右されず、これまで通り地道に削減していくことこそが、日本にとって望ましい選択ではないだろうか。

(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

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土田 陽介(つちだ・ようすけ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。浜銀総合研究所を経て、12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在、調査部にて欧州経済の分析を担当。

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(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員 土田 陽介)

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