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国民は「愛子天皇」誕生に期待しているが…たとえ女系天皇を認めても「皇室の継承問題」が解決しないワケ

プレジデントオンライン / 2023年11月8日 13時15分

上皇后さまの誕生日のお祝いのため、赤坂御用地に入られる愛子さま=2023年10月20日午前、東京都港区[代表撮影] - 写真=時事通信フォト

岸田文雄首相が、安定的な皇位継承策の本格的な議論に向けて動き出した。期待する声もある「愛子天皇」は可能性があるのか。評論家の八幡和郎さんは「皇室の永続性のためには、旧宮家の男系男子と女系の両方の可能性を残しておくことが必要だ。ただし、現行法制では愛子さまが天皇になることはまず無理だし、制度改正してもチャンスがあるのは愛子さまの子孫だ」という――。

■自民党内に「皇位継承を考える会議体」が誕生

岸田文雄首相が10月30日の衆院予算委員会で、安定的な皇位継承について「喫緊の重要な課題」と述べ、自民党内に総裁直属の会議体を設置すると表明した。

現在、日本の皇位継承資格は父方に天皇の血を引く「男系男子」に限定されており、資格を持つのは秋篠宮さま、悠仁さま、常陸宮さまの3人のみ。しかも、天皇陛下の次世代は悠仁さましかいないので、悠仁さまに男子が生まれなかった場合にどうするかが懸念されているわけである。

その場合、戦後に皇族でなくなった旧宮家の男子とともに、女系天皇や女性天皇も視野に入れるべきという議論も出ている。

また、具体的な制度論は横に置いて、愛子さまを天皇にという漠然とした国民の期待もある。

■「愛子天皇」実現への道はなかなか険しい

しかし、女性天皇は現行法制で認められないし、「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案」の国会附帯決議に基づき設置された有識者会議(座長・清家篤元慶應義塾長)は、2021年の報告で、「次世代の皇位継承者がいらっしゃる中でその仕組みに大きな変更を加えることには、十分慎重でなければなりません」として、「愛子天皇」の可能性を否定している。

また、これまでの教育方針を見るに、両陛下は愛子さまに将来、天皇になる準備はさせておられなさそうだということも大事な視点だ。

ちなみに、私は男系男子派だと言われているが、保守系論者と違って、女性天皇や女系天皇に全面的に否定的なわけではない。本稿では、国民が待望している「愛子天皇」やその子孫が天皇になられる可能性について解説したい。

まず、一部の人たちが主張する「皇太子が空席」というのはデマである。天皇の継承順位第1位の皇族を「皇嗣」というが、それが天皇の子であれば皇太子と呼ぶ、と皇室典範にある。天皇の弟である秋篠宮さまをどう呼ぶかについては規定がなく、「弟でも皇太子としたら」という意見もあったが、皇嗣と呼ぶと法改正で決まった。

こうして秋篠宮さまは皇太子と同じ扱いとなり、2020年11月8日に、「立皇嗣礼」が国事行為として行われた。平安時代の醍醐天皇の時代から皇太子のシンボルである「壺切御剣」が天皇陛下から親授され、秋篠宮さまが次期天皇であることが確定した。

つまり、イギリスの故エリザベス女王の時代のようにクイーンが君主のときには、キングを名乗る者がいないのと同じで、呼び方の問題であり、皇太子は空位ではないのだ。

■公務の担い手不足を補う2つの案

現行の皇位継承制度においてもっとも問題となるのは、悠仁さまに男子がいなかった場合だ。皇室典範は、短期間に事故などが重なって皇位継承者が誰もいなくなったらどうするかについて規定していないから、その場合は超法規的解釈で女性天皇や女系天皇の誕生もありうるが、そういう異常事態はここでは論じない。

有識者会議は、「悠仁親王殿下の次代以降の皇位の継承については、将来において悠仁親王殿下の御年齢や御結婚等をめぐる状況を踏まえた上で議論を深めていくべきではないかと考えます」として、悠仁さまのお子さまがどんな構成になるかのめどがつく20年後くらいまで議論を凍結すべきとする。

悠仁さまに何人も男子ができれば安泰だし、もし女子だけであれば、旧宮家男子の子孫か悠仁さまの娘かの選択になる。また、秋篠宮さまの即位後は、次女の佳子さまの子孫のほうが、姪の愛子さまの子孫よりも優先されると見るべきだ。

ただし約20年間は議論を凍結といっても、何もしないわけでない。有識者会議は、公務の担い手不足を避けるためにも、①女性皇族が結婚後も本人だけ皇室に残る、②皇族が旧宮家の男子を養子にする(それが成立しないなら旧宮家の男子を皇族とする)ことを提案している。

■旧宮家の男子は「天皇に不適」?

この2案は皇族数の確保策であり、直接には皇位継承と結びつかないが、20年後の検討の際に、優先的に皇位継承候補となる可能性が高い。

このうち①は、佳子さまと愛子さまが念頭にあるが、三笠宮家の彬子さまと瑶子さま、高円宮家の承子さまも対象になりうる。いわゆる女性宮家は、配偶者や子も皇族になるので、これとは違う。眞子さんの夫になった小室圭氏を「殿下」と呼びたくない、という声が多かったために議論が下火になったのだ。

女系論者は、旧宮家の男子には候補者がいないとか、生まれながらの皇族でない人は天皇に不適というが、事実に反する。たしかに小泉内閣のころは、「いきなり言われても……」という雰囲気もあったが、いまでは皇族になる可能性があるという自覚が生まれ、自分たちから手を挙げることはないが、望まれたらお受けするのが自分たちの義務だと考えている方が多い。

旧宮家は子どもたちの教育においても高い意識をもっているし、旧華族の集まりである霞会館でも、会員資格の見直しなどをして、旧宮家の分家などに受け皿を広げた。

さらに、②の皇族の男子を養子にすることを想定しているのは、悠仁さま世代であり、皇位継承候補になるのは、悠仁さまの次世代以降なのだから、彼らは生まれながらの皇族になる。現皇族との話し合いで、資質が高く、本人も納得した人物を選ぶのだから安心だ。

北白川、朝香、竹田、東久邇の4家出身者が、明治天皇や昭和天皇の女系子孫であるとか、久邇家が香淳皇后の実家であるのも好ましい条件になる。

■将来の皇位継承候補は将来の国民が決める

今上陛下が、上皇さまが退位されたのと同じ85歳余になられるのが2045年。そのときには、悠仁さまは38歳である。

旧宮家の何人かが皇族となり、愛子さまや佳子さまも、本人が希望されればだが、皇族の身分を保持されたまま結婚され、お子さまも大きくなっているだろう。

そして、悠仁さまに男子がおられなければ、そのころから次世代の皇位継承の議論が始まり、悠仁さまが60代になられる2070年ごろまでに「その次の天皇」の立皇嗣礼を行う必要がある。なぜかというと、悠仁さまが上皇陛下退位の年齢になるのが2092年だから、それまでの20年くらいは皇嗣としての準備期間が必要だからだ。

私は、もし、佳子さまや愛子さま本人が皇族に留まっておられ、男子がいたら、皇族の養子になるのもありだと考える。それならば、小室圭氏のような一般男性を皇族にしなくてすむし、外孫を養子にすることは徳川家や近衛家などでも事例があり、抵抗感が小さいからだ。

いずれにしても、悠仁さまのあとの皇位継承候補になるのは、いまはまだ生まれていない方たちだし、皇嗣を決める2060~70年代の国民からどう評価されているかの問題なのだから、現在の皇族への人気投票的な感覚で議論することは無意味だ。

■すでに生まれた王族の継承順位は保持される

もちろん、皇室典範は形式的には他の法律と同じだから、改正することは可能だ。ただ、秋篠宮殿下が立皇嗣礼までされ、その跡継ぎとして悠仁さまがおられるのに、廃嫡するような制度改正をするのは国際的にみても非常識だ。

欧州各国では、20世紀末から女性王族の継承権を強化する動きがあるが、ほとんどの場合、すでに生まれた王族の順位には変更を加えていない。

たとえば、ノルウェーの皇太子には姉がいるが、長子優先に制度が改正されても、継承順位が1位になることはなかった。英国では、ウィリアム王子の三人の子どものうち、姉のシャーロット王女の王位継承順位は弟のルイ王子より上位だが、エリザベス女王の長男チャールズ国王の兄弟姉妹では、次男アンドルー王子とその子孫が姉のアン王女とその子孫より優先されたままだ。

男子優先だったスウェーデンは、現国王の第一子と第二子が女子で、第三子が男子だったので、本来は第三子が皇太子になるはずだったが、2年間の議論ののち、国王の反対を押し切って長女のビクトリア王女を皇太子にすることに決まった。これは、生後に王位継承順位が逆転しためずらしい例だが、王子がまだ物心がつく前ならいいだろうという判断だった。

王冠をかぶせたチェスの駒
写真=iStock.com/spaxiax
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/spaxiax

■自由に伸び伸びと育てられた愛子さま

それに、どうやら天皇皇后両陛下は、将来において天皇になるという前提で愛子さまを育てられてなさそうだ。愛子さまは成年時の記者会見で、「短所といたしましては」「自由に伸び伸びと育ったようで、少しマイペースな部分があるところだと自覚しております」「小さい頃から人見知りのところがございますので」と仰っているが、両陛下はあえて、愛子さまを伸び伸びと育てられてきた。

小学校のときから、学校を遅刻されたり、休まれたりすることが多くても無理を強いることは避けられたし、国民に向けて会釈をするとか、お手振りも無理強いされなかった。大学1~3年の3年間は、新型コロナ禍でほとんど登校されずにリモート学習のみだったし、現在もゼミなどには参加されているが、大人数の講義とか、サークル活動など学生生活は、ほぼ皆無だという。

また、成年記者会見は好評だったが、成年の前月の2021年11月にされるべきところ、準備不足で22年3月に延期された。成年行事の一環である武蔵陵墓地(昭和天皇の御陵などがある)や伊勢神宮への報告はまだ行われていないし、眞子さまが16歳、佳子さまが19歳で始められた単独公務も、まだ開始されていない。

■天皇は決められたときに決められたことをする存在

愛子さまは、文科系の勉学や、何事も時間にしばられずに、納得するまでマイペースで高いレベルのものを仕上げることが得意で、家族などとの密度の濃い人間関係を大事にされる方である。

ただ、天皇という存在は、決められたときに決められたことをし、どんな人にも好き嫌い関係なく接するべきだから、もし、愛子さまが天皇になる可能性があると両陛下が考えられたとしたら、別の教育方針があったはずだ。そのように考えると、両陛下や愛子さまご本人にとって「愛子天皇論」はむしろ迷惑なのではないか。

もちろん、雅子さまのご実家の小和田家やその周辺の人々が、愛子さま誕生ののち、孫が天皇になることを望んでいたのは事実だ。

小泉内閣のときの有識者会議には、小和田氏に近い人が多く参加するなど、公正さを疑われることが多く、内容も愛子さま以外の可能性を緻密に検討もせずに排除し、男系派の猛反発を受ける原因になった。

■「愛子天皇」を夢見たとしても、過去の話

また、『女性自身』2020年3月24・31日合併号の「独占証言:雅子さま 15年秘める祖父の夢 愛子を天皇に」では、雅子さまの外祖父でチッソ元社長の江頭豊氏について取り上げている。

この記事は、当時の安倍内閣が女性天皇問題を封殺していると批判し、「『愛子さまを天皇に』は、雅子さま最愛のご家族の願いでもあったはず」で、江頭氏をとくに尊敬し慕う雅子さまはその夢をかなえたいと思っているだろうとしている。

「あるとき豊さんが『愛子さまが天皇になる夢を見たんだよ』と、とてもうれしそうに話していたことがありました」「雅子さまも、お祖父さまの夢のことはご存じだと思います」と、江頭夫妻をよく知る知人が言っていたというのだ。

奇しくも、江頭氏が亡くなったのは2006年9月24日で、悠仁さまが9月6日にお生まれになった直後であるから、江頭夫妻や場合によっては小和田夫妻が、愛子さまが天皇になることを夢見られていたとしても、それは悠仁さま誕生前のことだろう。そもそも皇后の実家の願いをかなえるために皇位継承は論じられるべきでない。

■「男系男子vs女系」で対立しても仕方がない

私は正統性を維持するためには、男系男子が好ましいと思うものの、女性天皇も女系も絶対否定ではない中間派だ。皇位継承を確実に担保するためには、男系男子だけでは心許なく、一方、女系論も問題の根本的な解決にならないため、両方の可能性を残したいからだ。

いわゆる女系論者が論議の対象にするのは、眞子さん、佳子さま、愛子さまとその子孫だけで、眞子さんが結婚された今となっては、佳子さまと愛子さまだけだ。だが、二人とか三人の女性の子孫だけでは女系も含めても永続性は保証されないどころか、数世代もたたないうちに断絶しかねない。

男系男子の宮家男子も候補から排除すべきではないし、女系でも明治天皇の子孫くらいまでは視野にいれるべきだ。それから、男系男子でかつ女系で現皇室と近ければ、なお結構だ。しかも、旧宮家には明治天皇や昭和天皇の女系子孫も多くいる。

佳子さまや愛子さまに決め打ちで、旧宮家の誰かと結婚させるという安直な考えには反対だが、江戸時代に公家の養子に出た人や、明治になってから宮家の次男坊以下で臣籍降下した人の男系男子子孫は結構いるから、佳子さまや愛子さまでなくとも、女性子孫と彼らとの縁組みもありうる。

英国の王位継承権者は5000人ほどだが、日本でも100人くらいは確保しておきたいし、男系男子と女系の二陣営に分かれるのでなく、両方の可能性を残すほうが賢明だろう。一般に、女性君主は華やかで人気があるから「愛子天皇」誕生に期待する気持ちも理解できるが、より広く、現実的な視点で皇位継承を議論していくことが必要だ。

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八幡 和郎(やわた・かずお)
徳島文理大学教授、評論家
1951年、滋賀県生まれ。東京大学法学部卒業。通商産業省(現経済産業省)入省。フランスの国立行政学院(ENA)留学。北西アジア課長(中国・韓国・インド担当)、大臣官房情報管理課長、国土庁長官官房参事官などを歴任後、現在、徳島文理大学教授、国士舘大学大学院客員教授を務め、作家、評論家としてテレビなどでも活躍中。著著に『令和太閤記 寧々の戦国日記』(ワニブックス、八幡衣代と共著)、『日本史が面白くなる47都道府県県庁所在地誕生の謎』(光文社知恵の森文庫)、『日本の総理大臣大全』(プレジデント社)、『日本の政治「解体新書」 世襲・反日・宗教・利権、与野党のアキレス腱』(小学館新書)など。

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(徳島文理大学教授、評論家 八幡 和郎)

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