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電車に乗る人が「みんなスマホを見ている」のはなぜか…現代人がSNS依存症になっている本当の理由

プレジデントオンライン / 2023年11月26日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/solidcolours

なぜ私たちはスマートフォンを手放せないのか。独立研究者の山口周さんは「原理はギャンブル依存症と同じで、人は『予測不可能なもの』にハマる傾向がある。スマホから通知が来るたびに、私たちの脳からは快楽物質がたくさん出ている」という――。(第2回/全7回)

※本稿は、山口周『武器になる哲学 人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

バラス・スキナー(1904~1990)
アメリカの心理学者。いわゆる行動心理学の創始者。自由意志とは幻想であり、ヒトの行動は過去の行動結果に依存する、と考える「強化理論」を唱えた。

■人はなぜSNSにハマるのか

電車に乗ると概ね見渡す人の半分はスマートフォンを覗き込み、筆者の経験的概算値から、そのうちのさらに半分はソーシャルメディアをいじくっているようです。こういう状況になると週刊誌が売れないのも仕方がないなあ、と思いながら、ふと考えたのが「人はなぜソーシャルメディアにハマるのか」という問題です。いろんな答えが考えられると思いますが、ここでは「脳の報酬」というコンセプトから考察してみましょう。

報酬系に関する研究の嚆矢(こうし)にスキナーという人がいます。大学で心理学の授業をとったことがある人はバラス・スキナーの名前を聞いたことがあるかも知れません。あの有名な、レバーを押し下げるとエサが出る箱=スキナーボックスを作って、ネズミがどういう行動をするかを研究した人です。

スキナーは、次の4つの条件を設定し、ネズミがもっともレバーを押し下げるようになるのはどの条件下か、という実験を行いました。

①レバーの押し下げに関係なく、一定時間間隔でエサが出る=固定間隔スケジュール
②レバーの押し下げに関係なく、不定期間隔でエサが出る=変動間隔スケジュール
③レバーを押すと、必ずエサが出る=固定比率スケジュール
④レバーを押すと、不確実にエサが出る=変動比率スケジュール

さあ、あなたはどれが答えだと思いますか?

■人は確実なものより不確実なものにハマる

スキナーの実験によると、レバーを押し下げる回数は、上記の④→③→②→①の順で減少することがわかっています。この結果について、特に注意して欲しいのが「③レバーを押すと、必ずエサが出る」よりも、「④レバーを押すと、不確実にエサが出る」という条件の方が、どうもネズミは動機付けされているらしい、という点です。この結果は、私たちが考える「報酬のあるべき姿」からすると、かなり違和感のあるものではないでしょうか。

これはいわゆる「行為の強化」に関する実験ですが、行為は、その行為による報酬が必ず与えられるとわかっている時よりも、不確実に与えられる時の方がより効果的に強化される、ということです。

翻って、この実験結果を人間に当てはめて考えてみると、「不確実なものほどハマりやすい」という生理的傾向が、社会の様々な側面に応用されていることがわかります。

まずわかりやすいのがギャンブルです。ラスヴェガスのスロットマシンも日本のパチンコも確率を変動させながら報酬を与える仕組みになっていて、これにハマる人が後を絶たない。

数年前に社会問題になったコンプガチャも、まさに変動比率スケジュールによってレアなガチャが出る、という仕組みになっているわけで、こういう領域でいろいろとサービスを開発している人たちの人間性に関する洞察の鋭さには本当に戦慄(せんりつ)させられますね。

■SNSにも実は「報酬」がある

そして最後に思いつくのがX(旧ツイッター)やフェイスブック等のソーシャルメディアです。もしかしたら「ソーシャルメディアが報酬系」と言われて違和感を覚える方も多いかも知れません。スロットマシンやパチンコはお金や景品という報酬があるけど、ソーシャルメディアにはどんな報酬があるの? という疑問ですね。確かにソーシャルメディアは金銭的報酬を与えてくれません。

ソーシャルメディアが人に与えてくれる報酬はドーパミンです。

脳のイラストのイメージ
写真=iStock.com/pepifoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pepifoto

気がつくとX(旧ツイッター)やフェイスブックばかり見ている。メール受信の通知を見ると中身を確認せずにはいられない。こういった行為はドーパミンのなせる業だと考えられています。ドーパミンは、もともとはスウェーデン国立心臓研究所のアルビド・カールソンとニルスオーケ・ヒラルプが1958年に発見した物質です。

■欲求系物質と快楽系物質が相補的に働く

長いこと、ドーパミンは快楽物質であると考えられてきました。しかし、最近の研究では、ドーパミンの効果は人に快楽を感じさせることよりも、何かを求めたり、欲したり、探させたりすることであることがわかってきています。ドーパミンが駆動するのは覚醒、意欲、目標志向行動などで、その対象には食べ物、異性などの物質的欲求だけでなく、抽象的な概念、つまり素晴らしいアイデアや新しい知見といったものも含まれます。

ちなみに最近の研究では快楽に関与しているのはドーパミンよりオピオイドであることがわかっています。ケント・バーリッジの研究によれば、この二つの系=欲求系ドーパミンと快楽系オピオイドは相補的に働くらしい。つまり人をコントロールするエンジンとブレーキのような役割ということです。欲求系=ドーパミンにより特定の行動に駆り立てられ、快楽系=オピオイドが満足を感じさせて追求行動を停止する。

■SNSにハマるのは「予測不可能だから」

そしてここが重要な点なのですが、一般に欲求系は快楽系より強く働くため、多くの人は常に何らかの欲求を感じて追求行動に駆り立てられているのです。

山口 周(著)『武器になる哲学 人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50』(KADOKAWA)
山口周『武器になる哲学 人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50』(KADOKAWA)

ドーパミンシステムは、予測できない出来事に直面したときに刺激されます。予測できない出来事、つまりスキナーボックスの実験条件=④の場合、ということです。

ツイッターやフェイスブック、メールは予測できません。これらのメディアは変動比率スケジュールで動いているため、人の行動を強化する(繰り返しそれを行わせる)効果が非常に強いのです。

なぜソーシャルメディアにハマるのか? それは「予測不可能だから」というのが、近年の学習理論の知見がもたらしてくれる答えだということになります。

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山口 周(やまぐち・しゅう)
独立研究者・著述家/パブリックスピーカー
1970年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ等を経て現在は独立研究者・著述家・パブリックスピーカーとして活動。神奈川県葉山町在住。著書に『ニュータイプの時代』など多数。

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(独立研究者・著述家/パブリックスピーカー 山口 周)

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