「42歳で借りて92歳まで返済」も可能に…マンション高騰時代に登場した「50年ローン」の見逃せないリスク
プレジデントオンライン / 2023年11月9日 8時15分
■50年ローンなら「夢のタワマン」に手が届く
住宅購入につきものの住宅ローン。住宅価格の高騰が続く昨今、超低金利のおかげで住宅価格が高騰しても、低金利でローンを組めば買うことができる状況です。中でも50年返済の住宅ローンの出現で、若年層でもタワマンが買えるように――。
しかし、今まで手が出なかった物件に手が出せるようになる「50年ローン」には、見過ごせぬ大きなリスクがあります。それは、ローン残債額が多すぎて売却したくてもできない「残債割れ」や老後破産、そして変動金利リスクです。
このようなリスクをはらんだ50年ローンがなぜ増えているのでしょうか。そこには、懐事情が厳しい金融機関(とくに地方銀行)と、高騰する不動産をどんどん買ってほしいデベロッパーの思惑が絡んでいます。
■不動産価格が高騰、上限3億円に引き上げも
不動産経済研究所によれば、今年の1月から6月に東京23区内で発売された新築分譲マンションの平均価格は1億2962万円、前年同期比で6割も上回る値動きとなりました。こうした不動産価格の高騰を踏まえて、今まで住宅ローンの上限を1億円としていた金融機関が、上限を3億円まで引き上げるケースも出てきました。
共働きで世帯年収の多い、いわゆる「パワーカップル」でさえ手の届きにくい不動産価格になってしまい、資金提供をする金融機関としては借入金の上限を引き上げ、かつ返済期間を長期化せざるを得ない環境となってしまったのです。
30年以上前、当時の住宅金融公庫の返済期間は最長で25年でしたが、いつのまにか30年、35年となり、はては親子ローンや「フラット50」といった内容で、返済期間はどんどん長期化してきました。その背景には、毎月の返済負担を小さくして住宅購入の需要を喚起し、経済波及効果が大きい住宅建設を増やそうという景気対策の側面がありました。
しかし現在では、不動産価格の高騰が住宅ローン返済の長期化の要因となっているのです。
■世帯年収1000万円以下でも「億ション」を買える?
たとえば、1億円のマンションを「50年ローン」で買うとどうなるのか、フラット50の金利でシミュレーションしてみましょう。
フラット50は2.2%程度ですので、この金利で計算すると月々の返済額は27万4948円、年間返済額は329万9372円となります。年間の返済額は年収の35%を上限とした場合、329万9372円÷35%=942万6777円となります。
つまり、年収が943万円程度あれば、50年ローンで1億円を借りることができます。(条件によっては世帯年収換算でもOKになる可能性があります。)
いままでの35年返済であれば、年収が約1200万円程度でなければ1億円を借りることができませんでしたが、50年ローンを組めば年収1000万円以下でも億ションを買えるということになります。そう考えると、50年ローンの出現で億ションのハードルは下がったといえるでしょう。
ただし、この数値は現実味がありません。例えば、マンションの場合にはローン返済額の他に管理費や修繕積立金、固定資産税もかかります。そう考えると実質収入の約半分は住宅を維持するコストになり、残りの手取り収入で生活のすべてをやりくりする格好になります。就学中のお子さんがいれば、なおさら非現実的になることは想像がつくでしょう。
![下から見上げたタワーマンション](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/6/1200wm/img_c6e98588b7b1e84583144f91842d8520487784.jpg)
■「完済するのは92歳まで」という地銀も
50年ローンは、ネット銀行の住信SBIネット銀行が今年8月から取り扱いを始めており、広島銀行や西日本シティ銀行、常陽銀行、福井銀行などの地方銀行の参入が目立つようになりました。
返済期間は最長50年として、何歳までにローンを完済する必要があるのでしょうか。おおむね、各金融機関の条件としては、申込時の年齢が18歳以上70歳の誕生日まで。完済時の年齢については、例えば、宮崎銀行のように最長の完済年齢92歳、というものもありますが、80歳の誕生日までとしている金融機関が多く見受けられます。
したがって、92歳完済であれば42歳で、80歳完済であれば30歳で50年ローンを申し込みすることが可能と言えます。
50年ローンを取り扱いしている金融機関の例
住信SBIネット銀行 お借入条件|WEB申込コース
フラット50 【フラット50】:長期固定金利住宅ローン
西日本シティ銀行 最長50年住宅ローン
もみじ銀行 住宅ローン
広島銀行 スーパー住宅ローン
福井銀行 新規で住宅ローンをご検討中のお客さま
このように、各地方銀行が参入するのには、それなりの懐事情を垣間見ることができます。
■地銀やネット銀行は住宅ローンを縮小できない
金融機関にとっての基本業務は、「お金を貸す」ことと「お金を集める」ことにあります。特に、「お金を貸す」、つまり住宅ローンや法人向けの事業資金の貸出といった業務は金融機関の基本業務と言えます。近年、住宅ローンの貸出は競争が激化しており、各金融機関で金利競争や団体信用生命保険を手厚くして顧客獲得に躍起となっています。
そこで、50年ローンによって、昨今の不動産価格の高騰に追いつけていない若年層を顧客として取り込むことを狙っているのです。住宅ローンを利用してもらえれば、預金確保もできるため、金融機関にとってはメリットがあります。返済のための預金口座は給与振込先にもなります。
若年層では35年返済となると毎月の返済余力には対応しにくい場合もあり、50年返済であればようやく余力ができるというもの。特に、地方銀行が50年ローンの取り組みに比較的積極的なのは、ネット銀行に取られがちな住宅ローンに対抗するためでもあり、加えて、若年層にその地域に居住してもらうことで地域の発展や活性化に繋がると見ているようです。
メガバンクが住宅ローンの事業を縮小する中、地方銀行やネット銀行には住宅ローン事業を縮小するという流れは難しいということが理解できます。
■「親子75年ローン」も登場するかもしれない
また、不動産デベロッパーにとっては、このところの不動産価格の高騰でも購入希望者がおり、その希望に叶う住宅ローン商品が追いついていない状況のようです。
地方都市でも億ションが売り出されている時代、借入上限の引き上げや返済期間の長期化は億ションを買ってもらうには必須条件になりつつあります。手元資金が潤沢にあっても、低金利のローンを組んでマンション購入をするケースも多く、低金利の恩恵を受ける傾向にあります。
このようにお金を貸したい金融機関と、高騰している不動産をできるだけ多くの人に買ってほしいという不動産デベロッパーの思惑が、50年ローンという商品を生みだしたと言えるのです。
50年ローンが軌道に乗れば、さらなる長期返済のローン商品が親子ローンとして登場する可能性があります。現在の親子ローンのように年齢や条件には制限はありますが、「75年ローン」は現実味がありそうです。例えば、子どもさんが法律行為のできる18歳以上になった段階で75年ローンを組むということは可能性としてあるでしょう。
債務者が1人の場合は返済期間には限度がありますので、単独での75年とか100年ローンは難しいかと思います。金融機関側にとっては、返済の原資となるものや不動産の担保を踏まえての融資となりますので、現状ではなかなか対応しきれないと感じます。
■売りたくても売れない「残債割れ」のリスク
借りる側にとって、50年ローンは月々の返済額が少なくてすむというメリットがありますが、当然リスクも出てきます。
一生住むつもりで購入した住まいでも、返済期間中に住宅を手放す状況にいたる場合があります。例えば、結婚当初は新居を購入するために夫婦でのペアローンや収入合算してローンを組んでようやく住まいを買ったにもかかわらず、何らかの理由で手放すという事態が想定できます。
昨今、3組に1組は離婚すると言われるように、離婚や夫婦それぞれの転勤や転職、親の介護で実家に帰る必要になったなど、人生にはさまざまな問題が起きます。その際に、ローン残債額が多すぎて住まいを売却できないという「残債割れ」に直面します。
これは、長期間の返済になればなるほど、ローンの元金がなかなか減らないために発生します。長期ローンを組めば、当然ながら利息もかなりの額になります。住宅ローンの返済方法の大半は元利均等返済であり、返済当初から元金はそれほど減少せず、毎月の返済額の大半は利息払いという状態です。
■健康寿命の74歳までにローンは終わらせておきたい
したがって、住宅を買ってから5年も経過しないでやむを得ず売却することになった場合には、かなりのローン残債額が残っており、残債額が市況の売却価格よりも上回るとなれば、かなり厳しい現実が待ち受けていることになります。売却価格でもローンの完済ができないとなれば、不足分を手元資金で埋め合わせしない限り、物件の売却はできないということは認識しておく必要があります。
また、長期返済の場合は、定年後もローンの返済を続けていくことが前提になります。例えば、30歳でローンを組めばローン完済時は80歳です。定年が延長されても、現役世代と同等の給与はもらえるわけではないので、かなり厳しい老後が待ち受けているということになります。これでは50年ローンを組んでも将来、老後破産に陥るリスクが存在します。
人生100年時代とはいえ、健康寿命は74歳と言われていますので、極論を言えば少なくともこの年齢までにはローンを終わらせておくことをオススメします。このように、借り手には月々の返済額が減った分、将来のリスクが大きいということは認識しておくべきです。
■金利が上がったスウェーデンでは住宅価格下落
超低金利が続く日本では、住宅ローン利用者の7割が変動金利を選択しています。特に首都圏の不動産価格の高騰を受けて、長期返済とは別に変動金利を利用することで、当面は月々の返済額を抑えることができます。
したがって、億ションのタワマンでもパワーカップルであればローンを組んで買うことができてしまうのです。しかしながら、いずれ訪れる金利上昇を踏まえてリスクを考えることが重要です。
たとえば、スウェーデンでは、日本同様に利用者の7割が変動金利を選択しています。しかし2019年にマイナス金利政策を解除し、その後の政策金利が4%になったため、変動金利の住宅ローンも上昇しました。結果、ローンの返済負担に耐えられず、住宅を手放さざるを得ないケースが発生し、住宅価格の下落が目立つようになりました。
当面は変動金利のリスクをあまり感じないかもしれませんが、スウェーデンの現状を見ると、いずれ日本にも訪れる未来のように思えます。
![住宅ローンの金利のイメージ](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/5/1200wm/img_75f37a19f3e498ec142f5aa1f1918cb367737.jpg)
■50年ローンと変動金利は確かに便利だが…
不動産価格が高騰するなか、長期返済と変動金利は借り手のメリットが大きく不動産を買いやすくしています。しかしながら、金利が上昇局面に転じてしまうとローン返済が滞り始め、不動産を売りたいという人が増えれば、価格を安くしないと売れないという状況に陥ります。これまで不動産バブルの崩壊を繰り返してきた現実を見ていると、この状況は気がかりでなりません。
さきほど、1億円のマンションを50年ローンで買ったシミュレーションを紹介しましたが、ここでは金利上昇が起きた場合を想定して、月々の返済額と総返済額を見てみましょう。
50年ローンの金利を変動金利の0.47%で計算した場合、ボーナス返済なしとして月々の返済額を計算すると18万7048円となります。この金額をみれば都内の3LDKの賃貸マンションの賃料より安く感じます。
こんなことは想定しにくいですが、仮に金利が50年間変わらないとした場合、返済総額は1億1222万9277円となり、約1200万円は利息となります。
■金利が1%上がるだけで、利息は3.4倍に
では、金利が1%プラスして1.47%になった場合で前述と同じ条件で計算してみると、月々の返済額は23万5450円、返済総額は1億4127万410円なり約4100万円が利息となります。
![【図表1】金利と返済金額の比較](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/9/1200wm/img_f9eea6cbf4b2273a0ed6fbd9dc733a74247813.jpg)
金利が1%上がっても「たいしたことはない」と思いがちですが、利息総額が約3.4倍にもなります。つまり、返済期間が長くなればその分、金利上昇によって利息総額も増えることを理解しておく必要があります。
昨今の住宅価格の高騰から、いざ買おうと思うと金銭感覚は麻痺してしまいます。いままで1000円でも節約しようと思っていた人でも、これだけ価格が高騰するといままでの千円が1万円になり、10万円の感覚が100万円に変わります。さきほどのシミュレーションのように、月々の返済額が18万円なら払えそうだという感覚で億ションは買えますが、半世紀も住宅ローンに縛られる生活を送ることになります。
ローンが終わるのは50年後、それまでは真の自分のものになりません。
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住宅コンサルタント
1960年東京都生まれ。アネシスプランニング株式会社代表取締役。住宅セカンドオピニオン。大手ハウスメーカーに勤務した後、2006年にアネシスプランニング株式会社を設立。住宅の建築や不動産購入・売却などのあらゆる場面において、お客様を主体とする中立的なアドバイスおよびサポートを行っている。これまでに2000件以上の相談を受けている。NHK名古屋「ほっとイブニング」「おはよう東海」などTV出演。東洋経済オンライン、ZUU online、スマイスター、楽待などのWEBメディアに住宅、ローンや不動産投資についてのコラム等を多数寄稿。著書に『不動産投資は出口戦略が9割』『学校では教えてくれない! 一生役立つ「お金と住まい」の話』『不動産投資の曲がり角で、どうする?』(いずれもクロスメディア・パブリッシング)がある。
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(住宅コンサルタント 寺岡 孝)
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