ジャニーズ報道は情報提供者の割腹自殺から…大手メディアが無視した『週刊文春』元編集長の"長文メモ"全文
プレジデントオンライン / 2023年11月6日 13時15分
記者会見場に集まる報道陣。大メディアは「反省」を口にするが、ジャニーズと闘うことがどれほど大変なことなのか、いまだにわかっていない。(=東京都千代田区、2023年10月2日) - 写真=EPA/時事通信フォト
■「反省」は口だけとしか思えない
ジャニーズの性加害問題が、ようやく日本社会全体で論じられるようになりました。永年、ジャニーズを批判し続けた『週刊文春』のOBとしては、感無量な部分もあります。しかし、このところコメントを求めて殺到してきた大メディアに、昔のことが分かるように長文のメモを渡したところ、完全無視か、一部のみ引用でした。
いまになって「反省」を叫ぶ人々に、またこの問題に関心を持つすべての人々に、ジャニーズ取材とそれに対する妨害の真の実態を分かっていただくために、ここに長文メモをすべて公開します。ジャニーズと闘うことがどれほど大変なことなのか、大メディアはいまだにまったくわかっておらず、現在振りまかれているのは口だけの「反省」としか思えない。それが私の実感だからです。
そのころ、『週刊文春』副編集長としての私の元には、T氏という元ジャニー喜多川の付き人で元アイドルからの告発がありました。内容は、当時の言葉を使えば「ホモセクハラ」をジャニー喜多川から自らが受けていたこと。そしてT氏は実際にはマネージャーのようなこともしていたので、ジャニー喜多川とジャニーズ事務所の現実の姿について、さまざまな思い出を語ってくれました。
たくさん送られてくる応募写真の中からスターを見つけ出すのがジャニー喜多川はうまい。大スターになった子の写真を見つけたときは「かわいい!」と飛び上がって、すぐ行こうとスカウトに行ったなどという話や、事務所内のアイドルたちへの性的虐待とそれに伴うストレスが少年たちをおかしくしているという衝撃的な現実も。性的虐待を受けた少年は、急に男らしく振る舞い始めることが多いので、すぐ分かるとT氏は言っていました。一緒にゴルフの練習に行ったりしたときも、T氏のようなスタッフに威張って指示を出したりするようになるそうです。スターへの道をチラつかせながらの性的虐待がいかに少年を歪めるかということでしょう。
■最初の証言者はNHKの前で割腹自殺
T氏にはテープを何本も録るほどインタビューしましたが、たった一人の証言で記事にできる類いの問題ではありません。T氏の話はまだプランとしても編集会議に出しておらず、他に証言者を探して記事にできないか、周辺取材を始めました。ところが、そうしているうちに彼は、NHKの前で割腹自殺をしてしまいました。
T氏は『週刊文春』に証言したことで深く悩むようになった可能性もあります。自殺に追い込まれるほどの葛藤に気づかなかったのは私の不注意にも思われて、自責の念にかられながらも、もっと確たる証拠がほしいと新たな伝手をたどりはじめました。
![ジャニーズの性加害問題を大メディアが取り上げるのに、24年がかかった。](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/d/1200wm/img_4d4552bee9a6baf5e91ccbd60e53f7ad485943.jpg)
ちょうどそのころ、部下の一人(彼が結果的にキャンペーンの書き手になります)の元には、ある媒体の記者を通じてジャニーズジュニアについての告発が寄せられていました。
記者のニュースソースは水商売の女性たちで、いまのキャバクラ嬢とホストクラブの関係と同じように、女性たちは仕事が終わるとその手の店に行くらしく、ホストのような仕事をしていたジュニアたちから、いろいろな話を聞いたそうです。それは、セクハラだけでなくジャニーズ事務所の待遇全般に及ぶ話でした。そしてその実情は、少年たちの将来を考えるとあまりにもかわいそうだというのが話の骨子でした。
また別の記者は、喫煙問題でジャニーズをクビになった少年を編集部に連れてきました。ジャニーズを突然解雇され、この先どうしようかという相談を、知人を通して受けていたのです。
T氏を含めて大体この三つのルートの証言からキャンペーンを開始することに決めました。
ただ、猟奇的に思われるであろうジャニー喜多川による少年たちへの性的虐待だけを、最初からキャンペーンの中心に組むつもりがあったわけではないのです。性的虐待はたしかに猟奇的でしたが、当時の文春読者になじむものではなかったし、立証もむずかしい。それに、猟奇的である一方、当時は新宿二丁目あたりに行けば「オカマ」と呼ばれたホストがいて客をもてなしており、男性の芸能人も頻繁に客として出入りしていたと言われており、芸能人=同性愛でもそんなに不思議はないというのが、(われわれではなく)世間のなんとなくの常識でもありました。
■所属タレントの覚醒剤中毒や自殺も相次ぐ
しかし、少年たちの話を聞くと、彼らの置かれた立場はやはり放置できない問題だと分かります。同時に、彼らの素行も相当なもので、10代半ばというのに、たばこ、酒は当然という少年たちでした。取材に行って待ち合わせても、午後7時の約束が夜中の2時になるようなことも普通にありました。これは仕事をさせている大人たちの問題である、つまり組織の問題として取り上げるべきだという考えに達しました。
しかし、真に問われるべきは事務所の責任です。少年を集め、働かせる組織なのに、飲酒、喫煙を放置している。深夜労働はあたりまえ。賃金は極めて安く、深夜電車ギリギリで帰るなど、これだけでも十分児童虐待に当たります。
また、フォーリーブスの北公次をはじめ、所属タレントの覚醒剤中毒や自殺も相次ぎます。ジャニーズ事務所は、歌も踊りも演技も教え方が中途半端で、アイドルでなくなると仕事がなくなってしまうというのが、芸能事務所としてのみならず、少年を労働させる組織として致命的な欠陥でした。
ジャニーズのタレントが、一度脚光を浴びたのに、その後転落の一途をたどるのは、他の芸能事務所のように、アイドルをやめても脇役の俳優になるとか、それなりの俳優教育や踊り、歌、作曲、作詞などの訓練をされていないからだと思われました。つまりはジャニー喜多川のセンスで抜擢され、個人の趣味により興味がなくなると捨てられるという構造がジャニーズ事務所の特徴であり、ここには問題が大いにあります。この構造が見えてきたあたりから、文春の顧問弁護士である喜田村洋一弁護士を含めて、ジャニーズ問題を法的にどう捉えるかの議論を重ねました。
性的虐待を軸にしようという方針は、この議論のなかで熟していきました。セクハラ自体が大きな社会問題になりかけていた時期で、ある程度の大会社ではセクハラ講習なども開かれていましたが、正直、その一方で世間一般にはセクハラはまだ重視されてはいませんでした。
■今では超有名になったタレントも証言者の1人だった
しかし、権力を利して性的虐待を行うのは、まさに典型的なセクハラであり、当然ながら、セクハラは個人だけでなく、それを許す土壌を持つ組織、会社も犯罪に問われるということは知っていました。
文春社内でもセクハラ講習は行われていました。文春もあまり自慢できる環境ではなかったので、当時の女性社員などは、私のこの記事を読んで不快に感じるかもしれません。もちろん、文春社内のセクハラは、実際に性的虐待があったということではなく、あくまでも環境型セクハラ、つまり言葉の暴力によるものではありましたが。
また、書き手となった社員記者は、以前、あるセクハラ関係の記事で裁判所から厳しく尋問された経験があります。ある大手出版社のオーナーの息子が社内の部下に(これも当時の言葉で言いますが)、「ホモセクハラ」をしたという記事で、その大手出版社から、少年のプライバシーを中心に厳しく法的責任を問われたことがありました。
それもあって、ジャニーズの件についてはきわめて慎重に取材したと思います。彼は文春のなかでも、かなり慎重派で、私のように告訴を20件以上受けるなどということのない、名編集長となった男です。
![新社名発表の記者会見。1999年の週刊文春の報道当時の証言者には、いまでは超有名になった少年もいたという。](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/0/1200wm/img_808291ec5e9f2bdd4198233159b11088490700.jpg)
取材は3カ月以上に及んだと思います。セクハラ以外の労働条件などの取材も含まれますが、証言者のなかには、いまでは超有名になった少年もいました。また、単なる被害者とは言えず、ジャニー喜多川に気に入られたいがために自ら近づく少年も大勢いました。だからといってジャニー喜多川が許されるはずもないのです。
合宿で襲われた話を聞けば、同じ大きさの部屋を用意して、その場所に誰が寝て、この場所にいた誰かが襲われ、その場所から襲われたことが認識できるかという実験まで繰り返して、記事化しました。
キャンペーンの最初は、OBの元フォーリーブスの青山孝史からの情報による記事だったので、ジャニーズ側からの反応もそれほど厳しかった記憶はありません。しかし、キャンペーンが何回も続くと、ジャニーズの弁護士からは警告文や電話が次々と来るようになります。
その時点でチームのデスクは木俣。それ以外に社員3名、フリー2名というチーム構成になっていたと思います。それぞれ得意分野を持ち、何よりも粘り強く被害者に証言させる能力を持ったチームでした。
記事が出ると、「自分も告発したい」という少年が続々と現れました。そして、ジャニーズ事務所側からは、すさまじい嫌がらせが始まったのです。(後編に続く)
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元週刊文春編集長
1955年生まれ。編集者。元週刊文春編集長。元文藝春秋編集長。大阪キリスト教短期大学客員教授。OCC教育テック上席研究員。
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(元週刊文春編集長 木俣 正剛 協力=今井照容)
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