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「タレントに罪はない」は本当か…24年ジャニーズと闘った『週刊文春』元編集長がファンの女性に言いたいこと

プレジデントオンライン / 2023年11月6日 13時16分

ジャニー喜多川氏のお別れの会に集まった大勢のファン(=東京都文京区の東京ドーム、2019年9月4日) - 写真=時事通信フォト

1999年、『週刊文春』でジャニーズ「性的虐待」の告発キャンペーン報道が始まると、ジャニーズ側からの想像を絶する嫌がらせが始まった。双方の話し合いも決裂。『週刊文春』元取材班デスクが語るジャニーズとの激闘の24年史。後編は、ジャニーズの強大な権力とその圧力の実態――。

■芸能事務所とは思えない下劣な脅迫

ジャニーズ「性的虐待」問題を報じた『週刊文春』は、さまざまな嫌がらせを受けました。

ある既婚男性記者の自宅には、あえぎ声の女性から執拗(しつよう)な嫌がらせ電話があり、それを記者の奥様が聞くこともが何度もありました。私たちは、ファンからのものと考えました。

社の上層部にもジャニーズ事務所からの圧力がかかりました。キャンペーンの途中で、ジャニーズ事務所として何を改善したら、文春はキャンペーンをやめてくれるのかというあっせんが持たれたこともありました。

会談は毎週一回。文春側の代表は木俣。ジャニーズ側の代表はスマイルカンパニーの社長でもあった小杉理宇造(りゅうぞう)氏。近藤真彦と中森明菜を別れさせたことで、当時の芸能誌やワイドショーをにぎわせた人物です。

最初、文春に近いホテル・ニューオータニで文春が部屋代を持ち、次は、ジャニーズ事務所に近い全日空ホテル(現・ANAインターコンチネンタルホテル東京)でジャニーズ持ち、というスタイルで、話し合いを続けました。未成年のアイドルたちの飲酒・喫煙・深夜労働については改善策が語られますが、ジャニー喜多川による性的虐待については確たる改善策が提示されません。

これでは話し合いの意味がありません。そのうち、とんでもないことをジャニーズ事務所は行いました。ジャニーズ側の全日空ホテルで話し合いをしている最中に、ある圧力団体の人間を入室させてきて、とても芸術を仕事とする事務所とは思えないような下劣な脅迫を始めました。この件で、和解の流れは消えました。編集長の松井清人は、脅迫されたと怒り心頭です。キャンペーンをどこでやめるかという話はなくなりました。この時点でジャニーズ事務所には、法廷闘争しか選択肢が残らなかったのです。一方、私たちは、話し合いが決裂して法廷闘争になることを、あらかじめ想定して準備をしていました。

■ひたすら隠蔽、脅迫で逃れようとし

法廷闘争が始まりますが、一審で異様な行動がありました。普通、訴えられるのは社長と編集長、および氏名不詳の記事の筆者です。その三者が被告人となり、訴状は会社に送達されます。しかし今回は、訴状が自宅に送られてきました。そして、担当デスクである木俣正剛の名前まで被告人に連なっていました。

告訴には慣れっこになっていましたが、自宅に、東京地裁と書かれた分厚い封筒が届くのは気持のいいものではありません。これはその後、ジャニーズの訴訟スタイルとして常態化していきます。この時点でジャニーズ事務所は、性的虐待が犯罪行為であるという認識がなく、組織的な犯罪になるということも深く考えず、ひたすら隠蔽(いんぺい)、脅迫で逃れようとしていたことは明白でした。

実は、一審は敗訴したのです。性的虐待の事実の証明がむずかしく、証人も本気で出たがらなかったためです(注 一応少数の証人は出ましたが、子どもですから、あまり積極的で説得力のある証言ではなかったのです)

ただ、このとき法曹界からは、判決への猛烈な批判が湧き上がったと聞いています。「セクハラを欧米並み、先進国並みに処罰する」という方向に法曹界全体が動いているときに、明らかな被害、しかも少年を対象にした組織ぐるみの性的虐待を認めないのは、時代に逆行する価値観にとらわれた不当な判決だという主張でした。

二審では、被害少年の証言者を集め、しかもついたてで、相手に見えないように被害者を隠すという、裁判史上それまでなかった措置が講じられました。この手法は、その後レイプ事件などで、ビデオ証言などとともに法廷に取り入れられます。裁判での証言は後刻、証言記録として原告、被告双方に開示されますが、ページのほとんどは少年たちのプライバシーが侵されないようにという配慮から、真っ黒に塗りつぶされていたことを覚えています。

二審は、主要部分のほとんどにおいて、文春の主張を認めるという逆転勝訴となりました。

しかしこの判決を、当時の日本の新聞のほとんどが報じませんでした。海外ではニューヨーク・タイムズをはじめ、多くのメディアが扱い、取材申し込みも多数ありました。

■リーバイ・ストラウス米国本社から「おぞましい」のコメント

また、文春側は「ベストジーニスト賞」を主催している日本ジーンズ協議会の主要メンバーであるリーバイ・ストラウス・ジャパンの本体である米国本社に、判決の内容を伝えました。受賞者が木村拓哉だったからです。受賞者が所属するジャニーズ事務所についての判決を伝えると、「おぞましい」というコメントが返ってきました。

このときの海外の反応が普通であり、今回のBBC報道を受けて証言者が続出するという現象は、本来この時点で起こるべきことだったのです。この判決を受けて、被害者に民事訴訟を起こすように促すことを考えず、他メディアが後について報じていくことを信じていた私たちが愚かだったという反省は、私を含めチームにもあります。その後も、文春への嫌がらせは続きます。ジャニーズ事務所に言わせれば、文春がジャニーズを攻撃するからだ、となるのですが、「性的虐待という絶対悪」を改善しないままなのですから、書かれても仕方ありません。

多数の報道陣が集まったジャニーズ事務所の記者会見。
撮影=阿部岳人
多数の報道陣が集まったジャニーズ事務所の記者会見。 - 撮影=阿部岳人

■文春社内で孤立していく取材班

一方、ジャニーズ批判をした松井と木俣は、社内的には孤立していきました。ジャニーズ事務所から、次のような嫌がらせがあったためです。

(1)ジャニーズ事務所は、「雑誌広告で、ジャニーズタレントが写っている広告は文春には入れないでくれ」と、各企業に圧力をかけました。気概があって、ジャニーズタレントが出ていない広告を別に作って入れてくれる企業もありましたが、わざわざ別に作るなどという面倒なことを企業が嫌がるのは当然で、そうなると広告収入は落ちていきます。

(2)また新商品の発表会でCMタレントがジャニーズだった場合、文春の広告部は出席不可になるか、発表会とは別の機会に説明を受けるということもありました。

(3)小説が原作になって映像化されるとき、本の帯に、映画の主人公の写真を入れることは多いのですが、それもジャニーズタレントだった場合、なかなか許可が出ません。最後まで許可が出ずに脇役の写真で済ませた例もあったようです。

つまり、広告部門と出版部門からは「松井と木俣はなんということをしてくれたのだ」というのが、文春社内での本音の反応でした。広告の説明会にも入れてもらえなかったと悔しがる広告部員の話をあとで聞いて、本当に同僚たちに苦労をさせたと、責任を感じました。しかし、それでも文春社内の誰もが、『週刊文春』がジャニーズと闘うことを許してくれたのは、文春には報道の自由を守るという社風があったからです。

■常識人の話はジャニーズ事務所では非常識

私もまったく手をこまねいていたわけではありません。事態を何らか打開すべく、ジャニーズ事務所の顧問弁護士とも、小杉氏とも、その後1年か2年に一度は会いました。すでに役員になっていた松井編集長が同席していたこともあります。松井はどちらかと言えば意固地な性格なので、こういった交渉そのものを嫌がりましたが、説得して参加させました。

「たとえば、文春と告訴状態にないときは広告も写真も無条件で出しましょう。そうすれば雪解けもありますよ」といった話はジャニーズ事務所の顧問弁護士と小杉氏がよくしていましたが、彼らも、「常識人の話はジャニーズ事務所では非常識となってしまって通じない」とこぼしていました。

今回、藤島ジュリー景子元社長がインタビュー動画で語った、「自分の言い分が通らない組織であった」ということは、それはそれで事実だった面もあると思います。その後、編集担当役員となった私のことは、顧問弁護士と小杉氏から聞いていたらしく、何かあると、メリー喜多川氏から弁護士経由で伝言が私に来ました。文春は編集部独立体制ですから、すでに編集担当役員でしかない私は、相手の言い分を編集部に伝えることしかできません。

■メリー喜多川インタビューがSMAP独立のきっかけに

それから10年以上たって、メリー喜多川インタビュー事件が起こります。編集部としては大それた記事になる予感はなく、どうせ取材は断られるだろうというくらいの気持ちだったようです。「ジャニーズには嵐派とSMAP派が存在するのではないか」という取材班の思いつきの質問状に、ジャニーズ事務所から取材に応じると回答がきたこと自体、驚きでした。

行ってみると、役員会さながらにジャニーズ幹部がずらりと座っています。その場にSMAPの飯島三智マネージャーが呼ばれ、メリー氏が飯島マネージャーを「あなたは独立するつもりなのですか?」とキツい調子で詰問し、同時に、メリー氏は独立説を否定しました。挙げ句の果てにはメリー氏の「SMAPはジャニーズの中心になれない。だって踊れないでしょ」という一言が出たのです。

呆気にとられながらも、全部書いていいと言うので、取材班は書いたわけですが、案の定、SMAP側は大変怒ったようです。ここから、SMAP独立に向けての大きな動きが始まるのです。

その記事が掲載された直後、木俣ほかの編集幹部という名指しで、メリー氏が文春にやってきました。同席は新谷学編集長、文春デスク、ジャニーズ側弁護士でした。

大メディアが、もっと以前に報道するチャンスはいくらでもあった。
撮影=阿部岳人
大メディアが、もっと以前に報道するチャンスはいくらでもあった。 - 撮影=阿部岳人

メリー氏は、過去の文春報道を「卑怯な取材で隠れて写真撮影なんてしないで、堂々と取材を申し込みなさい」などと罵倒します。文春と名乗って取材をしても受けてもらえないから、私たちは、尾行や張り込みをせざるをえなかったのですが。さらにそれ以前の文春との関係(メリー氏の夫の作家・藤島泰輔との関わりなど)を話すなど、5時間ほど会話して帰っていきました。

過去の文春記事を訂正してほしいというのが来訪の趣旨だったようで、本質に関わるような訂正ではなかったので、修正案を提示しましたが、その後どうなったかの記憶はありません。

メリー氏は2日続けて来訪しましたが、乗り付けてきた車が金色のリムジン。いったい誰が来たのかと、文春を訪れていた他の来客までもが、駐車場に停めてあるリムジンの写真を撮っていくという場面もあったようです。

それから約半年。SMAP独立の話が現実性を帯びてきます。噂が出た時点で、小杉氏から呼び出しがあり、これについてメリー氏の手記は文春でやりますという話だったので、新谷編集長にそれを伝え、デスクと小杉氏を会わせましたが、最後になって、メリー氏が文春に出るのはどうしても嫌だと言い出して『週刊新潮』に手記が掲載されました。悪いと思ったのか、その代わりに小杉氏が『週刊文春』でしゃべっています。私も編集部には申し訳ないことをしましたが、メリー氏の固い意志だったので、こればかりはどうにもなりません。

■メディアの反省は真剣なものとは到底思えない

今回のBBC報道については、現在の文春社員よりかなり前から相談を受けていました。BBCから文春へのインタビュー取材の依頼に対し、当初は、編集部は出ないで、証言者のみ紹介するという案があったり、OBだから木俣の出演はいいのではないかという話があったりしましたが、私は、あくまでも文春が会社として決めることだと思っていました。

BBC報道を受けて、新たな証言者を次々と誌面に登場させたのは文春の現場の力であり、誇らしく思います。

現在の報道を見ると、手のひらを返したように、「メディアとして反省した」という報道各社のコメントが続出しています。私からすると、真剣、真摯(しんし)なものとは到底思えません。もっと以前に、独力で自らを検証し、報道するチャンスはいくらでもあったはずだからです。

ジャニーズの圧力のみならず、報道側の自主規制も目立ちました。ただ、例外もありました。文春が出版するあらゆる本は「金スマ」では紹介しないと局側が言っていたのですが、意外にも、中居正広氏あるいは番組スタッフの判断で紹介されたこともありました。『こりトレ』という、肩こりを直すチューブを付録につけた本などは紹介されました。

中には現場で踏ん張った人たちがいたことも事実です。しかし多くの場合には、局全体の自主規制、そして現場が踏ん張らなかったことも、ジャニーズをさらに不可侵にしてしまったと言えるのです。

■性的犯罪を許してジャニーズに迎合した企業

この問題は報道だけではありません。ジャニーズの圧力に迎合して、文春に広告を入れないことにしたクライアントの性的虐待への不見識も問われなければならないでしょう。業界用語で言う表4、つまり雑誌の裏表紙にあたる雑誌広告にはジャニーズタレントが起用されていることが多く、このページは金額的にも大きいので、それが痛手となっていました。

スポーツ界も、あらゆる中継にジャニーズタレントを関わらせて視聴率を稼ごうとしてきたのであり、つまり、犯罪集団に加担した行動を取ってきた業界はたくさんありました。ですから、いま急に反省と言われても、私は信じることができないのです。「反省する。私たちは報道すべきだった」と語るMCたち。しかし、これまで私が書いてきたように、今後、ジャニーズ事務所のような力のある組織が犯罪的行為を恒常的に行っていることが判明したときに、広告やタレントの出演を通じて圧力をかけてきても抵抗するという覚悟があって言っているのでしょうか。

■ジャニーズ問題と民主主義の後退の現状はよく似ている

かつて「一億総懺悔」という言葉が戦争直後に叫ばれました。ジャニーズ問題のいまを見るにつけ、私はあれを思い出すのです。

戦時下の教科書をいきなり黒塗りにして、軍国主義と真逆な平和や人権を教え出す「民主主義」教師。隣人を万歳三唱で戦場に送り出していたのに、終戦後は、東京大空襲の被害者としてのみ自らを語り、急に平和国家を目指すと言い始める、かつての愛国婦人会の人々。

そこに本当の反省がなかったことは、明らかです。その時代から見ても民主主義が後退したかのような、いまの日本社会の惨状にそれがはっきりと表れています。女性進出は後退(女性国会議員数は当時の方が多い)し、教育者はパワハラ化し、国会議員は世襲化しています。戦前と変わらない社会に後戻りしている感さえあります。

いま私たちが、ジャニーズ問題をひとごとではなく切実に捉えるにはどうすべきなのでしょうか?

ジャニーズの現役アイドルたちは、欧米の#MeToo運動のように、勇気を出して声をあげてほしい。
撮影=阿部岳人
ジャニーズの現役アイドルたちは、欧米の#MeToo運動のように、勇気を出して声をあげてほしい。 - 撮影=阿部岳人

私は、何よりも、ジャニーズファンの女性たちに言いたいことがあります。

報道側やMCたちは、いかにも良心めかして、「タレントに罪はない」と言います。果たしてそうでしょうか。欧米の#MeToo運動は、自分のイメージが傷つくことも恐れず、社会と闘った女性たちが切り拓いた活動です。

いまジャニーズの現役アイドルが被害者として声を上げ、それを女性ファンが応援するという姿こそが、社会を変える本来の姿ではないでしょうか。ところが、セクハラを受けたまま泣き寝入りし、事務所の力でアイドルであり続けようとする男性タレントたちを、女性ファンたちが憧れの目で見ているのが現状です。この状態が続くかぎり、民主主義は後退し続け、日本での男女平等は勝ち取れないし、日本人が本当の人権感覚を身につけることはできない。私はそう思います。

ジャニーズファンも勇気をもって、大好きなアイドルに向かって、「アイドルたちは性被害を告発すべきだ」と主張し、「そういうあなたであるからこそ、私たちはファンなのだ」と言うべきなのです。それが真の意味でのアイドルへの愛ではないでしょうか。メディアによる、真実味にまったく欠ける「反省」よりも、現役アイドルの告発と、それへのファンたちの支援が、日本を変えていくと私は思っています。

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木俣 正剛(きまた・せいごう)
元週刊文春編集長
1955年生まれ。編集者。元週刊文春編集長。元文藝春秋編集長。大阪キリスト教短期大学客員教授。OCC教育テック上席研究員。

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(元週刊文春編集長 木俣 正剛 協力=今井照容)

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