1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

政府は存在を否定しているが…「VIVANT」監修の元公安警察が明かす秘密組織「別班」の恐るべき実態

プレジデントオンライン / 2023年11月22日 13時15分

防衛省の看板=2023年2月14日、東京都新宿区 - 写真=時事通信フォト

ドラマ『VIVANT』(TBS系)に登場した自衛隊の非公然組織「別班」が注目を集めている。『VIVANT』で公安監修を務めた元警視庁公安部外事課の勝丸円覚さんは「政府は存在を否定しているが、別班は実在する。2015年にイスラム過激派組織ISが湯川遥菜さんと後藤健二さんを殺害した時、現地の具体的な情報を日本政府に上げていたのは、別班だといわれている」という――。

※本稿は、勝丸円覚『諜・無法地帯 暗躍するスパイたち』(実業之日本社)の一部を再編集したものです。

■「別班」は危険度の高い情報収集のため創設された

防衛省は情報本部以外に非公然組織を抱えているといわれている。その名も「別班」。私が公安監修をしていたTBS系日曜劇場『VIVANT』に登場し、話題になっていた。

防衛省では、軍事活動をする上で海外の裏情報を知ることが重要だとされているため、陸軍の軍人だった藤原岩市(1908年生まれ、1986年没)が、普通の情報機関員では手に入れることができない危険度の高い情報を集めることを期待して創設したのが始まりである。

別班のメンバーは主に防衛省から外務省に出向して、外交官として在外公館に勤務しながら情報収集をしている。それ以外の身分では、公用パスポート(政府が特別に公務員に発行するパスポート)で海外に渡っている防衛省の関係者も別班の可能性がある。

■『VIVANT』では商社マンに扮していたが…

『VIVANT』で描かれていたような商社マンに扮(ふん)した別班は現在の諜報(ちょうほう)業界を見ていると、実際に存在しているとは考えにくい。というのも、民間企業に勤務して活動させるよりも、協力者を民間企業の内部に作って情報を取るほうが安全だからだ。さらに、企業に勤めさせることになると、その後の生活の保障をする必要がでてくる。協力者を内部に作るほうが資金もかからない。加えて、公安警察でも、現在は潜入捜査をしない。それは別班が民間企業に潜入していないと考える理由と同じだ。

自衛隊の秘密組織「別班」の創設に関わったとされる藤原岩市〈1908年生まれ、1986年没〉
自衛隊の秘密組織「別班」の創設に関わったとされる藤原岩市〈1908年生まれ、1986年没〉(写真=PD-Japan-oldphoto/Wikimedia Commons)

2015年に、イスラム過激派組織IS(イスラム国)が、湯川遥菜さんと後藤健二さんを殺害した時、現地の具体的な情報を日本政府に上げていたのは、別班だといわれている。公安内部でも、「あのような情報を集めるのは、おそらく別班の関係者が関わっているだろう」との声があった。あのような危険な場所での活動は別班しかできないと考えられる。ちなみに政府は別班の存在を否定しているが、別班が集めた情報は内閣官房長官と内閣情報官に上がるので、把握しているはずだ。

別班の創設にあたり、旧日本軍の陸軍中野学校(東京都中野区)というスパイ養成機関に所属していた人々が関与していたといわれている。彼らは日本を守るという任務のためには、時に邪魔者を排除することも辞さなかったといわれている。

■金正男の来日情報を一番に摑めなかった公安警察

国際的に見れば、CIAやMI6といった対外情報機関の日本側のカウンターパート、つまり、日本側の同等の組織は、公安警察、内調、公安調査庁のどれなのかがはっきりとしない。そんなことから、海外の情報機関から日本に絡んだ重大な情報がもたらされても、それをうまく活かしきれずに失態が起きることもある。

その象徴的な例が、2001年5月の金正男の来日事件だ。当時、北朝鮮の最高指導者だった金正日労働党総書記の長男である金正男と見られる男が、新東京国際空港(現・成田国際空港)の入国管理局で拘束された。ドミニカ共和国の偽造パスポートを所持し、妻子とともに、中国語の名前(胖熊)を使って入国しようとした。日本政府は当時、小泉純一郎が首相で、田中眞紀子が外相だった。

この時、金正男が来日することを最初に日本に報告してきたのは、イギリスのMI6だった。MI6はその来日情報を公安調査庁へ一番に知らせた。つまり、MI6は公安調査庁をカウンターパートと見ていたことになる。公安調査庁の職員が、MI6ときちんとパイプを構築していたということもあったのだろう。実は、公安警察も、金正男が来日する情報は別ルートで摑んだが、公安調査庁の情報のほうが一足、早かったのである。

空港の窓から飛行機を見ている男性
写真=iStock.com/anyaberkut
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/anyaberkut

■公安調査庁がさらした「あり得ない失態」

結局、日本政府は、外交問題に発展することを懸念して、政治判断によって金正男の一行を国外退去処分にすることを決めた。つまり、入国拒否をして帰らせることにしたのである。

私はこのケースについて、いまだに惜しいことをしたと考えている。もし最初に情報が公安警察にもたらされていたとしたら、おそらく金正男を泳がせて、どこに立ち寄るのかなど行動を調べて、日本側の関係者を特定しようとしたはずだ。さらには、毛髪からDNA情報も確保できたかもしれない。それ以外にも、北朝鮮の金の流れの情報を集めることができたかもしれない。金正男からいろいろな情報が収集できたはずだったが、結果的に、そのまま帰国させてしまうというあり得ない失態をさらした。

この金正男のケースに限らず、海外では私が属していた外事警察はあくまで「法執行機関」であるために、アフリカ某国に赴任中に各国の情報機関関係者が集まるブリーフィング(説明会)にも呼ばれないこともあった。私は警察官であり、情報機関のコミュニティには加えてもらえないもどかしさがあった。しかも、それによって、世界各地で、ことあるごとに情報機関が共有するような情報が得られないことも少なくないのである。それは国家にとっては損失ではないだろうか。

■「日本に行ったら、どこと連絡を取ればいいのか」

余談だが、ある時、私が赴任していたアフリカ某国を、外務省の国際情報統括官組織のアフリカ担当トップが訪れたことがあった。そして、その某国の情報機関の関係者とアポを取って会いにくるという話だった。私はその国の対外情報機関にも国内情報機関にも食い込んでいたが、外務省は私に何も伝えない形で秘密裏に情報機関を訪問しようとしていた。

当然、そうした動きはすべて、その国の情報機関側から私のところに筒抜けだったが、情報機関側も外務省からの訪問者を「どうせ観光で来ているだけだろう」という態度で扱っていた。つまり、普段から日本の情報機関として接触をしていないと、相手にしてもらえないのである。これもまた、日本にきちんとした情報機関を作るべきだと考える所以である。

外国の情報機関関係者は、基本的に日本のシステムをまったく知らない。アフリカ某国で知り合ったCIAやMI6の情報機関員たちから、「日本に行ったら、俺はどこと連絡を取ればいいのか」と聞かれることもあった。もちろんCIAもMI6も東京に支局を置いているのでそこに問い合わせることができる。ただ多角的に情報を取るために、窓口は一つに限定せず、公式なものから個人的なものまで、いろいろな接触先を持とうとしているのである。彼らが公安警察だけでなく、公安調査庁の関係者とも会っているのはそのためだ。

CIAの旗
写真=iStock.com/bilalulker
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bilalulker

■外交官の肩書で、海外で現地の情報を集めているが…

情報機関全般にいえることだが、基本的には自国の国益あるいは自分の国に対する脅威についての情報を求めている。それこそが帰結するところである。よって、自国について悪く言っている団体や評論家、政治家などがいれば、その団体や人物の背後関係を調べるのは当然のことだ。「こいつは何者だ? 日本のお前たちはどう見ている?」といった具合で質問をしてくるのである。

私が警察庁職員として外務省に出向して在外公館で勤務したように、公安調査庁も在外公館に職員を派遣している。そういう意味では、外交官という肩書で、海外で現地の情報を集めているといえるかもしれない。ただ、決してインテリジェンスを扱うような情報活動といえるレベルではない。在外公館にいてやっていることは、基本的に情報収集と分析で、あとは専門家を探して話を聞くといったことだ。予算もなければ、そうした活動を幅広く在外公館で行う法的な根拠もないので、非常に小さい規模で活動するしかないのが現実だ。

■なぜ公安警察は公安調査庁を下に見ているのか

勝丸円覚『諜・無法地帯 暗躍するスパイたち』(実業之日本社)
勝丸円覚『諜・無法地帯 暗躍するスパイたち』(実業之日本社)

彼らも人に会う際には、プレゼントを渡したり、少額の現金を渡しているが、それらは外交機密費から出ている。警察庁出身だろうが、公安調査庁だろうが、外務省に身分を置き換えてから外国に赴任するので、活動の費用は外交機密費から出ることになる。どれだけの金銭を使えるのかについては、その在外公館の大使が決裁する。

日本の情報機関同士は、あまり仲がよくない。私のように、個人レベルで付き合いを維持している人もいるが、基本的にはそれぞれがライバル視をしている。ズバリいえば、公安警察は公安調査庁を下に見ているところがある。昭和時代に活躍した先輩の公安警察官が、公安調査庁の動きはターゲットを「ただ眺めているだけ」と言って批判しているのを聞いたことがあった。現場で鉢合わせすることもあるが、確かに動きの悪い職員もいる。ただそれでも、私は公安調査庁が毎年まとめている「国際テロ要覧」も参考にしているし、個人的に能力が非常に高い人たちがいるのを知っている。

----------

勝丸 円覚(かつまる・えんかく)
元公安警察
1990年代半ばに警視庁に入庁し、2000年代はじめから公安・外事分野での経験を積んだ。数年前に退職し、現在は国内外でセキュリティコンサルタントとして活動している。TBS系日曜劇場「VIVANT」では公安監修を務めている。著書に、『警視庁公安部外事課』(光文社)がある。

----------

(元公安警察 勝丸 円覚)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事を最後まで読む

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事を最後まで読む

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事を最後まで読む

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください