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住んではいけない場所を開発している…千葉県郊外で建ち始めた「30坪2500万円の新築戸建て」の根本問題

プレジデントオンライン / 2023年11月13日 15時15分

新築家屋が近年急増した成田市倉水の分譲地。元々は大半の区画が長年放棄されていた住宅地であり、新築家屋が並ぶその裏に、今でも管理不全の空き地が残る。 - 筆者撮影

千葉県郊外で「30坪2500万円」といった格安の新築戸建てが増えている。「限界分譲地」を取材するブロガーの吉川祐介さんは「そもそも住んではいけない場所なのに、土地の安さから開発が進んでいる。50年ほど前に開発された近隣地は、ほとんど人が住まない『限界分譲地』となっていて、それを繰り返す恐れがある」という――。

■限界分譲地に新築住宅が建ち始めた

不動産の価格を決める要因は、何よりも立地条件と利便性である。その他、需給バランスに左右される面もあるが、その需要を決めるのも結局は立地条件である。

ところが近年は、建築資材の高騰によるものなのか、都市部ではマンション価格も含めた不動産の価格が上昇傾向にある。その影響が郊外まで波及しているのか、公示地価は例年通り下落している地域ですら、住宅価格が上昇する奇妙な現象がみられるようになった。

新築価格が高騰すれば当然中古住宅のニーズも高まるわけで、不動産会社は、以前ほどは弱気の売り出し価格を提示する必要がなくなっている。買い手はある程度の価格で妥協しなければ購入することもできない。

筆者は主に千葉県北東部の「限界分譲地」を取材の対象にしている。今ではバス路線も途絶しつつあるほど利便性が低下したエリアで、調査を始めた7年ほど前から新築どころか、築10年未満程度の家屋もほぼ見かけなかった。

しかし、最近は新築工事を見かける機会がたまにある。例えば、5年ほど前から急激に新築家屋が増えた成田市倉水の分譲地が挙げられる。

資材価格が高騰する中、もはや予算を抑えられるのは土地価格しかない。現在販売されている新築住宅は、建物面積が30坪で、総額は2500万円ほどのものが一般的だが、新築家屋はどちらかと言えば建物面積より敷地面積の広さが重視される傾向にある。自家用車がほぼ唯一の移動手段である地域では、敷地内に駐車スペースがどれだけ確保できるかという点が重要な判断基準になるからだ。

いくら利便性が良くても、土地が狭いのではどうにもならない。準備できる予算が変わらないのであれば、多少の利便性を犠牲にしてでも、駅からも市街地からも離れた分譲地の土地を選ばざるを得ない。

例えば、千葉県芝山町の新築住宅は駅から徒歩99分。約245平米の土地、約100平米の2階建て住宅が2100万円で売り出されている。利便性の良くない住宅地だが、敷地面積の広い住宅地の供給が限られているため、昨今は盛んに新築用地として利用されているのが現状だ。

■分譲地に紛れ込んだ「欠陥分譲地」

中古住宅の売買市場はより活況だ。筆者が東京から移り住んだ千葉県八街市やその周辺は、数年前と異なり、築30年未満の中古住宅が200~300万円で常に売りに出されているという市場ではなくなった。

所有者がその価格に納得できるかどうかを別とすれば、少なくとも現在の千葉県内の場合、よほど朽ち果てている廃屋でもない限り、引き取り手が現れず手放すこともできない空き家はまずないのではないだろうか。

以前、個人売買サイトとして知られる「ジモティー」に、千葉県九十九里町の半焼家屋が1円で売りに出されていたことがあった。引き取り手が現れたのか、今はその広告もすでになくなっている。

空き家が活用されることはもちろん結構なことだ。しかし忘れてはならないのは、「限界分譲地」は、開発の時点で、実需をあまり想定していなかった投機目的の分譲地という点だ。

単に立地条件だけでなく、宅地造成そのものも、実際に居住することを想定していなかったものが少なくない。ありていに言えば、「欠陥造成地」と断じざるを得ないような分譲地を頻繁に見かけるのである。

■傾いたまま放置された2棟の空き家

特に強い印象を受ける光景が地盤沈下である。

地盤沈下は、基本的に軟弱地盤の低湿地などで発生しやすいもので、その分譲地の利便性と直接関連して発生する現象ではないが、ひな壇造成地の盛り土や、手抜きの造成工事(地中の根などを除却しないまま造成し、のちに根が腐って陥没する)などでも発生しやすいことはよく知られている。

茨城県鉾田市にある海沿いの分譲地に、ひどく傾いたまま放置された2棟の空き家がある。地元関係者によれば、東日本大震災の影響で地表がひどく波打ち、以降はそのまま放置されているとのことである。

震災の影響による地盤沈下によってひどく傾いた家屋。手前の空き地も波打っているのがわかる。(茨城県鉾田市上幡木)
筆者撮影
震災の影響による地盤沈下によってひどく傾いた家屋。手前の空き地も波打っているのがわかる。(茨城県鉾田市上幡木) - 筆者撮影

家屋は90年代ごろに建てられた比較的新しいものだが、周辺の擁壁には1970年代以前の分譲地において主流だった大谷石が使われており、造成時期は家屋の建築年より古いものであることが推察される。

先の震災で茨城県は、最大震度6弱の強い揺れに見舞われ、北浦に架かる鹿行大橋が崩落する被害も発生した。当然ダメージを受けた家屋も少なくないのだが、しかし分譲地もろともこれほどまで地形が変化してしまった事例は同市内では他にない。

この被災家屋の近隣ですら震災による特段の影響は見られないので、これはもう造成工事の質の低さに起因する被害であると断じるほかないだろう。

■欠陥分譲地の中古住宅が流通している

筆者は以前、「だから175平米26万円でも売れない…東京から1時間でも「擁壁のある住宅地」が放置される理由」の記事でも紹介したことがあるが、擁壁そのものが崩落してしまって沈下を起こした住宅もある。ひな壇の造成地だけでなく平坦な分譲地においても、地盤沈下によって家屋がひどくゆがみ、放置されている空き家を見かけることがある。

擁壁が崩落した宅地。(千葉県山武市横田)
筆者撮影
擁壁が崩落した宅地。(千葉県山武市横田) - 筆者撮影

家屋が建てられていない更地にもかかわらず沈下しているような分譲地に至っては、もはや造成工事以外に沈下の原因が考えられない。

近隣にこうした被害の模様がそのまま残されている分譲地では、あえてその近所の土地を買って新築工事を行う者などまずいない。更地の需要は極端に下がっていることがほとんどだが、これが中古住宅ともなればまた事情は異なる。

地盤沈下によって骨組みごとゆがみ、放棄されている空き家。(千葉県九十九里町)
筆者撮影
地盤沈下によって骨組みごとゆがみ、放棄されている空き家。(千葉県九十九里町) - 筆者撮影

昨今の住宅価格高騰の影響からか、そんな欠陥造成地にある中古住宅でもお構いなしに流通し、価格を抑えれば必ず売れると言っていい状況が続いている。住宅に限らず何でもそうだが、購入者のすべてが必ずしも合理的な判断を下しているとは限らないからだ。

地盤沈下は家屋の重みで発生するだけではなく、更地にも発生することがある。(千葉県八街市朝日)
筆者撮影
地盤沈下は家屋の重みで発生するだけではなく、更地にも発生することがある。(千葉県八街市朝日) - 筆者撮影

■劣化した擁壁、排水を垂れ流すケースも

擁壁そのものの劣化もある。

1970年代初頭に開発された千葉県八街市榎戸の住宅団地では、以前から団地内の複数の宅地の擁壁にクラック(ひび割れ)が発生しており、中には一部崩落している擁壁もある。

だが、本記事執筆のために再訪したところ、1戸の新築工事が行われていた。比較的市街地に近い割に近隣より相場価格が安めなのだが、近隣の複数の区画が宅地として利用不能な状況になっている中、なおも住宅地としての利用が続く状況に不安を覚えてしまう。

排水に問題を抱えた分譲地も多く目にする。

そもそも、地盤沈下などによって路肩の側溝そのものが損壊していたり、土砂に埋もれてしまって使用不能になっているところも多い。それ以前の問題として、周囲が山林や農地などで、他の住宅密集地から隔絶されているような分譲地の場合、側溝はあっても、分譲地外のどこにもつながっておらず、事実上の垂れ流しになっているケースがある。

見たことがない方にとってはにわかに信じがたい話かもしれないが、分譲地の隅で側溝そのものが途切れている光景は全く珍しいものではない。

造成から半世紀が経過し、擁壁が壊れ始めている宅地。(千葉県八街市榎戸)
筆者撮影
造成から半世紀が経過し、擁壁が壊れ始めている宅地。(千葉県八街市榎戸) - 筆者撮影
分譲地の外で側溝が途切れており、そのまま垂れ流しになっている。(千葉県成田市多良貝)
筆者撮影
分譲地の外で側溝が途切れており、そのまま垂れ流しになっている。(千葉県成田市多良貝) - 筆者撮影

仮にこれらの分譲地に(今はほとんど行われないが)新築工事を行う場合は、現在は合併浄化槽を設置する必要があるが、古い住宅の中にはいまだ生活排水をそのまま垂れ流しているところもある。

しかしこれもまた、地盤沈下を起こした宅地や、擁壁が崩落・劣化した宅地の分譲地と同様、現在の法令や基準を満たしていない中古住宅の利用が規制されているわけではない。

■限界分譲地に安易に手を出さないほうがいい

こうした問題を抱えた分譲地は、もちろんこれからの時代、利用しないに越したことはないとは思う。

だが、中古住宅はたとえ限界分譲地であっても市場に出れば流通し、重大な瑕疵(かし)を抱えながらも、今も廉価な住宅地として利用され続けているのが実情だ。

この利用と放棄の混在こそが限界分譲地の抱え持つ複雑さであり、価格が下がれば直ちにすべての需要が途絶えるわけではないのが難しいところだ。

野放図な土地利用に対しては、行政による規制や指導ももちろん重要だ。しかし基本的に行政は、事前の開発計画は別として、すでにある民間の土地や資産価値を大きく毀損(きそん)しかねないような指導は積極的に行わない。

「見て見ぬふりをしている」というと言葉は悪いが、どんな土地でも個人の所有物である以上、行政の立場でその価値を毀損する行動を取るのは難しい。例えば前述した排水の問題は対策に膨大な費用を要し、対処しようにもできないという事情もある。

■自治体すらどうすることもできない

例外として、災害に非常に脆弱(ぜいじゃく)な地域を居住空間として利用させないように誘導する自治体もある。

千葉県いすみ市の佐室地区にある分譲地は、2021年の1年間に、立て続けに襲来した豪雨で2度にわたって近隣の河川が氾濫し、複数の住戸で床上浸水の被害が発生した。

令和3年度の豪雨によって2度の大規模冠水に見舞われた地域。報道では「集落」と呼ばれていたが、実際は民間の分譲地だ。(千葉県いすみ市佐室)
筆者撮影
令和3年度の豪雨によって2度の大規模冠水に見舞われた地域。報道では「集落」と呼ばれていたが、実際は民間の分譲地だ。(千葉県いすみ市佐室) - 筆者撮影

その地域はもともと低地の水田地帯で、落合川と支流の佐室川の合流地点にある。豪雨時に氾濫することが知られていたため民家は一切なかったのだが、近年になって宅地分譲が行われ、十数戸の家屋が建築されてしまった。

水害時の報道では単に「集落」と報じられていたが、実際には民間業者が販売した分譲地である。

現在、国道からこの分譲地に向かう道の入り口には、いすみ市危機管理課が設置した「令和3年度の落合川流域における浸水被害の概要」と題した看板が設置されている。その看板には浸水被害の模様を撮影した写真のほか、航空写真上に浸水範囲と、床上浸水が発生した家屋の所在地が明記されている。

■「この土地に住むべきではない」とは言えない…

この看板は、「この土地に住むべきではない」などと明記しているものでも、居住を制限する権限を持つ性質のものでもない。

いすみ市危機管理課の担当者にお話を伺ったところ、当初は被災地域の宅地利用を制限する条例の制定も考えたのだが、制定までに時間を要し、かつ当該地域の住戸の嵩上げ工事などの補助も要するために断念した。

その代わりに、注意喚起のために看板を設置したとのことだ。

冠水エリアの近隣に掲示されているいすみ市危機管理課の看板。
筆者撮影
冠水エリアの近隣に掲示されているいすみ市危機管理課の看板。 - 筆者撮影

看板の設置にあたって住民との軋轢はなかったのか気になり、その点も聞いてみた。被災の事実は厳然として存在する以上、地域住民からの反発はなく、了承の上設置されたものであるそうだ。

被災後に護岸工事が行われ、今年(令和5年)の豪雨時には、道路の冠水は発生したものの床上浸水にまでは至らず一定の効果を上げている。だが、地形上災害に脆弱な土地であることに変わりはなく、市は緩やかにこの土地からの住民の離脱を目指しているものと思われる。

■利用と放棄が入り混じった二極化が進んでいる

しかし裏を返せば、千葉県知事が視察に来るほど重大な災害が起きた土地でさえ、行政権限では、その土地の利用の規制にまで踏み切るのは難しいということでもある。

つまり、地盤沈下や排水などの問題を抱えた「欠陥分譲地」を、現状、行政の力で利用を規制することなどほぼ不可能に近く、その利用はあくまで自己責任で判断しなくてはならない。

物件そのものに重大な問題が発生していれば、仲介業者にも説明義務はある。だが、近隣地域の問題は、果たして仲介業者自身、その事実を把握しているかどうかも疑わしい。

いずれにせよ不動産価格の高騰を受け、千葉の限界分譲地はますます二極化というか、利用と放棄が脈絡もなく入り混じり、先行きが見通せない状況に突入している。その中には、本来使うべきではなかった欠陥造成地も当たり前のように含まれていることは、改めてお伝えしておきたい。

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吉川 祐介(よしかわ・ゆうすけ)
ブロガー
1981年静岡市生まれ。千葉県横芝光町在住。「URBANSPRAWL -限界ニュータウン探訪記-」管理人。「楽待不動産投資新聞」にコラムを連載中。著書に『限界ニュータウン 荒廃する超郊外分譲地』(太郎次郎社エディタス)がある。

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(ブロガー 吉川 祐介)

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