「離檀料700万円払え」「墓じまいさせない」住職による高額要求多発…心穏やかな死を望む高齢者の終活に異変
プレジデントオンライン / 2023年11月10日 11時15分
■「墓じまい」に伴う「離檀料」というものは存在しない
日本の仏教宗派のひとつ、曹洞宗が「墓じまい」に関して、異例の表明をした。テレビや雑誌などで「墓じまい」が扱われる際のトラブル事例として「離檀料が必要で一般的には○○万円」といった紹介がなされることがあるが、曹洞宗は公式サイト上で「離檀料に関する取り決めはない」「宗門公式として墓じまいという用語は用いていない」などと、打ち消した。「終活」の流れの中での「墓じまい」と、それに伴う「離檀料」が既成事実化していくことへの危機感の表れとみられる。他方で、菩提寺と檀家との間で、依然としてマネーの問題が噴出しているのも事実だ。
全国におよそ7万7000ある寺院の中で、曹洞宗は1万4500カ寺ほどを占めており、わが国最大の仏教宗派である。それだけに、曹洞宗の発言は仏教界へ与える影響が大きい。
曹洞宗内部で行政機関の役割をする宗務庁は10月25日、公式サイト上で「離檀料・墓じまいに関する報道について」と題する見解を表明した。曹洞宗はこの問題に、強い危機感を抱いている証左といえる。宗務庁が出す声明は、世界各地で起きている戦争への非難や、災害への義援金の募集、宗門の周年事業など、概して大所からの見解が多い。「墓じまい」「離檀料」のような、世俗的な動向について宗門の見解を述べることは異例だ。
ちなみに「離檀料」とは、檀家が菩提寺を離れる際、一部の住職による金銭の要求のことである。離檀料には法的な規定や拘束力はないが「払えないなら、墓じまいをさせない」などと住職が強気に出て、トラブルになるケースがみられる。
曹洞宗はサイトの冒頭で、このように述べている。
「昨今、テレビ、雑誌等にて、離檀料・墓じまいという言葉を用いた報道がなされています。特に、『離檀料は一般的に○○万円』というように、あたかも離檀料に相場があるかのような報道や、寺院維持や住職の生活保障のために離檀料を請求する寺院があるかのような意見が述べられることがあり、誤った認識が広がることを懸念しております」
その上で「離檀料」に関しては、「宗門公式としての離檀料に関する取り決めはない」「檀信徒から、離檀料を頂くようになどという指導も行っていない」と関与を否定。その上で、「離檀に当たり、これまで先祖代々がお世話になった感謝の気持ちとして、布施を納めてくださる場合があるが、地域の風習や慣行、寺院と檀信徒との関係性において、当事者間の話し合いにより決まるものと考えている」と述べている。
続いて「墓じまい」についても、「宗門公式として墓じまいという用語は用いていない」との立場を明確にしている。
離檀料に関しては曹洞宗だけではなく、他の仏教宗派も同様の考えである。宗門から末寺に対し、離檀料を設定して、徴収するように指導するようなことはありえない。しかし、一部の寺院が「暴走」し、多額の離檀料を徴収するケースがみられる。そのため、宗務庁が釘を刺した形だ。だからといって、宗門がそうしたあこぎな住職に対し、よほどのケースがなければ懲戒できないのが現実だ。
■「過去帳に8人の名前が載っているので、離檀料は700万円」
墓じまいについて「公式にその用語を使っていない」との表明に関しては、さほどの意味があるものとは思えない。宗門がどう考えようとも、すでに社会一般に「墓じまい」の用語は浸透してしまっている。用語の流布を拒絶したからといって、どうなるものでもないだろう。
例えば朝日新聞で「墓じまい」が初めて登場するのが、2010年8月8日付の記事でのこと。「墓じまい、私の務め」と題し、報じている。「墓じまい」は2014年以降、急激にメディアで登場していく。
「離檀料」の初出は2013年3月15日付「声」欄である。石川県の読者が「離檀しようとして、高額な離檀料を請求されたトラブルも聞きます」などと投書をしていた。
最近でいえば、同紙2023年4月27日付くらし面。ある人が岩手県内の寺院を離檀しようとしたところ、「離檀料は30万円といわれ、高いと感じたが支払った。閉眼供養(魂抜き)などを合わせて全部で100万円ほどかかった」などと、離檀料トラブルを報じている。
国民生活センターでも2022年6月に「墓じまい 離檀料に関するトラブルに注意」とする情報をメルマガで配信。300万円の離檀料を請求されたケースや、「跡継ぎがいないのでお寺に離檀したいと相談したところ、過去帳に8人の名前が載っているので、700万円かかると言われた。不当に高いと思う」などとする苦情を掲載した。寺から離れる際に、数百万円を要求するとはにわかに信じられない話だが、そういう悪質な寺もあるのだ。
著者も近年、墓じまいのトラブルに関してメディアの取材を受けることが頻繁にある。その際には、離檀料の設定は「絶対にあってはならないこと」と述べている。曹洞宗は公式サイト上で、「地域の風習や慣行、寺院と檀信徒との関係性において、当事者間の話し合いにより決まるものと考えている」とも述べているが、私はそれこそが「抜け穴」になっていると考えている。
![「墓じまい」の風景。墓石の撤去には、相当な費用がかかる](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/4/1200wm/img_b42f77ca73897e717a2da4465f035ff6484139.jpg)
布施(寄付)は、「慣習」や「当事者間との話し合い」で決まることではない。布施はあくまでも出す側の篤志によって決まることであり、そのためには菩提(ぼだい)寺と檀信徒との関係性が良好でなければ、成立はしない。
旧統一教会問題を契機に「被害者救済法」が成立した。そこでは「寄付の不当な勧誘行為」が定められている。たとえば、「離檀料を払えなければ借金してでも払え」などと要求した場合、寄付の取り消し対象になるだけではなく、悪質な寺は解散命令も視野に入ってくる。
他方で、檀家の側にも問題があることがある。墓じまいの際、墓石の撤去費用を出さずに、管理費も滞納したまま、そのまま放置してしまうようなケースだ。
■墓石撤去費用払わず管理費滞納のまま放置する檀家
墓地管理費の滞納が続くと、墓地管理者である住職が督促をすることになる。それでも3年以上の滞納が続いた場合、墓地使用者に契約解除の通知を実施。墓地区画に立札を設置して、1年間ほど掲示するとともに、官報にも同様の公告を行う。それでも申し出がなかった場合は、行政手続きを経て、撤去が可能になる。
![管理費が滞ったまま、行方知れずになるケースは霊園管理者にとって頭の痛い問題](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/5/1200wm/img_3576ad89a6b2cbdec5b65c1c058a26d0502267.jpg)
![鵜飼秀徳『絶滅する「墓」:日本の知られざる弔い』(NHK出版新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/5/1200wm/img_a5f0e8c86f9cce1737bcba94aab0518d246286.jpg)
こうした手続きの煩雑さに加え、墓石の撤去・処分となれば数十万円の出費がかかる。斜面など立地が悪く、区画の規模が大きい場合は100万円を超えることもある。
墓石が放置され、あるいは、管理費の滞納が増えていくと、墓地管理の秩序が崩壊し、連鎖的に同様のケースが増えていく。時間をかけて寺の経営が圧迫され、最終的には寺院が護持できずに、空き寺になってしまう。悪質なケースに困惑する寺が、墓石撤去料を請求するのは当然のことだ。
寺院の墓地規定にあらかじめ、離檀の際に墓石撤去料を記載していることもある。しかし、それが「離檀料」として曲解され、ネットなどで非難を浴びてしまうこともしばしば、起きている。菩提寺も檀家も、最低限の倫理性が求められることはいうまでもない。
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浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』(文春新書)近著に『仏教の大東亜戦争』(文春新書)、『お寺の日本地図 名刹古刹でめぐる47都道府県』(文春新書)。浄土宗正覚寺住職、大正大学招聘教授、佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事、(公財)全日本仏教会広報委員など。
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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)
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