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1万人超のカウンセリングで実感した…「職場でメンタル不調になる人」と「ならない人」の決定的な違い

プレジデントオンライン / 2023年11月14日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shironosov

ストレスに強い人、弱い人の違いはどこにあるのか。公認心理師の舟木彩乃さんは「心の穏やかさを保つには、把握可能感、処理可能感、有意味感が必要だ。ストレスに弱く、メンタル不調になりやすい人は特に処理可能感が欠けている」という――。

※本稿は、舟木彩乃『「なんとかなる」と思えるレッスン 首尾一貫感覚で心に余裕をつくる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部に筆者が加筆し、再編集したものです。

■職場でメンタル不調になる人には共通点がある

私は、一般企業や官公庁で、職員の方のカウンセリングや働きやすい職場作りのコンサルティングをしている公認心理師です。公認心理師とは、聞き慣れない肩書かもしれませんが、心理に関する相談やアドバイスを行うカウンセラーの国家資格です。

働いている人は誰しも、大なり小なりストレスを抱えていることでしょう。職場の人間関係がツラい、上司がパワハラ気質、ママ友がマウントばかりとってくる、家庭が不和など――私のところに相談に来る方の9割が「人間関係」の悩みを抱えています。

これらの相談に来た方々に私が薦めているストレスマネジメント方法は、つらい出来事やストレスフルなことがあっても、うまく対処して、心の健やかさを保てる力「首尾一貫感覚」を高めることです。

カウンセリングの現場で、これまでのべ1万人以上の方の相談に乗ってきて、職場でメンタルを病んでしまう人たちには、ある共通点があることに気づきました。

今回は、その事例と対策について、お伝えしたいと思います。

■心身の健康を保つ「首尾一貫感覚」とは

首尾一貫感覚とは、医療社会学者のアーロン・アントノフスキー博士が、1970年代に提唱したものです。博士は、第2次世界大戦中にナチスドイツのユダヤ人強制収容所に収容された経験をもちつつも、その後更年期を経てなお健康を保っていた女性たちについて研究し、彼女たちに共通する「考え方」や「価値観」を導き出したのです。

端的に言うならば、首尾一貫感覚は「大変な仕事、しんどい人間関係、ストレスフルな出来事があっても、明るく健康に生きる力」となります。そのため、別名「ストレス対処力」とよばれていて、主に下記の3つの感覚で構成されています。

① 把握可能感(「だいたいわかった」と思える感覚)――自分の置かれている状況や今後の展開をある程度、把握できると思うこと
② 処理可能感(「なんとかなる」と思える感覚)――自分に降りかかるストレスや障害にも対処できると思うこと
③ 有意味感(「どんなことにも意味がある」と思える感覚)――自分の人生や自分自身に起こることにはすべて意味があると思うこと

■首尾一貫感覚の高い人、低い人の違い

首尾一貫感覚を理解するのは難しい……と思った人もいらっしゃるかもしれません。しかし、「首尾一貫感覚」は、その名称からもわかるように、あくまでも“感覚”なのです。したがって、“なんとなく”あるいは“感覚的に”とらえていただければ十分です。

「つらい。どうしたらいいかわからない」状況において、首尾一貫感覚の高い人と低い人とでは具体的にどのような違いがあるのか、実際のエピソードでご説明します。

私のところに相談にきた松本さん(仮名/30代女性)は、入社して以来ずっと同じ部署にいましたが、別の部署に異動になって問題にぶつかりました。仕事の内容は大きく変わらなかったのですが、新しい上司や同僚との人間関係や部署の雰囲気が自分に合わなかったのです。

具体的には、上司の指示がわかりにくく、聞き直したりすると機嫌悪く対応されることがストレスだったようです。また、殺伐とした雰囲気の部署で、仕事以外の話ができる同僚もいませんでした。

うつ病の女性従業員
写真=iStock.com/yamasan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yamasan

■なんとかなると思えない、うまくいくと思えない…

松本さんは、この部署で働き続けることは難しいと思い、今後どうしたらいいかわからなくなったため相談にきたのです。そのときの松本さんの考え方やとらえ方を首尾一貫感覚の3つの感覚で掘り下げていくと、次のように整理できました。

〈首尾一貫感覚が低い松本さんの3つの感覚の状況〉
① 把握可能感:今のつらい状態で働き続けるのは難しいと思うけれど、今後、どうしたらいいかわからない
② 処理可能感:上司も同僚も頼りにできず、なんとかなるとは思えない
③ 有意味感 :この問題を乗り越えることに意義を見出せない

どんな人でも、職場環境が変われば相応のストレスを感じるものです。松本さんのように考えてしまうのは、しかたがないのかもしれません。

では、首尾一貫感覚でどのように考えればいいのでしょうか。

<首尾一貫感覚の高い人の3つの感覚の状況>
① 把握可能感:今は部署を異動したばかりだから大変なだけで、少しずつ慣れてくれば変わるだろう。この部署の会社の中での役割や評価を確認してみれば、少しは状況が変わるかも
② 処理可能感:今までもピンチを乗り越えてきたし、今回もなんとかなるだろう。とりあえず上司のことは、前の部署の先輩に相談してみよう。あるいは友人を誘って飲みに行って息抜きをしつつ、どうにかなると思って仕事をしていれば、そのうち話せる人もできて、ちょっとずつ職場にもなじめるだろう
③ 有意味感 :今の状況を乗り越えることで自分は成長することができる

■ストレスマネジメントが上手い人ほど「なんとかなる」と思える

いかがでしょうか。両者には大きな違いがあると思いませんか。

まず、首尾一貫感覚の高い人は「今は慣れていないだけ」と自分の状況を俯瞰(ふかん)的に見ることができています。また、どのようなルールや評価で動いているのかを探ることで今後の展開を見通そうとしています(把握可能感)。

そして、これまでの経験から、「今回も時間はかかるけどなんとかなるだろう」と考えます。「前の部署の先輩に聞く」と人脈を活用することもできています。加えて、息抜きをしたり、アドバイスをもらえたりする友人もいます。こうした人脈や経験があることで「なんとかなる」と思えています(処理可能感)。

また、この経験はつらいし、嫌なことも多いけれど、乗り越えれば「自分は成長することができる」と、意味のある経験としてとらえられています(有意味感)。

このように、首尾一貫感覚の高い人とそうでない人とでは、同じ状況にありながら、まったく違う精神状態です。「つらい。どうしたらいいかわからない」と落ち込む人もいれば、「今はちょっとつらいけど、なんとかなる」と前向きにとらえられる人もいるのです。

■悩みを抱えやすい人は「処理可能感」が欠けている

私は、普段のカウンセリングでも「首尾一貫感覚」を活用しています。その経験から、悩みを抱えて私たちのような心理職に相談にくる人たちのなかで、最も不足しているのは、「処理可能感」だと感じています。つまり「なんとかなる」と思える力です。

首尾一貫感覚の3つの感覚のなかで処理可能感が低い状態なのです。したがって、少しストレスに弱いタイプであったり、ストレスフルな環境でメンタルが少し弱くなってしまっている状態の人たちは、処理可能感を高めることがいいのではないかと思っています。

見通しが立つこと、状況が理解できていることなど、把握する力(把握可能感)も「なんとかなる」と思えるかどうかに影響します。

例えば、地図も持たされず、ゴールまであとどれくらいかかるかもわからない状況で歩かされ続けたら、「しんどい。もうダメ」と途方に暮れますよね。でも、地図を持ち、ゴールまであと3分の1の地点だとわかれば、「ゴールまで行けそう」「なんとかなる」と思えます。

把握可能感(「だいたいわかった」と思える感覚)を高めるためには、「私は損するタイプ」「私はいつも軽く見られる」などど、ネガティブな自己像を作り上げて、固定化させてしまうような「レッテル貼り思考」に注意が必要です。

オフィスのロビーを歩くビジネスパーソンの集団
写真=iStock.com/Rossella De Berti
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rossella De Berti

■カウンセリングで「私ばかり損している」と嘆く人が多い

私のところにカウンセリングにくる人でストレスに弱い人たちの話を伺っていると、環境が変わってもすぐに不満をもっては、「私ばかり損している」「また軽く見られていた」と嘆いたり、落胆したりしがちです。

このような思考を繰り返していると、いい未来をイメージできなくなり、自分の身に起こっていることを把握したり、今後どうなるかを予測したりする目がくもってしまいます。すなわち、自分のことを冷静に俯瞰してみることができなくなり、把握可能感は育ちにくくなります。

また、「レッテル貼り思考」と同様に「~なはず」や「~するべき」「~でなければならない」などの「すべき思考」に縛られすぎないことも大切です。

例えば、「絶対に時間を守るべき」「上司の言うことには従わなければいけない」と強く思いすぎると、「時間を守らない人」「事情があって、従えなかった人」をなかなか許すことができません。断定的で一方的な思考になりがちで、視野が狭くなってしまいます。

■「レッテル貼り思考」は自分を不幸にする

こうした「レッテル貼り思考」「すべき思考」が自分の中にないか、自分に向き合って考えてみることが大切です。例えば次のような問いに答える形で考えます。

「自分の中に『自分は○○のタイプ』『いつも○○になってしまう』というようなネガティブなイメージはありますか?」
答えの例:自分は損するタイプ。自分は仕事を押しつけられるタイプ。私はいつも我慢させられる。私はいつも面倒なことに巻き込まれる(レッテル貼り思考)

「『~すべき』『~すべきじゃない』と思うことはありますか?」
答えの例:絶対に時間を守るべき。あんな乱暴な言い方すべきじゃない。上司の言うことには従うべき(すべき思考)

そして「私は本当に損するタイプなのか? 得することはないか?」「絶対に時間を守るべき、と思っているが、本当にそうなのか。例外やゆるめていいケースはないか」など、自分の中のレッテル貼り思考やすべき思考を疑ってみることで、自分の思考の枠組みを広げてみるといいでしょう。

普段から自分のレッテル貼り思考やすべき思考を知っておき、できれば修正しておくと、自分の思考を広げることができます。

■運の悪さを嘆く人も大勢いる

ここからは、実際の相談者からの相談内容をもとに、ストーリーのなかで「把握可能感の高め方」をお伝えしていきます(相談者のプロフィールや相談内容は、プライバシーを考慮して実際の事例に改変を加えています)。

相談者の半分くらいでしょうか。お話を伺っていると、「貧乏くじを引いてばかり」と自分の“運”の悪さを嘆く人がいます。たしかに、いろいろな悩みや相談を聴いていると、ストレスフルな出来事と運は無関係ではないと思うこともあります。

配属先の上司と相性が悪かったり、担当した顧客がクレーマー気質だったり、異動した直後にその部署が解散になったり。これらは、運と関係があるともいえそうです。

とはいえ、本当に“運が悪い”のでしょうか。

今井さん(仮名/30代女性)のケースを考えてみたいと思います。

■「貧乏くじを引いてばかり」と語る30代女性のケース

〈今井さんの場合〉
私は、日本の大学を卒業してから海外留学していた関係で、帰国して就職したときは20代後半になっていました。同年代と比較して社会人経験が浅いこともあり、また、留学経験で培った英語を活かせない部署に配属されたこともあり、年下の同期に引け目を感じながら会社員生活を送っていました。

存在感が薄かったせいなのか、部署(7人)の懇親会で私だけ乾杯のビールがきていないのに、上司が「では、全員に行き渡ったから乾杯しよう!」と言い出したことがありますし、部署のグループラインで私の発信だけ既読スルーが多いようにも感じています。そして、全員が順番に担当するはずの会議の記録簿は、当然のように毎回私が作成するような雰囲気になっています。最近になって、やっと自分の留学経験が活かせそうな商品企画部の海外部門に異動になり張りきっていたのですが、そこでも存在感を示せてはいません。

企画部では2人1組で新企画を進めていくのですが、私はムードメーカーのような存在感のある先輩(女性30代後半)とペアを組むことになりました。最初は、私のアイディアを熱心に聞いてくれるいい先輩だと思っていました。

しかし、私が考えた企画を話すと、「私にまかせて!」などと言い、しばらくすると少しだけアレンジされて、先輩がメインで考えた企画として会議に出てきます。上司が「この企画はいけそうだ」などと言って先輩を褒めると、私は複雑な心境になりますが何も言えません。

一方で先輩はガッツポーズをして私に目配せをしてきたりします。先輩に悪気があるのかどうかわかりませんが、私はいつもモヤモヤした気持ちを抱えています。私は、なんとなくどこへ行ってもパッとしない、貧乏くじばかり引いているような気がします。

通りを歩くビジネスウーマンの背中
写真=iStock.com/monzenmachi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monzenmachi

■いい未来をイメージすることからはじめよう

今井さんは、環境が変わってもすぐに不満を見つけ出しては、「また貧乏くじを引いてしまった」と嘆いているような状態です。まさに先にお伝えしたような「レッテル貼り思考」をしています。

このような思考を繰り返していると、自分は“いつも貧乏くじを引くタイプ”などというネガティブな自己像を作り上げ、固定化させてしまい、落胆することが増えます。いい未来をイメージできなくなり、把握可能感が育ちにくくなります。

そもそも運がいい悪いというのは、人によって定義やバロメーターが違い、一概に言うことなどできないことです。「運=当てにならない、予測が不可能」といえます。把握可能感を育みやすい「予測が可能」「想定がつく」といった環境とは正反対です。

さらには、「運が悪い」と思い込んでしまうと、それ以上、実態を把握するとか自分の置かれた環境をふり返って分析するなど、「把握する」といった行為をしなくなってしまいます。すると、いいことであっても悪いほうへと解釈するため、悪い面(苦手な先輩がいた)には敏感で、いい面(希望の部署に行けた)には鈍感になります。

■悪い面ばかりを見る思考のクセに気づいてほしい

たしかに、嫌な先輩がいる部署に配属になったことは「運が悪い」のですが、希望の部署に行けたという「運がいい」面もあります。

ものごとには、「いい面」もあれば、「悪い面」もあります。それなのに、「運が悪い」と思える面だけに思考をフォーカスするのは、マイナス思考に支配されているということです。それが続くと、やがて自分に対して“運が悪いタイプ”などとネガティブなレッテル貼りをすることもあります。

まずは、そのことに気づくことが大切です。そして次に、自分にとって「いい面」も探してみることです。「悪い面」にフォーカスするのをやめて、いい面を探す。こうしたいい面も見るようなもののとらえ方に修正していくといいでしょう。

舟木彩乃『「なんとかなる」と思えるレッスン 首尾一貫感覚で心に余裕をつくる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
舟木彩乃『「なんとかなる」と思えるレッスン 首尾一貫感覚で心に余裕をつくる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

また今井さんは自分で設定した「~でなければならない」というルールに縛られ、「自分は後輩だから先輩に意見を言ってはいけない」「若輩者の自分が我慢すべき」などと考える「すべき思考」をしているようです。

このような視野を狭めるような思考を続けていくと、いつしかそれがクセとなり自分の心に固着していきます。その思考グセを修正する方法は、別のとらえ方や考え方を模索することです。

また、2~5年先に「自分はこの会社でどうなっていたいか?」と「なりたい自分」について、考えておくのもいいでしょう。視野が広がり、目の前のことだけにとらわれた考えから、少し離れることができると思います。

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舟木 彩乃(ふなき・あやの)
公認心理師、メンタルシンクタンク(筑波大学発ベンチャー)副社長
一般企業の人事部で働きながらカウンセラーに転身、その後、病院(精神科・心療内科)などの勤務と並行して筑波大学大学院に入学し、2020年に博士課程を修了。博士論文の研究テーマは「国会議員秘書のストレスに関する研究」。これまで一般企業や中央官庁、自治体などのメンタルヘルス対策や研修に携わり、カウンセラーとしての相談人数は、のべ約1万人以上。ストレスフルな職業とされる議員秘書のストレスに関する研究で知った「首尾一貫感覚(別名:ストレス対処力)」に有用性を感じ、カウンセリングにとり入れている。Yahoo!ニュース エキスパート オーサ-として「職場の心理学」をテーマにした記事、コメントを発信中。著書に『「首尾一貫感覚」で心を強くする』(小学館)、『過酷な環境でもなお「強い心」を保てた人たちに学ぶ「首尾一貫感覚」で逆境に強い自分をつくる方法 』(河出書房新社)がある。

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(公認心理師、メンタルシンクタンク(筑波大学発ベンチャー)副社長 舟木 彩乃)

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