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日本には楽天モバイルが必要だ…ソフトバンク宮川社長の「楽天に協力してもいい」発言の真意を解説する

プレジデントオンライン / 2023年11月9日 17時15分

楽天モバイルの三木谷浩史社長(写真=Guillaume Paumier/CC-BY-3.0/Wikimedia Commons)

■楽天モバイルが独自のプラチナバンドをようやく獲得

2023年10月23日、総務省は楽天モバイルに対して700MHz帯の周波数帯を割り当てると発表した。

700MHz帯は、通信業界的には「プラチナバンド」と呼ばれている。街中にアンテナを建てた場合、ビルの中によく浸透するため、建物の中心部でもスマートフォンがつながりやすくなる。

また、よく飛ぶ電波でもあるため、郊外であれば、少ないアンテナで広いエリアをカバーすることが可能だ。

楽天モバイルはこれまで4Gにおいては1.7GHz帯しかもっておらず、繁華街やビル内などはつながりにくいとされていた。そのため、KDDIと契約し、ローミングというかたちで、楽天モバイルユーザーはKDDIが持つプラチナバンドに接続していたのだ。

もちろん、楽天モバイルはKDDIに対して、接続料を支払う必要がある。この金額が年間、数百億円規模であったため、楽天モバイルはいつまで経っても赤字体質を脱却できない状態に陥っていたのだ。そのため、今回、プラチナバンドを手に入れたことで、ようやくKDDIの呪縛から解かれることになったのだ。

■「貧乏くじ」とささやかれる楽天モバイルのプラチナバンド

ただ、今回、楽天モバイルに割り当てられたプラチナバンドは3MHz幅しかない。他のキャリアは25MHz幅も持っているのとは対照的だ。楽天モバイルにプラチナバンドを割り当てる際、NTTドコモがようやくプラチナバンドのなかにある「隙間」を見つけ、「ここならかろうじて使えるかも」という提案があって、楽天モバイルに割り当てられたのであった。

NTTドコモがここまで楽天モバイルに配慮したのは、かつて、楽天モバイルが「3キャリアからプラチナバンドの一部を返上させ、楽天モバイルに再割り当てするべきだ。しかも、楽天モバイルは一円も負担する気は無い」と強気に総務省ならびに3キャリアに迫ったからだ。

NTTドコモやKDDI、ソフトバンクとしては虎の子であるプラチナバンドを楽天モバイルに奪われるのはたまったものではない。そこで、NTTドコモが必死に空いているプラチナバンドを探し出し、総務省に対して「楽天モバイルに割り当てたらどうだ」と提案したのだった。

この打開策によって、3キャリアはプラチナバンドを返上することなく、楽天モバイルもすぐにプラチナバンドでのサービスを提供できるようになった。

ただ、3MHz幅というとても狭い周波数帯であるため「楽天モバイルはNTTドコモに貧乏くじを引かされた」とささやく業界関係者もいるほどだ。

■ソフトバンクはプラチナバンドで通信品質が劇的に改善した

果たして、3MHz幅のプラチナバンドは「貧乏くじ」なのか。

日本の通信業界で最もプラチナバンドに思い入れがある人といえば、ソフトバンクの宮川潤一社長だ。ソフトバンクは2006年にボーダフォンを買収して、携帯電話事業に参入し、2008年にはiPhoneを独占的に扱った。

しかし、「iPhoneは欲しくても、ソフトバンクはつながらないから契約しない」というNTTドコモやauユーザーが多かったほど、当時のソフトバンクは「つながらない」というレッテルを貼られていた。

ところが、2012年にソフトバンクはプラチナバンドを割り当ててもらうやいなや、ネットワーク品質は改善し、いまでは海外の調査会社によるデータでは日本国内においてソフトバンクの評価が最も高かったりするのだ。

現在ソフトバンクで社長を務める宮川潤一氏=2021年2月4日、東京都港区
写真=時事通信フォト
現在ソフトバンクで社長を務める宮川潤一氏=2021年2月4日、東京都港区 - 写真=時事通信フォト

宮川社長は「私は貧乏くじだとは思わない。プラチナバンドは帯域が狭くても持っているのといないのでは似て非なるものだ。3MHz幅があれば、相当、エリアカバーに使うことができる。ただ、ユーザーが1000万を超えると、その帯域では足りなくなるだけに、設計をよく検討したほうが良いだろう」と助言する。

■宮川社長の「協力してもいい」発言

さらに宮川社長はソフトバンクにプラチナバンドが割り当てられた時を振り返り「900MHzが欲しい欲しいと大騒ぎして、3年間で2兆円を投資して頑張ってきたが、それでもつながらないと言われ続けてきた。そこからこまかなチューニングを10年間やってきここまでのインフラになった」と語る。

一方で、楽天モバイルは10年間で1万局、500億円の設備投資しか計画しておらず「それではさすがにできるとは思わない」(宮川社長)と忠告した。

さらに宮川社長は「せっかく割り当てられた周波数なので、もっと活用してもらいたい。もし、ウチが役立つことがあれば、バックホール回線や基地局の場所などをお貸しするとか、そういったところでも協力しても良いと思う」と語ったのだ。

来年以降、1兆円を超える社債償還が待っている楽天グループ。通信事業での苦戦が続くなか、宮川社長からライバルであるはずの三木谷浩史会長に対して救いの手を差し伸べてもいいという発言があったのは驚きだ。

■モバイル業界も「敵の敵は味方」

宮川社長は「ラブコールではない」として、具体的にすぐに救済する意向があるわけではないとしている。

しかし、「NTT法の見直しに対して通信事業者が集まって話をしている。そのなかで三木谷氏もいろいろな発言をしているが、非常に正論で、僕は経営者として尊敬できる人だと思っている。そういう点においても(楽天モバイルには)なくなってほしくないなというふうに思っている」とも語っていた。

NTT法の見直しで、NTTが一方的な主張を繰り返す中、KDDIとソフトバンク、さらには楽天モバイルの距離が一気に縮まった感がある。まさに「敵の敵は味方」というわけだ。

現在、楽天モバイルは、KDDIから一方的に不利な条件でローミング接続契約をされている可能性があるが、ここにソフトバンクが割って入ってくれば、まさに「相見積もり」がとれるようになる。宮川社長の暴走気味な「救いの手」は、あながち楽天モバイルにとっても悪くない話なのではないだろうか。

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石川 温(いしかわ・つつむ)
ジャーナリスト
1998年、日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、月刊誌『日経トレンディ』編集記者に。2003年に独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、テレビ、雑誌で幅広く活躍。

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(ジャーナリスト 石川 温)

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