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2025年までに「世界一の半導体」を国産化する…トヨタ、ソニー、NTTも出資する「半導体10兆円投資」の期待値

プレジデントオンライン / 2023年11月13日 9時15分

ラピダスの半導体工場建設予定地=2023年9月1日、北海道千歳市 - 写真=時事通信フォト

■30年続く経済停滞から脱却できるかもしれない

現在、わが国では、半導体関連の大型プロジェクトが動き出している。目ぼしいプロジェクトの投資額を総計すると、10兆円近い投資金額になる。実際に工場の生産活動が始まると、わが国の半導体生産能力は一気に高まる。

大型プロジェクトの概要を見ると、単にチップの生産量が増えるだけではない。従来、わが国の半導体の生産能力は、チップの回路線幅でいうと40ナノメートル(ナノメートルは10億分の1メートル)止まりだったものが、早ければ2025年に2ナノメートルのレベル(試作段階)まで飛躍的に高まる。2027年から量産する計画だという。

半導体産業の裾野は広い。工場用地としての不動産、電力や水利用のためのインフラ投資など幅広い波及需要も創出される。それによって、わが国は自動車に続く成長の牽引役としての産業を育成できるかもしれない。

それらのプロジェクトがうまく回転し始めると、わが国の経済は明るさを取り戻すことができるかもしれない。すくなくとも潜在成長率は高まるだろう。1990年代以降、わが国経済は30年以上にわたって停滞してきたが、ようやく、自動車に次ぐ産業の柱候補が明確にありつつある。人材の不足など課題も残るものの、わが国経済は回復に向けた大きなチャンスを迎えつつあるといえるかもしれない。

■バイデン政権はTSMC、サムスン電子を支援

足許、世界の半導体産業は急速に変化している。それは、“地殻変動”といってもよいかもしれない。台湾や韓国に集積してきた先端分野のロジック半導体やメモリ半導体の生産拠点が、地政学的なリスク分散もあり、米国、わが国、ドイツなどに急速にシフトし始めている。

安全保障、脱炭素、宇宙開発など、ありとあらゆるところで半導体の重要性は高まる。“産業のコメ”にとどまらず、“戦略物資”として半導体の重要性は急速に高まっている。先端分野を中心とする、半導体生産能力の増強は主要国の力に直結する。

そのため、米バイデン政権は産業政策を強化した。台湾積体電路製造(TSMC)や韓国サムスン電子などに補助金を支給し、先端分野の半導体工場を誘致した。

米アリゾナ州にてTSMCは3ナノメートルの回路線幅を持つチップの製造を行う計画だ。テキサス州ではサムスン電子が最先端の半導体工場を建設し、TSMCとのシェアの差を縮めようとしている。

■独走状態のTSMCが抱えるチャイナリスク

また、台湾問題など地政学リスクの高まりも大きい。今日、回路線幅7ナノメートルなど先端分野のロジック半導体の製造に関して、TSMCは事実上の独走状態にある。同社は台湾での生産能力強化に集中した。2025年に新竹県にある工場でTSMCは回路線幅2ナノメートルの次世代チップ量産を開始する計画だ。

一方、中国政府は台湾への圧力を段階的に強めた。今後、台湾海峡の緊迫感が高まるようなことがあると、人工知能などに用いられる高性能の画像処理半導体(GPU)などのチップ供給は停滞する恐れがある。それは世界にマイナスだ。リスクを分散するために、TSMCなどは日米欧の補助を活用しながら海外直接投資を強化した。

その一つとして、TSMCは熊本県菊陽町に2つの工場を建設中だ。第1工場の投資金額は1.2兆円程度、回路線幅12~28ナノメートルのチップを主に生産する予定だ。第2工場の投資金額は2兆円規模に達する見込みであり、2027年に6ナノメートル幅の回路を持つ先端分野のチップの量産を目指す。

■投資金額は日本全体で10兆円規模に

わが国では、熊本、宮城、北海道などで半導体関連の大型プロジェクトが走り出した。熊本県、長崎県ではソニーがCMOSイメージセンサ(画像処理半導体の一つ)の生産能力拡張を進める。投資規模は非公表だが、熊本県での工場建設は8000億円程度に達するとの見方もある。熊本県では三菱電機も1000億円程度を投じてパワー半導体の工場を建設する。

広島県では、米マイクロンテクノロジーが生産能力の強化に取り組む。マイクロンは対日直接投資を最大5000億円程度実施する方針だ。三重県ではキオクシア(旧東芝メモリ)と米ウエスタンデジタルが、メモリ半導体の生産能力強化に1兆円を投じる。宮城県では台湾の力晶積成電子製造(PSMC)とSBIホールディングスが、8000億円以上を投じて半導体工場を建設する。

北海道千歳市では次世代の回路線幅2ナノメートルのチップ生産を目指すラピダスが工場建設に着手した。トヨタ自動車やソニー、NTTなど国内大手8社が出資し、総額は5兆円規模だ。それらを単純に足し合わせると、投資金額は10兆円規模に達する。

■過去の失敗を経て政府方針が明確になった

大型プロジェクトが進行する背景として、わが国に半導体の製造装置、フッ化水素やフォトレジスト(感光性材料)など超高純度の半導体関連部材企業が集積することは大きい。半導体メーカーがサプライヤーとの連携を強化し、迅速に供給体制を整えて事業運営の効率性を高めるために、わが国の産業特性は大きな支えだ。

その中、現時点で、極端紫外線を用いた露光装置を世界で唯一製造できるオランダのASMLも北海道に新しい拠点を設ける。ラピダスは、米IBMが開発した2ナノメートルの設計技術などを用いて次世代半導体の製造を目指す。ラピダスはベルギーの半導体研究機関“imec(アイメック)”とも連携する。

エルピーダメモリの破綻などを教訓に、わが国の産業政策の運営方針は過去と異なる。補助金などによって民間企業のリスクテイクをサポートする政府の考えはかなり明確だ。政府は、企業の国際連携も促進する考えを示している。それらを支えに、ASMLはラピダスが次世代半導体分野で競争力を発揮する可能性は相応に高いと考えているだろう。

ロボットアームが起動している生産ライン
写真=iStock.com/zorazhuang
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/zorazhuang

■課題は化石燃料由来の電力、人材不足

半導体の生産には、製造装置、関連部材以外の企業との連携強化も欠かせない。電力、水、物流、さらには半導体分野のエンジニアを育成するための教育制度、施設の拡充も必要だ。

それは近年の台湾の状況から確認できる。台湾では一時、異常気象による降雨量の減少などによって水不足が深刻化した。TSMCは散水車を用いて水を調達し、チップの生産を維持した。微細化技術の高度化に伴い半導体工場が消費する電力量も急増し、台湾の電力不足懸念も高まった。また、台湾では半導体関連の人材不足も深刻とみられる。

現在のわが国にとって優先度の高い課題は、天然ガスなど化石燃料に依存する電力供給、人材の不足だろう。2024年度、熊本大学は工学部に半導体デバイス工学課程を創設すると発表した。

それでも人材育成には時間がかかる。ラピダスなどは内外のネットワークを駆使して人材を確保し、当面の事業運営に臨む方針だ。わが国が関連する分野で投資や教育制度を強化して課題を解消し、半導体産業を育成できれば潜在成長率上昇の可能性は高まる。

■“世界一”を奪還する重要な契機を迎えつつある

見方を変えると、現在、わが国は官民の総力を挙げて“ヒト、モノ、カネ”の側面から半導体産業を育成できるか否か、重要なターニングポイントを迎えつつある。1990年代以降、ハイブリッド自動車を生み出した自動車産業が、わが国経済を支えた。

それに続く成長産業として、わが国は航空機を重視した。しかし、かつて“三菱リージョナルジェット=MRJ”と呼ばれた航空機プロジェクトは、型式証明を取得できず失敗した。

足許、中国BYD、米国テスラのEV生産能力の強化によって、中国はわが国を追い抜き世界最大の自動車輸出国に成長した。わが国は自動車に代わる、あるいは続く成長分野として半導体産業の育成を急がなければならない。

電力の供給、人材不足などボトルネックは多い。その中、政府、自治体、関連企業が総力を挙げて課題を解決し、半導体アイランドとしての日本経済の再興が結実する展開を期待したい。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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