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年収1500万円を死守するために強いものには絶対服従…和田秀樹「ジャニーズ事件の共犯者テレビ局を断罪せよ」

プレジデントオンライン / 2023年11月13日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Georgiy Datsenko

ジャニー喜多川氏による性加害を止められなかったのはなぜか。医師の和田秀樹さんは「日本では性犯罪や強制性交の被害届を出した人のうち、起訴されるのは100人に約1人とごく僅か。テレビドラマに登場する熱心に仕事する刑事や警察官は、警察の情報に頼って番組を作るテレビ局から警察への賄賂みたいなものだ。今回のジャニーズ事件然り、そうして性犯罪を見過ごしてきた構造をつくったテレビ局も共犯者として断罪されるべきである」という――。

※本稿は、和田秀樹『和田秀樹の老い方上手』(ワック)の一部を再編集したものです。

■男に犯された男の心の傷は大きい

光GENJIやSMAP、嵐など、国民的男性アイドルを続々と世に送り出してきたジャニーズ事務所の創始者、ジャニー喜多川(2019年死去)による、所属の少年タレントたちへの長年にわたる性加害疑惑、いわゆる「ジャニーズ問題」を受けて、「児童虐待防止法」の改正が取りざたされています。

こういう話を聞くと、私ども精神科医はとても気になります。性的なトラウマというのはなかなか癒えるものではなく、一生引きずることもある。

しかも日本の場合、そういうトラウマを抱えた人を治療する医療機関はとても少ないうえ、そもそもトラウマには薬が効かないのに、カウンセリングが専門の医者は大学病院の精神科の教授には一人もいません。

しかも、アメリカの有名な調査によると、男にレイプされた女性がPTSD(心的外傷後ストレス障害)になる割合はおよそ45%であるのに対し、男による男性へのレイプの場合、被害者がPTSDになるケースは55%にも上るということです。

男に犯された男の心の傷の大きさというのは、その惨めさとか不条理さを思えば無理もないような気がします。だから、ジャニー喜多川のケースも、「おじいさんがちょっとイタズラしただけじゃないか」ということですまされる問題ではない。

たとえ加害者が故人であったとしても、事件の全貌を明らかにして、被害を受けた人たちへの心のケアが行われなければなりません。

■「性的な行為を強要された」暴露本を出したアイドルの末路

私がとくに不愉快に思ったのは、ジャニー喜多川という人の少年への性的虐待疑惑は昔から知られていたのに、それをマスコミがずっと黙殺し、報道しなかったことです。

今回、イギリスの公共放送BBCがこの問題を大々的に取り上げ、国連人権理事会が調査に乗り出したことで、日本のテレビ局も、やっと恐る恐る取り上げるようになりました。

いまから35年前の1988年に、元フォーリーブスのメンバー、北公次氏が『光GENJIへ』という自伝を書き、その中でジャニー喜多川に性的な行為を強要されていたことを告発しました。

フォーリーブスといえば、当時のジャニーズ事務所を代表するアイドルグループで、なかでも北公次氏は女の子たちの人気の的でした。

ところが、この告発本は芸能界から猛反発をくらい、でっち上げだ、インチキだということにされ、マスコミもいっさい無視を決め込み、結果として北公次氏は芸能界から葬り去られ、二度と表舞台に立つことはありませんでした(2012年死去)。

その後もジャニー喜多川とジャニーズ事務所に対する元所属タレントや週刊誌からの告発は断続的に続き、裁判にもなっているのに、新聞・テレビはそれらをまったくと言っていいほど報じることなく、知らんふりを決め込んでいました。

■「強いものには絶対服従」がテレビ局の基本理念

ところが、海外メディアや国連が騒ぎ出したのであわてふためき、「まあジャニーさんも亡くなったことだから」と、これまでのことなどいっさいなかったかのように、いまさら「もし事実だとしたら二度とあってはならないことです」などときれいごとを言っている。恥ずかしくはないのでしょうか。

メガホンを持つ手
写真=iStock.com/Andrii Zorii
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Andrii Zorii

テレビ局の人間などというものは、自分たちの年収(平均約1500万円)を守るためなら、アルコールが原因で毎年3万5000人が死のうと飲酒シーンのCMを流し続けたり(WHOはやめるように勧奨しています)、年間100人が拒食症で亡くなろうが、痩せすぎモデルを使い続けたりするようなメディアです。

「強いものには絶対服従」がテレビ局の基本理念ですから、人気タレントを多数抱える大手事務所が表沙汰にしたくないことは、いっさい報じない。

それが今回のジャニーズ問題で白日の下にさらされると、初めて知ったかのような顔をしてきれいごとを繰り返すのは厚顔無恥としか言いようがありません。

■「周りで見て見ぬふりをしていた大人たちも同罪に」

それはともかくとして、今回のジャニーズ問題と前後して、強制性交罪と言われるものが「不同意性交罪」に名称変更され、処罰の範囲が明確化されるなど、刑法改正の動きが進んでいます。

これは、ジャニー喜多川のしたことが法律上、「強制性交」にあたると認識されたからだと私は考えています。こうした動きについて、精神科医として少々意見を述べさせてもらいたいと思います。

「強制性交」というものは、2017年までは男が女性に無理やり性行為に及ぶことを指していたわけですが、今や相手が男女にかかわらず、性的な行為を相手の同意なく行うことも含まれるということになる。

とくに、立場の強い人間が弱い人間に対して――たとえば親が子に、学校の先生が生徒にわいせつな行為をするのも「強制性交に当たる」という考え方になったわけです。

精神科医として言わせてもらうなら、実際に性交まではしていなくても、そういう行為は人によっては大きなトラウマになる恐れがある。結果として相手に心の傷が残ってしまうような行為を「強制性交」と見なし、重い罪を課すことにはもろ手を挙げて賛成します。

もう一つ、元ジャニーズJr.の被害者が言っていたことですごく印象的だったのは、「加害者の罪を重くすることはもちろんだけれど、傍観者、つまり周りで見て見ぬふりをしていた大人たちも同罪にしてほしい」ということです。これは本当に正論だと思います。

■「もう昔の話じゃないか」という問題ではない

たとえば集団レイプなどの場合だったら、周りで傍観している人間も性的虐待に加担していると見なされ、罪になるでしょう。それと同じことです。

アメリカでは児童虐待を目撃しながら通報を怠ると、重い罪に問われます。それは、児童虐待の被害者の人たちがその後、健全に育たない恐れがあり、場合によっては凶悪犯罪を引き起こす可能性があるという認識がアメリカ国民の間で共有されているということです。

だから、見て見ぬふりをする人たちも罪を問われるべきだというジャニーズ事件被害者たちの主張は傾聴に値すると私は思います。

もう一つ、今回の刑法改正の要点ですが、たとえば10歳の子供に性的虐待を行った場合、10年から15年の時効が、被害当時の10歳からではなく、18歳からカウントされることになりました。

私自身、15歳で集団レイプにあった女性の手記をもとに『私は絶対許さない』(2017年)という映画を作ったわけですが、その女性が、自分が集団レイプされたことを世の中に訴えることができたのは、事件から20年近くたった34歳の時まで待たねばなりませんでした。

部屋の床に座って泣いているセクハラを受けた女性
写真=iStock.com/Tero Vesalainen
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tero Vesalainen

やはり、若い時に性被害を受けた人は20年ぐらい経たないと、あるいは40歳を過ぎたくらいでないと告白できないというのが実情です。だから、絶対に「もう昔の話じゃないか」というような問題ではありません。

ラジオの深夜放送を聞いていると、ある有名芸人が若い女性に無理やりにセックスをしたという話について「ネタが古すぎる」とその番組のパーソナリティの芸人が笑いながら話していましたが、これをもし被害者の女性が聞いたなら、そのパーソナリティは性的加害者といっていいほど、ほぼ間違いなく被害者のトラウマは大きくなります。

いくら昔のことでも、笑ってすませられるものではないことを肝に銘じるべきでしょう。

■性犯罪、強制性交で起訴される人は100人に1人だけ

ドイツの場合だと、被害者が30歳になるまで時効をカウントしません。時効までの期間も20年、30年とあるので、実質的には時効はないに等しい。PTSDの患者さんの心の傷は一生治らないこともあるんです。

それなのに、加害者のほうは5年や10年で「ハイ時効です。無罪放免、お咎めナシ」なんてことがあっていいのかという話です。

日本では性犯罪にあったり強制性交されたりした人のわずか3.7%しか警察に被害届を出していない(警察が面倒くさいから受理しない結果でもあるのですが)という内閣府の調査があります。

にもかかわらず、起訴されるのはその中のたった3割ですよ。つまり100人に約1人というわけです。

日本の警察というのは、一時停止違反を物陰に隠れて見張りながら3人がかりで捕まえるくせに、ストーカー被害の相談に行くと、「いま人手不足で忙しくってね」と体よく追い返す。だいたい刑事ドラマっていうのは、いかにも警察が働いているように見せるために作られると私は考えています。

言ってみればテレビ局から警察への賄賂みたいなものですよ。自分たちの年収を守るために取材費をケチって自分たちで取材しようとせず、警察の情報に頼って番組を作るものだから、忖度(そんたく)しまくっています。

だけど、テレビドラマみたいに熱心に仕事する刑事や警察官なんて、実際にはそうはいません。

■実質的に被害者が100万円で売春したようなもの

交通違反は金になるから取り締まるけれど、一文にもならない事件なんて捜査する気もない。

和田秀樹『和田秀樹の老い方上手』(ワック)
和田秀樹『和田秀樹の老い方上手』(ワック)

性犯罪なんて調べるのも面倒くさがって、「向こうも金を払うって言っているんだから」って、たった100万円やそこらの金で示談を強要する。これは実質的に被害者が100万円で売春したことにするようなものじゃありませんか。

「私は示談なんかにしたくありません」と言っても、「でもねぇ……証拠そろえられないし、起訴は難しいねぇ。示談にしなさいよ」と被害者を誘導するという話も聞きます。

性犯罪というのは本当に憎むべき犯罪です。厳罰化・重罪化する以外に予防する手段はないし、それしか被害者を救う方法はありません。見て見ぬふりをした人も罪になるよう法整備することも重要です。

日本のフェミニストは女性の管理職や政治家を増やせというが、そのような動きはほとんどしてくれません。いずれにせよ、ジャニーズ事件に関してはテレビ局も共犯者として同罪に問われ、告発されてしかるべきではないでしょうか。

本稿ではジャニーズ問題を考察しましたが、本書にはこのほか健康、医者や病院との付き合い、老いを楽しむなど、面白くてためになる全32編が掲載されています。是非ご一読ください。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」

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(精神科医 和田 秀樹)

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