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数百円の商品でも1万円札を出す、好きだった「朝ドラ」を見なくなる…「認知症グレーゾーン」の危険サイン

プレジデントオンライン / 2023年11月16日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kayoko Hayashi

認知症には、健常者と認知症の中間にあたるグレーゾーン(軽度認知障害)の段階がある。認知症専門医の朝田隆さんは「レジで小銭を出すのが面倒になる。好きなドラマや趣味がつまらないと感じるようになる。これらは『認知症グレーゾーン』の疑いがある」という――。

※本稿は、朝田隆『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』(アスコム)の一部を再編集したものです。

■レジでお札しか出さなくなったら危険水域

買い物に行って、レジで「3750円です」と言われたとします。このとき、多少まごついたとしても、お財布から千円札3枚、百円玉7枚、十円玉5枚を出せているうちは通常の老化現象、問題ありません。

一方、認知症グレーゾーンの人は、注意力や集中力が低下しているため、お財布からお金を出している途中で「あれ? 今いくら払ったっけ?」「百円玉を何枚出せばいいのだろう」とわからなくなります。お金を正確に支払うには、想像以上に脳をフル稼働させる必要があるのです。

レジでお金の支払いに一度失敗すると、それをきっかけにお札しか出さなくなる場合が多く見られます。「めんどうくさい」という思いと「恥をかいた」というトラウマから、数百円の商品でも1万円札しか出さないと決めている人もいます。

最近はクレジットカードやスマートフォンなどで支払いができる店が増えており、手順を覚えればそちらのほうが簡単です。しかし、慣れないことをするのがめんどうで現金払いしかしないのも、認知症グレーゾーンの「あるある」です。

■ポケットに小銭がどんどん増える人も要注意

なお、後ろに並んでいる人に気を遣い、小銭をあきらめて1万円札を出したのだとしたら、それは問題なし。むしろ、周囲の人に気遣いできることは、脳がしっかり働いている証拠です。

買い物から帰ってくるたび、お財布やポケットが小銭でパンパンに膨れている場合は要注意です。お財布やポケットから出した大量の小銭が、家のあちこちで見つかることもあります。

お財布やポケットから出した大量の小銭が家のあちこちで見つかることも
出典=『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』

認知症グレーゾーンの人は、自分の異変を知られたくないという意識がまだ残っています。そのため、家族が「お母さん、この小銭は何?」と聞いても、「孫のお年玉にする」とか「小銭貯金」といった言い逃れをしがちなので、注意してみてください。

■NHK「朝の連続ドラマ」を観なくなるのは認知症グレーゾーンのサイン

Fさん(74歳・女性)は、テレビドラマが大好きで、とくにNHKの朝の連続ドラマを若い頃から欠かさず観ていました。ところが、70歳を過ぎた頃から、朝ドラを観ている途中でチャンネルを変えるようになり、そのうちテレビは相撲と懐メロの歌番組しか観なくなりました。

Fさんのような変化は、認知症グレーゾーンの人によく見られる現象です。連続ドラマというのは、前回のストーリーを覚えているからこそ、次の展開を楽しめます。ところが、認知症グレーゾーンの人は前回のストーリーの記憶が薄れているので、ドラマの展開を追うのが難しくなります。

一方、相撲や懐メロの歌番組は、何も考えずにボーッと観ていられます。記憶に残す必要もないため、ストレスなく視聴できるのです。ただし、『水戸黄門』や『相棒』のような1話完結のドラマであれば、認知症グレーゾーンであっても楽しめます。

ご家族が不思議に思い、「なぜ観ないの?」と尋ねると「最近のドラマはつまらない」と答えるケースがよくあります。しかし、それはその場の言い逃れであり、実際はそれまでのストーリーの記憶がないので「意味がわからない」「つまらない」と感じている場合が少なくありません。言葉の背景にある本心を察する必要があります。

■家電操作のもたつきは、リカバリーできるかがカギ

年をとると、若い頃は簡単にできた家電の操作にも、もたつくようになります。たとえば、全自動洗濯機。最近までは難なく使えていたのに、加齢とともに老眼が進んだり、手の細かい動きが鈍ってきたりすると、「あっ、押し間違えた」というミスが起こりやすくなります。

それでも、落ち着いていったん電源を切り、再度スタートボタンを押して操作し直すことができれば、多少もたついたとしても老化現象の範囲内です。一方、ボタンの押し間違いに気づかなかったり、気づいてもリカバリーできず、洗濯をあきらめてしまったりするようなら、認知症グレーゾーンが疑われます。

早くに奥さんに先立たれた一人暮らしのGさん(67歳・男性)は、定年まで公務員を勤め上げ、定年後も再雇用で65歳まで働き続けた、とても誠実な方でした。

そんなGさんが引退して2年後の、ある真夏の暑い日のことです。近所に住んでいる娘さんのところに、「エアコンが故障して動かない」とGさんから連絡が入ったのです。娘さんは父親が熱中症になっては大変だと思い、急いでかけつけました。しかし、Gさんの行動を見てびっくり。Gさんは、テレビのリモコンをエアコンに向け、必死で電源ボタンを何度も押していたのです。

このように、家電の簡単な操作ができなくなることで家族が異変を感じ、受診につながることはよくあります。

リモコンが違うことに気づかない
出典=『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』

■「電子レンジが使えなくなった」はかなり重症

家事を普段まったくしない男性が、奥さんが亡くなったあと、洗濯機や掃除機の使い方がわからないという場合は問題ありません。ご家族の気づきの最大のポイントは「今まで当たり前に使っていた家電が、急に使えなくなる」という点です。

また、認知症グレーゾーンで家電の使い方がわからなくなっても、操作が簡単な「電子レンジだけは使える」という人が結構いらっしゃいます。

いわば電子レンジは最後の砦で、電子レンジが使えるうちは、出来合いの総菜を買ってきてチンして食べられるため、グレーゾーンの人でも一人で生活できます。

逆にいうと、電子レンジを使えなくなったら、かなりの重症です。グレーゾーンを超えて認知症が始まった証ともいえます。診断を受けたうえで、ストーブ、コンロ、アイロンなどの危険がともなう家電の使用は避けさせることを提案します。

また、電気コードの劣化や、ほこりがたまることによる火災も考えられます。とくに、高齢の親御さんと離れて暮らすご家族は、帰省したときにしっかりと確認するなど、注意して見てあげてください。

■孫の名前が思い出せなくなったら病院に行ってほしい

「あの俳優の名前、何だったっけ?」「ほら、有名な俳優だよ。えーっと……」

そんなやりとりは、年をとると誰でも増えてきます。でも、自分の子どもや孫など、ごく身近な親族の名前をなかなか思い出せない、となると話は別。認知症グレーゾーンが始まっている可能性が濃厚です。

Hさん(78歳・男性)には、2人のお孫さんがいらっしゃいます。一人は小学2年生、もう一人は幼稚園児で、ともに男の子。どちらも70歳を超えてから生まれたお孫さんなので、目に入れても痛くないほど可愛がっていました。

それが最近は、2人の孫の名前を間違って呼んだり、誕生日を忘れたりして、「おじいちゃん、大丈夫?」と、幼い孫たちに心配される始末。Hさんはすっかり落ち込み、娘さんに連れられて当院を受診して、認知症グレーゾーンだとわかりました。

Hさんの変化は、じつは自分のお子さんに対しても見られました。これまでずっと息子さんのことを名前で呼んでいたのに、急に「おまえ」とか「おい」で済ますようになったといいます。

こうした近親者の名前のど忘れが何度も繰り返されるようなら、認知症グレーゾーンへ進んでいる可能性を疑うべきでしょう。

お互いの手を握る祖母と孫
写真=iStock.com/kohei_hara
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kohei_hara

■「同じものを買ってしまう」は普通の老化

「昨日、マヨネーズを買ってきて冷蔵庫を開けたら、未開封のマヨネーズがすでにあってびっくり。私ったらうっかり忘れて、もう本当にボケてるわ」そんなサザエさんのような失敗談は、年齢とともに増えていきます。けれども、Iさん(62歳・女性)の場合は、ちょっと違っていました。

一人暮らしのIさんは、仕事帰りに買い物をして帰宅し、冷蔵庫を開けたところ、卵の10個入りパックが3つも入っていたのです。「なんでこんなに……」と絶句したものの、「まあ、必要なものだからいいか」と思い直したIさんでしたが、なんとその翌日に、またもや卵の10個入りパックを買ってきてしまったのでした。

いったん気づいてもまた忘れる
出典=『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』

このように、同じものを買うことが「たまにある」のは老化現象ですが、いったん気づいたのにまた同じものを買ってきてしまうのが認知症グレーゾーンの特徴です。記憶をつかさどる海馬の働きが弱くなった結果、つい最近の出来事を覚えておくのが苦手になってしまうのです。

本人にとって「これがないと困る」と思っているものは何度も買ってくるのに対し、人から頼まれたものは買い忘れが目立つようになります。

たとえば、家族に「ビールを買ってきて」と言われても、自分の気になっている買い物で頭がいっぱいなので、人からの頼まれ事は記憶に残りません。すでにたくさん買い置きしているゴミ袋は購入しても、直前に頼まれたビールは忘れてしまいます。

「あれ? 私が頼んだビールは?」という違和感こそ、家族にとって気づきのポイントとなります。

■「料理を作らなくなる」はグレーゾーンの代表的なサイン

若い頃から料理を作るのが大好きで、子どもが自立したあと、栄養士の資格を生かして自宅で料理教室を始めたJさん(66歳・女性)。

簡単でおいしい料理が評判となり、遠方からも習いに来る人が増えました。ところが、5年ほど経った頃、Jさんは急に教室を閉じてしまいました。その後、家族の食事も作らなくなり、台所に立つこともやめてしまったのです。たまたま私の本を読んだご主人が、料理を作らなくなるのは認知症グレーゾーンの代表的な特徴の一つと知って当院を訪れ、Jさんは認知症グレーゾーンの中期であることがわかりました。

年齢を重ねると、料理をするのがおっくうになることはあります。レパートリーが減り、複雑なレシピが苦手になってくる。これはよくあることです。

しかし、パタリと料理をしなくなってしまったら、認知症グレーゾーンを疑う必要があります。その背景には、意欲と記憶の両方の低下が関係しています。

まず、食材を洗う、刻む、フライパンに油をひいて炒めるといった、基本的な動作はほぼできます。しかし、前頭葉の働きが悪くなり、判断力が低下するにつれ、調理の段取りが難しくなります。また、記憶力が低下し、料理の手順を記憶しておけなくなりますし、調味料を入れたかどうかも忘れます。さらに、味見をしても味がわかりません。

■料理は最高の「脳活」になる

普段は何気なく行っている料理は、じつは脳がフル稼働していないとできないものなのです(本書123ページ参照)。そうなると、あれほど好きだった料理が楽しくなくなり、こんな料理を作りたい、家族に食べさせたいといった意欲もわいてきません。料理は最高の“脳活”ですから、さらに認知機能が低下していくという悪循環に陥ってしまうのです。

朝田隆『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』(アスコム)
朝田隆『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』(アスコム)

料理の味が大きく変わった。いつも手際よく調理していたのに最近もたついている。以前はほとんどなかった出来合いの総菜パックが食卓に並ぶようになった。

そんな変化が見られたら、認知症グレーゾーンが疑われます。一方で、たまに子どもや孫が遊びに来たときだけは、奮起して料理をすることもあります。ご両親と離れて暮らしている方は、普段の様子にもそれとなく注意してみてください。また、失われた料理へのモチベーションを取り戻す方法もあります。それについては、本書(120ページ)で紹介しますので、ぜひご参考にしてみてください。

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朝田 隆(あさだ・たかし)
認知症専門医
東京医科歯科大学客員教授、筑波大学名誉教授、医療法人社団創知会理事長、メモリークリニックお茶の水院長。1955年島根県生まれ。1982年東京医科歯科大学医学部卒業。東京医科歯科大学神経科精神科、山梨医科大学精神神経医学講座、国立精神・神経センター武蔵病院(現・国立精神・神経医療研究センター病院)などを経て、2001年に筑波大学臨床医学系(現・医学医療系臨床医学域)精神医学教授に。2015年より筑波大学名誉教授、メモリークリニックお茶の水院長。2020年より東京医科歯科大学客員教授に就任。アルツハイマー病を中心に、認知症の基礎と臨床に携わる脳機能画像診断の第一人者。40年以上に渡る経験から、認知症グレーゾーン(MCI・軽度認知障害)の段階で予防、治療を始める必要性を強く訴える。クリニックでは、通常の治療の他に、音楽療養、絵画療法などを用いたデイケアプログラムも実施。認知症グレーゾーンに関する多数の著作を執筆し、テレビや新聞、雑誌などでも認知症への理解や予防への啓発活動を行っている。著書に『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』(アスコム)、『まだ間に合う!今すぐ始める認知症予防』(講談社)などがある。

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(認知症専門医 朝田 隆)

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