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ストレスの9割は脳の錯覚…精神科医・和田秀樹が「苦手な上司には点数をつけなさい」と説く納得の理由

プレジデントオンライン / 2023年11月17日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Thitima Uthaiburom

心の病を招くストレスを溜めないためにはどうすればいいか。医師の和田秀樹さんは「ストレスの溜まる思考パターンから脱却するには、モノの見方を変えることが重要だ。二者択一的ではなく、グラデーションでモノを見る習慣をつけるといい。そうすれば他人に寛容にもなれ、自分にも寛容になれる」という――。

※本稿は、和田秀樹『和田秀樹の老い方上手』(ワック)の一部を再編集したものです。

■心の病気の早期発見、早期治療につながるストレスチェック

ストレス社会と言われるようになってから、もうずいぶん経ちますが、2015年からは従業員50人以上の職場で「ストレスチェック」が義務化され、労働者のメンタルヘルスに対する社会的関心が高まっています。

「ストレスチェック」とは、会社外部の医師や保健師の指導によってストレスに関する質問票に答え、従業員一人ひとりの状態をチェックし、「高ストレス」と診断された人に精神科の受診を勧める制度です。

ストレスの度合いが高いと、心と体の健康に害と悪影響を及ぼし、将来、うつなどの心の病になる恐れがある。そうしたメンタルの不調を未然に防ごうという考え方です。

この考え方は正しいと私は思っています。多くの人は健康診断を受けて、たとえば血糖値が高いとか、大腸にポリープがあるとか言われると、あわてて医者に行きますよね。

ところが、一般的に体の健康診断には関心が高く、検査結果に一喜一憂するのに、ストレスチェックで高ストレスと診断されても、まあこれくらい大丈夫だろうとたかをくくって、医者にかかろうとしない。心の健康には無頓着な人が多いのです。

厚労省や我々精神科医の考え方としては、ストレスチェックをするのは、症状が悪化する前に早めに医者にかかってもらおうということです。体の病気と同じく、早期発見、早期治療が大事なわけです。

■「ストレス」と「ストレッサー」の決定的な違い

十数年前の一時期、内閣府が「お父さん 眠れてる?」というポスターを制作して、眠れないのはうつの兆候だから、不眠症状が出たらなるべく早く医者に診てもらいましょうというキャンペーンを行いました。

これは、うつ病を悪化させるリスクを減らし、自殺を予防しようという目的からです。結果的にそれが功を奏し、10年連続で自殺者が減少しました。およそ3万5000人もいた自殺者が2万人ぐらいにまで減った。やはり早めの治療は非常に効果があるんです。

だから、ストレスチェックだって、医師の面接指導が必要と評価されたら「そんな大げさなことしなくても」なんて思わず、積極的に治療を受けてほしいと思います。

ただ、ストレスという言葉にはいろいろな誤解があります。一つ理解してほしいのは、「ストレス」というものと「ストレッサー」とは違うということです。

たとえば職場にいやな上司がいるとか、仕事のプレッシャーに耐えられそうもないとかいう場合、上司や仕事は、あくまでストレスの原因となる「ストレッサー」にすぎません。

ストレスというのは、たとえばその上司をどう感じるかによって生じるものです。別の人にとっては、大して気にもならない平凡な上司かもしれません。それを脳がストレッサーと捉えることによって生じる心の歪みが「ストレス」と呼ばれるものなんです。

だから、モノの見方が楽観的な人にはどうということもないのに、自分自身をすごく責めてしまう人だとか、あるいは完全主義の傾向がある人はプレッシャーを感じ、同じようなことがその人にはストレッサーとなってストレスを感じてしまう場合があります。

■モノの見方を変えると生き方がずっと楽になる

ほとんどの場合、ストレスというものは脳の情報処理のミスで起こります。言い換えればストレスの9割は脳の錯覚です。

くわしくは私の『ストレスの9割は「脳の錯覚」』(青春新書)という本をご覧いただきたいのですが、簡単に言ってしまえば、モノの見方を変えると生き方がずっと楽になる、うつ病になりにくくなるということです。

現代社会の問題点の一つは、心にとって負担になる考え方を、マスコミやテレビが視聴者の脳内に日々インプットしていることです。

たとえば、それまでお茶の間の人気者だった芸能人が、不倫騒動などの不祥事を起こすと、一夜にして好感度タレントから下劣な恥知らず、あるいは稀代の悪女に転落してしまう。でもそれは、1日で人格がガラッと変わったわけではない。

ある面ではいい人なのに、ある面ではちょっとだらしないところがあるというだけのことです。だから、本当はそういう見方をすべきであるにもかかわらず、マスコミは一つの不祥事でその人を全面的に否定してしまう傾向があります。

これには二つの原因があって、一つは正義か悪かの両極端でしかものごとを判断せず、その中間が考えられない「二分割思考」によるものです。

そういう思考をする人は、自分の味方だと信じていた人が、ちょっと自分を批判しただけで、「こいつは裏切り者だ、俺の敵だ」と思い込んでしまう。そのうちに周りが“敵”だらけになって、どんどん落ち込んでいく。そうするとうつになりやすいんです。

SNSに没頭する人のイメージ
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■多数派の考えに従わない人を徹底的に責めるテレビ報道

もう一つは「かくあるべし思考」によるものです。たとえば、人間はすべからくものごとに真摯(しんし)に向き合わなければならないと考える。一種の完全主義者なんですが、だけど、どんなに真剣に仕事に取り組んでいても、誰だってミスを犯すことはある。

それなのに、他人のミスが許せずに責め立てたりすると、自分のミスも許せなくなって、仕事上のプレッシャーやストレスを人一倍、感じるわけですよ。だから、「かくあるべし思考」の人もうつになりやすい。

テレビのワイドショーは、こういう思考も助長しているように思えます。テレビのモノの見方というのは、多数派の考えや社会の風潮に従わない人を徹底的に責める傾向がある。たとえばコロナ禍のご時世では、マスクをしていない人を糾弾するとか、あるいはちょっと人を集めて酒盛りをしたら悪しざまに批判する。

それどころか渋谷の街の人混みを歩いているだけで、「この人たちはコロナに対する意識が低い」と言われるくらい、同調圧力が強くて、善か悪かの二つに分け、「かくあるべし思考」を世間に広めました。そのせいで、国民はコロナに対していよいよストレスを感じるようになってしまった。

渋谷のスクランブル交差点
写真=iStock.com/winhorse
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

■二者択一的ではなく、グラデーションでモノを見る習慣を

問題は、人間のストレスを高めてしまう思考パターンからいかに脱却するかです。つまり、いろいろな角度からモノを見るようにする。

他者に対しても、良い人か悪い人か、優しい人か厳しい人か、自分に対して好意的か冷淡かのように二者択一的な見方をするのではなくて、点数を付けてみるんです。

たとえばこの人は、正直という意味では満点に近いけれど、ちょっとズルいところがあるから、90点かなとか。この上司は仕事に関してやたらにうるさいけれど、自分に対して好意的という意味では70点は付けられるかな……といったように、グラデーションでモノを見る習慣をつけるといいのではないでしょうか。

これは別の言葉で「認知的成熟度」とも言います。認知的に成熟していない人ほどものごとを善か悪か、イエスかノーかの両極端で見るんです。

例えば、ちょっと飲むぶんには薬になるけれど、大量に飲んでしまうと毒になるものって、子供には量の加減がわからないから、子供の手の届かないところに置く。

だけど、子供がだんだん成長してモノがわかるようになってきたら、「これはちょっと飲む分には体にいいけど、たくさん飲むと毒になるから飲んじゃダメだよ」と教えれば、大人の言うことを理解して言いつけを守ることができるわけです。

そうやって認知的に成熟してくると、これくらいなら大丈夫、これくらいになるとちょっとマズいという量の加減がわかる。

■ストレスが溜まりやすい9つの思考パターン

人を見る時も同様で、世の中には100点と0点の人しかいないわけじゃない。85点の人もいれば、60点、40点の人もいるというようなモノの見方をすれば、多少問題のある人だったとしても、これくらいの失点・減点はやむを得ないという発想になるわけだし、そうすれば他人に寛容にもなれる。何より大事なのは、自分にも寛容になれるということです。

自分に対していつも100点でいなければいけないというのはものすごいプレッシャーです。融通の利かない思い込みや脳の錯覚から解放されて、少しでもストレスの少ない生活を送るようにしてください。

「二分割思考」「かくあるべし思考」以外にも、ストレスが溜まりやすい思考パターンをいくつか私は提唱しています。以下に列挙してみましょう。

「真実は一つ」思考

たとえばコロナ自粛は続けるべきか否か、ワクチンは打つべきか否かについても、本当のところ、答えはわからないわけです。たとえば、日中戦争における南京大虐殺といわれるものが本当にあったのかどうか。

中国共産党は30万人殺されたと主張するかと思えば、そんなものはなかった、犠牲者はゼロだと言う人もいる。「いろんな説があって真相はわからないけれど、まあゼロから30万人のうちのどれかだろう」みたいに受け止める人はストレスを感じにくい。

正解は一つしかないと信じ込んでいると、それが間違いだったということになって自説が覆された時にガックリきてしまいます。

■「今」できなくても、明日に回せばいいと思えるか

「前例踏襲」思考

そのやり方は前例にない、わが社ではこれまでこうやってきたのだから、あなたも同じようにしなさい――そんなことを言われたことのある人も多いのではないでしょうか。しかし、世の中はどんどん変わっています。これまでのやり方が必ずしも正しいとは言えません。ビジネスならなおさらです。

古いやり方が通用しなくなって、新しい方法を試してみたら思ったよりうまくいった、というようなこともあるでしょう。前例にとらわれず、やってみなければわからないという思考パターンに変えてみましょう。

「みんなにどう思われるか」思考

ここでこんなことを言ったらみんなに嫌われるんじゃないかとか、上司である自分が安い料理を注文してしまったら、若い人たちが遠慮して高いメニューを頼めなくなるんじゃないかとか、何かと周囲を気にする人がいます。

マスクをしていないとどう思われるか。きょうは暑いし、熱中症になるくらいだったらマスクを外したいのに、まわりの人たちがみんなマスクをしているから外せない。それではストレスは溜まる一方です。自分は自分、他人は他人と思えるようにしましょう。

マスクを外す女性
写真=iStock.com/Phynart Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Phynart Studio
「今やらなきゃ」思考

「いつやるか、今でしょ」と言ってテレビの人気者になった人がいますが、私みたいに「そのうちやればいいや」と考えている人間はあまり売れないみたいです(笑)。でも「今」でなくても、最終的にできれば御の字でしょう。

やり終えられなかった仕事は明日に回せばいい。いずれはかどる日があって、最後に帳尻があったりするものです。「今やらなきゃ」と自分にプレッシャーを課すのはストレスの元です。

■今ある答えらしきものは変わっていくかもしれない

「完全主義」思考

たとえばレポートを出すにしても、100%まで完全に仕上げなければいけないと思うとすごく疲れる。でも、まあ70、80%できたと思ったところで提出すれば、ここはダメだよって多少は直されるにしても、そのほうが仕事は早くすみますよね。

一カ所も直されてはいけないと考えることがすでに、さっき言った「みんなにどう思われるか」思考なんです。直してもらってそれで仕事が終わるなら、それでいいじゃないかと思えるかどうかが大切です。

「そういうものだ」思考

これは「真実は一つ」思考と似たところがあるんですが、世の中にはいろいろあるのだから、何かあってもそのまま受け入れる。

たとえば、多くの人がメタボはまずいとか、タバコはよくないとか決めてかかっているけれど、世の中の風潮や常識はその時々で常に変わる。たとえば、昔は「マーガリンは体にいい」って言われていたんですよ。だけど、マーガリンのトランス脂肪酸が体に悪いということになって、消費者離れが起こった。

でもこれだって、ずっと続くかどうかわからない。後々答えは変わっていくかもしれない。人は何千年も「働かざる者、食うべからず」と言ってきたわけですが、人類史上初めて、仕事はロボットがすべてやってくれる時代を迎えようとしている。いまや、そんな古いことを言う人はかえってジャマ者扱いされることになりかねない。世の中はそういうものです。

■未来志向で考え、ストレス社会を賢く生きる

「過去がどうか」思考

過去のことを悔やんでばかりいると、当然ストレスは溜まります。ああ、なぜ昔あんなことをしてしまったのだろうとか、あの時、あんなことを言わなければよかったとか、いくら後悔したって、いまさら変えようがない。それより、これからどうすべきかを考えたほうがずっといい。

かと言って、逆に、年をとってやたらに「昔モテた」自慢をするのも禁物。現状にストレスを抱えていると、ついつい「俺も昔は……」と過去に逃避したくなる。学歴をひけらかすのもNGです。

和田秀樹『和田秀樹の老い方上手』(ワック)
和田秀樹『和田秀樹の老い方上手』(ワック)

私も東京大学を出ているんですが、落ち目になってくると、どうしても「これでも将来を嘱望されていたんだ」「東大出てるんだ」と昔の栄光にすがりたくなる。昔の自慢をするようになったら終わりです。大事なのはこれからです。

コロナのせいでストレスまみれになっているうえに、外出を我慢して家に閉じこもっていたので、脳のコンディションも悪くなってくる。

太陽に当たらないとセロトニンが減ってイライラしやすくなるから、自粛警察のような「かくあるべし」思考がさらにひどくなる恐れもあります。正しく行動し、未来志向で考え、ストレス社会を賢く生きるよう心がけましょう。

本稿ではストレスを減らす思考様式について述べましたが、本書にはこのほか健康、医者や病院との付き合い、老いを楽しむなど、面白くてためになる全32編が掲載されています。是非ご一読ください。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」

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(精神科医 和田 秀樹)

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