「メシ」「フロ」「ネル」しか言わない…猛烈社員の夫を持つ妻は家庭外で心弾む時間を持ったほうがいい理由
プレジデントオンライン / 2023年11月19日 15時15分
※本稿は、和田秀樹『「すぐ動く人」は悩まない!』(祥伝社)の一部を再編集したものです。
■解決できないということを前提にする
人間関係の悩みの中でもっとも厄介なものの一つは家族に関するものでしょう。夫婦は離婚をすればかかわりは断たれますが、親子の縁は切ることができません。その意味では逃げられないわけです。
親子間でいえば、今後ますます高齢化が進むこともあって、親の介護の問題で悩むケースが増えてくるのは確実です。すでに介護離職が社会問題として大きく取り上げられています。
また、子どもたちに目を転じれば、不登校や引きこもり、家庭内暴力や非行といった問題が変わらず親を悩ませています。
それらの問題と向き合うときに重要なポイントになるのは、解決できないことを前提に悩むということです。
もちろん、解決に向けてさまざまな取り組みや動きをするのは当然です。しかし、手を尽くしても解決できないことはあります。
そのときに、「やるだけやったけれど、どうにもならない」と鬱々(うつうつ)として悩むのではなく、それでも何かできることはないか、というふうに悩む。それが、解決できないことを前提にして悩むということです。
すると、やるべきことが見えてきます。
一番望ましい解決は難しくても、その状況でのベターな解決のために、一歩を踏み出すことができるのです。
そのことを頭に入れていただいたうえで、具体的な問題について考えていくことにしましょう。
■DVへの対応は相手から「離れる」
夫婦関係の悩みで一番切実なのは、DV(ドメスティック・バイオレンス)ではないでしょうか。
いわれのない肉体的・精神的苦痛を受けるわけですし、場合によっては命にかかわることだってあるからです。
私たち精神科医は、さまざまな夫婦の問題について相談を受けることがありますし、カウンセリングやアドバイスもします。
ただ、カウンセリング中に「離婚されたほうがいいですよ」とは原則としていいません。カウンセリング中は精神的に不安定になることが多いうえ、最終的に本人が結論を出すことが原則だからです。
しかしながら、DVへの対応の基本は、やはり相手から「離れる」ことです。なぜなら、相手のDVが治る確率はきわめて低いから。
![泣いている女性の背後で立って怪訝な顔で見つめている男性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/3/1200wm/img_8305d49026157398fed4dd78b80490a3448465.jpg)
事実、「もう二度としません」と言質(げんち)をとっても、土下座までして詫びてもらっても、それまでと同じ暮らしを続けていると、必ずといっていいほど、“再発”します。
DVという行為をやめさせる方向での解決は、まず、期待できないのです。そのため、この問題だけは、離婚を前提に離れることを勧めます。
ですから、DVを受けている人は、“解決できない”という前提で、どうするかを悩む(考える)ことが必要です。
■相手の行動よりも自分の行動を変える
ところが、普通に考えれば、DVは治らないのだから、すぐにも相手から離れるという結論にいたりそうなものですが、これがなかなか一筋縄ではいきません。
トラウマ理論で「サレンダー(降伏)状態」というのですが、暴力を受けている間に、相手をある種理想化してしまうことがあります。
殴られるのは自分がいたらないからだとか、悪いからだという思いになって、そんな自分を正すために、相手は暴力をふるってくれている、と考えてしまうのです。
そんな状態にある人は、なかば強制的にシェルターに入ってもらうことがあります。シェルターには同じような境遇の人たちがいますから、その人たちと触れ合うことで、冷静さを取り戻し、自ら離れようという結論に達してもらおうとするわけです。
ここまでいくケースはかなり特殊だといえますが、一般的にはこんなことがいえるかもしれません。
相手をどうにかしようと悩んでも、問題は解決されない。そうではなく、自分がどうするかを悩むことによって問題は解決する。
DVのケースでいうならば、「DVをやめてほしい」というのは、DVをふるう相手をどうにかしようとすることです。
しかし、被害者や周囲がどう働きかけてもDVは治りません(例外はありますが……)。つまり、問題は解決されないのです。
一方、自分がどうするかを悩めば、相手から離れるという決断にもつながるでしょう。
最終的に離れればDVを受けることはなくなるわけですから、問題は解決されることになります。
■悩みを認めれば、解決できる悩みが出てくる
最近はイクメンという言葉も一般化し、育児参加、家事参加に積極的な夫が増えました。
とはいえ、結婚生活も長くなってくると、夫が家庭をまったく顧(かえり)みなくなるというケースも少なくないと聞きます。
高度成長期には日本のビジネスパーソンの働きぶりが「猛烈社員」と欧米から揶揄(やゆ)されたことがあります。
その当時、猛烈社員である夫が家庭で口にする言葉は「メシ」「フロ」「ネル」の3つしかないという言い方がされました。
家庭内でロクな会話もない。子どもの教育にも無関心。何かを相談しても、「好きにしたらいいだろう」……。当時さながらのそんな夫と暮らしている妻には不満が募るでしょうし、少しは家庭を振り向いてくれる夫になってほしいと悩みもするでしょう。
そこで、対話を求めたり、少し過激に夫をなじったりすることになるかもしれません。もちろん、それはいいのです。その妻のアクションに応えて、夫が変われば、悩みは解決されます。
しかし、妻がいくら対話を求めても聞く耳を持たない、どんな対応にも応えようとしない、という夫であったら、妻の不満もストレスも増し、悩みは深まることになるでしょう。
ならば、そろそろ夫を変えようとして悩むのは、打ち切りどきです。いくらそれを続けても問題は解決されません。
夫が変わらないという前提で、自分がどうするかを悩む。その方向に舵(かじ)を切るのです。すると、いくつかなすべきことが見えてくるはずです。
■一線を越えなければ、家庭の外で心弾む時間を持ってもいい
たとえば、家庭外に友人関係を築いて対話を楽しむようにする。
学生時代の友人と旧交を温めるのもいいでしょうし、隣人に積極的にアプローチして、いわゆるお茶飲み友だちになるのもいい。仮に週に一度でもそういう機会を持つようにすると、気持ちは格段に晴れるものです。
![カフェでスイーツと一緒に自撮りする二人の女性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/4/1200wm/img_a4584b13b14805cbde497c630112ddf6496490.jpg)
あえて誤解を恐れずいえば、異性の友人をつくって、たまにお茶を飲んだり、食事をすることだって、あってもいいのではないでしょうか。
越えてはいけない一線というものはあると思いますが、それを踏まえたうえでなら、自分に振り向かない夫のことを悩む妻が、家庭の外で心弾む時間を持つことは許容範囲内でしょう。
家庭を顧みないということの中には、生活費を入れてくれないということも含まれますね。
しかし、夫が「自分が稼いだ金を自分が好きなように使ってどこが悪い」と開き直っているタイプだとしたら、その金銭感覚を変えるのはほぼ不可能です。
このケースでは自分がお金を稼ぐことを考える、どうすれば自分の稼ぎで生活を維持できるかを悩む、ということになるのだと思いますが、それが難しければ、夫に見切りをつけ、離婚に踏み切るという選択肢もあるわけです。
いずれにしても、解決の見えない悩みに翻弄(ほんろう)されることはなくなります。解決を求める悩み方になるのです。
■子どものことで悩むよりも、自分のことで悩む
自分の子どもには、地に足をしっかりつけた堅実な人生を歩んでほしい。それが、一般的な親心というものでしょう。勉強しなさい、と口を酸っぱくして子どもにいうのも、もちろん子どものためを思ってのことです。
しかし、親心はおいそれとは子どもには伝わりません。そこで、いくらいっても勉強しないことが親の悩みになります。
![教科書を頭にのせてふくれっ面をする子供とそれを見てため息をつく母親](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/5/1200wm/img_45a32ec7a45b470ca0e718600c7f1115388820.jpg)
こうしたケースで精神科医としてアドバイスするのは、子どものことはいったん脇に措(お)いて、親自身のことを悩みましょう、ということです。
つまり、子どもがそのまま勉強せずに育った場合を前提にした悩み方をするのです。
勉強をしなければ進学はおぼつかないかもしれないし、将来、ロクな職業につけないかもしれません。まっとうな生き方ができないことも、十分に想定されるわけです。
当然、老後になっても子どものサポートなど期待できない……。
そうであるなら、その状況の中で親自身がどう生活を支え、どんな生き方をしていくかを悩むことです。
■家庭教師をつけても、子どもはサボるかもしれない
たとえば、早い段階から老後資金を貯めるとか、将来、家賃の負担がないように、マイホームを手に入れる算段をするとか、なんらかの資産運用をするとか。これなら、具体的に行動するための悩みになりますね。
子どもに勉強させるために、塾に入れたり、家庭教師をつけたりして、費用をかけても、子どもは塾をサボるかもしれないし、家庭教師の指導もちゃらんぽらんにしか聞かないかもしれません。
そこにお金をつぎ込んだばかりに、親自身の将来設計のメドが立たなくなったら、あるいは、将来の生活が台なしになったら、悩んだあげくに、子どもも親も共倒れということになりませんか?
もちろん、これは極論かもしれません。
しかし、悩み方が人生を誤らせることもあるのです。
このケースもそうですが、自分がいまとらわれている悩みが、解決につながる建設的なものなのか、解決不能だから別の悩みにシフトすべきものなのか、その検証は怠(おこた)らないでください。
■親の介護問題も、答えが出る悩み方がある
年老いた親の介護は、誰もが避けて通れないものです。
育ててもらった恩義を感じているかどうかはともかく、一人では生活できなくなった親がいたら、放っておくわけにはいかないのが、子どもの立場、というものでしょう。
しかも、日本人には自分で何もかも背負い込むという気質がどこかあるようです。それを証明するかのように、担いきれなくなった介護が原因となった、痛ましい事件や事故がしばしば報じられています。
親の介護に関連する悩みも、「なんとしても面倒を見なければ」という義務感を自分の内に抱えた悩み方をしていると、にっちもさっちもいかなくなります。
それこそ、心身にわたる負担が限界を超えても、「頑張れない自分が、情けない、不甲斐ない」ということになったりするのです。
もっと、視野を広げて、自分が親の介護にどううまくかかわっていくかを悩むべきでしょう。
日本には介護保険がありますから、それをいかに効率よく、有効に使うか。また、介護費用はどの程度かかるか、それをどう工面するか、施設にはどのようなものがあって、入所するにはどんな手続きが必要か、その費用はどのくらいのものなのか……。
それらはどれも「答え」が出るものです。
![車から降りたシニア女性の手を引いて介護する男性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/d/1200wm/img_5d4cc48d83d41b9dad5416ffebbf0ea1452316.jpg)
■「これも症状の一つだ」と思える知識があるか
答えが出れば、次の動きもとれます。
たとえば、それまで付きっ切りで介護していた人が、デイサービスがあることを知り、週に2回なり、3回なり、そのサービスを受けるようにする、といった新たな動きができるようになるわけです。
それで介護の負担は大きく軽減されます。それはそのまま、問題の一定の解決ですね。
認知症の問題も重くのしかかってきそうです。
しかし、それも、「あんなにしっかりしていた人が、こんなふうになってしまって……」と悩んでいても、思いは行き詰まるばかりです。
認知症は、いまのところ、進行速度を遅くすることはできても、治癒(ちゆ)も改善も望めない病気です。だったら、その治らない親とどう付き合うかを悩むしかないではありませんか。
たとえば、認知症についての正しい知識を学ぶ。認知症にはさまざまな症状がありますが、それらを知っておけば、突然、親が思いもかけない行動をとっても、「これも症状の一つだ」と受けとめることができ、慌(あわ)てたり、うろたえたり、そのことについて悩むこともないのです。
介護のやり方でよくなる症状・よくならない症状があることを知っておくのもいいでしょう。
■親の世話も認知症の介護も“全方位”を見渡す
また、知識があれば、プロの手を借りるという選択肢も視野に入るでしょう。介護福祉士、ホームヘルパーなど、介護のプロの手際は素人(しろうと)とは比べものになりません。
![和田秀樹『「すぐ動く人」は悩まない!』(祥伝社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/8/1200wm/img_b82eeee8e6dadd59f0c5d27241b40c30103916.jpg)
もちろん、費用との兼ね合いということはありますが、介護保険を使えば、1割や2割(3割のことも時にありますが)の負担で済みます。
介護の一部をプロにまかせることは、自分の負担軽減にもなりますし、認知症の本人にとっても、心地よい介護を受けられるということでもあるのです。
さらにいえば、目が離せない、仕事をどうしてもやめられないという場合は、施設介護も選択肢として当然入ってきます。
老後の親の世話も、認知症の介護も、“全方位”を見渡して悩むことです。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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