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「不登校はわがまま」「バイデン親子は死んでいる」…トンデモだらけの地方政治に絶望する人に伝えたいこと

プレジデントオンライン / 2023年11月17日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/imacoconut

全国で政治家の失言が相次いでいる。元秋田魁新報記者の三浦美和子さんは「秋田県内でも市議会で悪質なデマ情報に基づいた差別的な発言があった。こうしたトンデモ発言が飛び出すのは、地方議会があまりに軽視されているからだろう」という――。

■ある親子を傷つけた市長の発言

「ニュースで知りましたが、どっかの市長の発言。ほんとうに腹立たしかった」

10月下旬、秋田県内の知人女性からラインが届いた。

「どっかの市長」とは滋賀県東近江市の小椋正清市長のことだ。その発言は「不登校は子どものわがままで、親に責任がある」「フリースクールは国家の根幹を崩してしまうことになりかねない」というものだった。10月17日の会議の際に市長が発したこの言葉は、問題発言として広く報じられた。

女性の長女Aさんは中学時代、不登校になった。「何もしていないのに、生きていてごめんなさい」。不登校だった時、そういう気持ちで一日一日を過ごしていたとAさんが語るのを、私は聞いたことがある。彼女の苦しみが少しずつ薄れたのは二つのフリースクールに通い始めてからだ。一つは勉強中心のところ、もう一つは野外活動が中心のところ。フリースクールでは人間関係のリハビリができた。「気持ちの切り替えができて、天国に近いところだった」とAさんは語っていた。

フリースクールに救われた子どもたちは全国各地にいる。小椋市長の発言はそんな子どもや親たちを、どれほど傷つけたか。「この市長は、学んでいない。学ばない権力者のためにいつも当事者が一から説明しなければいけない」。女性は憤った。

記者会見する滋賀県東近江市の小椋正清市長
写真=時事通信フォト
記者会見する滋賀県東近江市の小椋正清市長。「不登校はわがまま」と発言し、批判を集めた=2023年10月25日午前、同市 - 写真=時事通信フォト

■全国で政治家の問題発言が相次いでいる

政治家による問題発言が頻発している。枚挙にいとまがないと言ってもいい。直近の例を見てみたい。

6月8日、神奈川県横須賀市の上地克明市長が一般質問のなかで「女性のDNA、ミトコンドリアの中に常に虐げられた歴史があって。その怨念、無念さが今の社会を構成していると思っている」などと発言した。(※現在は議事録から削除されている)

9月20日、東京都台東区の松村智成区議が一般質問のなかで、LGBTQ+への理解を進める学校教育について「偏向した教材や偏った指導があれば同性愛へ誘導しかねない」と発言した。

そしてこの原稿を書き始めた11月1日、また新たな問題発言のニュースが流れた。

自民党の桜田義孝・元五輪相がパーティーのあいさつの中で、「女性の議員は割と発言しない人が多い」と述べたという。ちなみに桜田氏は2019年にも「復興以上に(政治家が)大事」と発言し、問題になった。

女性は話が長いと言われたり、発言しないと言われたり。どこまでも「女性は能力が低い」と言いたいのだろうか。と怒りを感じていたら、翌2日には広島県三原市の徳重政時市議が「着々とLGBT? に向かっているかも。油断なりません」というコメントをSNSに投稿したという報道があった。

一体、なぜなのか。

■「面倒な世の中になった」わけではない

ボーイズクラブという言葉がある。同じノリ、似通った価値基準の男性たちの「閉じられた集団」を称して言う。気を悪くされる読者もいるかもしれない。けれど日本は議会ばかりでなく、官民を問わず意思決定の場が「ボーイズクラブ」になっている。問題発言を生む原因の一つは、そこにあると私は考えている。

ボーイズクラブ内で話しているうちは「問題発言」が生まれない。なぜなら、誰も問題だと思わないからだ。やや違和感を抱く人がいたとしても、1人、2人だと多勢に無勢で「気にしすぎだ」とつぶされてしまうかもしれない。

そうしてスルーされた発言が集団の外に出たとき、大きな問題になる。同質的な集団には必ず盲点が生まれ、それが問題発言につながる。

問題発言に擁護的、同情的な人から、しばしば「面倒な世の中になった」という声が聞かれることもある。だが世の中が面倒になったわけではない。問題発言に傷つき怒る人たちは、ずっと昔から世の中にいた。ただ伝えるすべがなく「いないこと」にされていただけだ。SNSの普及などによって、問題発言とその背景にあるものが可視化されやすくなっただけなのだ。

通勤途中の人々
写真=iStock.com/oluolu3
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oluolu3

■政治家は「50歳以上の男性」がほとんど

政治がボーイズクラブとなっている現状は、数字に表れている。

総務省や内閣府男女共同参画局の調査(2021年現在、参議院のみ2022年現在)によると、議員に占める女性割合は衆議院が9.7%、参議院が23.1%、都道府県議会が11.8%、市議会全体で16.8%(政令指定都市の市議会は20.7%)、町村議会が11.7%。大半が男性である。

さらに年齢構成を見ると、都道府県議会、市区議会、町村議会とも、最も多いのが「60歳以上70歳未満」の議員。50歳以上の占める割合は都道府県議会が7割、市区議会が8割、町村議会はおよそ9割となっている。国会議員は男性の平均年齢が57.0歳、女性が54.5歳だ。

総務省調査(「地方議会議員の概況」)
内閣府調査(「男女共同参画の最近の動き」)

都市部も地方も政治家は「50歳以上の男性」がほとんどであり、多様性とは程遠い。言い換えれば、いつ、どこで「問題発言」が起きてもおかしくはない。

さらに、低迷する投票率も「ボーイズクラブ」化に拍車をかけている。

総務省調査によると、2019年時点の投票率は都道府県議選が44.02%、市区町村議員選が45.16%。2021年10月の衆院選は55.93%、2022年7月の参院選は52.05%だった。

総務省調査(「目で見る投票率」)
総務省調査(「国政選挙の投票率の推移について」)

この関心の低さは、選挙後、議員が何を語りどう行動しているかチェックする目が少ないことも意味している。チェック機能が働かなくなり、おかしな発言をしても気づかれず、批判が起こらない。

問題発言は、そういうなれ合いの中から生まれる側面もあるように思う。

■「一線」を超えるトンデモ発言

このような土壌の中で、時には「一線」を超えるような問題発言も生じる。

福井県では、県議を6期務めた自民党の斉藤新緑氏(2023年に落選)が現職時代、自作の議会報告「ほっとらいん」の中で真偽不明な情報やデマを唱えていたことがメディアに取り上げられ、問題となった。

2021年から今年3月までに発行された「ほっとらいん」を読んでみる。

〈バイデン親子は、国家反逆罪で、逮捕されており、多分、この世にはいません〉
〈(毎年)日本では3万人もの子供が誘拐され、行方不明になっています。悪魔崇拝者の「儀式」に子どもたちが「生贄」として供され、性的・肉体的に虐待されています〉
〈(ロシアのウクライナ侵攻を映した)テレビの映像は、全部、作られたものです(略)。(地下には)子どもたちが囚われていて、ロシア軍は何万人もの子供を救出しました〉

まるで、新興宗教の布教本のようだ。

福井県議会棟
福井県議会棟。ベテラン議員が真偽不明な情報やデマを唱えて話題となった(写真=Hirorinmasa/CC-BY-SA-3.0,2.5,2.0,1.0/Wikimedia Commons)

■自民党は「陰謀論」を唱える県議を公認

問題発言には「意図的でないもの」と「意図的なもの」の二つがあると思う。斉藤氏の発信している内容は、何らかの確信に基づく意図的なものだ。2021年に複数のメディアが斉藤氏の発信内容を「問題発言」として報じても、斉藤氏は発信を止めなかった。

そう考えると、私は斉藤氏の発言以上に、所属する政党の対応に問題を感じる。斉藤氏の議会報告が報道で問題視されて以降の2023年4月の県議選に、斉藤氏が自民党公認候補として出馬している。斉藤氏は自民党県連幹事長などの要職を歴任してきた。落選はしたものの、結果的に県議選で5344票を獲得している。自民党が公認候補にしたということは、党として、問題のある執筆内容や発言を「さしたる問題ではない」と捉えたともいえる。

明らかに「おかしい」と感じても、いさめることができない。止めることができない。これは、地方議会や政治が、非常に硬直化しているという証ではないだろうか。組織に新陳代謝があり、風通しがよければ「空気」など読まずに「おかしいんじゃないですか?」と言う人がいるはずだ。そういう人が多ければ多いほど、議会は活発化する。それが機能していないがために、問題発言は放置され続けたのではないだろうか。

■悪質なデマ情報を信じた市議会議員

私も最近「一線」を超えた問題発言の事例に出合った。6月8日、秋田県にかほ市議会本会議で、市議1期目の髙橋利枝氏がデマに基づく一般質問を行ったのだ。

そのデマは埼玉県が設置の検討を進めている「オールジェンダートイレ」に関するものだ。オールジェンダートイレは性別(ジェンダー)にかかわらず誰もが使用できるトイレだ。例えばトランスジェンダー(出生時に割り当てられた性別と、性自認が異なる人)、トイレ介助の必要な異性の親を連れた人、子どもを連れた親などさまざまな人が使うことを想定して近年設置が増えている。

髙橋議員が引用した埼玉県のデマは、国会でLGBT理解増進法が議論されていた4月下旬から5月にかけてSNS上で急速に広がり、トランスジェンダー当事者への誹謗(ひぼう)中傷につながっていった。

■埼玉県知事は「フェイクニュース」と否定したが…

まず匿名の人物が「埼玉県内の介護施設がジェンダーレストイレ、ジェンダーレス更衣室になり、職員たちは批判したが施設長は『県知事からお褒めのお電話をいただいている』と言っている」などと虚偽の情報をSNSに書き込み、その後「(更衣室などがジェンダーレスになったことで)職員が辞めた」というデマも拡散した。

これを受けて埼玉県知事は、5月2日、18日と2度にわたる会見で、一連の情報について「フェイクニュースである」「全く事実ではない」と否定した。その後、SNSの匿名人物は投稿を削除。「職員が辞めた」という情報を流した人物も虚偽の情報だったことを謝罪し投稿を削除した。

埼玉県知事5月2日会見
埼玉県知事5月18日会見

だが髙橋議員はデマを事実として発言。「一切の偏見はない」と繰り返しながら「見た目が男性なのにトランスだということでお風呂に入ってくるというような信じられない(ことが起こるのは)対岸の火事ではない」「トランスの方々を差別しないようにしましょうという結果、女性が差別を受ける」などと根拠不明な情報を用い、トランスジェンダーへの偏見につながりかねない発言を重ねた。また市川雄次市長もそれを事実として受け止め、答弁に応じた。

埼玉県の大野元裕知事
埼玉県の大野元裕知事。記者会見でデマ情報について否定した(写真=内閣府男女共同参画局/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

■誰からも問題視されない「デマ発言」

一般質問での発言がデマ情報だということを、髙橋議員、にかほ市長とも、私が取材を申し込んだ10月上旬まで「知らなかった」と説明した。髙橋議員はこのデマについて「全国の地方議員が学ぶ勉強の場で、ほかの議員が紹介した事例」だと取材で語った。この勉強会に参加して情報を得た議員たちは、いまだにこのデマを「事実」だと思い込んでいるのだろうか。

秋田県にかほ市の市川雄次市長
秋田県にかほ市の市川雄次市長。一般質問での発言がデマ情報だということを「知らなかった」と説明(写真=内閣府 地方創生推進室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

このデマ発言は、残念ながら地元秋田では「スルー」されている。

髙橋議員は「差別の意図はなかった」と言い、市川市長は「そんな意図はなかったと思う」と擁護。にかほ市議会ホームページの議事録とYouTube動画には、デマ発言が今もそのまま残されている。地元の各メディアはこの問題発言を一切、報じていない。取材した私自身の発信力のなさが原因ではあるが、反応がないということは「問題だと思っていない」ことを意味しているのではないか。

■報道のチェック機能が弱体化している

そもそも私がこのデマ発言をつかんだのは、6月議会から4カ月後のことだった。自力でつかんだわけではなく、住民が「やり取りを聞いていて差別的だと感じた」という情報を私の知人に寄せたことがきっかけで、たまたま知ったのだ。

この経験から見えてきたもう一つの問題は、議会をチェックするメディアの弱体化だ。これは全国共通の課題だと思っている。

新聞社、テレビ局とも人手が減る一方、業務量は増え続けるなかで、じっくりくまなく議員の発言を分析する時間が、記者たちにあるだろうか。違和感を覚えても、仕事に追われ、流してしまう可能性がある。

さらに、メディア内部が多様性に欠けていることも影響している。たとえば女性の人権、子育てや介護の中で生じる問題、LGBTQ+への誹謗中傷に敏感に反応する記者がいなければ、問題発言はスルーされる。仮に記者がキャッチして「問題だ」と思っても、取材を指揮するデスクやさらに上層部が「こんなのが問題か?」と言えば、その発言は「なかったこと」になる。

■メディアも「ボーイズクラブ」である

こういうやりとりが続くと、どうなるか。まず現場の記者は「どうせ取り上げてもらえない」と感じるようになる。次第に、記者一人ひとりの問題意識が丸く削られ、常に上層部を意識した視点でものを見るようになる。メディアもまた「50歳以上の男性」が決定権を握るボーイズクラブだ。

メディアの目が緩くなれば、政治家はのびのびと、問題発言を発するのではないだろうか。そこで議員が意図的に問題発言やヘイトスピーチを繰り広げてしまう影響は、非常に深刻だ。

発言が事実として広まること。当事者を傷つけること。差別や偏見を助長すること。制度や政策が進まなくなること(あるいは逆行すること)――。これらは、発言者の意図とは無関係に起こりうる。だから問題発言は問題なのだ。

こう考えると、世に出る問題発言は「氷山の一角」なのかもしれない。無数の問題発言がスルーされ、身近な制度や政策に反映されているかもしれない。

■問題発言をする人は、ずっとしている

にかほ市議会での問題発言を知らせてくれたのは、一人の有権者の声だった。ここに、可能性を感じている。多様な視点から議会や政治家の発言をチェックする目があれば、よい意味での緊張感が生まれる。

「問題発言をする政治家っていうのは、その時だけじゃなく、実は普段からもうずっと問題発言をしていると思います」

こう指摘するのは、フリーライターの和田靜香さんだ。

「たまたま耳に入った際立ってひどい発言が報道されるだけで、もっといろんな場で問題になる発言をしていると思う。だからやっぱり市民ができるだけ議会を傍聴して『あの人、またこんなこと言ってる』っていうのを常にチェックし続けなきゃいけない」

最近は人権侵害になる「問題発言」を意図的に発して悪目立ちし、SNS上で支持を集めようとする政治家もいる。

「そうなるともう、住民が動くしかない。しつこくしつこく『その発言はおかしい』と言い続け、議長や議会事務局に申し入れるということをコツコツやって、この議員はだめだと可視化する。そして、次の選挙では落とす。それしかないんです」

問題発言について申し入れをしたら、SNSで発信したり、例えば駅など街頭で「議員がこういう発言をした。問題だと思うので私たちはこういう申し入れをした」と声を上げてみたりする。

「そんな時間はない? 分かります。それならせめて、そういう市民運動をする人を冷笑しないことです」

■「トンデモ議員に税金を使われたくない」

9月に刊行した『50代で一足遅れてフェミニズムを知った私がひとりで安心して暮らしていくために考えた身近な政治のこと』(左右社)で、和田さんは町議会で男女同数(パリテ)の状態が20年以上続く神奈川県の大磯町に光を当て、多様性を体現する議会から見えてきたことを丁寧に記している。

驚かされるのは、大磯町民の議会への関心の高さだ。その背景には、議場での議員のやりとりをくまなく「可視化」する取り組みがある。例えば議会はケーブルテレビで中継され、本会議と委員会をDVDにして貸し出し、すべての委員会を含む議事録を公開している。しかも、この議会中継は視聴率が高いという。

「大磯町では男女同数議会が成立した2003年から、『自分たちが活動しやすく、町民に分かりやすい議会にしよう』と、積極的に情報公開を進めました。女性議員が増えたらどうなる? って、そういうことになるという実例です。町の人たちは今、議会中継を『大磯町劇場』と呼んで、楽しんで見ています」

地方議会を私たちは軽視しすぎてきたのではないか、と和田さんは語る。

「大磯町議会を知って私自身も反省し、地方議会を見なきゃいけないなと思いました。議会のチェック役を果たす大磯の町民を『すごい!』と言ったら、町議さんに『だって税金はなくならないでしょう? それなら、その使い方を決める議会を見て参加するのは当然ですよね』と言われて頷きました。問題発言をするトンデモ議員に、私の払った税金を好き勝手にされたくはないですから」

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三浦 美和子(みうら・みわこ)
フリージャーナリスト
1976年秋田県由利本荘市生まれ。1998年に秋田魁新報社に入社し、記者として文化部、整理部、こども新聞などを担当。2023年10月からフリーランス。人権、ジェンダー、日々のくらしについて、秋田から発信している。「生活ニュースコモンズ」にも参加。

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(フリージャーナリスト 三浦 美和子)

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