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普通の人なら10時間の仕事が1時間で済む…AIで「仕事を減らす」ために外資系営業職がやっていること

プレジデントオンライン / 2023年11月16日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JohannesBluemel Photography

生成AIを使いこなすには、どんなことが必要なのか。元外資系企業の営業職で、システム工学に詳しい田中猪夫さんは「AIを使いこなす能力は転職スキルに似ている。一つの会社や一つの業界でしか通用しないスキルを持っている人は、AIを使っても仕事が減らないままだ」という――。

※本稿は、田中猪夫『仕事を減らす』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

■AIは「博学な指示待ち部下」と考えるとわかりやすい

ChatGPTの登場で一気に注目を浴びている生成AIは、地球上の誰よりも多種多様な本とインターネット上のあらゆる情報を読み込んでおり、それに基づいて新しいものを「生成」できる。

しかし、仕事を大きく減らしてくれる「小さなイノベーション」を生み出す3つの思考法である「引いて考える」「組み合わせ」「試す」のうち、「組み合わせ」が苦手なことに気づくだろう。

生成AIは与えられたデータからのみ学習しているため、学んでいないデータの「組み合わせ」ができないからだ。

生成AIに質問や指示をすることを「プロンプト」と呼ぶことは、ご存じかと思う。いま生成AIを仕事に役立てるなら、博学な指示待ち部下を上手に動かすような質問や指示(プロンプト)が必要だ。ただ、どれだけプロンプトを工夫しても「組み合わせ」を導き出せないことがある。

であれば、知識を獲得するツールとして使うのはどうだろうか。

つまり「組み合わせ」は人間が行い、知識のみ生成AIから得るという使い方だ。

少しわかりにくいかもしれないので、さらに詳しく見ていこう。

■組み合わせを求めず、「知識を獲得するためのツール」と割り切る

じつはAIには2つのとらえ方がある。

一つは人間の知能をコピー、または再現しようとする技術やシステムをめざすもの。これを人工知能(Artificial Intelligence)という。

もう一つは、人間の知能を補完・拡張するための技術やアプローチをめざすものである。こちらは拡張知能(Augmented Intelligence)という。

生成AIは、人工知能としても拡張知能としてもとらえられ、どちらの要素も備えている。となると、使う側が知識を求めているか創造性を求めているかでプロンプトが違ってくる。

人工知能と拡張知能
出典=『仕事を減らす』

ただ、生成AIは基本的には人工知能だ。いずれ異なる知識を「組み合わせ」ることで創造性をもつだろう。しかし、それを導き出すプロンプトを設定するのは難しく、逆にプロンプト自体に創造性が必要な場合もある。

だとしたら、テーマの複雑性によって「組み合わせ」は人間が考えるものとし、生成AIは知識を獲得するためのツール(拡張知能)として割りきって使うのが、現段階でのおすすめだ。その方法を身につければ、同僚が1日10時間をかけて仕上げる以上の成果を、1日わずか1時間働くだけで上げられるようになる。

話を整理すると、次のようになる。

■AIはどのように使いこなせばいいのか

1.「引いて考える」ことで本質が見える
2.アイデアなどの創造性は異なるものの「組み合わせ」から生まれる
3.新しい挑戦での失敗を恐れる人が大多数
4.自分の「仕事を減らす」挑戦なら失敗しても誰にも迷惑はかからない
5.自分のことで「試す」ができれば創造性は少しずつ高まっていく
6.生成AIは人類の誰よりも知識がある
7.生成AIから新しい「組み合わせ」を導き出すプロンプトを与える(人工知能)
8.生成AIには知識を求め人は異なるものの「組み合わせ」を考える(拡張知能)
9.導き出した新しい「組み合わせ」を「試す」ことが重要

人間と生成AIを比較すると、獲得した知識は生成AIのほうが多い。

たとえばアメリカを代表する医療機関メイヨークリニックが提供する生成AIや、世界的な法令データサービス企業のLexisNexisが提供する生成AIは、医師や弁護士の仕事を支援するツールだ。ただ、AIに学ばせた専門知識の量が医師や弁護士を圧倒するレベルなので、当然ながら彼らの仕事を奪う可能性すらある。

■環境に最適化しすぎている人は立場を失う

AIはあらゆる仕事に使われるだろう。そうすると、その会社でしか通用しない知識やスキル(ファーム・スペシフィック・スキル)は真っ先に意味をなさなくなる。なぜなら生成AIは、各企業固有のデジタル化され蓄積された知識と瞬時に連携(LlamaIndex,LangChainなどを使う)できるからだ。これはつまりベテランが蓄積した知見の多くが標準化され、新人との差がなくなることを意味する。

これを「引いて考える」と、会社が用意したテンプレートやしくみがあるからできる仕事をこなしている人が真っ先に立場を失うことがわかる。転職市場でも、それまでの価値を保てなくなってしまう。

野球やサッカーでチームを移籍したとたん通用しなくなる選手はよくいるが、移籍前のチームに最適化しすぎて、どこでも通用するスキルを身につけ損ねたのではないかとも考えられる。

以前、仕事ができる人だろうと考え、ある大手企業の社員を採用したことがある。彼は問題が起きると「前の会社ではこうやってきた」とばかり言って対応できなかった。つまり彼には前の会社でしか通用しない知識やスキルしかなかったのだ。関西のグローバル企業だったが、会社の名前で生きてきたのだろう。

■サバンナの動物に生存戦略のヒントがある

このように、その会社でしか通用しない知識やスキルは、ほかの会社では応用しにくい。まったくの同業種なら多少は活用できるが、やはり限界がある。

これは会社という枠組みにかぎった話ではない。たとえば日本における大学入試の基準となる偏差値という概念はアメリカの大学にはない。となると日本でしか通用しない偏差値がいくら高くても、アメリカの大学には入学できないこともある。

ほかの何かと比較すると話が単純化されて理解が深まり、本質が明らかになることがある。ここでは会社員と生成AIの関係を、生物の世界と比較してご紹介しよう。

サバンナの草食動物シマウマは草原の草の先端を食べ、ヌーはその下の草の茎や葉を食べ、ガゼルは地面に近い背丈の低い部分を食べる。

キリンは、高所の葉を食べる。このように、それぞれの動物が食べ物で棲み分けている。どんな生物でも棲み分けることで、それぞれがナンバーワンでありオンリーワンになれる「居場所」があるのだ。

サバンナに生息するキリン、シマウマ、ゾウの写真
写真=iStock.com/paulafrench
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/paulafrench

■定型業務という「居場所」をめぐって争うことに

ここで紹介したのは、生物の激しい競争の結果として起きた食での棲み分けだ。もしシマウマとヌーとガゼル、そしてキリンが同じ草の同じ部分を食べていたら、弱い種は生き残れない。共存できなければ敗者は去りゆくのみ。このことを生態学では競争排除則(ガウゼの法則)と呼んでいる。

では生成AIと、その会社でしか通用しない知識やスキルをもつ社員との棲み分けが、サバンナの草食動物のようにできるかを考えてみよう。それぞれが「居場所」を確保できるのだろうか。

ガウゼの法則では、それはできないという。

「生成AIは生物ではないからガウゼの法則は成立しない」と考えた人もいるだろう。サバンナではどの草木を食べるかで棲み分け、会社ではどの仕事を誰が担うかで棲み分けをしている。ルーチンワーク化された定型業務という「居場所」は、生成AIと争うことになるのは間違いない。

会社というサバンナには、次の2つの種が存在することになる。

A)その会社でしか通用しない知識やスキルを獲得した会社員
B)その会社でしか通用しない知識やスキルを獲得した生成AI

ガウゼの法則によると、AとBのどちらかが排除されることになる。生成AIに仕事を奪われることが不安な人は、Aになることを恐れるだろう。

■「眠たくなる説明」しかできない人は危ない

しかしAは、次のように進化することが可能だ。

C)生成AIを使いこなすスキルをもった会社員

では、このことをスキルの種類から考えてみよう。その会社でしか通用しない知識やスキルと対をなすものに「ポータブルスキル」と呼ばれるスキルがある。どんな仕事や職場にも“持って行くことが可能で、しかも活用できる”汎用性の高いスキルだ。

たとえばパワーポイントに記載された会社固有の商品知識とその説明は、ほぼその会社でしか通用しないタイプの知識やスキルだ。一方で、人を成長させるための対話などのマネジメントスキルは、どの会社でも使える可能性が高い。

ある取引先主催のサービス説明会に参加した私の同僚は、60分間それを聞き続けることができず、大いびきをかいて寝てしまった。その取引先からクレームが入り、始末書を書くこととなった。

これを「引いて考える」と、取引先の説明者が視界に入る。どうやら説明者は60分間資料を読み上げただけのようだ。寝てしまった同僚が悪いのは明白だが、説明者がAIどころか読み上げソフトレベルの仕事しかしないとしたら、今後の参加に注意が必要だ。その説明者は「商品情報」というその会社でしか通用しない知識と「読む」という平凡なスキルしか持ち合わせていないのかもしれない。

■引いて考えれば、AIと共存する方法も見つかる

似たようなタイプの説明会で、聴衆に感動を与えつつ、わかりやすく、ぐいぐい惹きつけながら話す人もいる。これはプレゼン力という、どの会社でも活用できるポータブルスキルだ。ポータブルスキルには、その会社でしか通用しない知識やスキルを強化する力が備わっている。

・その会社でしか通用しないスキル商品情報(知識)を語る→誰でも手に入れられる(AIを含む)
・感動を与えるほど魅力的な説明→希少価値がある

単なる商品情報(知識)に具体的な使用例などを交えてわかりやすくプレゼンできれば、聴衆は睡魔に襲われることなく60分を過ごせるだろう。

商品情報を読み上げるだけでは、こうはいかない。

この違いは、その会社でしか通用しない知識が、プレゼン力というスキルの力で強化されたから生じたものだ。このプレゼン力というポータブルスキルは「どこに転職しても役立つスキル」と言っていいだろう。

田中猪夫『仕事を減らす』(サンマーク出版)
田中猪夫『仕事を減らす』(サンマーク出版)

プレゼンをうまくこなすポータブルスキルをもつ人は、自分に価値があることがわかっているため、自信に満ちている。同じように、

C)生成AIを使いこなすスキルをもった会社員

は、排除される不安などない。当然、

B)その会社でしか通用しない知識やスキルを獲得した生成AI

と棲み分けし共存できる。このように「引いて考える」と、生成AIを使いこなすというポータブルスキルの獲得は必要性が高いことがわかる。

生成AIに駆逐される人、生き残る人
出典=『仕事を減らす』

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田中 猪夫(たなか・いのお)
Creative Organized Technology LLC ゼネラルマネージャー
1959年、岐阜県生まれ。故・糸川英夫博士の主催する「組織工学研究会」が閉鎖されるまでの10年間を支えた事務局員。Creative Organized Technologyを専門とする。大学をドロップ・アウトし、20代に、当時トップシェアのパソコンデータベースによるIT企業を起業。30代には、イノベーションの宝庫であるイスラエルのテクノロジーの日本へのマーケット・エントリーに尽力。 日本のVC初のイスラエル投資を成功させる。40代には、当時世界トップクラスのデジタルマーケティングツールベンダーのカントリーマネージャーを10年続ける。そして、50代にはグローバルビジネスにおけるリスクマネジメント業界に転身。ほぼ10年ごとに、まったく異質な仕事にたずさわることをモットーとしている。

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(Creative Organized Technology LLC ゼネラルマネージャー 田中 猪夫)

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