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ついにリニア問題は最終局面に突入した…JR東海の「詰将棋」に川勝知事が「投了」するのは時間の問題だ

プレジデントオンライン / 2023年11月16日 8時15分

11月9日の会見で田代ダム案実施策に言い掛かりをつける川勝知事(静岡県庁) - 筆者撮影

静岡県内のリニア中央新幹線着工を巡る最大の問題の一つであった「田代ダム案」が決着を迎えようとしている。ジャーナリストの小林一哉さんは「JR東海は川勝知事の『言い掛かり』ともいえる懸念を全て丁寧に潰した。川勝知事は最後の悪あがきをしているが、じきに大勢が決するだろう」という――。

■静岡県だけが反対してきた「田代ダム案」に大きな動き

静岡県のリニア騒動の最大の焦点である田代ダム案が大詰めを迎えた。

川勝平太知事は11月10日の定例会見で、南アルプスリニアトンネル静岡工区工事に伴う水資源保全の解決策として、JR東海が示した田代ダム案の実施策を大井川利水関係協議会に諮ることを渋々ながら、容認した。

大井川利水関係協議会は、静岡県が事務局となり、流域の10市町、11利水団体で構成される。

大井川を占用するリニアトンネル工事に必要な河川法の許可権限を握る県は、大井川下流域の利水に支障があるとして、水資源保全の解決をJR東海に求めてきた。解決には同協議会の合意を必要としている。

その解決策が田代ダム案である。

田代ダム案の実施策が示されたことで、リニア問題解決に道筋がつくことを関係者は十分に承知している。つまり、「大詰めの段階」を迎えたのである。

流域市町などの大筋の了解を得られているが、唯一、反対の姿勢を貫いているのは事務局の静岡県であり、許可権者の川勝知事本人である。

■賛成派の流域市町とJRは強い姿勢で臨む

今回の会見で、川勝知事は、これまで通り虚言を駆使し、記者たちが混乱する情報操作を行うだけでなく、いまごろになって「田代ダム案が河川法に違反する疑いがある」とデタラメを繰り返した。

何としても川勝知事は田代ダム案をつぶしたいと、反リニアの姿勢を頑なに崩さないままだ。

だからこそ、知事だけでなく、県庁全体で田代ダム案の実施策にストップを掛けることに躍起である。

JR東海は、一日も早い利水関係協議会の開催を要請しているが、県は重箱の隅を楊枝(ようじ)でほじくるように何か言い掛かりをつけられないか、対抗策をひねり出そうとしている。

しかし、川勝知事の反リニアに徹する姿勢に危機感を抱く流域市町などは強い姿勢で臨んでいる。

田代ダム案を巡る攻防の行方は、近いうちにはっきりとするはずだ。

■県民を巧みに味方につけた「命の水」発言

静岡県のリニア騒動の発端は、川勝知事の「湧水全量戻し」の要求だった。

当初、ほとんどの県民が川勝知事の「命の水を守る」という「湧水全量戻し」を強く支持した。

JR東海は2013年9月、リニア工事に伴う環境影響評価準備書で「リニアトンネル工事で大井川上流部の流量が毎秒2立方メートル減少する」と予測した。

流量減少の予測に不安を抱いた流域市町の首長らの要望を受けて、静岡県は「トンネル湧水を大井川へ戻す方策」をJR東海に求めた。

JR東海は2017年1月ごろ、リニアトンネルから約5キロ下流の大井川の椹島(さわらじま)まで導水路トンネルを設置して、流量減少の毎秒2立方メートルのうち、1.3立方メートルを回復させ、残りの0.7立方メートルは必要に応じてポンプアップで戻す方策を説明した。

導水路でトンネル湧水が戻される椹島付近の大井川(静岡市)
筆者撮影
導水路でトンネル湧水が戻される椹島付近の大井川(静岡市) - 筆者撮影

JR東海が「全量戻し」を表明しなかったことに、川勝知事は「大井川からの水道水を利用する62万人の生死に関わる。全量戻してもらう」「ルートを変えたほうがいい。水が止まったら、もう戻せない。62万人の命の水を戻せ」などと強い怒りの声を上げた。

京都出身の激しい物言いで、静岡県の利益を守ると主張するから、多くの県民が川勝知事に期待感を寄せた。

県民からの支持を受けて、リニア問題を論ずる際、川勝知事は「62万人の命の水を守る」を必ず口にして、その厳しい要求を続けた〔※拙著『知事失格』(飛鳥新社)は、「62万人の命の水」の嘘を詳細に紹介した〕。

この結果、JR東海は2018年10月、「原則として湧水を全量戻す」と表明した。

■作業員の命よりも「県民の水」を優先

ところが、川勝知事は「全量戻し」のゴールポストを動かしてしまう。

「原則として湧水を全量戻す」というJR東海の表明に対して、静岡、山梨県境付近の工事で県外流出する湧水の全量も含まれるという非常に困難な「全量戻し」を突きつけたのだ。

南アルプス断層帯が続く県境付近で、JR東海は、静岡県側から下り勾配で掘削すると突発湧水が起きた場合、水没の可能性が高く、作業員の生命の安全を踏まえ、山梨県側から上り勾配で掘削すると説明してきた。

約10カ月間の県境付近の工事で、全く対策を取らなければ、最大500万立方メートルの湧水が静岡県側から山梨県へ流出すると推計した。

この全量戻しは、下流域の水環境への影響とは全く関係ない。

どう考えても、作業員の生命を優先するべきだが、川勝知事は「静岡県の水は一滴も県外に流出させない」「湧水全量戻しができなければ、工事中止が約束だ」などと脅した。

■静岡県の「ゴール移動」にJRは田代ダム案を提案

実際は、リニア工事の毎秒2立方メートル減少に対する「全量戻し」解決策が示されたことで、「62万人の命を守る」全量戻しから、「JR東海との約束」という全量戻しにゴールポストをずらしただけである。

ただ国の有識者会議は、大井川下流域への影響はないが、県、流域市町などの納得が得られるよう具体的な方策を協議すべきと中間報告にまとめた。

2022年1月の大井川利水関係協議会は「県境付近の工事中のトンネル湧水の全量戻し解決策が示されていない」として、「大井川下流域への影響なし」とする有識者会議の結論を蹴ってしまった。

このため、JR東海は同年4月、東京電力リニューアブルパワー(東電RP)の内諾を得て、今回の田代ダム案を提案した。

田代ダムは大井川最上流部にある発電用ダムで、東電が毎秒4.99立方メートルの水利権を持ち、山梨県早川町の発電所で使っている。

田代ダム案とは、工事期間中の約10カ月間、東電RPに毎秒約0.21立方メートル分の自主抑制をしてもらい、川勝知事の「県境付近の工事中の湧水全量を戻せ」に応える解決策である。

大井川流域の市町、山梨県知事、早川町長らが田代ダム案を高く評価、また国交省は「政府見解」として、同案が河川法の水利権に触れないことを丁寧に説明した。

■解決が見えるとゴールを動かして時間稼ぎ

しかし、解決が見えてくると、再び、「全量戻し」のゴールを変えるのが、川勝知事の常套手段である。

その1つが、昨年10月、山梨県内のトンネル掘削によって、静岡県内の地下水を引っ張るという「似非科学」を持ち出して、山梨県内の調査ボーリングをどこで止めるかを議論すべきだと主張したことだ。

川勝知事は、山梨県内で調査ボーリングを行えば、「全量戻しは実質破綻する」と三度ゴールポストをずらした。

現在も「山梨県内の調査ボーリングをやめろ」を川勝知事は唱える。

しかし、山梨県の長崎幸太郎知事、元静岡県副知事でリニア問題責任者だった静岡市の難波喬司市長が静岡県の対応を批判、県リニア専門部会委員たちまでが調査ボーリングを「やるべき」と主張している。メディアも静岡県の「悪者論」につながると報道し、この問題では川勝知事は「孤立無援」「四面楚歌」の状態となっている。

そこに、田代ダム案の実施策が追い打ちを掛けているのだ。

JR東海は、具体的な実施策をまとめ、流域市町など利水関係者へ説明して、大筋の了解を得た。島田市長らは「関係者の合意が得られるようぜひ進めてほしい」などと述べた。

■今度は「濁流で生態系に影響がある」と主張

このため、JR東海は10月25日、大井川利水関係協議会を開催して、合意を得る手続きを進めるよう要請した文書を県リニア対策本部長の森貴志副知事に送付した。

それから2週間たって、川勝知事は11月9日の会見で、ようやく関係者に諮る手続きを取ることを明らかにしたのだ。

その会見でも、川勝知事はゴールを変えようと虚偽を繰り返した。

水資源問題解決のカギを握る田代ダム(静岡市)
筆者撮影
水資源問題解決のカギを握る田代ダム(静岡市) - 筆者撮影

田代ダム案について、川勝知事は「破砕帯を掘ると、濁流が全部県外に流れ、生態系に影響がない蓋然(がいぜん)性は極めて低い、強い懸念を持っている」「トンネルを掘れば南アルプスの生態系に影響が出てくる」などと述べ、自然環境への影響の議論が必要などと訳のわからない言い掛かりを何度もつけた。

つまり、自身が主張していた「全量戻し」の解決策が示されると、新たな課題を突きつけるのは従来と全く同じパターンだが、今回は、単なる悪あがきに過ぎなかった。

田代ダム案は、南アルプスの断層帯に向かって山梨県側から上り勾配で掘削するから、湧水は山梨県へ流出してしまう。当然、静岡県の生態系への影響は科学的には全くない。

また取水抑制で流れる水は大井川にそのまま放流されるから水質に変化などはない。つまり、田代ダム案で生態系への影響うんぬんは川勝知事の虚偽でしかない。

■河川法を巡るいちゃもんも継続

さらに、「水利権の目的外使用に当たる説明は、非常にグレーである」などと田代ダム案の提案当初と同じ疑問を繰り返した。

昨年4月の提案の際、川勝知事は「JR東海は関係のない(東電の)水利権に首を突っ込んでいる。突然、水利権の約束を破るのはアホなこと、乱暴なこと」などと反発した。

田代ダム案は東電による自主的、一時的な取水抑制であり、河川法上は全く問題ないのだが、川勝知事は頭から「水利権の譲渡」と決めつけた。

それ以来、川勝知事は事あるごとに田代ダム案は水利権の譲渡であり、河川法に触れると繰り返した。

このため、河川法を所管する国交省は、田代ダム案が東電の水利権と全く無関係と公式見解を出した。さらに、川勝知事の嫌がらせに対して、東電は田代ダム案に協力する条件として、県や流域市町などに水利権と無関係であることを了解してもらう条件をつけた。

■「次の言い掛かり」を考える静岡県

ことし3月、大井川利水関係協議会が開催され、市町長らが東電の条件を了解した。しかし、森副知事はいったん預かると逃げてしまう。

田代ダム案を了解した大井川利水関係協議会だが、県は結論を先送りした(静岡県庁)
筆者撮影
田代ダム案を了解した大井川利水関係協議会だが、県は結論を先送りした(静岡県庁) - 筆者撮影

ようやく6月になって、県は「東電の水利権に影響を与えない、静岡県を含めて流域市町は同案を根拠に水利権の主張をしない」とする通知をJR東海に送った。

それで、ようやくJR東海と東電の協議が開始されたのだ。

それなのに、川勝知事は性懲りもなく、「お金が動くわけだから、国交省の見解はグレーである」などと水利権の目的外使用に当たるなどと主張した。

9日の会見は約1時間半にも及んだが、記者たちの疑問には、相変わらずの「ああ言えばこう言う」で逃げてしまい、まともな回答はなかった。

何よりも、静岡県は、田代ダム案の実施策を添付した大井川利水関係協議会開催の要請書をホームページ(HP)で公表していないのだ。これまでは、全面公開を原則として、JR東海からのすべての文書をHPに即座に掲載してきた。すでに、2週間もたつのに、公開は行われていない。

これでは、大詰めを迎えた田代ダム案について、どのような実施策が示されたのか県民をはじめ一般の人たちには全くわからない。

事務方は、川勝知事の意向に従い、さらなる混迷を招く方策の検討で大忙しのようだ。

田代ダム案の実施策を容認する流域市町は利水関係協議会の早期開催を求めるが、川勝知事の発言などからは不透明な部分があまりにも多い。

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小林 一哉(こばやし・かずや)
ジャーナリスト
ウェブ静岡経済新聞、雑誌静岡人編集長。リニアなど主に静岡県の問題を追っている。著書に『食考 浜名湖の恵み』『静岡県で大往生しよう』『ふじの国の修行僧』(いずれも静岡新聞社)、『世界でいちばん良い医者で出会う「患者学」』(河出書房新社)、『家康、真骨頂 狸おやじのすすめ』(平凡社)、『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)などがある。

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(ジャーナリスト 小林 一哉)

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